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「第三話 新戦士推参 ~破壊の螺旋~ 」

9章

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 タイルを叩く水音が、心地よく耳朶を刺激する。
 熱めに設定したシャワーが、弾力に富んだ小麦色の肌を小気味良く打つ。17歳の光る肌は、温水を弾き、透明な珠を撒き散らしている。
 更衣室に隣接したシャワールームの一角で、藤木七菜江は激しい運動の後の汗を流していた。6つあるシャワーの、一番奥が七菜江の場所だ。カーテンの向こうでは、順番待ちの部員たちが、乾いてきた汗の気持ち悪さにうずうずしている。
 
 「ちょっと、ナナ~~! まだなのォ、早くしてよォ!」
 
 「さっき入ったばっかじゃん! そんな急かさないでよ!」
 
 「じゃあさ、一緒に入ろっか」
 
 いきなり七菜江の親友・小島亜希子がカーテンをガバリと開ける。
 
 「きゃああッッ!? ちょっと何すんのよォ!!」
 
 「うわあああ~~~・・・・ナナってホントにスタイルいいよねぇ・・・」
 
 腰を少し屈めて捻り、顔を赤らめ、左手で胸のトップを、右手で大事な箇所を押さえる七菜江。
 豊満な肉丘から引き締まったウエストにかけて、キレイな逆三角形を描き、そこからパンパンに張ったヒップのラインまで、芸術的な曲線が流れている。シミひとつない肌は、水に濡れて、魅惑的な輝きを放っている。胸・腰・尻・足・・・・・全ての部分が完璧といっていい造形。そのどれもに艶やかさと、爽やかさの、相反する魅力が充満している。しかも、羞恥に桜色に染まった肌は、元々の美少女ぶりに加えてエロスの薫りを持ちこんだのだから、同性であっても興奮してしまう可憐さだ。
 水流のすだれを透して見えるヴィーナスの肢体に、並んでいた後輩たちも感嘆の声を挙げる。
 
 「うわあああ・・・・・・七菜江先輩、凄くキレイな身体・・・羨ましいなあ・・・」
 
 「この中、何入ってんの? Eカップ? もしかしてF?」
 
 図々しくも中に入ってきた亜希子が、はちきれんばかりの七菜江の果実を、ムンズと鷲掴む。
 たまらず、嬌声を挙げる七菜江。
 
 「きゃあああッッ?! ちょッ・・ちょっと、何すんのよ、アキ!」
 
 「スッゴイ弾力!! お餅みたい! あんたに男がいないのが不思議だわ」
 
 「先輩、私にも触らせてください!」
 
 「私も!」 「私も!」
 
 ドッと雪崩れこんだ5・6人が、ペタペタと、健康的なエロスが詰め込まれた柔らかな肉体を撫でまくる。胸の球体からおへそ、肉付きのいいお尻まで、オモチャにされて遊ばれる。
 
 「ちょッ、ちょっと、あんたたち! い、いいかげんにしろォッッ!!」
 
 
 
 「ったく・・・そんなにプリプリ怒んなくてもいいじゃん」
 
 「なんで後輩にまで触られまくんなきゃいけないのよ! 恥掻かされた!」
 
 「あのねぇ、みんな、あんたに憧れてんのよ。わかんないの?」
 
 「憧れてる? あたしに?」
 
 キョトンとした丸い眼で、まじまじと親友を見つめる七菜江。赤いスポーツタオルをかけた首を少し右に傾け、ハテナマークが頭上に浮びそうな表情をしている。
 クラブハウスから、校門に向かう途中。校庭のあちこちに見られる、部活帰りの集まりのひとつが、彼女たちふたりだった。暮れかけた夕陽が、長い影を作る。
 ナチュラルに出て来たとぼけ顔に、クラスメートでもある同級生は、フゥ・・・と深い溜め息を吐く。
 
 「あんたのその鈍感ぶりは、ここまで来ると罪よね。そうやって、男の子たちの気持ちもムゲにしてきたんだろうな・・・」
 
 「え、何?」
 
 「なんでもな~い。とにかくねぇ、一年はまだ部活に入って2ヶ月くらいなのよ。久しぶりに現れたあんたのスーパープレイを連発で見たら、憧れるなって方が無理な話よ」
 
 「えへへ・・・そ~う?」
 
 照れた様子を隠そうともせず、小さめの鼻をこする七菜江。
 彼女が久しぶりに学校に登校してから、1週間が経っていた。毒は抜けきっていないと言うものの、日常生活に支障はなかった。左足の調子も予想以上によく、ハンド部での活躍は、目覚しいものがある。
 部員たちは、ブランクを感じさせぬ、いや、もしかしたら以前よりも鋭くなった動きに、驚きを隠せなかった。ライバルでもある仲間の復活は、嬉しい反面、複雑な思いもあるものだが、七菜江に関しては、生来の無邪気さが誰からも愛され、大きな祝福とともに迎え入れられたのだった。
 
 「でさ、今日、樹里たちとカラオケ行くんだけど、ハンド部のスーパースターさんも当然来るよね?」
 
 「・・・ごっめん。用事があるんだぁ・・・」
 
 「ええ~~ッ?! またなの?! 最近ずっとそればっかじゃん!」
 
 「だからごめんって。里美さんからいろいろとお願いされてて・・・」
 
 メフェレスに正体をバレて以来、七菜江は寮から引っ越して、五十嵐家に厄介になっていた。無論、安全性を考慮してのことだ。問題なのは、傍目には無関係の七菜江が、五十嵐家に居候する不自然さであったが、恐ろしいことに、翌日には七菜江は、戸籍上も里美の遠い親戚ということになっていた。
 
 「五十嵐里美って、あんな顔して意外と人使い荒いのねぇ。もしかして、あんた、イジメられてる? 白雪姫みたいに」
 
 「変なこと言わないでよ! 里美さんの悪口言ったら、許さないからね!」
 
 「わかった、わかった。けど、用事なんて言って、男と遊んでるんじゃないでしょうね?」
 
 それまで眉を吊り上げていた七菜江の顔が、ボッと火が点いたように赤くなる。しかも、視線を逸らすオマケ付きだ。
 
 「あ、あれ? もしかして、図星なの?」
 
 「ち、違う、違う!! そんなやましい気持ちじゃないからッ! 全然ないからッ! ホント、本気でガンバッてるのよ、そんな楽しい気分とか、全然ないからッ!」
 
 「?? あんた、なに言ってんの?」
 
 ブンブンと、凄い勢いでかぶりを振る七菜江。少年誌の表紙を飾りそうなアイドルっぽいショートカットが、吹雪となって吹き乱れる。
 突如、真っ赤になった顔が、その動きをピタリと止め、一方向に視線が釘刺しとなる。
 色が赤からどんどんと青に変わっていく。まばたきひとつしない横に長い瞳が、迫力の伴った鋭さを帯びていく。部活で枯らしたはずの汗が額に珠を結び、白桃の頬を伝って、尖った顎から垂れる。
 思わず振り返り、小島亜希子は七菜江の視線の先を見る。
 
 校庭に、美貌の彫刻が立つ。
 ハーフを思わせる、彫りの深い端麗な容姿。スラリと伸びた手足が、スタイルの良さを強調する。吐く息さえピンクに見える、圧倒的な艶かしさ。官能のオーラが、真っ赤なルージュと同色のピアスによって、映える。
 生物教師・片倉響子。
 口元に歪んだ笑いが、不敵に少女を挑発している。
 
 「ど、どうしたの・・・? あの先生となにかあるの?」
 
 「なんでもない。あたしと話があるようだから、アキは先に帰って」
 
 なにか、口にしようとして、小島亜希子は親友の言う通り、帰ることにした。
 長身の女教師を横切る時に、ペコリと頭を下げる。
 去っていく女子高生の背中を、舌なめずりをして見送る片倉響子。
 餌を前にした、蜘蛛のように。
 
 グワシイィィィィッッッ・・・・・・
 
 白のブラウスの胸倉が、生徒によって鷲掴まれる。
 生徒の名は、藤木七菜江。チャーミングな瞳は吊り上がり、食いしばった白い歯から、言葉が洩れ出る。
 
 「私の友達に手を出したら・・・許さないぞ・・・」
 
 バシンッッという乾いた音が響き、平手で打って、生徒の手を払い落とす女教師。
 自然に距離を取る七菜江。
 体内の奥深くに沈み込んでいるはずの毒が、女神の皮を被った悪魔に反応するかのように、ズキズキと疼き始める。心に渦巻くのは、片時として忘れられない屈辱の痛み。そして、怒りと――恐怖。
 妖艶な瞳と、純粋無垢な瞳が火花を散らす。
 つい何日か前に、死闘を、いや、一方的な虐待ショーを行ったふたりが、勝者と敗者という非情なまでに明瞭な立場で向き合ったのだ。
 
 「ふん・・・学校に出てきて1週間らしいわね。思ったより、元気そうじゃない」
 
 ゴクリと唾を飲む少女。噴き出る汗が絶え間なく整った顔立ちを流れていく。緊張感は隠せないが、瞳に浮んだ炎は、消え入る様子を見せない。
 
 「あれだけやられたら、てっきり降伏してくると思ったけど。あなたたちもシブトイわね。私の毒の味はいかがだったかしら?」
 
 「・・・・・うるさい、卑怯者・・・・」
 
 「あら? まるで普通に闘ったら、勝てるような言い方じゃない」
 
 吊り上がっていた眉が、微妙に垂れ下がる。
 食いしばる白い歯を見せる唇が、言葉に詰まって歪む。
 一瞬、少女の瞳に走った哀しげな色が、敗者の悔しさと恐怖を正直に教えてくれる。
 
 「ふふふ・・・どうしたの、黙り込んじゃって。そりゃあそうよね。あなた、泣き叫んで私に命乞いしたのよ。忘れたわけじゃないでしょ?」
 
 「う・・・・くう・・・・・・」
 
 「美味しかったわよ、七菜江。あなたの唇も、アソコも。あなたのファーストキスも処女も、奪ったのはこの私ってことを、よ~くその胸に刻んでおくのね、弱くて惨めなウジ虫さん」
 
 嘲る女教師。その胸には、泣き叫び、助けを乞う、哀れなファントムガール・ナナの敗北の姿が蘇る。
 が、しかし。
 余裕に溢れた美貌が、不意に色を失う。
 
 負けを認め、満天下に惨めな姿を晒した正義の天使が、その当時とは打って変わった表情で、一直線に突進してきたのだ。
 
 “は、速いッッ!!”
 
 心臓が萎縮する。残忍な化け物の正体である女教師が、少女のように両手で顔を隠す。
 予期された強烈な打撃は―――なかった。
 過ぎ去った暴風の感覚に、後を振りかえる片倉響子。
 左手を腰に、右手を突き出した七菜江がこちらを見据えている。右の人差し指を響子に向け、少女は高々と宣言した。
 
 「あんたへの借りは絶ッッ対ッッにッッ!! 返すからねッッ!!」
 
 くるりと向きを変え、短いスカートから中を覗かせそうに走り去る青い制服。弾けるような走力を眺め、残された女教師は満足そうに微笑む。
 
 「ふふふ・・・あの程度でへこむタイプじゃないとは思ったけど。どうやら、心は折れてないようね。これでまだ、楽しめそうね・・・」
 
 腰にかかる長い黒髪を揺らし、片倉響子は次なる目的地へ向かった。
 
 ダッシュで五十嵐家までの距離を駆け抜けた七菜江は、乱れた息を整えもせずに、分け与えられた部屋に向かう。2階奥の部屋は、ひとりで使うには、勿体無いほどの広さと豪華さだった。革の鞄と、緑のリュックをベッドに投げ捨て、朝に用意しておいた道衣一式を引っ掴む。
 
 「藤木様、いってらっしゃいませ」
 
 「いってきます!!」
 
 扉のところで待っていた、執事の安藤が挨拶を交わす。
 階段を駆け下りた七菜江は、そのままの勢いで、安藤に開けてもらった扉をくぐり、特訓の場所へと急ぐ。
 
 “片倉響子・・・今はあんたに勝てないけど、強くなって必ず見返してやるッッ!!”
 
 里美の指示通り、強くなるための特訓を、毎日部活終了後に行っている七菜江は、いつにも増して、気合いを込めた表情で道場へと走る。
 
 「失礼しますッッ!!」
 
 道場に着いた少女は、入り口のところで正座をし、深深とお辞儀をする。それが、今回の特訓のコーチを引き受けてくれた先生が、最初に七菜江に教えた、この道場での礼儀だった。
 
 すでに道衣に着替えていた先生は、上座の中央やや右に座していた。背筋がピンと張った姿勢で、微動だにせず黙想している。醸し出す緊迫感で、周囲の空気が蜃気楼のように歪む。
 
 「七菜江、遅刻だぞ」
 
 「すいませんッ!! すぐに着替えてきます!」
 
 言葉通り、2分と経たぬうちに白い道衣に包まれた少女が現れ、正座した先生の前に座る。乱れた呼吸を整えるため、姿勢をそのままに深呼吸を繰り返す七菜江。ふたり以外に誰もいない道場に、一呼吸ごとに、緊張感が増幅していく。
 
 「吼介先輩ッ、お願いしますッッ!!」
 
 「よしッ、では組手立ちから中段突き20本だ」
 
 五十嵐里美が手配した特訓用コーチ・工藤吼介は、普段学校では見せない険しい表情で、その日の特訓の開始を宣言した。
 
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