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14、セーラー少女
しおりを挟む縛姫の口調に、不穏な響きが混ざる。
思わずゾクリとした時には、カルラの下半身はオレンジの髪と緑の大蛇に巻き付かれていた。二匹の大蛇は、縛姫の両腕が変化したものだ。フレアミニのスカートから伸びた生足に、ぐるぐると縄のような髪と大蛇は螺旋を描いて絡みついている。
「ぐうう”ぅっ・・・!? な、なに・・・を・・・?」
「弱ったお前の身体を、捻り回すのは造作も無いこと・・・オメガヴィーナスのように身体を引き千切っても・・・まだ我慢できるかねぇ?」
メキ・・・ミチミチィ・・・ギリギギリィッ・・・!!
ちょうどくびれた腰の位置。剥き出しになったお臍の、少し上の部分に捻れが走る。
縛姫に緊縛されたカルラの下半身が、強引に捻り回されている。猛烈な力で、180度回転し、臍から下だけ後ろを向こうとしている。
「ぐああ”っ・・・!? うああ”、うぎゃゃあああ”あ”っ~~~っ!!!」
「ホホホホッ!! ヴィーナスは四肢を切断されても生きていたからねぇ! お前も腰から両断されたくらいじゃ、死なないんだろうッ!?」
縛姫はオメガカルラの肢体を捻り切り、下半身を引き千切ろうとしているのだ。
上半身と下半身、お臍のところから、分断するつもりなのだ。その凄惨な仕打ちの結果は、想像するだに恐ろしい。むろん腸などの臓器が、ねじ切られた断面からこぼれ落ちることだろう。それでもオメガスレイヤーの生命力はカルラを生かすかもしれないが、壮絶な苦痛の末にいずれ死に絶えることは避けられまい。
死は覚悟していても、胴体をねじ切られる地獄など、当然カルラも想定外だ。
思春期の女子高生には、あまりに酷すぎる処刑方法。胴体だけになった、無惨なオメガヴィーナスの遺体がカルラの脳裏に蘇る。
「うああ”ッ、いやあああ”あ”ア”ア”ァ”っ~~~っ!!! やめっ、やめぇ”っ――ッ!!! アアア”ッ、こ、腰がァ”ッ~~ッ!!?」
「ホホホホッ、雑巾のように絞られるのは苦しいようだねぇッ、カルラ!! さあ、早くオメガペガサスの秘密を言うんだッ!! それともヴィーナスのように、下半身とおさらばするかいッ!?」
ゴキッ、メキメキィッ・・・ミチミチ・・・ブチィッ!!
背骨が軋み、腹筋の一部が断裂した音が響く。
ほとんどカルラの下半身は、180度旋回していた。剥き出しになったお腹が捻れ、深い皺が刻まれている。
「うあああ”あ”ア”ア”ァ”っ~~~ッ!!! ごぶぅ”ッ!! ぐぷっ・・・!! ぎィ”ぃ”・・・ち、ちぎれぇ”っ~~っ・・・ひぎぇ”っ・・・う”っ!!!」
「オホホホッ!! 随分ブザマに鳴く鳥だねぇ!! さっきまでの生意気な態度はどこにいったんだい? ほら、まだまだこれからが本番だよッ!!」
絶叫するカルラの口から鮮血がこぼれる。悲痛な叫びに構うことなく、縛姫はさらにねじ回していく。
華奢な少女の肢体が、180度を超えて旋回しようとするその時――。
・・・ガチャ・・・
女妖化屍が口をつぐみ、相撲取りのような巨漢が顔を強張らせる。
二体の妖魔は揃って音の方向を鋭く睨んだ。体育館の出入り口。鉄製の、重い扉。
むろんカルラの耳にも、不意に鳴った音は届いている。あれは紛れもなく、ドアノブが回った音だった。つまりは何者かが、扉を開けて中に入ろうとしている。
夜の学校、灯りも点いていない体育館に、なんの用があるというのか?
声をあげようとして、しかしカルラは出来なかった。オメガペガサスが助けに来たのか? あるいは『水辺の者』の誰かが? 異変に気付いた学校関係者が、様子を窺いに来た、という可能性も否定できない。
逃げろとも、助けてとも言えずに、ただ瀕死の風天使も、ゆっくり開いていく鉄の扉を凝視する。
「・・・あれー?」
とぼけたような口調の声が、扉が開けきるのと同時に響く。
なんの躊躇も警戒もなく、ひとりの少女が暗闇の体育館に足を踏み入れていた。セーラー服を着ている。右腕に抱えているのは、大きさからいってバスケットボールと思しき球体。
「練習してるような音が、聞こえたんだけどな? えーと、誰かいますかー?」
「ァ”・・・ァ”カっ!! 逃げっ・・・!!」
喉からこみ上げる鮮血が邪魔をし、カルラはうまく叫べなかった。
その間に、剛武の手がポニーテールを離している。床を蹴る音が響くや、“跳弾”は空間を切り裂いて少女へと一直線に飛んでいた。
まさしく弾丸と見紛う速さ。
ただの女子高生としか見えぬ少女に、逃げられるわけがない。むろんカルラが阻止できるわけもない。
迫る空気の「圧」に少女が悲鳴を漏らしたときには、その身体は剛武に背後から抱えられていた。
「えッ? ええーッ!? これなにッ・・・!?」
「おやおや。運のない小娘が紛れ込んじまったようだねぇ」
相撲取りのような巨漢に持ち上げられた少女は、バタバタと懸命に宙を蹴っている。
長い髪の一部を、右側だけリボンで結っていた。胡桃のような丸い瞳が、人形のように愛らしい。どこか幼さの残る童顔ではあるが、セーラー服の上からでもハッキリわかるほどに、美しい稜線を描いてバストは盛り上がっている。
そのオレンジのような双乳を、剛武の掌が鷲掴んでいた。
遠慮なく、ゴム男の手は少女の胸をぐにゅぐにゅと潰している。全体重がかかっているだけに、乳房をもぎ取られるような苦痛が襲っているはずだった。
「きゃあああッ――ッ!! い、痛いぃ”ッ――ッ!! 痛いよぉッ――ッ!!」
「ぅ”ぐっ・・・!! やぁ”・・・めっ・・・!!」
「どうやらお前が叩きつけられる音を勘違いした、バスケ部のお嬢ちゃんってところかねぇ? フフフ、せっかくだから利用できるものはさせてもらうよ」
床に落ちたカルラの背を、縛姫が踏みつける。黄色のケープ越しにグリグリと踏みにじる。
剛武から解放されたところで、今のカルラに立ち上がる力など残っていなかった。動けないオメガスレイヤーを、〝妄執”の女妖化屍は嘲笑うように踏み潰す。
「オメガペガサスがやってくるまでの間・・・ちょっとした余興といこうじゃないか」
ポニーテールを掴まれ、カルラはグイと引き起こされた。
自然、背中が弓なりに反る。それまで横回転で捻られた腰が、今度は逆方向に反り返ることになる。
「・・・ぁ”があ”っ・・・!! ・・・ィ”っ・・・!!」
「カルラ・・・お前はさっき、小僧を逃がす時に報われるとかどうとか言ってたねぇ?」
「・・・アリ、サ・・・はっ・・・健人を・・・救えたっ・・・!! 死んでも・・・満足、よっ・・・・・・!!」
「ホホ、じゃあ今度はあの娘を救ってみないかい?」
力士体型の妖化屍に捕獲されたセーラー少女を、縛姫は指差した。
「ペガサスの秘密を話すんだよ。そうすれば、あの娘を生かして帰してやってもいい」
「・・・くゥ”っ・・・!!」
カルラがもっとも嫌がることを、〝妄執”の縛姫は察しているようであった。
闘いに敗れたカルラであったが、その胸中には晴れやかさもある。年下の少年・相沢健人を救えたからだ。かつて四乃宮家の姉妹を惨殺された時とは、雲泥の差があった。自身がどれほど凄惨な目に遭おうとも、満足して死ねると思えるのはそのためだ。
縛姫はそんなカルラの心情に気付いている。だからこそ、風天使のわずかな満足を砕こうとしている。
オメガペガサスの秘密を漏らすか、あるいは目の前の少女をむざむざと殺されるか。
そのどちらもが、カルラに痛烈な後悔をもたらすと、〝妄執”は気付いている。ペガサスの情報を聞き出せればよし、さもなくてもカルラの精神を傷つけられる・・・残る最後の三要素『純真』に、大きなダメージを与えることができる、と知っているのだ。
「・・・そんな・・・ことっ・・・どっちも・・・」
「おっと、どちらも嫌だなんて我儘が、六道妖に通じると思ってないだろうねぇ?」
近くに立ったバレーボールの支柱へと、縛姫は歩み寄っていく。
ポニーテールを手離し、背から足をどけても、カルラの下半身を緊縛したオレンジ髪はそのままだった。もはや萌黄の風天使は這うこともできないが、それでも警戒は怠っていない。
縛姫が支柱にローキックを放つ。フォームは悪いが、妖化屍のパワーは凄まじい。
直径10cmほどの金属の柱が、斜めの断面を見せて切り落とされた。
まるで鉄製の竹槍であった。カットされた支柱は鋭い切り口を見せ、床から50㎝ほどの高さまで突き出している。
「さあ、紫雲の空天使オメガペガサスはどんな小娘で、どんな能力なんだい? 言わなきゃあの娘は串刺しになるよッ!」
「・・・縛姫っ・・・!! あんたって・・・ヤツはっ!!」
「オホホホッ、正義の風天使さまはどんな選択をするんだろうねぇ!?」
冷たい床に突っ伏したカルラに、縛姫の哄笑が降りかかる。
セーラー服の少女の悲鳴が、真っ暗な体育館にこだました。
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