146 / 310
「第七話 七菜江死闘 ~重爆の肉弾~」
25章
しおりを挟む“・・・あ・・・あアア・・・・・・ま・・・だ・・・負・・・け・・・・・・・・・・・・”
「あかッッ!!・・・・・・がはッッ!!・・・・・・ア・・・アアア・・・」
「いいザマだあああッッッ!!! ナナッッ!! 死ね! 死ぬんだ!!」
銀色の皮膚をズタズタに破られ、血にまみれて悶絶するしかないナナの身体を、再び巨漢姉妹が両脇から捕らえる。
小柄な少女戦士の両脇を抱え込みながら、サリエルとビキエルはファントムガールが最も苦手とする暗黒エネルギーを、ナナの体内に送った。
「はきゅううッッ?!! ひゃぐううッッ・・・!!・・・・ふぎゅはああッッ!!」
「もう、さっきみたいに逃がさないよ」
「ウチらの暗黒エネルギーを注入されるのは苦しいだろ? さすがのあんたも脱出は不可能さ」
もはや反撃できるとは思えない。できるはずがない。だが、そう思うたびに、不屈の超少女は蘇ってきた。腕力だけではふたりがかりでも抑えつけるのが難しいことを悟った姉妹は、闇のパワーをも利用することにしたのだ。
片腕でナナの脇を抱え、余った手でメロンでもくっついているような胸の果肉を鷲掴む。
そのまま空中に捕獲した守護天使に、負の感情が凝縮した腐敗のエネルギーを、容赦することなく浴びせていく。
「うああああああああッッッ――――ッッッッ!!!! くッッ苦しいィィィッッッ――――ッッッ!!!! んんんああああああッッッ~~~ッッ!!!!」
生命を毟り取っていく暗黒エネルギーを注入される苦痛は、腐敗したヘドロがひとつひとつの細胞を侵食していく痛みとでも表現すればいいいだろうか。
圧倒的嫌悪感を抱く物質に、肉体を“食われ”ていく恐怖と苦しみ。
全身を突っ張らせた青い天使は、ただ闇の注入に耐えるしかない。光の戦士を滅殺する漆黒の業火の前に、ナナは絶叫することしか許されなかった。
「うううううッッッ――――ッッッ!!!! んはあうッッ!! ふはああッッ!! ふくうううううッッッ~~~ッッ!!!」
“ダメ!・・・・・・ダメ!・・・・・・この・・・ままじゃ・・・死んじゃ・・・う・・・反撃・・・・・・できな・・・い・・・・・・”
ヴィーン・・・ヴィーン・・・ヴィーン・・・
「アーッハッハッハッハッ!! ムダムダムダ! その態勢からあんたができるのは、悶えることだけさ! くらうがいいッッ!!」
巨大な肉団子に挟まれ、腐敗の炎に包まれて絶叫する聖少女を見ながら、歓喜に震えるクインビーは、暗黒の光球を作り出す。
先程とは比べ物にならない、巨大な黒色の球体。
ハンドボール大になった弾丸は、紛れもなく闇のスラム・ショット。
「ううぅッッ!!・・・・・・くうッッ!!・・・・・うぐぐ・・・・・・」
“に、逃げな・・・きゃ・・・・・・でも・・・身体・・・がぁぁ・・・・・・”
青い瞳を見開いた美少女のマスクが、懸命に顔を振る。しかし、その瑞々しい肉体のうちで、ナナの自由になるのは、そこまでが限界であった。
「ぶしゅしゅしゅしゅ、無駄だ。逃げられないよ」
「ふしゅしゅしゅしゅ、タフなあんたもこれで終わりさ」
「くああ・ア・ア・ア・ア・・・・・・やめッッ・・・苦しッッ・・・いィィッッ・・・カラダッッ・・・とけ・・・燃えるッッ・・・・・・やッッ・・・やめェェ・・・へあああああッッッ―――ッッッ!!!」
「アーッハッハッハッハッ!! 死ね! ナナッッ!!」
ドオオンンンッッッ!!!
空中に拘束された少女戦士に、怨念詰まった闇のスラム・ショットが放たれる。
唸りをあげて迫る漆黒の弾丸。
“・・・・・・ダ・・・メ・・・・・・逃げれ・・・な・・・い・・・・・・・・”
ドゴオオオッッパアアアアンンンンッッッ!!!!
暗黒の砲弾は、捕われの天使の腹部に直撃し、花火のような鮮血の爆発とともに弾け飛ばした。
砂地に降る、ファントムガール・ナナの抉られた腹筋の肉片と、銀色の皮膚。
「きゃあああああああああッッッ―――ッッッ!!!!・・・・・・あああッッ・・・あッ・・・アア・・・・・・・あ・・・・・・・・・・」
少女の悲鳴が白波を渡っていく。
水平線の向こうに敗北の叫びが消えていき、合わせるように青い天使の瞳は消えた。
ガクンンン・・・・・・
ショートカットが垂れる。
岩のような巨獣2体に捕獲されたまま、小柄な少女戦士はぐったりと脱力して、その張ちきれんばかりの肢体を預ける。
ほとんど光を失った胸のクリスタルの下、腹部の中央には、クレーターのごとき巨大な窪みができ、ドクドクと夥しい量の血が流れ落ちている。
「・・・終わった。終わったわ」
黄色と黒の昆虫が血染めの女神に歩み寄る。砕かれた顎からは、陶然とした口調の台詞。
「クソ生意気な女に、私は勝ったのよ。アハ・・・アーッハッハッハッ!」
笑う。笑う。笑う。
永遠と思われる長さで、クインビーは笑い続ける。ボロボロの聖少女の目前で。
狂ってしまったのではないか? 戦慄に襲われながら、蜂の化け物に堕ちてしまった美女に脅えを抱いた巨漢姉妹は、まだかすかに息がある青い獲物に、暗黒エネルギーを送り続ける。
「そうか・・・フジキナナエ、負けたのか」
誰にいうでもない呟きは、灰色の巨岩から漏れた。
「アーッハッハッハッハッ! よーし、お前ら、ずっと暗黒エネルギーを送ってやるんだ。こいつは死ぬ間際まで苦しめ抜いてやる!」
指令を下した女王蜂は、右腕の毒針を、死んだように動かないナナの腹部に突き刺す。
漆黒のスラム・ショットに抉られ、赤い肉を曝け出しているそこに、鋭い針はズブリと埋まる。
「ぎッッ?!!」
「目覚めたかい? 安心しな、ナナ。毒なんか打たないさ。じっくり苦しめ抜いた後に、嬲り殺してやる」
ズブ! ズブ! ズブ! ズブ! ズブ!
「いぎッッ?!!・・・ぎイッッ!・・・ひぐッッ!・・・あぎいッッ!!・・・ぎゃあッッ?!」
ナナがひとけのない海岸を、闘いの場に選んだのは正解だった。
繰り返し繰り返し・・・どう見ても死に体としか思えぬ青い少女の腹部を、怨念蜂は刺し続けた。心臓の弱い者ならば、ショック死しそうな残酷な光景。やがてクインビーは、毒針を突き刺したまま、血塗れの腹部をグリグリと掻き回し始めた。
「ギャアアアアアッッッ~~~ッッッ!!! ぎああッッ・・・うわああああああッッッ―――ッッッ!!!!」
「七菜江、ラスト・チャンスだ。今、奴隷になることを誓えば、命だけは助けてやってもいいよ」
“・・・せ・・・・・・ん・・・・・・・ぱ・・・・・・・い・・・・・・”
「・・・・・・・・る・・・か・・・」
「? あ? なんだって?」
「・・・だれ・・・・・が・・・・・す・・・る・・・か・・・・・・・」
「・・・そうかい。なら、真っ二つにしてやるよ」
ズボッ・・・という音を残し、毒針を抜いたクインビーは距離を取る。
集まっていく負のエネルギー。
再び、漆黒の弾丸を作り出し、身動きできぬナナを爆死させるつもりなのだ。
ファントムガールはエナジー・クリスタルという弱点を持つ反面、肉体の耐久度はミュータントより強い。暗黒スラム・ショットを食らって、ナナが生きていたのはそのためだ。
だが、もう一発食らえば・・・
木っ端微塵になるか、腹部から半分に分かれるか、内臓をぶちまけるか。いずれにせよ、即死は免れない。
――・・・・・・・・エ・・・・・・・・・・・・れ・・・――
「・・・くぁッッ・・・・・・・うぅぅッ・・・・・・んくッ・・・・」
必死で身を捩るナナ。暗黒の炎を浴びせられる拷問の中で、少女戦士は無謀としか思えない反抗を試みている。
「アーッハッハッハッ!! ホントにバカな女ッ! あがいても惨めなだけなんだよッ!」
ドオオンンンッッ!!
漆黒の光球が完成する。
できあがったハンドボール大の砲弾を、蜂女が振りかぶる。人間体であったときに、一番自信があった動き。文字通りの殺人シュートを、瀕死の後輩に照準を絞って、今、放つ。
――・・・ナ・・・・・・・エ・・・・・・・ば・・・れ・・・・・――
「うくうッッ!! くううッッ!! うあああ・あ・あ・あッッ!!!」
全身を針で無数に刺され、溶岩と電流を流し込まれ、必殺技をまともに受けて・・・生きているのが不思議な少女戦士に、噴火のごとく光のエネルギーが沸きあがったのは、その時だった。
それは一瞬。
一瞬しか起こせない、奇跡。
あらゆる場所からかき集めた、最後のエネルギー。最後の反撃のために、ファントムガール・ナナの全身に正義の力が充満する。
「うあああああああッッ―――ッッッ!!!!」
ブチン
闇のパワーを注いでくる、巨岩姉妹の拘束を、超少女は力づくで振りほどく。
暗黒エネルギーの注入に悶絶するしかないはずの少女戦士が、ふたりがかりで抑えている拘束を脱する。その奇跡を目の当たりにした巨肉双生児は、信じられない事実を茫然と見送るしかなかった。
奇跡を導いたのは、魔法の言葉。
あのとき、抱き締めながら耳元で囁いてくれた、工藤吼介の魔法が、瀕死の少女戦士に絶大な力を与えている。
――七菜江、がんばれ――
“先輩、魔法の言葉、すっごく効きますッッ!!”
「てええええいいいッッッ!!!」
ドドドドドドドドッッ!!
あり得ない、ナナの戒めからの脱出に自失した巨岩姉妹に、数え切れない連打が吸い込まれる。吹っ飛ぶ巨大風船。信じられない展開に、集中力を乱されたクインビーの暗黒球が、潮風に吹かれてバラけていく。
「なッッ・・・ばッ、バカなあああッッ――ッッ?!!」
「香イイッッ!! 決着つけてやるッッ!!」
ナナの右腕が、光る。
光のエナジーが高く掲げた右拳に集中していく。狙うは、足元の大地。突然の出来事に錯乱する敵の虚を突いて、少女戦士は一気に決着をつけにいく。
超必殺技。チャンス。右腕。痛い。気にするもんか。一撃で。いけ。やれ。この一発に。壊れてもいい。思い切り。全てを。倒す。ラスト。決める。いけ。いけ。倒せ。倒せ。倒せ!!!
「ソニックッッ!! シェイキングッッ!!!!!」
ドオオオオオオオオオオンンンンンンッッッ!!!!!
超少女の一撃が、大地を揺るがす。
・・・・・・ゥゥゥウウウウオオオオオオオオッッッ!!!!!
同心円状に広がっていく、破壊と衝撃の火柱。
究極の必殺技が、憎悪の蜂と重爆の肉弾姉妹を飲み込んでいく。
「ギャアアアアアアアッッッ―――ッッッ!!!!」
天を切り裂く、悪滅亡の調べがこだました。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる