ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

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「第十話 桃子覚醒 ~怨念の呪縛~ 」

6章

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 霧澤夕子が重傷を負ってから2日が経っていた。
 地肌を直接焼くような凶暴な陽射しは、依然衰えることを知らない。じっとりと湿気を含んだ熱気が、アスファルトの地面を揺らめかせる。時折吹く風にわずかな涼しさが宿ったように思えるのは気のせいだろうか。8月の空は青く、もくもくと立ち込めた入道雲がどこまでも高く天に積もっている。
 この地域一帯でもっともファッショナブルで、流行の先端をいく街・谷宿。
 住むというより遊ぶのに適した街には、夏休みということが影響していつもより多くの若者たちがあちこちでたむろしている。
 男も女も研ぎ澄ましたセンスを競い、作り上げた美を誇るストリートのファッションショー。垢抜けた華やかな路地を、飛び抜けた美貌の持ち主がひとり歩いていく。

 肩までの茶髪のストレートは真ん中付近で分けられ、その下の瓜型の顔を程よいバランスで包んでいる。唇の右下にある黒子以外、シミひとつない輝く絹肌。許されるなら誰もが触りたくなる美肌の質感に、天女のイメージが自然に重なる。
 果実の種のような形をした大きな瞳は、くっきりとした二重の下で強い光を放っている。すっと通った鼻梁と、やや厚めの朱鷺色の唇。ルージュを塗っていないのに真珠の輝きを伴って濡れ光る花弁は、吸い付きたくなるほど魅惑的だ。美の神にしか生み出せない、完璧なる美貌。可憐さと美しさを兼ね備えたプリティーフェイスが、振り返る視線を振り切って急ぎ足で進んでいる。
 アイドル顔負けのルックスを引き締めて街を闊歩するのは、エスパー少女・桜宮桃子。
 白地に肩から先がピンクのTシャツに、デニム地のマイクロミニ。ハート型のピアスと揃いのネックレスが可憐な少女の愛らしさをさらに引き立てている。おへそやスカートの中身が見えそうな際どいカット。愛くるしいマスクといい、小柄な身体つきといい、少女の可愛らしさで溢れているのに、ともすればオトナの色香が仄かに漂う。蕾のイノセントと成熟した艶が絶妙のバランスで、完璧な美少女に奥深いスパイスを加えている。

 もし五十嵐里美が谷宿を歩いたら、その異端の美しさは確実にこの街で浮く。だが桃子の場合は若者の街に溶け込んでいる。馴染んだうえで、頭ふたつ抜け出した美貌が異彩を放つ。こと外見の完成度には自信を持つ谷宿の少女たちが、桃子を見た途端に俯いた。そしてその数瞬後、彼女たちは憧れの眼で、無自覚に美を振り撒く天性の美神を見詰めるのだ。

 「いい度胸だな、桃子」

 目の前の路地から飛び出た金髪の大男が、早足で急ぐ桃子の行く手を阻む。足を止めた茶髪の美少女は、物怖じもせずに男を見上げて言った。

 「ショウゴ、久しぶりだね」

 「ちりに逆らったらしいじゃねーか。よくこの街に戻ってこれたな」

 よく見れば喧嘩では百戦錬磨で鳴らしたショウゴの巨体が小刻みに震えている。桃子に対してではない、これから先、己の主人と桃子の間で起こるであろうことが、ヤクザすら畏れぬ不良を怯えさせる。

 「なぜ来た? ここに来れば、ちりが黙っていないことくらいわかるだろうに」

 「いいんだよ、それで。だってちりに会いに来たんだから」

 毅然として言い放った桃子の瞳の光に、思わずショウゴは圧倒される。
 今までに見たことのない、強い光。
 単に神懸かった美貌を持つ少女ではない。ショウゴが初めて見る、本気の桜宮桃子。一目見て喧嘩自慢の不良は、少女が真っ直ぐな決意を秘めてここにやってきたことを見抜いた。

 「来いよ」

 十分後、薄暗い地下のクラブに桃子の姿はあった。
 桃子が久慈仁紀と付き合っていた頃、つまり悪鬼に騙されて、その異端の能力を人類侵略の手法として利用されようとしていた頃、美少女はよく豹柄の少女と行動を共にしていた。不意に行われる路地裏での神崎ちゆりのコンサートには毎回顔を出していたし、ふたりだけでカラオケに行ったこともある。ハンバーガーショップで時間を潰したことなど、何度あったことだろう。「闇豹」の噂は他校の桃子にも届いていたが、実際に会うちゆりは派手な衣装を着ただけの普通の少女に思えた。少なくとも桃子の前では。
 親友、ではなかった。友達というのにも、どこか抵抗のある関係。傍目から見れば、仲睦まじく並んで歩くふたりの女子高生は、友達以外の何者にも見えなかっただろうが、桃子の心はちゆりとの間に見えない壁を感じていた。それは恐らく、ちゆりからしてもそうだろう。一歩踏み込めない、本心を隠して付き合う間柄。知り合い以上友達未満というのが、ふたりの関係であったように思う。
 それでも、裏世界の金看板である「闇豹」に並んで歩ける者など、滅多にいるものではない。
 ショウゴや他の幹部たちが、笑顔でちゆりと会話する桃子に一目置いていたのは当然のことだった。
 だがそれは2ヶ月前までのこと。
 今の桜宮桃子は、「闇豹」を裏切った恐れ知らずの反逆者として不良たちの間で定着している。

 「モモコォ~~、お前のその身体、前からメチャクチャにしてやりてェと思ってたんだぜェ」

 「へっへっへっ、ミス藤村さまはどんな声で喘ぐのかねェ?」

 「桃子ッ、ちょっとカワイイからって調子に乗りやがって・・・覚悟はいいかい?」

 「こういう顔をボコボコにするのが、最ッ高なんだァァ~~ッ、ヒャハハハ!」

 3mほどの距離を置き、ぐるりと桃子を囲んだ裏側の住人たち。
 喧嘩自慢の不良、とっくにトリップしている麻薬中毒者、少年院帰りの猛者たち・・・あらゆる犯罪にも躊躇なく手を出せる男と女が、小柄な美少女を10人以上で取り囲んでいる。なかには金属バットやナイフを手にしたものまで。凶行に抵抗感の無くなった外道たちが、美しき獲物を血祭りにあげる瞬間を、舌なめずりしながらいまかと待ち構えている。
 「闇豹」の噂は知っていても、その度重なる悪事を正確に桃子が知ったのは、里美たちと知り合ってからだ。それまではせいぜいタバコを吸ったり、喧嘩をしたり、暴走行為をするくらいのワルだと桃子は思っていた。もし、神崎ちゆりがやっていることを知っていたら、桃子はとても笑顔で「闇豹」と接するなどできなかっただろう。
 今、桃子が立っているこのクラブのフロアでも、もう何人もの少女たちがレイプと暴力の標的にされ、涙を流してきたはずだった。男たちに目をつけられた犠牲者は飽きるまで何日も輪姦され、女たちに歯向かった対抗組織の少女たちは心底服従するまで殴打される。そうして「闇豹」の一派は、恐怖の帝国をこの谷宿に築き上げたのだ。

 「さあ~て、どうしたもんかな・・・マワすか・・・切り刻むか・・・」

 「イヒヒヒ・・・桃子をヤれる・・・あのミス藤村を・・・」

 「いつもみたいに倍くらい腫れるまで顔を殴ってよォ~。ムカつくあの顔をさ」

 下卑た笑い声と凶悪な意志をはらんだ囁きが、孤立する美少女の周囲に渦巻く。
 肉欲の予感に愉悦を刻んだ醜い顔。嫉妬からくる憎悪を剥き出しにした般若の顔。柔らかな少女の肉体を破壊できる喜びに舌なめずりする顔。ドス黒い悪意に染まった顔、顔、顔・・・それらの邪悪な視線を一身に中央で浴びる桃子。取り囲んだ悪鬼どもをせわしなく見回す桃子の額に冷たい汗が流れていく。
 聞いているだけで吐き気を催すほどの不良たちの会話。
 だがその会話の内容が真実であることを桃子は悟っている。人格が崩壊するまで輪姦するのも。人相がわからなくなるまで暴行するのも。神崎ちゆりの配下にとっては日常茶飯事のゲーム。その悪魔の牙が、咲き誇る華すら褪せるほどの美少女を食いちぎろうとしているのだ。

 桃子もわかっている。超能力者であり、「エデン」の力も授かった自分ならこの窮地も脱出できるはずだと。事実、度が過ぎたガキ大将など、念動力を使って密かにこらしめてきたことはこれまでにも何度もある。
 しかし今彼女を囲んでいる連中はあきらかに住む世界が違う。人殺しすらやりかねない、人間としての道を半歩踏み出した悪魔ども。10人以上の多数に囲まれ、小柄な、超能力を取ったらまるで戦闘力のない美少女が、無事に済む保障などまるでないのだ。

 "うぅ・・・もしあたし、負けちゃったら・・・どうなっちゃうんだろォ?"

 ガクガクと膝が揺れるのが自分でもわかる。白い頬をつたわる汗が止まることを知らない。
 こうなることも予想していたはずだった。ちゆりと話し合うために訪れた谷宿、だが「闇豹」の息のかかった配下たちが、そう簡単に女帝との面会を許すとは思えなかった。なにしろ彼らは裏切り者扱いの自分を血祭りにあげ、陵辱し尽くす日を心待ちにしているのだから。闘いの覚悟は十分に決めてきたはずだった。
 それでも、怖い。涙がでそうなほど、怖い。
 万が一、不覚を取るようなことになれば・・・桃子の脳裏に、顔面は崩壊し裸に剥かれて無数の手に嬲られる己の姿が浮かんでくる。

 "あたしのバカ・・・覚悟決めてきたんじゃないの!? こんなヤツらにビビッちゃうなんて・・・あたしはファントムガール・サクラ、こんな汚いヤツらに負けるわけにいかない!"

 「へっへっへっ・・・どうした、桃子ォ~、震えてるじゃねえか」

 「は、早くちりに会わせてよ・・・」

 「バカか、てめえ? ちりが来たら、その瞬間死刑の宣告だぜ。今のうちに残された命を楽しんどけよ」

 美神の娘が白い歯をキリリと噛む。
 そうかもしれない。話をしたいがために、危険を顧みず谷宿へ来た桃子だが、「闇豹」が話を聞くとは限らない。むしろ会った瞬間、数の有利に頼んで守護天使の化身を抹殺しようと企む可能性の方が高いだろう。
 だからこそ孤立無援のエスパー戦士と、取り囲んだ非道の群れとは緊張を高めている。いつ戦闘が開始されてもいいように。そして近付く「その時」への不安が、闘いなどとは無縁の生活を送ってきた美少女の心を締め付ける。

 "大丈夫・・・ファントムガールのあたしが負けるわけないよ・・・怖がるな・・・怖がっちゃダメだってば、あたし!"

 「ギャハハハハハ! 怖えか、桃子! 気が狂うまで殴られ犯されるのが怖えかよ!」

 「ううぅッ・・・こ、怖がってなんか・・・怖くなんかない!」

 「じゃあその身体の震えはなんだ? ヒャハハハハ!」

 ドキリとした桃子が、すかさず己の両手を見る。
 小さく白いふたつの手は、電気ショックを与えられたようにブルブルと小刻みに震え続けていた。

 「ううッッ?!!」

 「アッハッハッハッ、どうやら自分の運命をわかってるみたいだねェ!」

 "バカバカバカ! あたしのバカ! 正義の味方がワルモノに怯えてるなんて・・・しっかりしようよ、あたし! 夕子の仇を取るんじゃなかったの?!"

 心の内でエスパー少女は己を責め続ける。
 里美さんなら、こんなとき平気な顔してる。ナナなら、こんなとき逆に怒りに燃える。夕子なら、こんなときまるで動じたりしない。あたしより年下のユリちゃんでも、怖がったりなんか絶対しない。
 あたしだけだ。あたしだけが、凶悪とはいえ「エデン」ももたない普通の不良なんかにビビっちゃってる・・・。
 正義の戦士としてあまりに見劣りする己の弱さが、16歳の女子高生を苦しめる。だが超能力と類稀な美貌を除けば普通の少女である桃子が、人道から外れた悪党どもに囲まれれば怯えるのが当たり前なのだ。そういう意味では彼女の仲間4人がむしろ特殊。女のコとしての感性を普通に持つがゆえ、桃子の小さな胸には劣等感が沸き起こる。

 "こいつら、罪もない女のコたちにヒドいことやってんだよ?! 悪いヤツらなんだよ?! 彼女たちのためにも、『チカラ』をもらったあたしがビビってどうするの?!"

 ふと桃子の脳裏をかすめる懐かしい人影。優しそうな老婦人の笑顔。己への鼓舞に少しだけ勇気をもらった美少女が、精一杯の強がりを言う。

 「今のうちに・・・笑ってればいいじゃん・・・」

 「はァ?」

 「あたし、こう見えても・・・けっこう強いんだから」

 ひっくり返したような大爆笑が暗いクラブを埋め尽くす。わざとらしいほどの大声で笑う不良たちに、カチンときつつ狼狽する桃子。
 その無防備な背中を、男の足が不意に蹴り飛ばす。
 ガクンと不様に折れた少女の肢体が、2mを前に飛ぶ。ズザザ、と床を滑る小さな身体。Tシャツの背中にくっきりと足跡を残した可憐な少女に更なる笑い声が降り注ぐ。

 「ぐッ・・・! ううッ・・・」

 「ひゃはははは! なに勝手にコケてんだァ? おら、いいもの見せてやるよ」

 うつ伏せに倒れた桃子の目の前に投げられたのは、クリアファイルの冊子だった。その表面にはマジックで書かれた「藤村コレクション」の汚い字が躍っている。
 よぎる黒い翳りに、すかさず桃子はその中身を手にとって見る。

 「うッ・・・!!」

 「フフフ、あんたが藤村女学園16人目の犠牲者ってわけよ」

 ナンバー1から15までつけられた各ページ、そこに載っていたのは、ある者は乳房を剥き出しにされ、ある者は男数人に貫かれた、少女たちの陵辱写真であった。
 ひとりの少女につき見開き2ページ。所狭しと並んでいる痴態写真の数々。顔のアップから全裸、男との結合シーンまで全ての残酷な写真が貼られている。丁寧に名前と住所、携帯番号までがそのファイルには綴じられていた。そしてその15人の少女たちに共通しているのは。
 全員の制服がチェックのミニスカに赤いネクタイのブレザー。
 桃子の通う藤村女学園の生徒たちが、このファイルの犠牲者たちなのだ。

 「こいつら全員、今じゃオレらの下僕さ。セックス担当のな」

 「てめえがなぜか、ちりのお気に入りだったから、藤村には手ェ出せなかったんだが・・・谷宿にゴロゴロ転がってるこいつら、最高の獲物だぜェ」

 ファイルを手にしたまま、桃子は無言で立ち上がる。
 偏差値は高くはないが、オシャレには人一倍気を遣う藤村女学園の生徒たちは、この地域一帯である種のブランドとなっていた。容姿にこだわるタイプの少女たちには、里美たちが通う聖愛学院よりもむしろ羨望を集めている。男の立場からいうと、藤村女学園の彼女を作ることはちょっとしたステータスになるほどだ。
 だから、よく狙われる。レイプ犯にもっとも狙われやすい学校として、担任教師からもよく注意を受けていた。桃子がファントムガールになってから約2ヶ月、その間に谷宿にはびこる悪魔どもは、藤村の生徒たちを桃子の知らぬところで毒牙にかけ続けていたのか。

 「いよいよ今日は藤村のナンバーワンをコレクションにできるぜェ・・・なあ、ミス藤村の桃子さ・・・ブゴオオッッ!!」

 ベラベラと喋るドレッドヘアの顔面が、突然"爆発"する。
 飛び散ったのは火花ではなく、鮮血。鼻が潰れ、クレーターのごとく顔面を窪ませた男がそのままゆっくりとフロアの床に沈んでいく。
 脳震盪を起こし、ビクビクと痙攣するドレッドヘアの顔は、まるでボーリングの玉を打ち込まれたように内側に凹んでいた。

 なにが起こった?!

 ケラケラと笑っていた男の顔が、突然潰れて倒れる怪異。あまりに不可解な現実に、脳の処理スピードが追いつけない。わかるのはただ、仲間の惨状と恐るべきなにかが起こったということだけ。

 「うがあああッッ!!」

 獣の咆哮は桃子の背後から響いた。クスリでトリップした男には、危険認識能力が欠けていた。ナイフをかざして棒立ちの美少女の背中に殺到する。
 
 ボゴオオオオッッッ!!

 顔面の潰れる音が、誰の耳にもはっきりと聞こえてきた。
 ジャンキー男の顔が、内側に丸く窪んでいる。
 二度、痙攣した男の身体が、強張りをなくして床に落ちる。もはや誰の目にも、奇怪な現象の犯人は明らかだった。
 そしてもうひとつ、悪党どもの目に見えたのは―――

 怒れる美神。
 へそも下着も見えそうなギリギリのファッション、イマドキらしいハートのアクセサリー、華やかな茶髪にアイドル顔負けのプリティーフェイス・・・外見はオシャレな女子高生のまま、醒めるような視線で仁王立ちするその姿は。
 ゾッとするほど美しい。
 それが桜宮桃子、戦闘モードの本当の姿。

 「許せない」

 桜色の唇が、ポツリと呟く。
 クリームのように甘く包み込む声。だがエスパー少女の愛らしい声に潜むのは、紛れもない猛烈な戦意と怒り。

 「あたし、ホントにバカだ・・・実際にヒドイことされた女のコたちの姿見ないとわからないなんて・・・ちりがどうとか関係なくて、あんたたちみたいなケダモノ、許しちゃいけない。許していいわけがない!」

 ボゴオオオッッ!! ドゴオオオッッ!! ブキャアアアッッ!!
 続けざまに3人の男の顔が見えないボーリング玉を打ち込まれて潰れる。
 倒れていく仲間を見詰めながら、ひとりの美少女を囲んだ不良たちはガチガチと歯を鳴らすことしかできない。細い眉の下で紅蓮の炎を燃やすエスパー天使の瞳が、硬直する不良どもを次々に射抜いていく。

 「ひッ・・・ヒイイィィッ・・・や、やめろ・・・やめろよ、もう・・・」

 「・・・あたし、こう見えても・・・けっこう冷酷なんだよね・・・」

 何度か桃子に憎しみの言葉をかけていた女の腹部がボコリと凹む。内臓を押し分ける圧迫感に、白目を剥いて女は倒れた。

 「こッ・・・このバケモノがァァッッ!! 殺せッ! こいつを殺しちまえッッ!!」

 離れた場所から見守っていたショウゴの静止の声を振り切り、8人の男女が一斉に四方からエスパー少女に襲いかかる。
 バケモノ? そんなの、言われ慣れてる。
 殺す? そんなことに怖がってらんない。
 なんて言われようと、どれだけ辛かろうと、とっくの昔に決意したんじゃん。
 そう、この生命、誰かの役に立てようと。誰かの役に立てて死ねるのなら構わない。それがエスパーとして特別な生命を授かった、あたしの生き方。

 ドゴゴゴゴゴゴオオオオオオッッッ!!!!

 連続する打撃音。
 周囲から飛び掛った8個の人間が、一斉に弾き飛ばされるのをショウゴは見た。
 その中心で戦慄するほどの美貌の持ち主は、傷ひとつ負わずに立っている。

 「もうやめなァ~~」

 さらに数人が小柄な少女に飛びかかろうとするのを、のんびりとした声は瞬時にして静止させた。
 桃子が起こす不可思議な現象に冷や汗を流していたショウゴの汗腺が、一気にどっと全開になる。

 「ショウゴォ~、こいつらみんな外に出しなァ~。ウサギちゃんはちりと話したいみたいだからさァ~」

 「闇豹」神崎ちゆり。
 夏だというのに豹柄のファージャケットを漆黒のワンピースの上から着込んだ裏世界の女帝は、抑揚のない声で直属の幹部に命令を下した。
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