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12、鑑賞会のあと
しおりを挟む「凄い! すごーいッ! ねえ、亜久人くん、見てた!? マイティ・フラッシュ、凄く強かったよ! 見た? 見てた?」
「……見てたよ、ずっと君の隣でね」
映像は全て終わったというのに、炎乃華の興奮は醒めやらないままだった。
ぶっ通しでビデオを見続け、とっくに昼ご飯の時間なんて過ぎているというのに、キャッキャと飛び回っている。こっちはお腹の虫がグーグー鳴き続けているんですが。
「必殺のフラッシュスパークライトニング、初めて映像で見られたわッ! ああやって両腕をクロスして発射するのね。私も今度、やってみようかなッ!」
フラッシュスパークライトニング、って単語重ねすぎだろ。まあ、マイティ・フラッシュの公式がそれなんだから仕方ないけど。
なにげに炎乃華は見たばかりの映像を真似して、胸の前で腕を交差させているけど、それ、マイティ・フレアに変身した状態だったらホントに光線でるから! オレに向けて構えるの、やめて。危ないから!
「あの、ダブルパンチって技もいいわよね! ねえねえ、亜久人くん、構えて。こうやって、こう……」
オレの身体を、フィギュアみたいに扱ってポーズとらせやがる。
あの……これさっき、敵怪人がやられてた時のポーズだよね?
「えい! ダブルパンチっ!」
「ぐはああッ!」
痛い! もろに鳩尾にブロー入った!
「この技、凄いわ! 顔とお腹に向けて、同時にパンチすることで防御不能になってるっ……! お母さん、すごい! 天才の発想よ!」
「いや……小学生くらいがフツーに考えそうだけど……」
「言ったなぁ、えい!」
「げはああッ!」
鳩尾に突き出された左のパンチを受け止めたら、その間に右ストレートがオレの頬にヒットしていた。
あの……炎乃華ちゃん。君、最近鍛えてるでしょ? 必死に空手の稽古とかしてるの、知ってるんだからな。
じゃれているつもりなんだろうが、ちゃんと腰の入ったパンチだから、痛いっての!
「あははは! いくぞぉ~、宇宙怪人ギガギドンッ! 悪の親玉は、このマイティ・フレアが倒してみせるんだからっ!」
ケラケラ笑いながら、ヒロインごっこにオレを巻き込んできやがる。
あんまりシャレになってないんだけど、気付いてないよね? 君が今遊んでいる相手、本当に侵略宇宙人なんですけどね。
「ありがとう」
不意に攻撃をやめてきた炎乃華は、パンチする代わりに両手でオレの手を握ってきた。
少しピンク色に頬を染めて、俯き加減で言葉を続ける。
「亜久人くん、本当にありがとう。お母さんが動いているところを、闘っているところを、見させてくれて……」
「……えっと、その……ボクはただ、探してもらっただけだから」
「亜久人くんに会えて、本当に私嬉しいの。よかったら、これからもずっと……友達でいて欲しいな」
友達。友達、か。
すげえ複雑な気持ちが、オレのなかで渦巻いた。それは、いつかオレが炎乃華を、マイティ・フレアを倒さなきゃいけない、って運命にあるだけが原因じゃない感情。
だけど胸の奥にチクリと刺す針のような痛みは覚えながらも……晴れやかな気持ちが、もっと大きく広がっているのも事実だった。
きっとオレは、笑っていたに違いなかった。オレの顔を見て、炎乃華がさらに顔を赤くしてニッコリとうなずく。
「あの、ね! お腹すいちゃったよね? 私、ケーキ作ったんだ!」
「え、ケーキ?」
声のトーンを変えた炎乃華は、大袈裟なくらい明るく言う。
突然出てきた大好物の言葉に、オレは思わず舌なめずりしそうになった。ヤバイ。マジか。ケーキ、それも炎乃華手作りなんて今口にしたら、オレ、幸せすぎてどうにかなるかも。
「うふふ、亜久人くんが甘いもの好きなの、ちゃんと知ってるんだから。こう見えても私、お菓子作りにはちょっとだけ自信あるのよ?」
「うへ、うへへ……ケーキ! 炎乃華ちゃんのケーキ……うへへへ!」
マズイぞ。ちょっとオレの地が出かかってる。
ていうか、完全におかしなヤツじゃあねーか!
「ちょっとだけ待っててね。最後の仕上げだけして、持ってくるから」
キッチンに向かった炎乃華を、オレは部屋でひとり待った。
イチゴショートか? チョコか? チーズケーキか? あるいはフルーツいっぱいの……うおお、どれでもいい! 生クリームの甘さが妄想で口の中に広がる~! たまらん!
……ていうか……今、オレ、炎乃華の部屋でひとりきり、なのか……。
赤い布団がかけられた、ベッド。ビデオ視聴してた時、並んで座っていたあそこに、炎乃華は普段寝てるんだよな……。あのフカフカしたベッドに。
……ダ、ダイブしてえ!
「ちょっと失礼するよ」
「うおおおおッ! お、おじさんッ!」
ぐおおおおッ、やべえええッ! 危なかったああああ!
オッサン、部屋に入る時はノックくらいしやがれッ! ていうか、娘の部屋に勝手に入ってくんじゃねえええ!
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