3 / 36
3、軍神
しおりを挟む「紫水晶が我ら妖化屍を傷つけるシロモノであることは知っていたが・・・よもやオメガスレイヤーに対しても同様の効果があるとは。六道妖の情報は、真実だと証明された」
口髭を生やした軍服の男に、リボルバー式の拳銃は違和感なくフィットしていた。
銃口を躊躇うことなく、地を這う少女に向ける。紫色の水晶で出来ていると思しき銃弾は、すでに装填済みだった。
ブルブルと震えるだけで、相沢健人は声を発することすら出来なかった。
高層マンションから飛び降りても平気だった黄色のマントヒロインが、たった一発の銃弾を受けて右肩から血を流している。撃たれて傷つく、のは当たり前のことだが、超人じみた能力を数々見せられたあとでは、少女が苦しむことが信じられなかった。
殺される、と思った。
よくわからないが、あの紫水晶は、少女が苦手とする物質らしい。その銃弾で再び狙撃されたら・・・
甲高い音がして、軍服男の指が拳銃の引き金を引いていた。
紫の銃弾が、飛ぶ。むろん健人に、その弾道が見えるわけもない。
ボッ、と着弾の音がして、黒土の地面が抉れた。つい今しがたまで、ポニーテールの少女が倒れていた場所に。
まさしく風のように、黄色のコスチュームを着たヒロインは、右肩を押さえて立ち上がっていた。
「じ、銃弾を・・・避けた!?」
呆気にとられた声を、健人は無意識に漏らしていた。
信じ難いが、少女はただ立ち上がっただけ、とは見えなかった。迫る紫水晶の弾丸をその瞳に捉え、確実に身をかわした・・・そんな動きだった。動体視力といい、敏捷性といい、とても人間業とは思えない。
しかし恐らく、このケープをなびかせたヒロインは、やってのけたのだ。弾丸をかわすという、神業を。
いい加減、認識を改めねばならない。ゾンビの群れといい、軍服の殺人者といい、黄色のヒロインといい・・・健人は現実世界にいながら、超常の闘いに足を踏み入れている。並の感覚ではついていけない。
「〝軍神”の将威、だっけ? あんた、六道妖と知り合いなの?」
顔いっぱいに汗を浮かべながら、少女の表情に不敵な微笑が戻っていた。恐らくは強がっている、と健人は見た。撃たれた右肩からは、依然真っ赤な血が滴り落ちている。
「彼奴らと同盟を結べば、破妖師を始末するための有益な情報を得られる。活用しない手はあるまい」
「へー。我欲剥き出しの妖化屍が同盟だなんてね。笑わせるじゃない」
「オメガヴィーナス亡き今、貴殿ら『水辺の者』の最高戦力は五天使と呼ばれるオメガスレイヤーども・・・それも火と水はすでに敗れ去ったと聞き及ぶ。残るは風、地、空の3名のみ。この者どもさえ抹殺すれば、我ら妖化屍の天下となる」
初めて聞く単語がいくつも出てくるが、大体の内容は健人も理解できた。
ハヨウシというのは、『妖を破る者』という意味だろう。黄色の少女は亡者を倒すのが目的、と言っていた。『水辺の者』とはどうやら、その破妖師たちの組織のことらしい。マントヒロインはその一員かつ最強の戦士のひとり、というわけだ。
これまでに見せた能力からも、萌黄の風天使という異名からも、黄色の少女が『風』属性であるのは間違いなかった。
「抹殺すべき対象が自ら飛び込んでくるとは、我輩には運気がある」
「・・・ちょっとアリサを傷つけたからって、調子に乗らないでよね」
少女が左手の人差し指を、右肩の傷穴に突っ込んだ。
まさか、と驚く健人の目の前で、風天使は躊躇いなく、旋回する風のドリルを己の肩に撃ち込む。
ボシュッ! と裏側から、鮮血まみれの弾丸が肩を突き抜けて飛び出す。
「ィ”ィ”ッ!? ・・・じ、自分で・・・自分の肩をッ!!」
「はい、ムカつく紫水晶の弾は取り出してやったわ。まさかあんたが、こんなもの用意してるとは驚いたけどね」
「紫水晶さえあれば、オメガスレイヤーを殺すことは可能と判明した。妖化屍が貴殿らに怯え、闇に生きる時代は終わりを告げるのだ」
「弱点がわかったくらいで、このオメガカルラに勝てると思ってんの?」
アイドル活動してもおかしくないほどの美少女なのに、鮮血で右肩を染めた黄色のヒロイン=オメガカルラは、健人がゾクリとするほど凄惨な笑みを浮かべた。
「舐めないでよね。たとえ1万体ケガレを集めても、アリサの風は止められないから」
「我輩の配下を、ただの操り人形と思わぬことだ」
風が唸り始めるのと、200体のゾンビが動き始めるのとは、ほぼ同時だった。
カルラを囲んだ死体の人波。その中から、5体。
測ったような等間隔、しかもまったく同じタイミングで、半腐乱のアンデッドが黄色の少女に飛び掛かる。
「〝軍神”という我輩の異名、その理由を貴殿には教えてくれよう」
ザシュンッ!! ズザザザザァッ!!!
疾風の刃が、5体のケガレを一斉に斬り刻んだ。
巨大な猛獣の爪が、引き裂いたように。どの亡骸も細切れとなって、バラバラと撒かれる。いくら不死者といえども、肉片になってはヒクヒクと痙攣するくらいしか出来ない。
風を操るカルラには、ゾンビを細かく刻むなど、容易なことなのだろう。
だが逆にいえば、肉片になるまで風を浴びせねば、ケガレの動きは止められない、ということでもあった。
「うっ!?」
「我輩は手足のように、一寸の狂いなくケガレどもを操作できる。完璧なる指揮が可能なゆえ、ついた異名が〝軍神”である」
斬り刻んだケガレのすぐ後ろ。
別の5体が、新たに、再び全く同時のタイミングで、カルラに飛び掛かっていた。
波状攻撃とはいうが、波とは普通、一定の間隔があるものだ。〝軍神”の将威が操るケガレたちの攻撃には、隙間がほとんどなかった。津波のすぐ後ろに、次の高波がもうそこまで迫っている。
「ケガレのくせにっ・・・生意気じゃない!」
カルラに触れる寸前、ボボボンンッ! と5体のケガレは粉塵となった。
だがその旋風は、なんとか無理矢理に作り出したものなのだろう。切れ上がった美少女の瞳が、必死さを証明するようにヒクヒクと引き攣っている。
「ケガレではない。我輩の指揮が優秀なのだ」
3段目の波が、すでにカルラに飛び掛かっていた。
今度の5体は全員が同じ動きをしているのではなかった。背後から襲う2体は両腕に組み付き、正面からの3体は助走をつけてジャンプしている。
「貴殿の風は切れ味鋭いが、吹いた後には凪ぐのが風というもの。その一瞬の隙を、我が手足であるケガレどもに的確に突かせる」
小柄でスレンダーな肢体が、2体の亡者に羽交い絞めにされる。
ほとんど同時に、正面の3体はドロップキックを放っていた。両脚を伸ばし、矢のように突っ込んでいく。
黄色のスーツに包まれた、小ぶりだが形のいい左右の美乳。そして露わになっている腹部にと、合計6本の足が勢いをつけて突き刺さる。
「ぐぶううう”う”っ――っ!! ・・・かはぁっ!!」
「その小さな身体では、他のオメガスレイヤーより肉体の強度は劣ると見た。萌黄の風天使」
乳房と腹部に跳び蹴りを喰らい、「く」の字に折れ曲がるオメガカルラ。
細くて白い首筋に、両腕を抑えた2体のケガレが歯を立てる。その鋭さは、もはや牙と呼んで差し支えなかった。柔らかな少女の肉に、ズブズブと噛みついていく。
「ぐあああ”っ――ッ!? こ、このっ・・・!! ふざけたことっ、しないでよねっ!!」
ザザザンンッ!!
風の刃が、前後のゾンビを一瞬にして切り裂く。細断された肉片が、ドシャドシャと血を噴きながら落ちていく。
しかし、いくらオメガカルラが風の遣い手といえ、旋風のバリアをひとつしか作れないように、限度はあるようだった。
1万体のケガレが相手でも勝てる、というのは多少の誇張はあるかもしれないが、あながちウソでもないのだろう。ただそれは、単に死者の群れが相手ならば、だ。〝軍神”の将威が操るケガレは、烏合の衆ではなく統率された軍隊に近い。合理的な指揮で動く200体は、ただ集まった1万体よりずっと強い。
そこまで考えて健人は気付いた。もし、今彼を守っている風のバリアを自分自身に使っていれば・・・カルラはもっと楽に闘えているのではないか、と。
健人を守っているために、黄色のマントヒロインは苦戦を強いられているのではないか、と。
ましてカルラは右肩を負傷しているのだ。これまでの会話を聞いている限り、オメガスレイヤーと呼ばれる最強の破妖師とやらは、滅多に傷を負うことなどなかったらしい。美少女が常に勝ち気な表情なのも納得だが、つまり今回はかなりの窮地ということなのではないか?
風という、視覚では捉えにくい能力を使っているためハッキリわからないが、もしかしたら今のカルラは、本来の半分も実力を出せていないのかもしれない。
「あ・・・ああッ!! ・・・ア、アリサさんッ!!」
もう何度目となったかわからない5人組の突撃を、切り裂く旋風でカルラが粉々に消し飛ばす。
だがそれは、あくまで囮だったのだろう。
その隙に、背後から迫った巨漢のゾンビが、手にした鉄骨でポニーテールの後頭部をフルスイングで痛打した。
「あ”っ!! ・・・」
何トンもある梵鐘を撞いたような、重い響き。
スレンダーな少女が一瞬身を強張らせ、瞳を裏返す。コンマ何秒、という単位であろうが、オメガカルラは意識を失ったのだ。
周りを幾重にも包囲したゾンビどもにすれば、それは絶好の隙であった。
「かかれ。萌黄の風天使を噛み殺せ」
〝軍神”の将威が言い終わるより早く、死者の群れが黄色のヒロインに殺到した。
前から後ろから、四肢を抑える。そのほとんどが男であるケガレどもは、自分たちより頭ひとつ小さい少女に全力で組み付いていく。
鮮やかな黄色のコスチュームから覗く、バンビのようにしなやかな手足。そして引き締まったお腹に、無数のゾンビがガブガブと噛みつく。
「うぐぅ”、う”っ!! ぐあ”ぁ”っ!! あああ”あ”ぁっ~~~っ!!!」
粉を吹く、ミイラのようなガサガサの掌が、カルラの内股に滑り込み、フレアミニの奥へと侵入した。
黄色のスーツを盛り上げる、Cカップはあろうかというお椀型の双乳。よく見れば、その間には『Ω』の文字を象ったらしいマークが描かれている。その紋章が歪むほどの勢いで、4、5本の血の気のない手が、グニャグニャと美乳を揉み潰す。
「さ、触る・・・なぁっ!! 汚らわしい手でっ・・・あ、あんたたちっ、ゆるっ・・・あああ”あ”っ――ッ!!」
怒りに震えるカルラの声が、途中で甲高い悲鳴に変わった。
首筋に、ケガレの牙が食い込んでいる。剥き出しのお臍も、スベスベとした内股にも、生ける死体は噛みついていた。
勝ち気な少女を叫ばせているものは、痛みだけではないかもしれない。
ミニスカートの奥に差し込まれた手も、バストを握り締めた複数の掌も、シュリシュリと摩擦の音色を奏でている。
明らかに、愛撫をしていた。
表情も、生気もないリビングデッドたちは、その血の通わない手で乙女の弾力性ある柔肌を弄んでいる。敏感な箇所に触れるたび、電気が走ったようにヒクンと反応するカルラを愉しんでいる。
「あ”っ!・・・んぁ”っ! ・・・・・・ぅ”くっ! ・・・」
「『純血・純真・純潔』か。貴殿らがオメガスレイヤーたるための三要素もこの耳には届いておる。操を奪われること、及びそれに準ずる行為は貴殿らを弱体化させるというのも、事実であったようだ」
「そっ・・・そんなこと・・・までっ!! な、なんで・・・知って・・・ぇ”ふぅ”っ!?」
「聞いているぞ。『水辺の者』を裏切った者が、六道妖の傘下におること。もはや貴殿らは末期のようだな。哀れなり、オメガスレイヤー」
口に蓄えた髭を、つるんと右手の指で〝軍神”が撫でた。
それを合図とばかり、バストを揉みしだいていたケガレのうちの2体が、大きく口を開く。生え揃った黄色の牙を剥く。
黄色のスーツをぷくりと押しあげた、乳房の先端。屹立して固く尖った少女の胸の突起に、亡者の牙がガリリと噛みついた。
「はきゅふぅ”っ!!? ふぎゃあああ”あ”あ”ぁ”っ―――ッ!!!」
雷に打たれたように、カルラが仰け反る。
もうまともに見ていられなかった。凛とした佇まいと、引き締まったスレンダーボディを持つ破妖の少女が、半分腐乱したような無数の死者に噛まれているのだ。しかも乙女にとって敏感な箇所を、乱暴に嬲られて。
このまま黄色のマントヒロインは負ける・・・そう健人が絶望しかけたのも無理はない。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる