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「第八話 ユリ武伝 ~海棲の刺客~」
15章
しおりを挟むまばたく一瞬が、永遠に思える経験。
己の肉体を遥かに凌駕する巨大な拳が迫るのを、久慈仁紀はどこか遠い国の映像を、ブラウン管で覗くような意識で捉えていた。
岩のような拳が、人間のものだったと悟ったのは、我が身の中央に突き刺さった瞬間。
粉砕される胸の骨。研ぎ澄まされた筋肉の鎧が、無力を示してひしゃげる音。詰まった内臓が、貫かれる衝撃に潰れる感覚。
幼少より洗練された機能的な肉体があげる悲鳴を、久慈は確かに胸の内で聞いた。
18年間、積み上げてきた過信と自尊心の崩壊。
金も女も、地位も名誉も名声も、羨望も嫉妬も服従も、あらゆるものを掻き集めてきた、完全なる勝者の人生。その全てを無に帰す一撃は、人類の支配者たることを夢見る少年を根底から覆した。
左上腕骨、肋骨8本、胸骨・・・計12箇所の骨折から生還した野望の暗黒主を待っていたのは、初めて知る、敗北の味。
「ウオオオオッッッ?!!」
「どうしました、久慈くん?」
前触れもなくあげた絶叫に、作業に没頭していたハゲ頭の中年男が、飛びあがって振り返る。
えびす顔とも取れる男の視界に飛び込んできたのは、汗でびっしょりと整った顔立ちを濡らした、野犬のごとき瞳をぎらつかせた少年だった。
「・・・なんでもない」
「まだ、あの男のことが忘れられないのですか?」
脂ぎった中年男・田所は、同じ学校であるだけに“あの男”のことを知っていた。コレクションの対象になる美少女にしか興味のない変態教師にしても、高校生、いや人間離れした戦闘体型と、伝説じみた逸話を多く持つ”あの男”のことは、いやでも目と耳につく。
「なにがあったか知りませんが、たとえ君をそこまで傷つけたのが彼だとしても・・・」
「黙れ」
抑揚のない低い声は、年齢も社会的立場もずっと上のはずの中年教師を瞬時に青くさせた。開いた口をそっと閉じた田所は、咽喉の奥でゴクリと唾を飲む。
「おのれ・・・工藤・・・吼介め・・・・・・」
牙のような、歯だった。
甘いマスクを台無しにして、剥き出した歯をギシギシと噛み鳴らす。
だが、田所はその音を聞き分けてしまっていた。
ガチガチ・・・ガチガチガチ・・・・・・・
震える歯が、奏でるその音を。
恐怖。
久慈仁紀が感じているのは、恐らく生涯初めて味わっているであろう感情。
野犬のような視線は、憤怒からくる獰猛さとともに、底知れぬ畏怖からくる脅えが、させているのだ。
敗北が久慈にもたらしたものは、壮大な復讐の炎と、深く刻まれた恐怖の爪跡。
そして久慈自身は、己が恐怖していることを自覚しないまま、受け入れられないまま、心の迷宮の果てにこの場所に立っている。
「・・・久慈くん、いまはこの哀れな生贄を貪る悦びを、堪能しようじゃありませんか」
血走った眼で感情のラビリンスをさまよう同盟者を、強引に現実世界に引き連れ戻すべく、俗欲の権化は吊るされた少女の乳房を、背後からムンズと鷲掴む。
「ひゃああアアッッ?!!!・・・くああ・アア・・・・」
糸を引く叫びを洩らしたのは、天井より鎖で吊るされた、水着姿のままの西条ユリであった。
「この惨めな玩具を再度地獄に送れば、いま君を襲っている不愉快な気分は霧散することでしょう。魔人メフェレスの復活は、この愛らしきファントムガール・ユリアを悪魔に捧げてこそ成るのです」
言いながら、田所の掌は、まだ膨らみかけのユリの丘陵をこね回す。
久慈家が管理運営する、伊豆のホテルの一角。
最上階である七階のフロア全てを経営者の権限で借り切った久慈ら3人が、双子の姉妹を連れ込んだのは、いまから約30分ほど前のことであった。
VIPルームとして普段は使うその部屋は、洋間がふたつに和室がひとつ、さらに大人3人は眠れそうな広いベッドが配置されたベッドルームまである豪華な一室だった。タイル張りのシャワールーム以外に海が見えるジャグジーまである。庶民が一泊するのに、料金の桁数をひとつ間違えそうな部屋であった。
高価そうな調度品が並ぶなかで、異様な輝きを放つ幾多の物質。
鎖、ロウソク、鞭、鋼鉄の玉・・・SMクラブを想起させる様々な道具がすでに準備されているのを見た武道姉妹は、己に迫った残虐な牙に自然身震いした。
「フフフ・・・お互いの悲鳴がよく聞こえるよう、扉は開けておきましょう」
セミロングを乱暴に鷲掴まれ、復讐に燃える兵頭英悟に引き連れられる姉・エリの背中が隣室の洋間に消える。姉の名を叫ぶユリの肢体を、脂ぎった中年は手際よく生贄に相応しい姿にしていく。
キの字型の木製の板に、鉄製の枷で両手足首を固定された白い妖精は、大の字の格好で拘束される。磔の少女はそのまま木板ごと、鎖で引き上げられ宙吊り状態にされた。
それからの30分、ファントムガール・ユリアの正体である少女は、変態教師により、地獄の宴への準備を、着々とその身に施されてきたのであった。
首筋と乳房に打たれた注射が一本づつ。
足元の床に置かれた5つの香炉からは、妖しげな紫煙が常にスラリと伸びた肢体を包み、未経験の匂いがすっと通った鼻腔をくすぐり続ける。
「見なさい、胸を揉まれるだけで、ここまで感じてしまってますよ。片倉先生が調合した媚薬は大したものですね。このお香も、ひとつ二万円もするものを用意しましたからね。ウブなユリくんは、もうトロトロのようですよ」
言いながら、田所の指先は、揉み回す柔肉の先端に移動する。小さな膨らみ全体に張り巡らされた、桃色の神経。その全てが集中した美肉の小豆は、白い水着を尖らせて屹立し、百戦錬磨の色魔によってクリクリとこねられる。
「ふひゃあうぅぅッッ?!! ひゃばあッッ!!! ひゃあアアッッ・・・」
美少女のくるみの瞳がさらに大きく見開かれ、透明な涎が溢れる。
壮絶な苦痛に耐えるかのような歪んだ表情は、15の少女らしからぬ、淫乱な仕草にも映った。
無言で痩身の悪鬼が、悶える磔少女にと歩み寄る。
手にしているのは、鞘に収まったままの愛刀。正義の聖少女たちを、幾度も血に染めてきた魔剣が、闘えぬ幼き少女に突きつけられる。
「・・・西条ユリ・・・ファントムガール・・・ユリア、か・・・・・・」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・メ、メフェレ・・・ス・・・・・・・」
青い炎をたたえた暗黒王の眼光が、しばし囚われの闘少女を射抜く。
身体の芯からの火照り。渦巻く官能が、ユリの視線を蕩けさせる。これまでにも、散々悪の陵辱を受けた武道少女は、年齢から考えれば驚くほど開発されてしまっていた。欲情の波が少女を飲み込んでいるのは確実だったが、正義の使者としてのプライドが、久慈への敵意を瞳に乗せて睨ませる。
ドスウウウウッッッ!!!
鞘に収まったままの日本刀が、白いビキニに包まれた右胸を抉り突く。
刺し貫かれたかのような激痛に、一気に歪む愛らしい童顔。仰け反った頭が、白い咽喉元を見せつける。
「生意気な・・・貴様のごときカスまでが、このオレにそんな眼を向けるか!」
ドスウウッッッ!!! ドスウウッッッ!!! ドスウウッッッ!!!
柳生新陰流の血を引く魔剣が、次々とスレンダーな美少女の肉体を突き貫く。
吐血の破片が宙を舞う。無茶苦茶に剣を振るっているようで、久慈の刺突は正確無比に急所を抉った。執拗に狙われたのは、ふたつの胸の先端と、臍。成長途中のBカップが文字通り破壊され、内臓を直接貫かれるような激痛に、魂が泣き叫ぶ。一撃で数時間は悶絶し続けるであろう惨戟を、10発以上華奢な体躯に注がれて、ユリのモデル並の肢体がいとも容易く破壊されていく。
「このッ・・・カスがッ!! 死ねッ! 死ね、ユリアッ!! 貴様を再び切り刻んで、メフェレス復活の添え花としてくれるわ!」
「ぐうううッッッ!! あぐううウウッッッ!! はあッックッッ!!・・・・・・うッ・・・ウウウ・・・・・・」
「そうです、そうこなくては、久慈くんらしくない! さあ、この弱いお嬢さんを、徹底的に嬲り殺してやりましょう。闇の王・メフェレスの恐ろしさを、憎き銀色の女神たちに知らせるのです」
えびす顔をくしゃくしゃにして破顔したハゲ頭が、取り出した茶色の小瓶に入った液体を、柔術少女の口元に押しつける。
「ごッ・・・ぶぶ・・・や、やめてッッ・・・・・」
「フフフ・・・飲むんです、ユリくん。さもないと、こうですよ」
磔少女の背後からなだらかな胸の左の丘を包んでいた丸い指が、コリコリに硬くなった頂点の蕾を90度折り曲げる。触れられるだけでゾクゾクする敏感な小豆を、急激に刺激する仕打ちにユリは呻いた。
「ぎいいィィッッ?!! いいッッッ・・・ギギ・ギ・・・」
歯を食い縛って、なんとか液体の侵入を阻止する少女の右胸の先端を、一寸の狂いなく水着のうえから魔剣が貫く。
「ッッッ!!!!」
「ユリアァァァ・・・貴様はこのオレ復活の、生贄となるんだアアアッッッ!!!」
凄まじい勢いで、鞘に収まったままの日本刀が、ドリルと化して武道少女の右胸を抉る。ギュルギュルと漆黒の鞘が回転する。
乳首が千切れそうな激痛。だがその合間をすり抜けるように、乳房に埋まった感度のいい箇所が己の柔肉に摩擦され、かすかに生み出された快感が電撃のように走り抜ける。異なった刺激を存分に叩きこまれ、フランス人形のマスクが絶叫する。
「いやああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
「苦しめッ! 苦しめ、ユリア! 貴様の苦悶が、オレ様の養分となるのだ!」
「ああああああああッッッ―――――ッッッ!!!! む、胸がああァァァッッ~~~ッッッ!!!! ごぶッ??! ごぼぼぼ・・・」
叫ぶ桃色の唇が大きく開くのを見計らって、小瓶に入った妖しげな液体が、遠慮なくユリの咽喉元を滑り落ちていく。
「私もいろいろな媚薬を試しましたが、ほとんどのものは眉唾ものでした。だが、これは違う。長年の経験と試行錯誤に基づいたうえで作った、最高のブレンド媚薬です。この幼い肉体、ボロボロにしてあげますよ」
コロン・・・空になった小瓶が、乾いた音色を立てる。
西条ユリを抹殺するために用意された数々の悪魔の品が、いよいよそのヴェールを脱ぎ捨て、若い肉体に嗜虐の牙を突きたてようとしていた。
「片倉先生の媚薬は感度を高め、このお香は性欲自体を掻き立てる。そして私が作ったブレンド媚薬は、麻薬のようなものでしてね。刺激を感知する脳自体をいじってしまうわけです。3日徹夜したような夢遊状態が襲い、理性の鎧は剥がされ、やがて性感帯を剥き出しに浮びあがらせたようになってしまう。欲情に囚われた、メスへと堕ちるのですよ、ユリくん。同じに見える媚薬でも、それぞれ効果は違いますからね。一度に重ねて使われたら、君のような穢れを知らぬ少女は発狂してしまうかもしれませんね?」
嬲るように薄笑いを浮かべた醜悪な中年が言葉を浴びせる。
嘲りはちゃんと届いているのかいないのか、雪のような肌を露出させた磔の美少女は、細かく全身を震え始めている。下腹部から沸きあがってくる、悦楽の波動。それは湧水のごとくコンコンと奥底から溢れてくる。気を抜けば失禁しかねない巨大な津波に、恥じらいの乙女は懸命に内で闘っているのだ。
「無駄ですよ、ユリくん。君なんかが耐えれるような快感ではありません。早く媚薬を全身に行き届かせるがいい。ほぅら。ほぅーら」
ユリの襟足で束ねたおさげを乱暴に掴むや、拘束されていない頭をぐらぐらと回し始める変態教師。
痛みと屈辱で、アニメに出そうな童顔が歪む。紅潮した頬の上で、怒りをこめた丸い瞳が、斜め後ろに立つ小太りの中年を見据える。
認めたくはない・・・いや、認めてはならないが、媚薬の効果は確実に瑞々しい美少女を侵食している。火照りという言葉では収まらぬ熱が全身から沸きあがり、思考は快楽への渇望で埋められていく。素直に媚態をさらしちゃおう・・・本能が囁く甘い誘惑を必死で拒否し、15の少女は抵抗の意志を示したのだ。
なぜなら敵は、人類の脅威となる侵略者だから。
なぜなら敵は、宿縁ともいうべき相手だから。
なぜなら敵は、完敗を喫した仇敵だから。
「おやおや、まだそんな眼ができますか。しかしいけませんね、教師に向ける眼ではありませんよ。生徒はもっと、従順でなければ」
空いた左手で、田所は小さいが形のよい乳房を握り潰す。
「んんんああアアアアアッッッ!!!!」
「ははは、いい悲鳴ですねえ。それ、脳にクスリは回りましたか? ほォーら。ほォぅ~~らぁ~」
ぐらん。ぐらん。ぐらん。
八頭身の小さな頭が、髪を掴まれて大きく回される。
オモチャのように扱われる美少女の瞳は、焦点がぶれはじめ、ほどなくしてトロンと蕩けだした。
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