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「第十一話 東京決死線 ~凶魔の右手~」

21章

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“メフェレス・・・こいつの恐ろしさは、怒るほど冷静になることだった・・・あんなに憎悪で闇のエネルギーを増幅させながら、あたしを確実に倒せる方法を見抜いてる・・・”

 接近戦に強いナナを仕留める、見本のような闘い方。
 ナナが使える遠距離用の技、それも強力な威力を持つものといえば、必殺技でもあるスラム・ショットとソニック・シェイキングしかない。しかし、殲滅魔弾を持つメフェレスにスラム・ショットが通用する確証はなく、ソニック・シェイキングはある理由でどうしてもこの場で使いたくはない。
 メフェレスの言う通り、純粋な青き天使ができるのはこの嗜虐をただ耐えるだけなのだ。
 
「ふぐッ!! ぐぶッッ!! あぐッ・・・あがァッッ!!」

「グワハハハハ! 血を吐き出すようになったか! 耐えてもムダだ、そんなクズ人間どもを守ってなんの意味がある? オレに勝ちたければ見捨てることだな」

「ム、ムダなんかじゃ・・・ない・・・」

「クズめッ! ふざけたことをぬかしおってッ、その状況から反撃できるとでも言うつもりかッ!!」

「確かにあたしはマヌケかもしれない・・・でも・・・ここを耐え切ってみんなを逃がせたら・・・たとえ死んでもお前には勝ったと胸を張れる!」」

「ッッ!! このッ・・・蛆虫がァァァッッ~~~ッッッ!!!」

 黄金の般若面から呪詛の言葉が洩れ出る。立ち昇る暗黒の怒気が、黒雲の闇空をさらに漆黒に焦がす。
 誰の目でもハッキリと視認できるほど、メフェレスの負のエネルギー、魔人の力の根源である闇が濃度と密度を増していく。
 目の前の守護天使に対する怒り、憎しみ。いや、ファントムガールという存在そのものへの復讐の炎が、この悪鬼に更なる暗黒パワーを授けているというのか。
 
「犬死して勝っただとッッ?! 戯言も大概にするがいいッッ!!」

「守りたい人たちを守れたならそれでいい! あたしひとり生き残りたいから闘ってるんじゃないッ、みんなを助けたいから闘ってるんだッ!! ひとを見下したあんたにはわかんないでしょッ?!」

「王と生まれしこのメフェレスが、足元を這いずる賤民どもの性根など知ったことかッ! 貴様らとオレとでは存在する次元が違うのだ!」

「弱いからよッッ!!」

 メフェレスを纏う漆黒の瘴気が、その一言で一気に硬直する。
 
「あんたは弱いからわかんないのよッ!! ひとを守る、強さが。どんだけ頭が良くたって、どんだけ剣の腕が立ったって、心が弱いから負けるんだよッッ!!」

 冗舌であった魔人が、ナナの言葉の前に静まり返る。
 数秒。張り詰めた糸のごとき静寂。
 やがて青銅の甲冑鎧がブルブルと震えだす。メフェレスの脳裏に駆け巡った過去の屈辱。敗北の記憶。五十嵐里美の救出に来た工藤吼介に敗れ、妹を想う西条エリに敗れ、人々のために闘ったファントムガール・サクラに敗れた。今思い返せばそう、ナナの言う通り“誰か”のために闘った者たちに、魔人は苦汁を舐めさせられてきたのだ。
 純粋天使の叫びが図らずも指摘した悪鬼の欠点は、久慈自身では恐らく生涯気付くことはできなかったであろう。
 眼から鱗。思いも寄らなかった、敗北の要因。
 しかし、青銅の魔人を震わせていたものは、決して新たな発見による感動などではなかった。
 
「群れねば生きられぬ貴様ら蟻がァッ~、獅子たるこのオレと同列に語るんじゃあッ・・・ないッッッ!!!」

 選ばれし人間である己が、下賤の者どもに膝を屈した壮絶なる恥辱。
 「弱い」「負け」・・・それらは今のメフェレスにとって、気が狂わんばかりに憎悪する、侮蔑のワードであったのだ。
 
「殺してくれるわッ、ファントムガール・ナナッッ!! 二度とそのへらず口が聞けぬよう、屍となれィッ!!」

 青銅の鎧が足を踏み出す。生い茂った樹林を踏み潰し、地響きを立てて青と銀の少女戦士の元へ殺到する。
 憤怒が魔人を駆り立てていた。暗黒カッターでの嬲り殺しなどつまらぬ。この手で切り刻む感覚を楽しみながら五臓をぶちまける。生意気な守護天使をより残酷に殺すため、悪の王は刀が届く位置にまでその身を走らせる。
 
 “やった!”
 ナナの胸に湧きあがるのは、偽らざる感情であった。
 その場を動けないのなら、敵に近付いてもらうしかない。見え透いた、と思われた挑発が、冷静冷酷なメフェレス相手に通じたのは予想外の僥倖であった。距離が縮まれば闘える。もはやサンドバックのように耐え続ける必要はない――
 
 パンと張った銀色の太腿に、弾ける力を溜め込んだその時だった。
 
「子猫ちゃ~~ん♪ マヴェルのことォ、忘れてなァ~~い?」

 膨大な闇エネルギーを放射する魔人の存在感に隠れ、魔豹への警戒は無防備といっていいほど薄くなっていた。
 背後に回っていた銀毛の女豹が青と銀の聖天使を後ろから抱きすくめる。圧迫。締め上げてくる力。このままアスリート天使の動きを封じるつもりか。
 腕力の勝負ならナナは自信があった。スポーツ万能少女と、怠惰な生活を送る「闇豹」。純粋な肉体の力で負けるなんて、体勢の不利があろうとも考えられない。
 マヴェルの右手が握ったものは、ナナの左の乳房。左手が挿し入れられたのは、敏感な股間部分。
 銀毛に覆われたふたつの手がピンク色に妖しく光る。
 
「うァッ、ふぇううァッッ?!!」

 瑞々しく張り詰めたボディがビクリと反応した瞬間、ソリッド・ヴェールの発光が反射的に弱まる。
 
「食らえィッッ! 愚かな小娘がッッ!!」

 目前に迫った魔人が、大上段に構えた青銅の妖刀を袈裟状に一閃する。
 
 ブッシュウウウウッッ―――ッ!!!
 
 ナナの左乳房の下から右脇腹にかけて、腹筋に描かれた斜めの朱線がパクリと割れ、女神の聖なる鮮血が凄まじい勢いで噴き出す。青銅の鎧に霧がかる返り血。ビチャビチャと、「神宮の森」に天使の聖血が降り注ぐ。
 憤怒に彩られたメフェレスの二撃目が、間髪入れずに襲い掛かる。再び光の膜を強化するナナ。しかし、銀色の光が強く輝く間もなく、魔豹の右手は少女の豊満なバストを優しく揉みしだき、左手はクレヴァスの狭間にある肉襞を丹念に擦りあげる。
 
「うくあァッ?! ふぅぅ・・・ウアッ?! ア・ア・ア・ああッ・・・」

「あはははは! ソリッド・ヴェールとやらもォ~、こっちの方には全然効果ないみたァ~~い! マヴェルはこっちの方が得意なのよねェ~~。残念でしたァ~、ナナちゃァ~~ん♪♪」

「んんッッ! んあッ! マ、マヴェル・・・は、離し・・・んくぅッ! しゅ、集中・・・できな・・・」

 下から上へ。斜めに跳ね上がってくる悪鬼の凶刃。
 ピンクの官能光線に劣情の疼きを引き起こされながら、かろうじてソリッド・ヴェールを張り続ける聖少女の右の美巨乳が、半ばほどまで青銅剣にグシャリと斬り潰される。
 
「あぐううぅッッ!!!」

 ゴブウウッッッ!!
 
 おおよそ人間が発したとは思われぬ濁音とともに、血の塊が銀に濡れ光る唇からこぼれでる。
 自覚できる肋骨と肺の損傷。それにも増して、柔らかさと弾力性に富んだ若き乙女の美乳房を裁断される激痛にナナの意識が途絶えかける。点滅する青き瞳。そのやや吊り気味の瞳が微妙に歪んでいるのは、ウブな少女戦士が苦痛とともに疼くような昂ぶりを感じている、なによりの証明だった。血に濡れた唇がヒクヒクと開閉する。深刻なダメージを受けながら、ナナは紛れもなく痛みとは別の感覚に襲われていた。
 
“アア・ア・・・む、胸がァ・・・つ、潰れ・・・ひくうッ?! だ、だめ・・・擦ら・・・ないで・・・あくッ、ああッ・・・ビ、ビクビクしちゃう・・・集中・・・集中できない・・・こんな・・・こんな形でソリッド・ヴェールが破られるなんてェ・・・”

 卓越したマヴェルの性戯を示すように、ピンクの怪光が明るさを増す。男も女も、幾多の人間を官能の虜に貶めてきた悪女だからこそ可能な煽情の波動。じっくりねっとり、丹念に積み上げた愛撫と同等の効果を浴びせるだけで瞬時に引き起こす官能光線は、もはや兵器と呼ぶに相応しい破壊力を持っている。左乳房と股間の秘園、敏感な部分2箇所を同時に責められ、ジクジクと流し込まれる愉悦の波動にナナは立っているのがやっとであった。反撃のチャンスがようやく訪れたはずなのに、快楽にうち震える肢体は思うように動きはしない。内に燃える昂ぶりで身体が熱い。津波のように下腹部に押し寄せる電撃に、足から崩れ落ちてしまいそうになる。綻びかけた蕾のような段階のウブな女子高生にとって、悪女の色責めは拷問のようなシロモノであった。
 必死に作り出した光の膜で、なんとか致命傷を免れる。それが今のファントムガール・ナナにできる精一杯の抵抗だった。
 
「あんたの化け物じみたタフさにはホント、ビビるけどさァ~~、こっちの方はてんで弱いのが運の尽きだねェ~~、子猫ちゃァ~~ん。ほ~ら、こんなに乳首がぷっくり勃ってきちゃったァ♪ 下のお口も涎ダラダラぁ~!」

「ひぐぅッ!! んくッ、くうぅッ! こ、こんな・・・こんなやり方・・・でェ~・・・」

「ブザマなメスめがァッッ!!! 痴態を晒すがいいッ!!」

 はっきりと浮かび上がった胸の双房の頂点、小豆のような突起をグリグリと豹の指がこね回す。時に羽毛のようになぞり、時に千切れんばかりに摘み。桃色の刺激は痺れるようにナナの美乳を包み、火照りとともに広がりながら子宮の快感スイッチをズキズキと押し続ける。
 秘園のクレヴァス奥深くに侵入した指は吸い付きながら無数の敏感ポイントを探り、触れるだけで腰が浮く快楽のツボを煙がでるほどの勢いで摩擦する。ビクビクと無秩序に震える快楽の痙攣は、いまや奇跡的なプロポーションの全身に現れていた。脳髄を直撃する桃色の稲妻に、猫顔美少女はもはや正気を保つのがやっとだ。
 ピンクの官能光線でほとんど戦闘不能状態に陥っているナナに、狂気を宿した黄金の般若面は、青銅の魔剣での攻撃を呵責なく加えていく。
 
 鳩尾を抉る。血と胃液の混ざった粘液が、大量に静かな森林に吐き出される。
 股間を突き上げる。泣き叫ぶというのに近い守護天使の悶絶が、都会の夜にこだまする。
 顔を横殴りに斬る。飛び散る血潮と凄惨な破壊音。正視できない残酷な仕打ちの後には、己の吐血で顔中を真紅に染めた悲哀の天使が、ヒクヒクと半失神状態で途切れることない愛撫に身を任せていた。
 
 見るに耐えない残酷な嗜虐の連続。
 快楽に溺れる狭間をぬって紡ぎ出されるソリッド・ヴェールが、かろうじて聖天使の生命を繋いでいた。とはいえ、真剣での攻撃を木刀でのそれに変えたくらいのもの。木刀で胸を潰され、鳩尾を抉られ、股間を突かれて、顔を殴られる・・・タフネスが売りのファントムガール・ナナといえど、その衰弱ぶりは隠しようがない。
 
「まだ光の膜を張れるか。ならば脳ごと蕩けさせてくれるッ!!」

 刀を持っていない方、メフェレスの左手がピンク色に輝く。
 泣きそうな表情を浮かべた銀のマスクが、一瞬恐怖に歪む。待ち受ける運命の過酷さを、少女戦士は悟っていたのか。必死にガードしようとする緩慢なナナの右腕の動きを嘲笑うように、ピンク色の掌は一気に聖天使の右胸を鷲掴んでいた。
 
「ひゃふうッッ?!! ひぎゅああああッッーーーッッ!!!」

 弩流のごとき官能刺激に、絶叫したのは一瞬。
 
 ビクンッッ!! ビクビクビクビクッッ!! ビクビクッ!! ビクンッビクンッ!!
 
 棒立ちになったまま、電気仕掛けのごとく激しく痙攣する銀と青の巨大美少女。
 言葉はなかった。ただゴボゴボと滝のように涎が溢れ、青く発光する瞳が点滅を繰り返す。
 
“ひぶえッ!! んきゅうッッ!! ひぬッ、ひんひゃふッッ!! おかひッ、おかひくなッ・・・はひゅうッ?!! んんええアアアッッ・・・くるっひゃううゥゥ~~~ッッッ!!!”

「ウワハハハハ!! ブザマなッッ!!」

 青銅剣を握った右の腕、その肘から先がゆっくりと回転していく。関節に当たる部分のチューブがゴムのように捩れていく。ゴム動力の紙飛行機を飛ばす前、プロペラを何度も何度も回してゴムを幾重にも捻らせた、そんな光景が見る者の脳裏をよぎる。
 本来、日本刀を回転して使う意味はない。回転を加えることで得られる破壊力の増加。触れるだけで腕一本落せる最強の武器に、更なる殺傷力など必要ないからだ。
 しかし、刀の攻撃を耐え切る相手がいればどうか?
 桁外れのタフネスを誇る、ファントムガール・ナナが相手であるならば。
 
 ギュルルルルルルッッッ!!!
 
 ドリルと化した青銅剣の突きが、痙攣する守護天使の胸の中央、青く輝く水晶体に発射される。
 刹那。快感の電撃に踊らされ、膨らんだ内圧に失神寸前の少女戦士は、それでもソリッド・ヴェールを反無意識的に発動してみせた。
 
 ガキーンンッッ!!! ギャリギャリギャリギャリギャリッッ!!!
 
「いぎゅあああああああああああッッッーーーーッッッ!!!!」

 ファントムガールの生命の象徴、エナジー・クリスタルを刺突した悪鬼の刀が、削るようにそのままギュルギュルと回転する。
 天裂く悶絶の悲鳴とともに重なったのは、聖天使の敗北を教えるような音であった。
 
 バリーンッッ・・・魔剣の破壊力に粉砕された、ソリッド・ヴェールの破れる音。
 プッシュウウウウッッ・・・絶頂の極みを迎えた証として、ナナの股間から激しく噴き出す聖水の音。
 ゴブッ・・・ゴブゴブゴブ・・・血と涎と泡の混ざった粘着質な液体が、とめどなく銀女神の唇から溢れる音。
 そして、悲痛な絶叫が途切れるころ。
 瞳から青い光を失った、グラマラスな少女戦士の肢体が、ゆっくりと前のめりに倒れていった・・・。
 
 地響きと、薙ぎ倒される森林の音。
 
 日本有数の神社の森で、悪鬼二匹の足元にうつ伏せで転がった銀と青の女神は、ピクリとも動くことなくその血と愛液にまみれた姿を東京原宿の人々に晒していた。
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