ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

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「第八話 ユリ武伝 ~海棲の刺客~」

17章

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 「わかったか? 貴様ごときが我らに歯向かうことの恐ろしさが。お前らファントムガールは、死ぬより辛い地獄を味あわせながら、嬲り殺してくれる」
 
 「・・・・・・お願い・・・・・・です・・・・・・」
 
 桜色の唇を震わせながら、ようやくユリは言葉を紡ぐ。
 発狂寸前の快楽責めの連続に、武道少女の心は身体同様ボロボロになっていた。
 
 「・・・私は・・・・・・どうなってもいい・・・・・・です・・・・・・エリを・・・エリを助けて・・・・・・ください・・・・・・・・・エリは・・・普通の人間・・・・・・なんです・・・・・・・・」
 
 「そうはいかん。ファントムガールに近い人間は、全員皆殺しだ」
 
 「・・・私が死ねば・・・・・・エリはもう・・・・・・ファントムガールとは・・・・・・関係ありません・・・・・・・・お願い・・・です・・・・・・エリは・・・エリだけは・・・・・・助けて・・・・・・・」
 
 「バカが。あの女も我らに歯向かった以上、死あるのみ。姉妹揃って、生首を海岸にでも並べてやろう」
 
 必死の願いを容易く一蹴し、冷酷な悪魔は更なる天使蹂躙の準備を進めていく。
 
 (キャアアアアアアアアッッッ――――ッッッッ!!!!)
 
 隣室から魂も凍えそうな絶叫が洩れてきたのは、その時であった。
 
 「エ、エリ・・・・・・・・お、お願い・・・です・・・エリは・・・エリだけは助けてくださいッ!」
 
 「愚かな小娘め。貴様に姉の身を心配する余裕があるのか?」
 
 背後から迫った変態教師が、DVDプレイヤーに接続されたヘッドホンをおさげ髪の頭につける。
 同時にユリの正面に位置する白い壁をスクリーンにして、用意されたプロジェクターが巨大な映像を映し出す。
 
 『きゃああああああああ――――ッッッッ・・・・・・・・・』
 
 ヘッドホンから流れてくる、大音響の悲鳴。
 そして、映像の中で、青銅の魔人に貫かれる銀と黄色の巨大戦士・・・
 その瞬間、被虐の少女は全てを悟った。
 
 「いッッッ・・・いやあああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 狂ったように叫ぶ、西条ユリ。
 彼女が見せつけられているもの。その正体は。
 
 「ハハハハハ! どうです、ユリくん? 己が殺される場面を見る心境は? あのとき、我々に手も足もでずに惨殺された苦痛と屈辱、そして恐怖を思い返して発狂するのです!」
 
 スクリーンのなかで、ファントムガール・ユリアの身体がタコの触手に貫かれる。
 巨大な悪魔の手に潰される。
 己が作った光の矢で脇腹を串刺しにされる。
 青銅の悪鬼と濃緑のタコに陵辱される。
 あの日、メフェレスとクトル、二匹のミュータントによって惨殺されたあの日の映像と己の悲鳴とが、次々と猛スピードで展開されていく。
 媚薬の効果で混乱した脳に、自分が殺される衝撃的な映像は、過去の記憶とあいまって、まるで現実に行われているかのような幻覚をもたらした。
 
 「やめてええぇぇぇッッ―――ッッッ!!!! もうやめてくださいいいいィィィッッッ――――ッッッ!!!! 許してええええッッッ~~~ッッッ!!!!」
 
 ガクガクと激しく頭を揺らし、白目を剥きながらユリは懇願する。
 戦士のプライドも、武道家の誇りも、宿敵への敵対心も、乙女の恥じらいも全てが吹き飛ばされていた。ただ、死の恐怖に脅え、苦痛を現実のものと認識しながら、懸命に救いを求めて泣き叫ぶ。
 
 「そおれ、死になさい、ファントムガール・ユリア」
 
 ドシュウウウッッ!! ドシュウウウッッ!! ドシュウウウッッ!!
 濃緑の触手が4本、聖少女の四肢の付け根を突き刺して貫通する。
 その映像を見せながら、田所の手刀が戯れるように磔になったユリの同じ場所を突く。
 
 「あぐううううッッッ―――ッッッ!!! やめッッ・・・やめてェェェッッッ!!!」
 
 「苦しいでしょう? 痛いでしょう? その柔らかな肉を貫かれるのは。さあ、今度は全身を蜂の巣にしてあげます」
 
 しっちゃかめっちゃかに、尖らせた両手を細くしなやかな肢体全体に突き刺す変態教師。
 太股を、腹部を、二の腕を、胸を、脇腹を・・・格闘技のなんの習いもない田所の手刀は、決して耐久力があるとは言えぬユリにとってもなんでもない攻撃のはず。それが、目前の映像と大音響のBGMとによって、有り得ない効果をもたらす。
 スクリーンに映ったクトルの8本の触手が、囚われたユリアの胸を、腹部を、太股を、貫く。抉る。突き刺す。穴だらけにされた銀の天使が、血と肉片を撒き散らして肉屑にされていく。
 現実には行われなかった残虐な仕打ち。それは編集してつくられた、虚構の映像であった。だが、媚薬の幻覚によって、造られた苦痛と記憶は「リアル」としてユリの脳裏に埋め込まれていく。
 
 「あぎゅうううううッッッ―――――ッッッ!!!! はあぎゃあああアアアッッッ――――ッッッ!!!! 死ッ、死ぬぅぅッッ・・・許しッ・・・許し・・・て・・・・・・」
 
 ピクピクと痙攣しながら、断末魔にも似た苦鳴を洩らすユリ。
 蘇る敗北感と絶望が、少女にありもしなかった偽の苦痛を与えていた。武道少女の意識のなかで、彼女の肉体は図太い触手に貫かれ、半分屍と化した血みどろの肉塊へと変貌している。
 
 「トドメの時間です」
 
 水着に包まれた丸いふたつの膨らみを、中年の脂ぎった手が掴む。
 触手によってエナジーを吸い取られる映像に合わせて、好色親父の両手はユリの果実を揉み回す。
 
 『ゴキュウウウウウウウ・・・・・・・』
 
 「はきゅうううううううッッッ?!!!」
 
 死の記憶が蘇る。
 実質的にユリアが処刑された技。悪夢の映像は、それだけであどけなさの残る少女戦士を地獄に突き落とすには十分だった。
 己が惨殺されたシーンの再現に、哀れな羊は悲痛な叫びをあげた。
 
 「はくふッッ・・・許しッ・・・許してッッ・・・許してくださいッッ・・・・・・もう・・・・・・やめてェェェ・・・・・・・」
 
 「死ねいッッ、ユリアッッ!!!」
 
 鞘に収まったままの日本刀を、久慈仁紀が、あのときと寸分違わぬ鳩尾の場所に突く。
 
 『きゃあああああああ―――ッッッ・・・・・・・・・・・』
 
 「きゃあああああああ―――ッッッ・・・・・・・・・・・」
 
 映像と同じ悲鳴をあげて、カクリと愛くるしいマスクは垂れた。
 スクリーンのなかでは、メフェレスによってトドメを刺されたファントムガール・ユリアの死体が、青銅の刀に貫かれたまま高く掲げられている。
 苦痛の果てに迎えた死。映像と音響で喚起され、再現された死の記憶の前に、白い乙女はボトボトと涙と涎をこぼしながら失神していた。
 
 「く・・・ククク・・・・・・苦しみのさなか、堕ちたか・・・脆弱な女め」
 
 引き攣る唇を吊り上げて、久慈が愉しげな声を洩らす。
 その横顔には尊大ともいうべき不敵さの影が蘇りつつあった。
 
 「ユリくんの無様な姿を見て、自信が戻ってきたようですねェ。それでこそ、久慈くんです」
 
 失っていた輝きを取り戻し始めたパートナーに、田所教師は嬉しげな笑顔を送ってみせる。
 このままユリを嬲り殺せば、魔人メフェレスの復活は遠くない。
 そしてその暁には、憎きファントムガールどもをひとりひとり抹殺するのだ。最高のコレクションとして、一生慰み者として飼ってやる・・・まずは痛い目を見た、桜宮桃子あたりから始末しようか?
 
 「さて、それでは次のお楽しみといきますか?」
 
 「・・・ユ、ユリ・・・・・・・」
 
 隣室から聞こえてくる引き攣る悲鳴に、西条エリは無意識のうちに妹の名を呟いていた。
 犬の鳴き声のような喘ぎが、少し前から苦しげな絶叫に変わっていた。虜囚となった女性が避けられぬ被虐の後、生命に関わるような仕打ちを施されていることが、悲鳴からだけでもわかる。焦燥と怒りに駆られる姉の耳に、やがて妹の叫びは甲高い一声を最後に聞こえなくなった・・・
 
 「フン。妹の心配をする余裕があるのか?」
 
 嘲笑う兵頭英悟の豪腕が、唸りをあげて細く引き締まった腹筋の中央を穿つ。
 ドボンッッ!!! 肉を叩く鈍器の音がして、非力なエリの肉体が衝撃に揺れる。食い縛った白い歯の間から、ドロリとした血糊が噴き出す。
 
 「がふッッ・・・ごぶ・・・・・・ぐッ・・・ぶぶぶ・・・・・・」
 
 「このオレを傷つけた罪、しっかり償ってもらうぞ、西条エリ!」
 
 壷のような巨大な拳が、拘束されて身動きできない柔術少女を滅多打ちにする。愛らしい顔を、ダメージの残る脇腹を、細く頼りない腹部を、鋼鉄の埋まったような危険な拳で容赦なく殴りつける。ドカ、やバキ、ではない、グシャッッ! やドボオオッッ! という破壊音。一撃でKO必至な打撃を、もうエリはこの部屋に連れ込まれてから何十発という単位で受けつづけていた。
 
 双子の姉妹を拉致した後、その責め手を決める作業は思いの外にすんなり決まった。
 兵頭英悟が姉のエリを担当することを希望したためだ。最初からユリが目的であった久慈と田所には、その申し出は好都合であった。皇帝と呼ばれる男にとっては、『エデン』を持たない人間、それも年端もいかぬ少女に敗れたことは、拭い難い屈辱だったのだ。
 
 用意されていた拷問具を使って、疲弊したエリを兵頭は手際よく拘束していった。
 後ろ手に回した両腕を鎖で縛り、ふたつの足首にはそれぞれ重さ50kgの鋼鉄の玉に繋がった足枷を着ける。人間ひとりにしがみつかれたような足は、一般女性としても力の面ではか弱い部類に入るエリには、ビクとも動かすことができない。やや足を広げさせられた美少女は、ちょうど「人」の字をかたどったような姿勢で動きを封じられる。
 さらに兵頭は、鋼鉄の首輪を白い咽喉にはめ、天井から鎖で繋いで吊り上げる。立っていれば問題ないが、大きく屈んだり、前のめりになれば窒息する、絶妙な長さ。絞首刑を避けるためには、エリはずっと「人」型のまま立ち続けることを余儀なくされる。幾多の女性を暴虐の餌食にしてきた闇の支配者は、束縛にやけに慣れていた。
 
 立ち尽くすサンドバッグと化した柔術少女を、憤怒のままに闇の破壊者は殴り続けた。
 一撃でエリの意識は吹き飛び、失神してはまた殴られて蘇生させられる。完全に気絶したエリの肢体が脱力して首吊り状態になれば、兵頭は用意してあった革の鞭で水着姿の背中を叩き、無理矢理に美少女を覚醒させた。鳩尾への殴打は執拗を極め、尖った拳頭が埋まるたびに、苦痛にエリは呻いた。足元の床には黄色の吐瀉物が湯気をたて、胃液の酸っぱい匂いが部屋には充満している。
 
 美少女の典型ともいうべき顔は紫に腫れ上がり、薄緑の水着が映える白い肌には青い痣が無数に浮かび上がっていた。鞭によって皮を剥がされた背中は、桃色の内肉が覗いている。ショック死してもおかしくない悪魔の蹂躙を、エリはその華奢な肢体に一身に浴びてきたのだ。
 
 「いい姿になったな、西条エリ。だが、オレ様に恥を掻かせた罪は、この程度じゃすまんぞ」
 
 セミロングを乱暴に掴み、うなだれる童顔を上向かせる兵頭。
 滴る鼻と口からの鮮血が胸元までを染め、紫に膨らんだ顔はあどけなさを失って無惨に変形していた。本人が自覚せぬまま、熱狂的なファンを生んでいるロリータフェイスが、血と痣にまみれてボコボコに歪んでいる。それでも可愛らしさを失っていないのは、元の顔が類稀な造形であったがゆえ。
 
 「・・・・・・・ぁぐ・・・・・・がッ・・・・お、お願い・・・・・・です・・・・・・」
 
 破壊された肉体が奏でる痛みに、満足な思考もできないであろう武道少女が苦悶のさなかに声をあげる。
 
 「なんだ?」
 
 「・・・私は・・・・・・どうなっても・・・・・・いい・・・・・・・ユリは・・・・・・ユリだけは・・・・・・助けて・・・ください・・・・・・」
 
 奇しくも妹と同じ台詞を吐いた姉を、冷たい視線で破壊の皇帝は見下ろす。
 
 「・・・ユリは・・・・・・私がいなければ・・・・・・闘えません・・・・・・私が・・・死ねば・・・・・・ユリはもう・・・普通の子・・・・・・」
 
 「どうなってもいい、だと? ならばその台詞、本物かどうか、確かめさせてもらおうか」
 
 これはちょうどいいタイミングだ。
 ほくそ笑む内面の声が聞こえてきそうな歪んだ笑いを浮かべ、兵頭は部屋の隅からあるモノを移動させる。かけがえのない存在を想う姉妹愛を利用し、悪魔の道具を発動させる歪んだ愉悦。“いいひと”をやっていたのでは、一生味わえないであろう極上の高揚感が、破壊の悪魔の歓喜を爆発させる。
 
 ゴロゴロゴロ・・・重々しい響きとともに、その道具は囚われの柔術少女の目前に現れた。
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