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「第五話  正義不屈 ~異端の天使~ 」

22章

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 誰もが予想だにせぬ事態が、起きた。
 白い光が、爆発する。
 太陽よりも眩しい、光の氾濫。その現象は、つい数十分前にこの場で起きた現象と同じだ。だが、ファントムガールもナナもユリアも、そしてアリスですらも悪の手に堕ちた今、参謀である安藤にも、新たな守護天使の心当たりなど、ない。
 
 光が凝縮し、ひとつの巨大な人影になる。
 輝く光の粒子が消失したあと、出現したのは銀の少女。
 銀の肌に、ピンクの模様と髪を持つ、巨大な少女。
 
 ファントムガール。
 また、新たなファントムガールが、絶望の街に降臨したのだ。
 
 「なッッ・・・??!」
 
 驚愕するタコの巨獣は、次の瞬間には巨大なバットで打たれたように、軟らかな肉体をひしゃげながら遥か虚空に吹っ飛んでいた。
 
 「だ、誰だ・・・?」
 
 沈着冷静を売りとする執事の口から、おもわず驚きの声があがっていた。彼のシナリオにもない登場人物。アリス、霧澤夕子が敗北した時点で、安藤の作戦は終わりを告げようとしていたのだ。久慈仁紀が見物者のいない決闘の最中であることを知らぬ老紳士は、メフェレスとシヴァ、二人の強敵を残した侵略者たちに、人類が支配されることを半ば諦めかけていた。絶望に心が暗く塗りつぶされていくなかでの、予想外な光明。驚愕とともに、希望の明かりが湧きあがってくるのを抑えられない。
 
 新たな登場人物に戸惑ったのは、戦場に居合わせる者たちの方が強い。マリーも、そして仲間であろうはずのアリスですらも、突然の事態に動揺する。
 
 「なに・・・もの・・・??」
 
 マリーの呟きに、ピンクの戦士は答える。
 
 「ファントムガール・・・・・・・サクラ」
 
 その名の通り、鮮やかなピンク色が描かれた少女戦士。
 同じ色の髪は、肩までの長さで真ん中から分けられている。比較的シンプルな模様は、どこかのOLの制服らしくも見える。くっきりとした目鼻立ち、厚めの色香漂う唇は、美少女揃いのファントムガールにあっても、完成度の高い美しさを誇っている。カワイイというより、綺麗という言葉が似合う、それでいて少女の可憐さもきちんと併せ持った美少女。
 
 「なぜ君が生きているのですッ!! 桜宮桃子くん!!」
 
 鮮血を降り飛ばして、クトルが瓦礫の山から立ちあがる。相当なダメージを積み重ねながらも、しぶとく生き続ける濃緑の魔獣は、先程の攻撃が超能力によるものであることを、身をもって実感していた。
 
 「小ぶりながら形のいいバスト、張りのあるヒップライン・・・さんざん遊ばせてもらったその身体、忘れることはありませんよ。しかし、君はメフェレスに殺されたはずだ!」
 
 ピンクの新戦士、ファントムガール・サクラの正体は、超能力者にして、久慈仁紀の元恋人である桜宮桃子!
 だが、桃子は久慈を裏切ったことで、地下室で凶刃に切り刻まれたのだ。腹を貫かれ、大量の血の海に沈む美少女の姿を、クトルの正体である田所も、マリーも見ていた。その後地下に放置したため、死を確認はしていないが、あの出血量と傷で生きていられるわけがない。
 そして、それ以上に不思議なのは、なぜ『エデン』と融合しているのかということだ。
 五十嵐里美が密かに渡したのか? いや、拷問前にあらゆる場所を調べ尽くしたのだ、『エデン』を隠せたはずがない。となると、一体誰が、なんの目的で桜宮桃子に『エデン』を与えたのか・・・?
 
 「あんたたちに・・・借りを返すわ」
 
 スラリと伸びたピンク色の手を、タコの魔獣に向ける。
 白い光弾が数発放たれ、俊敏な動きができなくなったクトルに着弾する。ナナ、アリスと続けざまに闘ってきた変態教師は、並みのミュータントならとっくに死んでいてもおかしくないダメージを受けていた。美少女への歪んだ愛情と、充満した性欲。ねじまがった闇の精神の強大さが、クトルをいまだ動かし続けているのだ。トドメを刺すのは決して難しい作業ではない。
 だが。
 
 超能力を操る桃子にとって、光の戦士として光線技を使うのは、実に慣れた行為だった。精神を集中し、イメージを膨らませて開放する・・・超能力の発動と光の技の発射は、よく似ていた。誰にもレクチャーされずに、ごく自然にファントムガール・サクラは光弾を射ったのだ。
 しかし、その反動、たったそれだけのことで、小さなピンクの新戦士は腹部を押さえてうずくまってしまった。
 両手で押さえた腹部から、ドクドクと滝のように深紅の血が噴き出す。痛みのせいか、意識が遠のいているのか、地に這いつくばってしまったサクラは、そのまま瀕死の重病人のように痙攣し始める。
 
 ファントムガールとして受けた傷は、生身では何分の一かに軽減される。だが、生身でのダメージは、ファントムガールになってもそのまま、いや、それ以上になって引きずるのだ。
 
 登場時、颯爽と現れたサクラだったが、その真実は瀕死の重傷だった。桜宮桃子は背を突き抜けるまでに、日本刀で腹部を貫かれているのだ。本来なら闘うどころではない。生きているのが奇跡なのだ。
 
 “力が・・・でない・・よ・・・・眼がかすんで・・・・・・痛・・・い・・・・・あたし・・・バカだ・・・・・どうして・・・出てきちゃったんだ・・・ろ・・・・で・・・も・・・・助けずに・・・いられなかった・・・・・・”
 
 「マリー、アリスくんの処刑は任せましたよ! こちらの死に損ないは、私がトドメを刺します」
 
 濃緑の触手が、ピンクの戦士めがけて殺到する。
 あっという間に四肢を絡めとリ、超能力少女を大の字に固定する。虚ろな視線をさまよわせた美貌が天を仰ぐ。
 
 「もう一度、あなたのような美少女を堪能できるとはね。時間いっぱいまで犯し尽くして衰弱死させてあげますよ、ファントムガール・サクラくん」
 
 「ヒト・・・いや、メフェレスと・・・お前だけは、絶対にあたしの手で倒す!」
 
 苦痛に失神寸前だったはずのサクラの美貌が、キッと目の前のクトルを睨みつける。
 処女を奪った憎き変態教師。そのうえ、さんざん陵辱された恨みを、サクラ、桜宮桃子が忘れるわけはなかった。
 サイコパワーを集中する。あと一撃、強烈な一撃を与えれば、性欲に支配された悪魔を葬ることができるはずだ。
 だが、全エネルギーを結集するより早く、クトルの触手が腹部の傷口を貫く。
 
 「あああッッ!!! ふあああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 壮絶な激痛にサイコの力は分散した。大の字の姿勢のまま反り返るサクラに、淫欲に燃える触手が襲いかかり、少女戦士の秘所を、肛門を、口を、濃緑の液体を滴らせて抉り刺す。
 
 「んぐうううッッッッ――――ッッッ!!!! ぐううッッ・・・ぐううううッッッ―――ッッッ!!!」
 
 「惨めなり、ファントムガール・サクラ! このまま我が慰み者として、短い一生を終えるがいいです!」
 
 泣き叫びながら、青臭い白濁液を満身に浴びた屈辱が、桃子の脳裏に蘇る。破瓜の痛みも、性の喜びも、繰り返される陵辱による、圧倒的な屈辱の前には、微々たる感覚でしかなかった。その悪夢が、今再び可憐な少女戦士に襲いかかろうとしている。
 一方のアリスにも、トドメが刺されようとしていた。
 悪魔の手が、装甲天使を握り直す。一瞬の隙を突いて逃げようとしたアリスの努力も虚しく、小さな身体は巨大な手に鷲掴まれていた。ただ、右腕だけが拘束を逃れ、苦しげに宙を舞っている。
 
 サイボーグ少女と超能力少女。
 人類が最後の望みをかけた、ふたりの異能な新戦士は、共に血祭りにあげられ、悪に囚われて惨殺されようとしている。運命に弄ばれた悲痛な少女たちに、神は最期まで仕打ちを与えるというのか。
 
 濃緑の触手が、回転しながらピストン運動を始める。
 傷口をさらに抉られる烈痛のなか、超能力を発動することすらできずに、サクラの肉体が汚されていく。もはや戦士ではない、普通の女子高生に戻った哀切な悲鳴をあげながら、桃子は崩壊していく己を感じていた。
 
 “あたしは・・・・・ここで・・・惨めに・・・・殺され・・・・る・・・・・・・ごめん・・・・・・せっかく・・・助けてくれたのに・・・・あたし・・・もうダメみたい・・・・・・”
 
 あの時。
 地下室で自らの血の海に染まりながら、静かな死を受け入れようとしていた時。
 
 「あなたのその力、失ってしまうのは勿体無いわ」
 
 大量の失血と苦痛で朦朧とする意識のなか、低く澄み渡る女の声を、コンクリートの床にうつ伏せに這いながら桃子は聞いた。
 痙攣するだけで、あとは死を待つ少女の身体を、暗闇のなかで女はまさぐる。すでに全身が麻痺した桃子は、自分が何をされているか、よくわからなかったが、女はどうやら桃子の下半身になにかをしているようだった。
 
 「生きなさい。ファントムガールになるにしろ、ミュータントになるにしろ」
 
 どこかで聞いたことがあるようなその声を、暗い世界に飲み込まれかけた意識では、判別することはできなかった。
 ただ遠のいていく、高いヒールの響きを聞きながら、桃子はついに気絶した。
 
 死に瀕した少女が、己が生き延びたことを知るのは、全く別の場所で目覚めた時であった。何者かの手により運ばれたらしいその場所は、戦地からやや離れたデパートの一階。『エデン』による生命力のアップが、自分を延命したことなど、桃子が知るわけはなかった。
 
 そのまま眠り続けていれば、少なくとも桃子は生き延びることができただろう。だが、金色の装甲を着けたファントムガールが、惨殺されかけるのを目撃した桃子の身体は、下半身に熱い滾りを感じるや、気がつけば白い光に包まれていた。
 
 “くや・・・しい・・・・・あたし、また・・・こんな奴に・・・・・・でも・・・・・・”
 
 デコボコした触手に突き上げられながら、ピンクと銀の身体がピクピクと反応する。それは快感と、苦痛とによるものだった。正義の心に促されるまま、変身した優しい心の持ち主は、悪の性欲の捌け口となって、死滅せんとしていた。
 
 「あの女は・・・・・・おしまい・・・・・・あとは・・・・・・お前の番・・・・・・」
 
 黒衣に包まれた魔女が、目の前のアリスに宣告する。
 巨大な漆黒の手に胸を握り潰され、ゴリゴリと不快な音をたてる肋骨の痛みにうち震えながら、アリスは空を仰ぎ続けている。救いを求めるように天に伸びた右手が、ブルブルと痙攣する。サクラ同様、闇の眷属たちに暴虐に曝されたこの天使も、死の河を渡ろうとしているのか。
 
 小ぶりな唇がパクパクと開閉する。喘ぎの合間にアリスは何事かを呟いているようだった。フードをかぶった魔女が歩を進め、機械少女の口元に耳を寄せる。
 
 「あぐ・・・・・・こ・・・んな・・・・・・ぐふぅッッ・・・・・・ニセモノの技・・・・・・ごぶッッ・・・ぐううぅぅッッ・・・・・・・き、効かない・・・・・・わ・・・・・」
 
 この期に及んで、まだ挑発を繰り返すというのか。
 魔女のデスマスクに憤怒が彩られる。表面上の変化はまったくないのに、確かにマリーの怒りは頂点に達していることがわかる。
 惨殺。この不愉快で愚かな女は、見るも無惨に殺す必要がある。黒魔術の恐怖を、世間に知らしめるためにも。
 
 悪魔の巨大な手のひとつが、さまよう機械少女の右腕を握り締める。金色の機械仕掛けの腕を、悪魔の手は上方に引っ張り、もぎとらんとする。
 
 「ぐあああッッ??! うああああッッッ―――ッッッ!!! う、腕があああッッッ―――ッッッ?!!」
 
 ベキベキッッ・・・バチッ、バシュンバシュンッッ、ブチチッブチッ・・・
 
 機械といえど、神経が通う部分を引き千切られる酷痛に、アリスが叫ぶ。四肢をもぎとり、機械部分を徹底的に引き剥がし、回路を引き摺り出す。マリーは文字通り、バラバラに破壊して、サイボーグ戦士を晒すつもりだった。
 
 「スクラップになれ・・・・・・愚かな女め・・・・・」
 
 カチン、という金属音。
 かすかに聞こえたその音色は、天才と呼ばれる少女の、最後の望みを賭けた作戦が成功した合図だった。
 
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