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「第七話 七菜江死闘 ~重爆の肉弾~」

10章

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 「ぶしゅしゅしゅしゅッッ――ッッ!! おらアッ、どうしたフジキナナエ! 抵抗してみろよォッ!!」
 
 「奴隷になることを誓って、一生ウチらに跪くんだなァーッ! ふしゅしゅしゅしゅッッ――ッッ!!」
 
 両側の耳元で怒鳴りつけられ、顔をしかませた七菜江は、悔しさに強く唇を噛んだ。
 双子の巨漢姉妹に背後から抱き締められた肉体は、宙に浮きそうなほどに加虐され続けていた。
 青のセーラー服が捲り上げられ、一本づつ下から滑り込んできた姉妹の腕が、メロンのような胸の果実を乱暴に揉みしだく。感じさせることなど、全く念頭にない、七菜江を苦しめるのが目的の愛撫。潰され、捻られ、引っ張られ・・・痛み以上に己の胸をモノのように扱われる屈辱が、純粋な少女の瞳に涙を浮ばせる。右腕は折れてはいないようだが、痺れる激痛を休みなく送り続け、ぐったりと垂れたまま動かない。金髪の金属バットは無秩序に腹部を抉り、股間に潜り込んだ坊主頭は、水色のショーツの上から淡い茂みを一心不乱に舐め上げている。統一感のない、蹂躙と陵辱。それらは致命的なダメージを七菜江に与えない代わりに、自由に嬲っていることを少女に植え付け、七菜江の屈辱と敗北感を、色濃く自覚させることに成功していた。
 
 “こ、こんなヤツら・・・人質さえなきゃイッパツなのに・・・悔しい・・・悔しいよォ・・・”
 
 細まった瞳に涙が溜まる。腸が煮え繰り返るほどに苛立たしい連中にいいように遊ばれる現実。香という人質を取られ、手も足もでない不甲斐ない自分。死闘に次ぐ死闘で悲鳴をあげ始めた肉体。『エデン』の力を得て、無敵と思っていた自分のあまりに情けない有様に、悔しくて切なくて、不覚にも感情が込み上げてきてしまう。
 拘束はされていないのに、反抗することなく敵の蹂躙を黙って受けつづける超少女。
 巨大な男女4人に囲まれ、嬲られるままの七菜江の姿は、野獣に貪り尽くされる小動物のように哀れに映る。
 
 「どうだ、かなりくたばってきたようだな」
 
 「ふしゅしゅ、身体が熱くなってきたんじゃないか? このままイカせるのも楽しいかもな」
 
 半開きの口から、トロトロと透明な涎が流れ落ちる。
 テクニックもくそもない乱暴な愛撫でも、長時間に渡って股間と胸を責められて、身体の芯が火照ってきているのは確かだった。試合で体力を消耗し、リンチで肉体を破壊された今、精力すら搾られる行為は七菜江には効いた。
 
 「好きに・・・しろ・・・・・・でも、香先輩に手を出したら・・・許さない・・・・・・から・・・」
 
 荒い息を吐きながら、それだけの台詞を七菜江は搾り出す。潤んだ瞳に、闘志はまだ失われていない。
 
 「ごめんね、ナナ、ごめんね・・・」
 
 ナイフを首筋に当てられた柴崎香が、泣き崩れながら言う。ウェーブのかかった長い髪の向こうで、俯く美貌が見え隠れする。
 
 「そろそろトドメといこうかい」
 
 カズマイヤー姉妹の姉サリーの言葉を合図に、柔道家のスキンヘッド倉田と、野球界をドロップアウトした金髪コージが、処刑場と化した体育倉庫内に新たな舞台を作っていく。
 鉄製のバレーの支柱を床に敷き詰め、その隣に跳び箱を積み上げる。その様子を、カズマイヤー姉妹にぎゅうぎゅうと豊満な乳房を揉みしだかれながら、呆けた表情で七菜江は見詰める。青いセーラーの下で激しく手が蠢くたびに、覚束ない足取りがふらふらと揺れる。反撃を禁じられた超少女は、己の処刑場ができていくのを、宿敵に弄ばれながら見ることしかできない。
 
 「倉田、思いっきりやってやりな」
 
 獲物を坊主頭に手渡しする巨肉姉妹。
 その瞬間、七菜江の肢体は宙を舞い、一本背負いで叩きつけられた。
 バレーの支柱が敷き詰められた、デコボコの鋼鉄製の床へと。
 
 「ッッッ―――ッッ!!!」
 
 引き攣った呻き声が白い咽喉の奥から洩れる。
 弓なりに反り曲がる少女の背中。高速で背骨から後頭部までを鋼鉄に打ち据えられた七菜江の苦痛は、察するにあまりある。激痛の海に沈むように、悶絶していたセーラー服が、ぐったりと支柱の床に落ちていく。
 
 「あああァァ~~・・・うあァァ・・・・アアアぁぁ~~・・・」
 
 か細い呻きが断続的に少女戦士の唇から洩れる。
 霞む視界の先に、七菜江は跳び箱の最上段に昇った、肉の詰まった巨大風船の姿を確認した。
 即座に、超少女は己に降りかかる次なる仕打ちを悟っていた。
 
 「さて、ミンチになる時間が来たみたいだね、ナナエ」
 
 2mはある高さから、120kg近い巨体を浴びせ掛けるというのか。
 しかも、デコボコの鋼鉄の床に寝た、158cmの少女に。
 健気に耐え続けてきた七菜江の顔が歪む。さすがの「エデン」の融合者といえど、無事に済むわけがない。恐怖に眉が曇るのを、不屈の戦士も抑えることができなかった。
 
 「くッ・・・」
 
 「逃げたいのなら、逃げてもいいんだよ、ナナエ。その代わり、あんたの先輩は・・・」
 
 「ごめんなさい、ごめんなさい、ナナ・・・」
 
 柴崎香の泣きじゃくる声だけが響いてくる。ただ、繰り返し謝るだけのその声は、暗に七菜江に犠牲になることを強いていた。
 
 「・・・わかった・・・」
 
 「ぶしゅしゅしゅしゅ! どうやら覚悟を決めたようだね!」
 
 「気の済むまで・・・やったらいいよ・・・・・・香先輩、安心してください・・・こいつらのリンチは・・・あたしが全部、受けるから・・・・・・」
 
 「いい心掛けだ、ナナエ! 望み通り壊してやるよ!」
 
 高らかな嘲笑とともに、118kgの肉弾が降下する。
 全体重を浴びせた、フライング・ボディプレス。
 暴虐の魔の手に、自ら引き裂かれることを選んだ超少女のたわわな肉体を、重爆と鋼鉄のサンドイッチが押し潰す。
 
 グワッシャアアアアアア・・・・・・ッッッ!!!
 
 壮絶な、破壊音。
 骨が軋み、若い肉が潰され、柔らかな肌が切り裂かれる。
 サリーの巨体に全て隠れてしまった、下敷きの七菜江。唯一覗く右手が、ビクビクと痙攣し、圧殺された少女の無惨を教える。
 ゆっくりと立ち上がる、サリー。
 
 ビクビクビクビクビクビクビクビク!!!!!
 
 内臓を、骨格を、筋肉を、細胞を、神経を、皮膚を、あらゆるものを圧搾されてしまった哀れな子猫が、いびつに歪んだ全身を震えさせて、そこにはいた。
 開け開いた口と小さな鼻腔から、べっとりとした粘着質な血塊が、ドロドロと流れ落ちていく。
 
 「ぶしゅしゅしゅしゅッッ―――ッッッ!! ざまあないね、ナナエ!」
 
 心底嬉しげな哄笑が、無残に横たわる少女を包み込む。
 健気なまでに犠牲となった少女を、冒涜するように、いつまでも笑いは途切れない。痙攣する七菜江に、滝のごとく浴びせられる。
 
 「なにがファントムガール・ナナだ! 全く手応えのないヤツだよ」
 
 「正義の味方かなんか知らないが、ウチらに歯向かったら、こういう目に遭うのさ! 二度とハンドができないよう、骨をバラバラに砕いてやる!」
 
 妹のビッキーが、跳び箱の最上段に現れる。
 横臥したままのアスリート少女に、更なる爆撃を落とすつもりなのは、誰の目にも明らかだった。
 生来の生命力の高さに加えて、「エデン」によって飛躍的に上がった耐性。藤木七菜江のタフさは、5人のファントムガールのうちでも飛び抜けていたが、それでも鋼鉄の上で2発も重爆を受けてしまえば、骨ごと粉砕されてしまうかもしれない。
 軽やかに宙を舞う巨体。躊躇なく跳び箱を蹴った肉弾が、大の字で降下していく。
 圧殺すべき肢体は、なかった。
 失神していたはずの標的が掻き消え、目標を失った肉爆は、予想外の事態に受け身を取ることすらままならず、そのままの姿勢で支柱の山に激突する。凄まじい衝突音が、埃とともに舞い上がり、肉の塊は鉄棒の山に埋没した。
 
 「なッ?! なんだとッ!!」
 
 肉親の心配より先に、サリーの脳裏を支配したのは、恐怖にも似た驚愕だった。
 瀕死のはずの七菜江が、立っている。
 度重なる拷問の挙句、必殺の重爆さえまともに食らった小柄な少女が、ボロボロの肉体を支えて立ち上がっている。
 それだけでも十分に驚きだが、とっくに闘うことを放棄したはずの七菜江が、なぜビッキーの肉弾を避けたのか? しかもその澄んだ視線に、裂帛の気合いを込めながら。
 
 「てッ・・・てめえッ!」
 
 元水泳部のパンチパーマ・ケータが鋭いナイフを香の首に突きつける。水泳部の厳しい練習から逃げ出して以来、使い始めた愛着のある武器。突然反撃を始めた少女を服従させるべく、禍禍しい光が射し込む陽光を撥ね返す。
 だが、自慢の武器を、使うチャンスはなかった。
 一瞬。まさに一瞬。
 5mほどの距離を、一気に縮めた七菜江のダッシュ。
 加速をそのまま力にしたスポーツ少女の左拳が、パンチパーマの顔面にめり込む。その場に崩れるケータの意識は、七菜江の全力の一撃により吹っ飛んでいた。
 
 「ナッ、ナナエッッ~~ッッ!! てめえ、どういうつもりだ! 柴崎香がどうなってもいいのかよ?!」
 
 吼えるサリーに振り返る超少女。茫然と佇む香を背中でかくまい、色めきたつ残り4人の敵に、今までの疲労ぶりが嘘のような猛々しさで睨みつける。
 
 「あたしがファントムガール・ナナってことを知ってるなんて・・・お前たち、ミュータントね!」
 
 肩で大きく息をする七菜江。ダメージの深さは誤魔化せないが、全力で闘うことのできる好機の到来に、最後のひと搾りの力が開放されていく。
 
 「道理で一発一発効くと思った・・・人間だと思ってたから我慢してたけど、ミュータントなら話は別よ! この場で滅ぼしてやる!」
 
 忌々しい小娘を破壊する喜び、恥辱を味合わされた復讐を晴らす快感に酔いしれた、嗜虐者たちの慢心が、正義の少女を復活させた。
 なにげに漏らしていた、七菜江=ファントムガール・ナナであることの見識。
 その秘密が知る者が、どういう者か・・・大切なポイントを忘れて、肉弾姉妹は躊躇なく七菜江をナナと同一視して話した。もはや反撃などありえないと過信して。
 その瞬間、「エデン」を飼う少女は、戦闘者としての全力を解放したのだ。
 
 いくら悪党とはいえ、人間を滅ぼすことは七菜江にはできない。だが、ミュータントなら違う。今後の香の安全を心配する必要などなくなる、なぜなら、ここで倒してしまえばいいのだから―――
 むくりと、鋼鉄の支柱に自爆したビッキーが起き上がる。117kgの巨体で、鋼鉄の山に飛び込んでいったのだ。普通の人間に耐えられる衝撃でないことは、もろに爆撃を浴びた七菜江にはよくわかる。それがなにごともなかったように立ってくるということは、ビッキーが七菜江と同じ、「エデン」の寄生者であることを如実に示していた。
 
 「死に損ないが・・・今更なにができるってんだ・・・」
 
 「たとえ身体がボロボロでも・・・体力がなくっても・・・たくさんで襲ってきても・・・お前らみたいな汚いヤツらに負けるもんかぁ! 正義は負けないッッ!!」
 
 圧倒的不利な状況であることは、誰よりも七菜江自身がよくわかっていた。一歩進むごとに激痛が全身を襲い、酷使した心肺機能は一呼吸ごとに疼く。だが、それでも少女は滾っていた。卑劣な手段を使い続ける相手を、叩きのめさねば気が済まない戦士がそこにはいた。
 4人の悪鬼が半円状に孤独な少女戦士を囲む。血走った眼を向ける巨漢姉妹と、小山のような柔道家と、金属バットを構えた男。じりじりと迫る敵の包囲に鋭い眼光を飛ばしながら、救出した香を庇いつつ、七菜江の内側で闘志が燃え上がっていく。
 
 “『エデン』を持っているのは、力の感じでいくとカズマイヤー姉妹だけ・・・多分、あのムカつく蜘蛛女あたりに、あたしへの恨みを利用されてミュータントになったんだ。世界を守るためにも、下らない欲望に負けたヤツらになんか、負けられない!”
 
 「さぁ、かかってこい! なんならトランスフォームしてもいいんだよ! 幸い、近くにひとは少ないんだから」
 
 「な、ナナ・・・あなた一体・・・・・・?」
 
 背後から、香の戸惑った声が尋ねてくる。
 
 「香先輩・・・ごめんなさい、巻き添えにしちゃって・・・こいつらの狙いはあたしなんです。あたしとこいつらは、闘わなきゃいけない運命なんです」
 
 「ど、どういうことなの? それにあなたがファントムガール・ナナって・・・一体なんの話なの?」
 
 「それは・・・あとでちゃんと話します。今言えるのは、こいつらはもう、普通の人間じゃないってことと、なんとしてでもここで倒さなきゃならないってことです」
 
 「・・・そう、人間じゃないの・・・」
 
 突然変容した香の口調が、七菜江の背筋を凍りつかせる。
 静かな、けれど深い深い激情が染み渡った声。
 それまでの脅えが消え、憎悪と恩讐、そして嫉妬が入り混じった黒い感情をその声に感じ、思わず七菜江は後ろを振り返った。
 
 ズプ・・・・・・・
 
 “――?!!―――”
 
 右脇腹を襲う、鋭い痛み。
 続けざまに流れてくる、溶岩を注がれたかのような熱さに、豊満な肢体はビクリと仰け反った。
 
 「か・・・香せん・・・ぱい・・・?!!・・・・」
 
 守っているはずの人質の右手が、槍の先みたいに変形し、深深と己の脇腹に突き刺さっているのを見ても、七菜江は自分に起こっている出来事を理解することができなかった。
 
 「これ・・・は・・・・・・一体・・・・・・??!・・・・・・」
 
 ぐりぐりと肉を抉りながら埋まっていく右手の槍に、手を伸ばす被虐の少女。ドクンッッと変形した右手が脈打ち、注入した黄色の毒が、獲物の抵抗を防ぐ。
 
 「人間じゃない、か・・・じゃああんたも同じだね、ファントムガール・ナナ・・・」
 
 俯いたまま、ウェーブのかかった長い髪の向こうで、肩を震わせながら柴崎香は言った。抑揚のない声。だが、秘められた憤怒と歓喜が、次の瞬間爆発する。
 
 「アハッ、アーッハッハッハッハッハッ!! 騙されやがって、バカな女だよォ、七菜江ッ! てめえはぐちゃぐちゃにブチ殺してやるからなアッ!!」
 
 哄笑の嵐が、裏切りに自失する超少女を包み込む。香が肩を震わせていたのは、泣いていたのではない、笑っていたのだ。泣き崩れるフリをして、ずっとこの女は、七菜江がリンチされるのをほくそ笑んで眺めていたのだ。
 この瞬間、ようやく七菜江は、身を挺して守っていた先輩こそが、この処刑の主犯であったことを悟った。
 
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