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「第七話 七菜江死闘 ~重爆の肉弾~」

9章

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 つい1時間ほど前には、多くの観衆や学校関係者で埋め尽くされていた地方体育館の敷地は、今や影ひとつない閑散とした空気に支配されていた。
 ムッとする熱気の中に、涼しい風が混じる。まだ陽は高いが、時折吹く風が、夕暮れが近いことを教えてくれる。傾きかけた太陽を背に、白いジャケットの少女は館内を出て庭を駆け抜けていく。
 
 桜宮桃子の黒めがちな瞳には、鮮やかな赤いスーツを着込んだ女教師の背中がはっきりと映っていた。腰までの長い髪は、紛れもなく片倉響子のもの。夏休み前の闘い以来、姿を消していた美貌の悪女が、なんの前触れもなく、片田舎の地方体育館に現れたのだ。追いつけそうで追いつけない、桃子をからかうような速度で進みつづける響子に、運動のあまり得意でないエスパー少女は、必死で食らいついていく。
 ふと、赤いハイヒールの動きが止まる。
 体育館の裏側、人目につかない死角の空間。
 決闘にはおあつらえの場所であることに、気付いているのかいないのか、躊躇することなく響子と遜色ない美貌の少女は、誘い込まれた死地に踏み込んでいく。
 
 5mの距離を開けて、桃子は止まった。
 肩で息をする白い少女。真ん中付近で分けられたセミロングの茶髪が、やわらかに揺れている。
 髪の黒とスーツの赤が、毒々しいまでに鮮やかな女教師は、背を向けたまま微動だにしない。
 そのまま奇妙な対峙をした正義の少女と悪の美女は、沈黙の時を流れていく。
 
 騒々しい鳴き声を降り注いでいたアブラゼミが、ふたりの美貌の持ち主が発する気配に気圧されたように飛びだつ。
 ゆっくりと片倉響子は振り返る。
 正面から見詰め合う超能力少女と冷酷な蜘蛛の化身。
 本物の天使はかような可愛らしさと美しさを持つのかと思わせる美少女と、悪魔的な美と色香を発散する魔女の視線が、複雑な熱を帯びて絡み合う。
 
 「久しぶりね、桃子」
 
 真っ赤なルージュを歪ませた響子が、妖艶のスパイスが効きすぎた笑みを浮かべる。
 
 「いや、ファントムガール・サクラ。私の正体を知りつつ、目の前に立ったということは、それなりの覚悟ができてると判断していいのかしら?」
 
 「響子さん・・・」
 
 厚めの唇が開く。可愛らしさと色香を同時に持った唇。未熟さと芳醇を併せ持つ吐息が、完璧なる美少女から放たれる。くるみのように形のいい瞳は、優しさ溢れた彼女本来の光を失い、厳粛さに満ちて鋭く輝いている。
 真夏の熱気のもとに生まれた異空間で、桜宮桃子が次に放った言葉は、響子にとってはあまり意外なものではなかった。
 
 「あたしは響子さんとは闘えません」
 
 正面から薔薇の香漂う悪女を見据え、心優しき天使は断言した。
 
 「あら、なぜ? 私があなたたちファントムガールの敵であることは、五十嵐里美辺りから聞いてるはずだけど」
 
 「知ってます、シヴァという、恐ろしい敵だって」
 
 「では、なぜ?」
 
 「あたしを助けてくれたのが、響子さんだからです」
 
 じっと見詰める可憐な視線を、瞳以外を綻ばせた笑顔が迎える。
 
 「どういうことかしら?」
 
 「あの時・・・地下室でヒトキに裏切られ、死にかけていたあたしに、誰かが『エデン』を与えて助けてくれたんです。その誰かが、響子さん、あなたなんです」
 
 「ウフフ・・・面白い子。なぜ、私だって断言できるの? 確かあの時の地下室は、メフェレスが閉めきって真っ暗になっていたはずよ。瀕死のあなたがどうやって『エデン』を与えた人物を確認できたのかしらね?」
 
 「音です」
 
 「音?」
 
 「その、ハイヒールの音が聞こえたんです。『エデン』のことを知るひとで、ハイヒールを履いているのは響子さんだけなんです」
 
 口元に手を伸ばし、片倉響子は肩を揺らして笑った。貴婦人のような仕草も、このプライドの塊のような女がやると、嘲っているかに映る。
 
 「ハイヒールを履く者なんて、掃いて捨てるほどいるでしょうに。ちゆりだって時々履いてるわ」
 
 「それに、里美さんを拷問している時も、響子さんだけは他のひととは違った。憎しみみたいなものが感じられないんです。あたし、普通と違うから、そういうことにはちょっと敏感なんです」
 
 精神感応力、いわゆるテレパシーを桃子は持たないが、人並み以上の勘の良さには、ある程度の自信を持っていた。その勘が、響子は敵ではないと囁いてくる。
 桃子が半ば実力行使して響子との接触権を得たのは、そのためだった。夕子なら、確実に闘おうとするに違いない。そうはさせてはならなかった。響子の真意がなんであるかはわからないが、桃子を助けたのが、想像通り響子であるならば、仲間になってくれる可能性もあるのだ。
 
 「まあ、いいわ。では、私があなたを助けたとしましょう。だとしたら、桃子はどうするつもりなの?」
 
 「話し合いたいんです。あたしには響子さんを傷付けるなんてできません。ちゃんと話し合えば、きっと仲良くできる方法が見つかるはずだと思うんです」
 
 こびりついていた響子の笑みが剥がれ落ちる。
 急に真面目な顔に戻った妖艶な美女は、俯いたまま黙り込んだ。その流れる黒髪を、祈るような気持ちで桃子は見詰める。
 
 「やっぱり、ね」
 
 鈴のように響く響子の声が、美しい少女の耳朶を打つ。
 ゆっくりと顔をあげた妖かしの薔薇が、無表情で言い放つ。
 
 「恐れていた通り、どうしようもない甘ちゃんね、桃子。ちょっとお仕置きが必要のようね」
 
 不意に右手を突き出す、蜘蛛の化身。
 元より闘うことを放棄した美貌の天使を、いとも容易く妖糸は捕獲した。四肢と首に巻きついた透明な糸は、あっという間に桃子を大の字に縛り上げ、空中に吊り上げる。
 
 「ぐううッッ?!! あああああッッ・・・」
 
 「あなたが傷つけられないというなら、私が一方的に痛ぶるだけよ、桃子」
 
 ギュウウウウウウ・・・・・
 何の容赦もなく、囚われの超能力少女を妖糸が締めつける。凄まじい勢いで四肢が引っ張られ、麗しい瞳が恐怖と苦痛に開かれていく。
 
 「あッッ!! あああッッ・・・きょッ、響子・・・さん・・・・・ッッッ!!」
 
 「私と闘えないというのなら、闘えるようにしてあげるわ。ちゃんと憎めるよう、しっかりと破壊してあげる」
 
 ボキンッッ!! ボコンッッ!! ボゴッッ!! ベキンッッ!!
 
 四つの破壊音が響き、両肩と股関節、四肢を支える関節が脱臼したことを知らせる。
 一斉に骨格を破壊され、炎の槍を4本、突き刺されたごとき激痛に、桃子の可憐な声は、怪鳥のような絶叫を迸った。
 破れた咽喉から吐き出された血の飛沫が一滴、高校生らしい甘い幻想に散った磔少女の足元に、ポトリと沁みをつくった。
 
 
 
 「ふへええッッ・・・かはあッッ・・・・・・はびゅううぅぅッッ!!」
 
 すでにその哀れな獲物が嬌声を叫び始めてから、10分が経とうとしていた。
 目には見えない魔の糸に縛り上げられた桜宮桃子は、脱臼した四肢をさらに引っ張られるという地獄に落とされながら、妖艶な悪女の手慣れた手淫によって悦楽の魔界に引き摺り込まれていた。
 宙吊りで大の字に磔られた身体を、背後から片倉響子が抱き締めている。右手は右の乳房を、左手は股間の秘裂を。タンクトップとパンツの上から擦られ、引っ張られ、こねられて、いいように喘がせられている。執拗な愛撫は、この10分間、ずっと続けられていた。
 
 「ひゃううぅぅ・・・・きょ、響子さん・・・お、お願い・・・・・・もうやめ・・・くはああッッ?! ・・・あ・・・ああぁ・・・・・・お、おかしくなって・・・・・・ひゃはああッッ?!!」
 
 切ないまでの哀願は、漆黒の髪をなびかせる赤い魔女には届かない。
 凍てつく視線もそのままに、無言で響子は、小ぶりな乳房をふもとから撫で上げていく。くすぐるように、からかうように、ソフトタッチで円を描いた刺激が、頂点の蕾めがけて駆け登る。そよぐ夏風にも感じてしまうようになった桃子の青い果実は、執拗で粘着質な愛撫に弄ばれ、狂ったような官能のさざなみを無垢な少女に送り続けてくる。頂点まで辿りついた指先は、クリクリと屹立した小豆をこね回し、トドメとばかりに桃子を最高潮の刺激で責め苛む。乳首を右に、左にこねられるたびに、可愛らしさと美しさを兼ね備えた美少女の顔は痛み以外の感覚で歪み、頬は甘酸っぱく染まり、悶えるような吐息が搾り出される。そして、ひととおり乳房を責め抜いたあと、細い指先は再びふもとから少女の劣情を吸い上げていく。そんな悦楽地獄が輪廻のごとく繰り返されていた。
 
 「響子さッッ・・・・・・お願いッッ、やめッッ・・・あはァッ!! ・・・くああぁぁ・・・・・・なんでこんなッッ・・・・・・はああんんッッ!!」
 
 「救いようのないコ。まだ、闘えないというの? これほどの恥辱を味合わされているというのに」
 
 薔薇の棘に似た目つきで、響子は今にも壊れそうな、大の字に磔された小さな背中を睨む。
 お仕置きとばかりに右の乳房を変形するまで容赦なく握り潰す。悲鳴すら可愛らしい桃子の声が、「ひぎいッッ!!」と哀れな苦鳴を漏らす。構わず響子の左手が、激しく股間を摩擦すると、クチュクチュという淫靡な囁きが聞こえ始めた。よく見れば、真っ白なホットパンツには透明な沁みが広がっている。その濡れ具合を見れば、沁みができたのは随分先であったことはひとめで知れる。
 
 「効くでしょう、私の媚薬は? わずか10分の間に3度もイカされて、正義の守護天使さんとしては、このうえない屈辱よね」
 
 怒涛となって押し寄せるピンクの衝動に脳髄を揺さぶられつつ、陶然とした桃子の視界の隅には、足もとの空になった注射器が3つ、入ってくる。そのうちのひとつが媚薬であったことはもはや歴然としていたが、次々と天才生物学者自慢の秘薬を打ち込まれた少女の肉体は、激痛と悦楽と不快と辛苦で、ヘドロのように汚濁されきっていた。高熱、吐き気、頭痛、脱臼の痛み・・・あらゆる負の要素が、美少女の肉体を蝕んでいるのに、快楽だけがその隙を突いて襲ってくる。元々が普通の少女に過ぎない桃子が耐えるには、その拷問は過酷に過ぎた。
 
 「どう桃子?! これでも?! まだ闘えない?!」
 
 愛撫が激しさを増す。小さな胸の隆起がぐにゃりと潰され、秘裂が切られるように擦り上げられる。薬でドロドロに溶かされた美少女の身体を、更なる追撃が破壊していく。
 
 「はあうッッ!! ひやあぁッッ!! や、やめッッ・・・ふはあッッ!! ・・・たッ、助けッ・・・くふうッッ!!」
 
 「ならば狂い死になさい、桃子」
 
 「はびゃああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ―――ッッッ!!!!」
 
 右胸の頂点と秘裂の上にある蕾。
 ふたつの最も敏感な箇所が、華麗な指先によってめちゃくちゃに弄られまくる。
 
 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ~~~ッッッ!!!!」
 
 無惨な美少女の悲痛な叫びが夏空に溶けていく。
 もはやその行為は、陵辱というよりは破壊に近かった。
 毒によりドス黒く汚された体を、官能の熱壷に突き落とす。極彩色の黒と桃色に染め上げられた美貌の超能力少女が、暗黒の闇に飲み込まれていく。
 
 “うあああああッッッ―――ッッッ、やめてぇぇッッ――ッッ、助けてぇぇッッッ~~~ッッッ!!!”
 
 ぷっしゅうううううッッッ・・・・・・
 磔少女の股間から、液体が噴出する音が響き渡る。
 潮を吹かされてなお、桃子への陵辱は止むことを知らない。
 妖糸に縛られた肢体が反りあがる。ビクビクと震える指先。虚空をみつめる潤んだ瞳。パクパクと開閉する唇。名前通りに染めあがった柔肌。タンクトップ越しにもわかる硬直した蕾。淫水を溢れさせる蜜園。全てが美しき天使の惨めな敗北を教えてくる。
 
 「あ゛・あ゛・あ゛・あ゛・あ゛・あ゛・あ゛・あ゛ッッ!!!」
 
 “あたしッッ!! あたしッッ――ッッッ!!!”
 
 「首を引き千切ってあげるわ」
 
 メシイッッ!! ギュウウウウウッッッ!!! メシメシミチッッ!!
 
 細い首に巻きついた魔の糸が、一気に締め上げ上昇する。比類なき美貌が持ち上げられ、頚骨と首の皮膚とが、ゴキゴキ、ブチブチと不気味な音をたてて、超能力少女の頭を身体から引き抜いていく。
 
 バチンッッッ!!!!!
 
 破裂音が響き、何かが引き裂かれた。
 ボトリと、乾いた地面が音をあげる。
 
 「桃子・・・・・・」
 
 無意識に呟く、残酷な蜘蛛女の視線の先――
 空中から解き放たれた桃子の肉体が、ごろごろと転がり3m離れた大地で四つん這いに構える。
 脱臼した四肢で、懸命に小さな身体を支えた少女の首は・・・繋がっていた。
 ピアノ線より細く、鋼より強い妖糸に絞めつけられ、ボトボトと鮮血を首筋から零しながらも、桃子の美貌は切り落とされてはいなかった。
 切り落とされたのは、首ではなく、糸の方。
 
 「ようやく“その気”になったようね」
 
 ハーフを思わせる彫りの深い美女が、薄笑いを浮かべる。
 低い位置から響子を見上げる美少女の瞳には、春の陽だまりに似た優しさが消え、冬の荒波を想起させる厳しさがギラついている。
 怒り。
 いや、正確には、それは怒りとは呼べない代物だった。
 少女の生存本能が導き出した、生き抜くための闘争心。
 遠慮の欠片もない眼光が、敵と認識した響子を必殺の気迫を込めて射抜いている。
 心優しきミス藤村ではない、エスパー戦士・桜宮桃子の覚醒。
 
 「そうそう、それでいいの・・・ぷおッッッ!!!」
 
 狙撃でもされたように、響子の顔面が後方に弾かれる。
 よろよろと後退さる赤いスーツ。両手で押さえた顔が、ブルブルと震えている。
 怒りと痛みに震える両手が、ゆっくりと西洋風の美貌から引き剥がされる。
 片倉響子の顔半分は、噴き出した鼻血で紅に染まっていた。
 
 「今度は・・・首を折りますよ」
 
 残酷な台詞を吐いたのは、間違いなく桜宮桃子の口だった。
 言葉の内容よりも、そこに含まれた本気の闘志に、誰もが戦慄を禁じえないだろうに、相対する冷酷な女教師はまたもや微笑んでみせた。
 
 「私の顔を傷つけるなんて・・・やるじゃない、桃子」
 
 「響子さん・・・あたしは本気です・・・・・・そんなに闘いたいんなら、全力出しますよ・・・」
 
 「殺されかけて、ようやく本気になったわけね。でも・・・」
 
 自らの血に染まりながら、妖艶な美女は毒々しいまでに笑った。
 
 「少し遅すぎたみたい」
 
 ゴボオオオオオッッッ!!!
 
 バケツをぶちまけたような大量の鮮血が、桃子の唇を割ってでる。
 ベチャベチャと音をたてて地面を叩く、緋色の雨。ぐらりとエスパー少女の身体が傾き、白目を剥いた惨敗の天使は、自ら臓腑ごと搾り出したような吐血の海に沈んでいく。
 バチャリ・・・純白の衣装を深紅に染め上げ、文字通り血祭りにされた桜宮桃子は、微動だにすることなく女教師の足元にひれ伏した。
 
 「その小さな身体では、私の毒に耐えるのも、もう限界でしょう」
 
 妖糸に捕らえられた桃子が、注射器で毒を注入された時点で、この闘いは終わっていたのだ。
 赤いハイヒールが、茶髪のセミロングの後頭部をゴツと踏みにじる。俯いたままの少女からは、なんの反応も返ってこなかった。
 
 「今日の主役はあなたじゃないわ。あなたには、いいエサになってもらいましょう」
 
 返事することのない超能力少女に、するすると極細の妖糸が絡みついていった――
 
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