最強宇宙人ゼルネラ ~巨大変身ヒロインはボクの獲物です~

草宗

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4、闘いのあと

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 大地に倒れ込む白銀と深紅のヒロインの頭上を、バツグンのタイミングでオレのドロップキックは素通りしていた。
「なッ、なにィッ!? オレ様の動きを読んでいただとォッ~~!?」
 風圧で、千切れた黒髪がハラハラと舞う。傍目からは、間一髪で危機を察知したマイティ・フレアが、巧みに攻撃を避けたと映っただろう。
 上空を飛ぶオレの身体は、勢いが衰えることはない。こちとら宇宙最強で名高いんだからな。地球の引力程度に負けるかっての。矢のごとく一直線に、飛び蹴りの姿勢で突き進む。
 今にも火球を発射しようとしていた、ゼネットの喉元へ。
 オレの誤爆……に見せかけた、渾身のドロップキックは突き刺さった。グボリと、肉の陥没する感触が足の裏に伝わってくる。
「ギャアアッ、オオオッ――ッ!」
 甲高い鳴き声を迸らせて、ゼネットは大きく吹っ飛んだ。採石場の彼方まで弧を描いて飛び、ビクビクと二度痙攣して動かなくなる。
 すまん、ゼネット。こうでもしないと、お前、マイティ・フレアを殺してたろ? ちゃんと後で手当てしてやるから、今だけ寝てくれよな。な?
「おッ、おのれェ~~ッ、マイティ・フレアめ! よくもゼネットを……この借りは必ず返すぞ! 覚えておくがいいッ!」
 自分で蹴り飛ばしたカワイイ配下にすばやく駆け付け、オレはゼネットを抱きかかえた。なにやってんだ、と思われそうだが、しょうがないだろ。ったく。
 やっぱり……ちょっと勿体ないじゃねーか。マイティ・フレアの物語を、ここで終わらせるのはよー。
 カウンター喰らって死ぬかもしれないってのに、逃げない女だぜ? 光線撃てば撃つほど危険になるのに、ひるまないんだぜ?
 頭ワリィのは残念なとこだけど……これだけ肝の据わった人間が、地球にどれだけいるってんだよ。
 うつ伏せに倒れていたツーサイドアップの巨大ヒロインが、ゆっくりと顔だけをあげる。おいおい、コイツ、まだ意識あったのかよ。
 立ち上がることもできないくせに。指先もブルブル震えているくせに、マイティ・フレアはオレを指差しながら、毅然と言い放った。
「私っ……は……こんなことでは、負けませんっ……! 正義の炎は……必ず、あなたたち悪を……燃やし尽くしますっ!」
 うん、それ確かに決め台詞だけどさ、今の状況わかってないよね? オレ、その気になったらけっこう簡単に倒せちゃうよ。君、ダウンしたままだし。
 ……まあ、いいや。もう少し強くなりそうだから、最終回にするのはその時にしてやるぜ。命拾いしたな、マイティ・フレア。
 ゼネットを両腕に抱えたまま、オレは上空高くへと飛び立った。
 大地に這いつくばったままの巨大ヒロインは、幻のように空気に溶けていった。

 ――マイティ・フレアを始末しかけた、翌日。
 爽やかな朝日を浴びて、オレはアスファルトの道路を歩いていた。この星の、春と呼ばれる今の季節は、なかなかに心地がいい。これまでに制圧してきた3万以上の星のなかでも、相当いい環境なんだよなー、地球。今まで誰の侵略も受けてこなかったのが不思議なくらいだ。
 もちろんオレは今、地球人の姿に変身している。だって本来の大きさだと、道なんてとても歩けないよ? 食費だってバカにならないじゃん。牧場の牛、全部食っても3時のオヤツにもなりゃしないっての。
 マイティ・フレアを倒して地球制圧するまでは、じっと地球人に紛れて潜伏してるのが、一番効率的なのだよ。言っとくけどね、ゼルネラ星人はバトル大好きだが、野蛮じゃないから。普段はティータイムとか楽しみたいし、キレイな花とか見たらゼンゼン愛でちゃったりするから。地球の桜も大好きだよ? あのハラハラ散るのがビューティホーだよね♪
 だから闘う時以外は、まったりのんびり、優雅に暮らしたいってのがオレの本音だ。ゼルネラ星人のままだと、いろいろ厄介だろ? 地球人に化けて過ごすのが、やっぱり無難ってわけ。
 ま、サイズが地球人と一緒でも、オレの強さは変わらないしねー。
 その気になったら、今視界に入っている人間を一瞬で全員粉々にできるけど、あくまでオレの標的はマイティ・フレアただひとり。彼女と決着をつける時まで、せいぜいこの星の生態をしっかり観察させてもら……
「隙アリ!」
 バチンッ! と後頭部をはたかれて、オレは危うく前のめりにコケるところだった。
 最強宇宙人であるオレ様にとって、不意打ちであっても地球人の攻撃など効くわけもない。
 だが、痛みが全くない、といったらウソになる。なにしろ今、身体も小さくなってるし。
カチンときた。この野郎、オレ様を誰だと思ってやがる!
「ハハハ、おはよっす! アクト~、相変わらずトロトロ歩いてんな」
 オレの目の前に立って白い歯を見せているのは、よく日焼けしたサラサラヘアーの小僧だった。
「……ども。誰かと思えば秀太くんか」
 猫背にしている背中をさらに曲げて、オレはペコリと頭を下げた。
 同じクラスの坂尾秀太さかおしゅうた。2年生にしてサッカー部のエース。学校一のモテ男は、春の日差しに負けないくらい爽やかな笑顔で、オレに話しかけてきた。
 そう。このオレ、ゼルネラ星人ノワルは、県内の高校に通う黒岩亜久人くろいわあくととして、かりそめの生活を送っているのだ。
「お前さ~、もうちょっと元気だせよ。ちゃんと朝飯、食ってきた?」
「……ちょっとだけ」
 解体前のマグロ一匹だけな。
「部活とか入ったら? 身体、全然動かしてないんだろ、どうせ。ウチのサッカー部はヘタクソでも受け入れてやるぜ? グラウンドキーパー欲しいんだよなぁ、ハハハ!」
「うーん、サッカーはちょっとやってみたけど、うまくできないんだよね」
 ボール蹴ると大気圏外まで飛んでくんだよな……。
「転校生だからって、あんまり遠慮しなくていいんだぞ。みんなと馴染めてないだろ、お前」
「ボクもこれで、それなりに忙しいんだってば。ペットの世話とか」
 亜空間に巨獣を何匹養っていると思ってるんだ?
「あ、わかった! どうせまたトクサツだろ? 昨日のニチアサ、ちょっと見たぞ。ビクトリーレンジャーだっけ、あのピンクの子、カワイイよな!」
「ビクトリーじゃない、あれはVレンジャーって略すのが正しいんだ。ヲタはVレン呼びがジョーシキだよ。ダブルオーセブンのことを君はゼロゼロセブンって言っちゃうタイプ? あとさ、ピンクじゃなくてモモね。モモビクトリー。日本語の色名を使うのは40年ぶりの原点回帰で、敢えてダサさを前面に出すことで制作プロデューサーは……」
「長いよ! ウゼーよ! いきなり冗舌になんなよ!」
「ちなみにモモビクトリーを演じる桃山スミレちゃんは、バスト86センチのFカップで、強化スーツの上からでもわかる見事な胸肉まんがこう……」
「いやらしい手つきで、オッパイ膨らませる仕草すんじゃないよ! だがその情報はインプットしておこう。って胸肉まんってなんだよ!?」
 ちぇっ。せっかく夜中の2時までネットサーフィンして仕入れた知識なんだ、もうちょっと喋らせてくれてもいいのに。
 だがコイツのツッコミの速度と的確さは、毎度のことながら侮れなかった。地球人の身体能力を計測するうえで、やはり重要なサンプルといえるだろう。先程の無礼極まりない所業は、見逃してやるとしよう。
 オレが地球に着いた時、たまたまこの国は、あと数ヶ月で新年度を迎えるという季節だった。転校生という形で校内に潜り込んだオレには、比較的ラッキーだったといえる。クラス内全体がまだグループ分けされる前だからな。仲良し同士で派閥みたいなものができた後だと、今以上に浮いちゃうだろ?
 とはいえ、いつかオレは地球を制圧する男だ。必要以上にベタベタしたくはない。
 暗いヤツ、とか陰口言われようが、気にせずひとりで過ごすよう心掛けていた。ゼルネラ星人だなんてバレたら、面倒なことになるからな。
……なんだけど、そんな「ぼっち」なオレを気にしているのか、積極的に話しかけてくるのがふたりだけいて……そのひとりが秀太ってわけだ。別にオレのことは、放っておいてくれていいのにな。そのうち、オレが地球の支配者になるっていうのにさ。
 ま、そんな秀太だから、見た目だけじゃなくて人気がある、んだろうけど。
 ニチアサだって、オレに話を合わせようとして覗いてくれたってことは、本当はオレもわかってるさ。
 結局オレたちは、ふたりで並んで教室まで歩いていった。
 チャイムが鳴って、朝のホームルームが始まる。担任の蒼井陽子あおいようこ先生は、今日も時間ピッタリにクラスに入ってきた。ちなみにオレの席は、窓際の一番後ろの特等席ね。これは転校生ゆえの格別な配慮、ってんじゃなく、とある裏技を使ってせしめてやったんだが……そのヘンの事情はまた機会があったら話そう。
「は~い、みんな、おはよう~!」
 パンパンと両手を叩きながら、二十台後半の女教師はまだ眠そうな教室にカツを入れる。毎朝思うが、この元気よさはどこからくるのだろう。ゼルネラ星人でも、朝は苦手ってヤツが多いんだけどな。
「みんな、昨日は何があったか、ちゃんと知っているわね? さあ、今日も元気よく、拍手で迎えましょう!」
 黒縁メガネの奥で、ヨーコ先生の眼は糸のように細くなっている。さぞ、自分が大仕事をやり遂げたかのように。
 あ、そうか。恒例のアレがあったんだった。
「今回も見事に、憎たらしい悪逆宇宙人ゼルネラを撃退した正義のヒロイン……津口炎乃華つぐちほのかさんの登場よ! 私たちの守護女神の勝利を、盛大にお祝いしましょう!」
 クラスメイト全員が一体となって拍手を送るなか、教室の扉から黒髪の美少女が入ってくる。
 ツーサイドアップの髪型に、凛とした切れ長の瞳。少し頬を染めて教壇の中央にまで進んだのは、衣装こそセーラー服だが、紛れもなくマイティ・フレアそのひとだった。
 津口炎乃華。オレのクラスメイトにして、地球の運命を託された、巨大ヒロイン。
 万雷の拍手のなか、教室の隅にいるオレと目があうと、彼女はそっと小さく手を振った。少しだけ、微笑んで。オレだけを、真っ直ぐ見つめて。
 マイティ・フレアこと炎乃華は、秀太以外にオレに話しかけてくる、唯一の友達なのだった。
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