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4、髭

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「あっ・・・んた、たちっ!! もう謝ってもっ・・・遅いからねっ!!!」

 ゴウッ、と突風が地から天へと昇った時には、カルラに触れていたすべてのケガレが、シュレッダーにかけられたように細断されていた。
 健人には見えた。本来風は見えないはずなのに、凄まじく旋回する空気の流れがカルラの左手に集まっている。あまりに高速、高圧縮で風が凝縮しているため、わずかに大気が歪んでいるのかもしれない。
 
 本当に風だけで出来た風車、といったものだと健人の瞳には映った。
 
風手裏剣かぜしゅりけんっ、乱舞っ!!」

 透明な、扇風機の羽、のような気流のカッターを、カルラの左手が投げつける。
 その高速旋回する風に触れた瞬間、亡者の肉体は爆発するように砕け散った。
 
 ボボボンンッ!!! ボボボボッ!! ズザンンッッ!!!
 
「う、うわあああッ――ッ・・・!? こ、これが・・・アリサさんの、オメガカルラの本当の風の威力ッ!!」

 風手裏剣が通った後には、霧散したゾンビの肉片だけが、パラパラと地に降り注いだ。
 ざっと見ただけでも、半分。200体いたうちの、100体ほどの死者たちは、全てを切り裂く旋風の円盤により殲滅された。
 
 ガクンと、ケガレどもの拘束から解放されたカルラが、地面に片膝をつくのが見える。ダメージを受けた後遺症なのか、大技を放ったが故の消耗なのか、理由はわからない。多分、その両方だと健人は解釈した。
 しかしその推測が間違っていたことは、数秒後には明らかとなる。
 
「・・・どうやら・・・ヘタな抵抗はムダみたいね・・・」

「その通り。貴殿の負けだ、オメガカルラ」

 降伏の意志を示すかのように、右膝をついた黄色の少女が、両腕をだらりと垂らす。
 一体、どういうことなのか――? 健人の疑問は、四方を周り見た瞬間、氷解した。
 
 残る約100体のケガレたち。その全員が、ハンドガンを構えて中央のカルラに狙いを定めている。
 これだけ多くの銃器を、調達していたというのか。それだけでも驚きだが、その弾倉に装填されたのは、紫水晶の弾丸に間違いなかった。カルラのような存在が現れたときのために、〝軍神”の将威は抹殺するための膨大な準備を整えていたのだ。
 
 オメガカルラは誘い込まれてしまったのだ。処刑の罠に。
 〝軍神”の将威はひとり、またひとりと自らの兵隊である死者を増やしていきながら、破妖師がこの地に来るのを待ち構えていたのだろう。
 
 いくら萌黄の風天使が敏捷性に優れているといっても・・・100挺もの拳銃に包囲され、一斉放射されたら逃げられるわけがない。
 そして〝軍神”の将威が操る兵士は完璧に統率されており、わずかな隙も見つけられなかった。将威が指示した瞬間、避けることのできない紫水晶の銃弾の雨が、カルラの肢体を蜂の巣にするのだ。
 
 オメガカルラといえど、この包囲網から脱出する方法はなかった。
 
「・・・まさか、あんたがこれほど大量の紫水晶を用意してるとはね・・・さすがに予想できなかったわ」

「戦力を使いこなすことだけが、指揮官の役割ではない。戦力を揃えることこそが肝要なのである。〝軍神”の威光の前に散るがよい、萌黄の風天使」

 再び己の口髭を撫でながら、軍服の妖化屍がカルラに歩み寄る。
 ブチブチと、その指が髭を数本毟り取った。
 
「ア・・・アリサさんッ!! ボ、ボクに使ってる竜巻のバリアを自分にッ! 自分自身に使ってください! そうすれば、銃弾を弾き飛ばすことも・・・」

「バーカ。アリサより先にあんたは殺させない、って言ったでしょ。素直に守られてなさいよ、年下クン」

 3桁の銃口が突きつけられているというのに、ポニーテールの少女はふっと笑った。
 
「大丈夫って、何度も言ってるじゃない。オメガカルラは簡単には死なないんだから」

「笑止なり。愚かな強がりと見た。その小癪な笑みがいつまで続くかな」

 〝軍神”がつまんだ数本の髭が、ズズズ、と伸びていく。
 その先には、毛根と思しき肉の粒が付着している。微小なものだが、並の毛根と比べれば数倍は大きい。
 
「この肉の細胞が、ケガレどもが我が意のままに一糸乱れず動く秘密だ。オメガスレイヤーの肉体も支配できるのかどうか、試してみるとしよう」

 グニグニと、それ自体が意志を持っているように、長い髭がのたうつ。カルラの顔色がさっと青く変わった。
 風天使の左右の耳に、〝軍神”がそれぞれ数本の髭を差し込んだ。
 カルラの脳に向かい、耳の内部を黒い髭が侵攻していく。
 
「うはぁ”う”っ!! んああ”っ、あああ”あ”ぁ”っ―――っ!!!」

「貴殿の脳ミソに、我が肉細胞を植え付けてくれる。オメガスレイヤーを操り人形にできれば、これぞまさに最強の手駒よ」
 
 ビクビクっ!! ビクンッ!! ヒク、ビクンッ!!
 
 壊れたように、黄色のコスチュームを纏ったヒロインは、全身を痙攣させた。
 白目を剥いた瞳から涙がこぼれ、半開きになった口からも透明な涎が垂れる。
 ぐったりと両腕を垂らし、無抵抗を示したポーズのまま、オメガカルラは叫び続けた。
 
「アッ・・・アリサさッ・・・!!!」

「さすがに容易には我が肉を受け付けぬようだ。だが、快楽を注ぎ、弱体化させてみてはどうか?」

 〝軍神”の将威が新たに口髭を毟った。
 右手の指に数本の髭をつまむと、大きく開いたスーツの胸元に掌を滑り込ませる。目指すはお椀型の乳房の頂点、すでに尖り立ったピンク色の突起。
 カルラの乳首の中央、少し陥没した穴に、意志持つような髭がズブズブと埋まっていく。
 
「んふう”ぅ”っ!? ふくっ、ぅああ”っ・・・!! アアア”っ、アア”ア”っ―――っ!!!」

「脳ミソに比べれば、乳房の肉は我が意に染まりやすいようだ。そら、痺れるような悦楽を存分に受け取るがいい」

 左右の乳首に、将威の髭が深く差し込まれる。
 胸の内部にモーターでも埋められたかのように、カルラの美乳がそれ自体、ブルブルと振動する。むろん、それに伴う官能の刺激が、黄色のヒロインを襲っているに違いなかった。
 
「んくぅ”っ、ふぅ”・・・な、なにコレぇ”っ・・・!?」

「もはや貴殿の乳房は我がものだ。性感のツボを刺激するのも自在である」

 黄色のスーツに浮かんだ突起が、ますますギチギチと尖っていく。
 異様に尖った乳首が、自ら小刻みに震えているのが、健人にもわかった。キュンっ、と蠢くのにあわせ、カルラの全身がビクンと仰け反る。
 
「あくぅ”っ!! あはぁ”っ~~っ!! いぎぃ”っ、い”っ・・・!! やっ・・・やめぇ”っ・・・!!」

 整った顔を歪め、懇願にも似た吐息を漏らす萌黄の風天使。
 そんなカルラを嘲笑うように、お椀型の乳房はさらに激しく揺れ動き、乳首はツンツンに固くなる。
 片膝をついた姿勢のまま、美少女は大きく仰け反り絶叫を迸らせた。
 
「ア”っ、アアア”ア”っ~~~っ!!! ぐうぅ”、うう”ぅ”っ――っ!! こ、こんなっ・・・こんなこと、でぇっ――っ!!」

「貴殿の過敏な箇所は、まだいくらでもありそうだ。徐々に我輩の支配下においてくれる」

 新たな髭を、〝軍神”は剥き出しになっている、キレイな形のお臍に侵入させる。
 カルラの腹部、その引き締まった腹筋の内側に、根を伸ばすかのように髭がはびこっていく。
 
「ィはあ”ァ”っ――っ!!! あぎィ”っ、ぇああああ”あ”ア”っ~~~っ!!!」

「肉体を奪われ、尚且つ自分自身の細胞に責められるのは苦しいか、オメガカルラ? 生意気な台詞がすっかり聞こえなくなったな」

 さらに5本の髭を毟った将威が、黄色のヒロインのフレアミニを捲り上げる。
 同じ色のアンダースコートが露わになった。その股間部。うっすらと縦の筋が浮かんだ影に、グニグニと蠢く髭を押し当てる。
 
「さて、子宮も陥落すれば、もはやまともに思考もならないとみた。頑迷に我が肉を拒否する脳ミソも、すぐに支配を受け入れることだろう」

 鼠蹊部の隙間から侵入した5本の髭は、まずは膣穴の肉襞にピタピタと密着した。
 
「あふう”ぅ”っ――っ!! ぅああ”っ・・・!! あああ”ア”ア”っ――ッ!!」

 髭の先についた毛根が、いくつかピンク色のびらびらに転移していく。
 膣全体を摩擦されているような激感が、すぐにカルラの脳髄に押し寄せる。繰り返される突き上げの律動は、男性器を挿入されたのと同じようなものだった。
 
「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”ぁ”っ~~~っ!!!」

「これで膣壺も我が支配下となった。女の蜜を搾り出すのも造作もないことである」

 将威の言葉通りに、やがてカルラの股間からヌチャヌチャと粘着質な音が漏れだし、健康的な太ももに透明な液が伝い始める。
 
「うああ”っ、あああ”あ”っ~~~っ!! こわれぇ”っ、こわれちゃっ・・・!! アリサっ、のっ・・・!! お腹ぁッ・・・!! シビ、れてっ・・・おかしくなるぅ”っ――っ!!!」

「無惨なり、オメガカルラ」

 十分な成果を確認した〝軍神”は、挿入した髭を秘壺の奥へと殺到させる。
 カルラの子宮に、さらにその奥、卵巣に。
 ピタリと張り付き、絡みついていく黒い髭。先端の〝軍神”の肉細胞を、ヌラヌラとした美少女の内肉に埋める。
 
 その途端、カルラの下腹部全体が蠢き、敏感な性感地帯から一斉に刺激が沸き起こった。
 
「んはああ”ぁ”っ!!? ふぇあ”っ、ふぇあああ”あ”ア”ア”ア”ァ”っ~~~っ!!! ひびィ”、ヒビれぇっ・・・ヒビレひゃう”ぅ”っ――っ!!! ふぎゃあああ”あ”あ”っ~~~っ!!!」

「うわああッ、ア、アリッ・・・アリサさんッ――ッ!!」

 黄色のマントヒロインは、激しく痙攣した。
 涙も、涎も撒き散らして、ガクガクと首を振る。ポニーテールが乱れて舞った。
 下腹部を覆う黄色のスコートに沁みが広がり、内股を濡らす。〝軍神”がミニスカートを捲ったままのため、その淫らな光景が健人の眼にもハッキリ見えてしまう。
 
 この破妖師の少女は負けたのだ。
 間もなく精神をも軍服の妖魔に乗っ取られるか、あるいは殺されるか・・・
 
 健人が絶望したのも、無理はなかった。
 
「他愛のないものだ。所詮オメガスレイヤーも、弱点がわかれば・・・」

 勝ち誇った〝軍神”の声が、不意に詰まったのはその時だった。
 ようやく健人も気付く。悶え震え、嬌声といっていい叫びをあげているオメガカルラに、どこか違和感があることを。
 
 白目を剥いていたはずの切れ上がった瞳は、いつの間にか、強い光を戻して軍服姿の妖魔を睨んでいた。
 
 ザシュンンッッ!!!
 
 切断の音色は鮮烈で、一瞬だった。
 
 〝軍神”の将威の頭部が、額のところで輪切りにされ、宙を飛ぶ。
 健人の位置からでも、両断された大脳の断面図がハッキリと見えた。
 
「ッッ!! ・・・」

「・・・ふぅ~・・・ったく。随分嬲ってくれたじゃない」

 スッパリと、頭部の半分を切り取られた〝軍神”の将威は、一度大きく痙攣したきり、動かなくなった。

「名付けて、風手裏剣・葉隠れ。葉っぱがそっと、触れたぐらいにしか思えなかったでしょ? ゆっくり、音もしないほどゆっくり、だけど高密度で圧縮した風の刃よ。作るのに時間がかかるのが欠点だけどね」

 己の指を耳のなかに入れ、カルラは忌々しげに吐き捨てた。先程まで快楽と脳への侵攻に悶えていたヒロインは、すっかり強気を戻している。
 ビュッ、と隙間風のような音が、カルラの耳から漏れる。
 唇を尖らせた風天使の少女は、ぷっと黒い塊を吐き出した。
 塊の正体は、絡み合った〝軍神”の髭だった。
 
「妖化屍ってのはさ、知能が残っている分、ケガレよりずっと厄介だけど・・・代わりに脳が壊れたら、もう動けない。えーっと、『ワガハイの思うがままに兵隊は動く』だっけ? てことは、周りのコイツら、みんなあんたの指示待ちってことよね」

 ハンドガンを構えた四方のケガレたちは、そのままの姿勢で動こうとしない。
 地に落ちた〝軍神”の大脳を、カルラの黄色のブーツがグシャリと踏み潰した。
 
「もう聞こえてないと思うけど、アリサを操ろうなんて思ったのがあんたの敗因よ。とっとと紫水晶の弾丸撃ち込んでれば殺せてたかもね。ていうかさ」

 残る100体のゾンビを切り刻むべく、風が唸りをあげ始めていた。
 
「アリサは、あんたなんかの思い通りにならないから。風は自由なのよ」

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