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「第一話  聖少女生誕 ~鋼鉄の槍と鎌~ 」

9章

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 「お・の・れェェェ~~~ッッッ!!! よくも私の顔を傷つけてくれたなぁッッ!! キサマの
せいで全てが・・・許さんッ! 許さんぞッッ!!」
 「それはこっちのセリフだぁッ!! 世界征服だか、なんだか、くだらない理由でファントムガ
ールをあんな目にあわせて・・・・絶ッ対ッッ許さないッッ!!」
 「バカめッ! この状況を理解していないのか。1vs3で何ができる。貴様のお仲間が、同じ
状況で敗れ去ったのを見てなかったのか」
 「それは・・・・」
 “私が捕まってたからよ!”
 「死ねッッ!!」
 三方向から一斉に破壊光線が発射される!
 別角度から同時に攻撃されれば、慌ててしまい、その一瞬の迷いが命取りになるのが普通
だ。
 青の少女は、普通ではなかった。
 メフェレスの黒い破壊光線をかいくぐり、地を這うような姿勢で突進する。
 同時攻撃に対して、誰もが考え、誰でもが実行できるわけではない対応。
 女子高生が正体の守護天使は、それを為し得た。
 光線を放射中の無防備な黄金の顎に、打ち上げるアッパーカット!
 「ぎゃふふィィィッッッ!!」
 崩れた顔面が、奇ッ怪な叫び声を挙げる。三日月の口から赤い霧が舞う。魔人が初めて見
せる流血。悪魔の血も赤いらしい。
 10mを垂直に浮き上がった巨大生命体が、豪快に大地に落ちる。チャンス。だが、力を込
めた聖少女の右足がガクリと意志を裏切る。
 「ううッッ?!!」
 「ぎゃははははは! そりゃそうだ! オレの破壊光線はキサマらの光とは逆の闇のエネル
ギー! 直撃せずともその波動を浴びるだけでお前らは―――!!!」
 巨大少女が舞う。跳び蹴り。ダメージをものともせず、青いファントムガールは右足をキレイ
に伸ばしたフォームで、憎き敵の上空から迫る。
 「単調ッッ!!」
 仰向けに寝た状態で、顔面を襲う青のブーツを、青銅の両手をクロスしてメフェレスは防い
だ。怒りに任せた故か、少女の攻撃が、首より上に集中していることに、魔人はすでに気付い
ていたのだ。だが――
 ブギャアアアアッッッ
 クロスガードの隙間を縫って、左のブーツが三日月のマスクにめり込む!!
 跳び蹴りの右足を踏み台にした、左のキック。
 超人的な動きが、青銅の悪魔を翻弄する。
 「ごッぱあああああッッッ!!! ぶぐぐぐぐッッ!!」
 体重の掛かった振り下ろしの顔面蹴りは、黄金のマスクを朱色に染める。新戦士の強さは想
像以上であった。
 「とどめだあッッ!!」
 さらに顔面に、右の正拳を突き降ろす。
 その銀と青の背中に、超高熱の火球が直撃し、聖少女は炎に包まれた。
 「うわあああああーーーッッッ!!!」
 悪寒。
 咄嗟に前転する燃える背中を、飛来したクワガタの鎌が一文字に裂く。血風。アスファルトの
地面を転がり回り、炎を消す。
 “あたし、抜けてる――こいつらいるの、忘れてた・・・”
 灼けた肌がわななく。背中がジンジン疼く。生命のやり取りの場にいることを、七菜江は実感
する。背後からまた、鎌。トラースキックをクワガタの咽喉元に突き刺し、距離を置く青のファン
トムガール。火球の飛礫が時雨となって襲いかかる。側転。早い。熱線の速度を越えて、かわ
しきる。だが、一息つこうとした少女の背を、高圧電流が捕らえる。青い全身を疾走する電撃。
 「ぐわああああああ―――ッッッ!!!」
 “いッ痛いッ!  く、苦しいッッ!!  体が爆発しそう・・・やっぱ、三体相手じゃキツイか
な・・・・・”
 弱気が心の奥底で、顔を持ち上げる。そんな少女をさらに不安にさせる光景が、青い瞳に飛
び込んでくる。
 三日月型の口から、赤い泡を吹きながら・・・メフェレスが立ち上がっていた。気が付けば、七
菜江は三体の巨大生物に、再び囲まれている。
 
 「・・・・・青いファントムガール・・・・・名を・・・聞こう・・・」
 激昂し、狂気すら見せていた青銅の魔人の雰囲気は変わっていた。怒りが突きぬけてしまっ
たのか、強敵の出現に生命の危機を感じたのか。粘着質な冷静さを取り戻し、ヒビ割れたマス
クの向こうで低く訊く。
 「・・・ファントムガール・・・・・・ナナよッ!!」
 名前など考えてもいなかった七菜江が思わず、ほとんど本名を名乗る。安藤の取材規制の
話が脳をよぎる。都合の悪い情報は、マスコミには流れないよう、なっているという話。問題は
ないだろう。
 「ファントムガール・ナナ・・・・私には時間がない。本当ならば、たっぷりと時間をかけて嬲り殺
してやるのだが、仕方がない。一瞬で決着を着けよう」
 そうなのだ。ここにくるまでの執事・安藤の話を、七菜江はまた思い出す。
 メフェレスの本体が里美と同じく、人間であるならば、その活動時間は60分前後のはず。
 そして、メフェレスが初めて現れた時にファントムガールに喋った言葉から考えると、メフェレ
ス自身がそのことを知っている様子だった。七菜江が車で安藤と来た時、すでに5時50分を
過ぎていたので・・・メフェレスがその禍禍しい姿でいられるのは、あと僅かな時間しかないはず
なのだ。
 
 「もし、制限時間を超えると、どうなるの?」
 制限速度を50キロオーバーして飛ばす運転席の安藤に、七菜江は訊いた。
 「恐らく、エナジークリスタルを破壊されるのと同じ状態になるかと」
 「つまり・・・死ぬってこと?」
 「活動エネルギーが0になるということなので・・・そう捉えて頂いて構わないでしょう」
 融合したせいか、七菜江にはファントムガール、つまり『エデン』という宇宙生命体を寄生させ
ることで変身する巨大生物『ミュータント』の生態・弱点がなんとなくわかるようになってきた。胸
と下腹部のクリスタル、この二つはとても大事なところだと、細胞が語りかけてくる。時間もそう
だ。あまり長いトランスは避けねばと、本能が理解している。もちろん、メフェレスも気付いてい
るに違いない。となれば、みすみす自滅の道を歩むわけもなく・・・制限時間がくる前に、変身を
解除するのは確実だった。
 
 だからこそ、七菜江は短時間決着を狙った。
 安藤はメフェレスが退場するのを待って、残りの二匹の撤退に力を傾けるようアドバイスして
くれたが、七菜江に聞く耳はなかった。
 メフェレスを倒す。
 首謀者であり、里美を残酷なまでに蹂躙し尽くした悪魔を、なんとしてもこの手で倒したかっ
た。
 そうしなければ、里美の仇は討てない。
 純粋なまでの怒りの炎、だが、それゆえの窮地がこの先待っているとは、七菜江には知る由
もなかった。
 メフェレスが右手を差し出す。青銅の掌から、ズブズブと刀が現れる。
 初戦でファントムガールにトドメを刺した、あの刀。
 妖しく光を放つ、青銅の刀身を右手に、魔人が悠然と構える。
 「真っ二つだ。ファントムガール・ナナ」
 
 
 
 「ファントムガール・ナナねぇ・・・フフフ、バカな娘。ああなったメフェレスは手を付けられない
わよ」
 立ち入り禁止エリアとなった市街の一角に、妖然と微笑む美女の姿があった。腰にまで届く
ストレートな黒髪。彫りの深い目鼻立ちが、ハーフを想わせる。両耳の赤いピアスが、逆に子
供っぽく映るほど、熟成した女の色香が滲んでいる。
 「怒らせるまでにしとけばよかったのにねぇ。あそこまでやるから、メフェレス、キレちゃった
わ。キレルと冷静になるのが、あの人の恐いところ・・・ま、時間がないんだから、一瞬で決めち
ゃうでしょうね」
 髪を掻き揚げ、ぺろリと血の色の舌をだして、女は上唇を舐めた。
 
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