256 / 275
「第十一話 東京決死線 ~凶魔の右手~」
29章
しおりを挟む「うぎゃああああああああッッッ――――ッッッ!!!! あ、足がアアッッ――ッッ!!! あたしのッ・・・あたしの足がァァアアッッ~~~ッッッ!!!!」
筋肉で引き締まった太腿を、極太の杭槍2本で貫かれる苦痛の、いかに壮絶なことか。
ズボリと槍を引き抜かれ、投げ捨てられたSラインのボディが、絶叫とともに転げ回る。鮮血を噴く足を押さえて、神宮の森を悶え跳ねる。胸から、腹から、背から・・・破れ抉れた銀の皮膚から、ドクドクとドス黒い血潮がこぼれ落ちていく。あまりに長い戦闘の責め苦で、究極のラインを誇る天使の肢体は、もはや泥をかぶったように黒ずんでいる。
ヴィーン・・・・・・ヴィーン・・・・・・
聖少女に残された命がわずかであることを教えるように、明らかに遅くなったエナジー・クリスタルの警戒音が血塗られた明治神宮の敷地に流れていく。
「トドメだ。光線技というものを試させてもらおう」
痛みにのたうつ体力すら、ナナから消え失せていった。太腿を押さえたまま転がる瀕死の守護少女に、漆黒の凶魔が歩み寄る。菱形面のひとつ目が血染めのグラマラスボディを冷たく見下ろす。
“最凶の右手”が地を這うファントムガール・ナナに向けられる。
乙女の肢体を執拗に貫かれ、意識のほとんどを苦痛に食い尽くされた聖少女に、最凶悪魔の一撃を避ける術などなかった。
「光線というものは、名前を付けると威力が倍増するそうだな」
思念と密接に繋がる光線技は、具体的に名前を付けることでよりイメージが強化される。
強さを得るのに躊躇しない凶魔の膨らんだ右手に、闇よりも濃い負のエネルギーが集まっていく。
「ファントム破壊光線ッ!!」
渦巻く漆黒の弩流が一直線に、横臥するナナの豊満な胸に放射される。
桁外れの暗黒エナジー。それだけでもゲドゥーの光線は兇悪に過ぎるのに、名前自体にファントムガール抹殺の念が込められれば・・・
まさしく、守護天使にとって最悪最凶の光線。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ――――ッッッ!!!!」
ズババババババッッ!! ブシュブシュブシュッッ!! ドシュッッ!! バシュンッッ!!
反り返る、美しきSラインの究極ボディ。
闇光線が空気を焼く音に続いたのは、注がれる暗黒エナジーのあまりの巨大さに、銀色の肢体が内側から突き破られ爆ぜる音であった。
壮絶過ぎる苦痛に奇妙に折れ曲がる哀れな少女戦士。その肉感的なボディのあちこちで銀の皮膚が破れ、火花のように暗黒瘴気が噴き上がる。
バシュンッッ!! ブチイッッ!! ブシュッッ!! ズババアッッ!!
腕が、胸が、腹が、足が、背中が、顔が・・・
破れていく。細かな肉片が千切れ飛ぶ。闇のエネルギーがナナの内部で爆発し、孤独に奮闘してきた純粋天使の肉体を文字通り破壊していく。生まれながらの、最凶の悪魔ゲドゥー。その巨大すぎる負のエネルギーの前に、悲壮な少女戦士は悶絶の悲鳴を叫ぶことしかできなかった。
“・・・死・・・ヌ・・・・・・あ・・・たし・・・・・・バラ・・・バラ・・・・・・”
ブシュウウウウッッ――ッッ!!!
瞳の光が消えると同時に、ナナの全身を抉った凶刃の傷穴から、一斉に鮮血が噴き出す。
紅に濡れ光る無惨な女神の肢体が、なんの力も示さずに神宮の大地に沈む。
ピクリとも動かなくなったファントムガール・ナナの胸の狭間で、光を失った青い水晶体がただ静かに闇のなかに潜んでいる。
「ギャハハハハハ! 壊れた! ファントムガールが一匹、壊れやがったぜェッ!!」
明治神宮の夜空に、悪魔の哄笑が突き抜ける。
漆黒の凶魔と褐色の凶獣、女神の返り血を満身に浴びた二匹の悪魔の足元に、人類を守るはずの巨大少女は、ボロ雑巾という表現すら生易しいほどの無惨な姿で転がっていた。
「メフェレスよ。貴様の話ではこのファントムガール・ナナの戦闘力が、もっとも侮れんということだったな」
「その通りだ」
背後を振り返ったひとつ目の視線の先で、距離を置いたままの青銅の魔人が、三日月に歪んだ笑いを浮かべて言う。
「弱い。守護天使などと呼ばれていても、この程度のものか、ファントムガール。いかに運動神経に恵まれていようが、所詮は女子高生の小娘どもだ。オレたちの敵ではないようだな」
「ク・・・ククク・・・」
「なにがおかしい?」
肩を揺らして笑う黄金マスクに、サングラスに似たひとつ目が疑念の光を灯す。
「ゲドゥー、貴様もどうやらファントムガールをまだ理解しておらんようだ。こいつらは侮れん。間違いなく、なあ」
三日月の笑いになにを見たのか――
菱形面の凶魔が正面に顔を戻す。飛燕の速度で。屠ったばかりの天使へと。
いなかった。
死の大地に眠るはずの聖少女の姿は、そこには見当たらなかった。
代わりにいたのは、ガクガクと震えながら立ち上がる、不屈の戦士。
瞳と水晶体に仄かな光を灯した守護天使が、今にも崩れ落ちそうになる肢体を必死に支えて戦闘態勢を取ろうとしている。
「あぐッッ・・・グブウッッ!!・・・ハアッッ、ハアッッ、ハアッッ・・・ふぐッッ・・・ううッッ・・・」
「このアマッッ・・・!! あれでもまだくたばってねえのかッッ?!!」
血の糸が全身から垂れ落ちて神宮の森に吸い込まれていく。グラグラと揺れる光の女神の肉体は、少しの拍子でバラバラに砕けてしまいそうだった。
それでも、それでも確かにファントムガール・ナナは己の足で立っていた。
叫ぶギャンジョーの声にも、驚きを通り越した響きが隠し切れない。
「・・・なるほど。確かにファントムガールへの意識は変える必要があるようだ」
「・・・ゴボオッッ!! ゴブウウッッ!! ひゅうッ、ひゅうッ・・・・・・ゲボオオッッ?!! ぐぶうッ、ぐふッ・・・ハアーッ、ハアーッ!!」
意味なく殺された原宿の人々のため。
使命に従い壮絶に散った相楽魅紀のため。
そして、この恐るべき悪魔たちの魔手が、愛する仲間たちに届かぬように。
ナナは立った。立ち上がった。
己の肉体が、間もなく崩壊するとわかっていても・・・
「愚かな女だ。黙って寝ていればいいものを」
「ゴフウウッッ!!・・・ハアッッ、ハアッッ、ハアッッ!!」
ドオオオオオオンンンンンッッッ!!!
ナナの右手に渦巻く、眩い光の白球。
どこにそんな力がまだ残っていたのか。とうに死に絶えていても不思議ではない青い天使が作り出したのは、高密度の聖なる光の結集体。絶望的状況に心を踏み躙られ、凄惨な苦痛に肉体を蝕まれていった少女戦士が、最期の望みを賭けて小太陽に全てを託す。
“あたし・・・は・・・・・・もう・・・・・・ダメ・・・・・・せめて・・・ひとり・・・でも・・・・・・”
「スラム・・・・・・ショットッ!!!」
投げつける。
少女・藤木七菜江の青春がこもった命の一撃を。最強ランクを誇る、ファントムガール・ナナ魂の必殺技を。
聖なる光の弾丸が闇を蹴散らし、佇む漆黒の凶魔へと殺到する。
パアアアアアァァァッッ・・・・・・ンンンッッッ!!!
「どうやら、この程度が限界のようだな」
ナナ必殺のスラム・ショットは、跡形もなく破裂音とともに消滅していた。
受け止めた“最凶の右手”に握り潰されて。
「ッッ・・・そ・・・ん・・・な・・・」
ドズウウウウッッッ!!!
ハンドボール部の七菜江が膨大な時間と汗とを費やした努力の結晶=スラム・ショット。
アスリート少女の人生の一部とも言える必殺技が、容易く片手で止められた瞬間、自失する女神の両腕が背後の疵面獣に刺し貫かれる。
下から上へ、杭のごとき腕槍で二の腕を貫かれ、ナナの肢体はちょうどギャンジョーに羽交い絞めにされたようになった。実力差を知ったショックか。腕を貫かれる激痛か。ガクリと猫顔が垂れ落ち、青いショートカットが力無く揺れる。
まるで十字架に磔にされたイエスのごとく、闘う力を失ったナナは残酷な凶獣の腕のなかに拘束された。
「ファントムガール・ナナ。小娘にしては大した耐久力だ。素晴らしい。素晴らしいぞ」
ひとつ目になんの感情も浮かべない漆黒の凶魔が、“最凶の右手”を振りかぶる。
残酷な破壊を享受する以外、もはや敗北の少女戦士に残された道はなかった。
「素晴らしい、オモチャだ」
くびれた脇腹に、拳を作った“最凶の右手”が手首まで突き刺さる。
ベキベキと響く、ナナの肋骨が砕ける悲鳴。脇腹の内部で拳を回され、あまりの圧迫感と苦痛に聖少女の口から獣のごとき絶叫が迸る。
引き抜かれた右拳は、今度は奇跡的な形とボリュームを誇る胸の乳房へと突き込まれた。
ヘドロのような粘ついた血塊が、信じられない勢いで女神の唇を割って出る。
女性のシンボルを潰される衝撃と苦しみに、多感な少女の苦鳴に泣き声らしき呻きが混ざる。
ヴィッ・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・ヴィッ・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・
「ゲハハハハハ!! どうしたァッ、ナナァ~~ッッ!! 随分痙攣が小さくなっちまったじゃねえか! 胸の水晶体ももう鳴ってんのかどうか、わかんねえなあ?!」
「終わりだ、ナナ」
濃厚な闇を纏った巨大な右手が、ナナの目前で限界まで引かれる。
破壊の限りを尽くされた無惨な天使に、暴虐の一撃を、避けられるはずもなかった。
グシャアアアアアアッッッ!!!!
苦痛に歪んだ少女の顔面に“最凶の右手”が叩き込まれた瞬間、肉の潰れる音ともに鮮血の花火が爆発した。
食い込んだ拳をナナの顔から抜く。粘着した血の橋が拳と顔の間に架かる。ギャンジョーが戒めの腕槍を引き抜く。
ピクリとも動かないナナの肢体がゆっくりと前に傾き、そのままの姿勢で神宮の森に沈んでいく。
敗北天使の倒れる地響きが、夜の東京を震わせる。
血と泥で赤黒く染まり、穴だらけにされた無惨な少女戦士を、疵面の凶獣が乱暴に蹴り転がす。
ヴィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
顔も、胸も、腹部も、足も・・・力無く四肢を投げ出すナナの全ては破壊されてしまっていた。
ただ胸の消え入りそうな水晶体が、かろうじて破壊されずに残っている。
「これが、オレたちの標的の末路だ」
“最凶の右手”がエナジー・クリスタルを鷲掴み、強引に引き上げる。
生命の象徴である水晶体ひとつに全体重を預ける形で、仰向け状態のナナの全身が宙に浮いた。
「へげええええッッッ?!!! ひゅぎゅうわああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
声すら枯らしたはずの守護少女が、最期の絶叫を迸らせる。
乳房の肉を突き破ってクリスタルを鷲掴む凶魔の右手。弱点を引き抜かんとする壮絶な仕打ちに、今のナナが耐えられるわけもない。
聖少女がぶらさがる。胸のクリスタルに吊るされて。ガクーンと四肢も首も垂らし、銀の体表から光を無くし、あらゆる力を失って。
ボトボトと、鮮血が、肉片が、敗北の証がナナの全身から降り落ちる。東京の人々が拠り所とする、明治神宮の敷地へと。降りしきる、血雨。目を覆うばかりの残酷な地獄絵図が、首都の夜に展開されている。
「ファントムガール・ナナ。まずは・・・ひとり目」
もはや垂れ落ちる血もないことを確認するや、ゲドゥーの右手は消え入りそうな水晶体から離れた。
受け身を取ることもなく、惨敗天使の血染めの肢体が大地に落ちる。その顔に刻まれたのは、苦悶と嘆き。
ガラスの砕け散る音がしたかと思うと、ピクリとも動かぬナナの全身は光の粒子と化して、夜の闇に霧散した。
「残るは、4人だ」
ゲラゲラとこだまするギャンジョーの笑いとともに、神宮の森を席巻した3匹の悪魔もまた、その姿を闇に溶かしていった。
あとには、ただ女神が残した濃い血臭のみが明治神宮の境内に漂うばかりであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる