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76、純血
しおりを挟む153cm。38kg。
それがオメガカルラこと四方堂亜梨沙のサイズだった。パッと見てわかる通り、17歳の女子高生としても小柄の部類に入る。176cmの聖司具馬と並走すれば、その小ささはより際立っていた。
華奢と断じて差し支えない体型、であるはずなのに、線の細さをあまり感じないのは、動きの躍動感故だろう。喩えるなら、成体になる途中のバンビ、といったところか。半袖のボディスーツから覗く腕も、フレアミニから生えた脚も、しなやかで力強さがあった。
バストサイズは78cmと控えめなのに、胴体自体が細いために十分なボリュームが感じられる。カップとしてはC。形のいい美乳が、金色の『Ω』マークを押し上げている。
萌黄の風天使カルラのコスチュームは、本人の肉体に合わせたように、コンパクトな印象だった。
ほとんどが黄色で統一されたスーツもフレアミニも、全体的に丈が短い。走る振動でお臍はチラチラと覗き、スカート奥のアンダースコートも見えてしまいそうだ。
大きな襟がついている、というのは他のオメガスレイヤーにない特徴だが、その胸元もまた大きく開いている。
露出の多い衣装は、破妖師としては刺激が強すぎる・・・のだが、少女の肉体自身が放つ活発さが、色香よりも健康的な印象を濃く映していた。
「姉妹? ってことは、天音の妹もヤツらのアジトに捕まってるわけッ!?」
すっかり夜の闇が落ちた首都を駆けながら、隣りの司具馬に声をかける。
本来ならば、オメガスレイヤーの姿を一般人の前に晒すなど、あってはならない行為だった。妖化屍を狩る破妖師は、あくまで裏に生きる存在なのだ。しかし、事態は緊急を要している。光属性のオメガスレイヤー、最強のオメガヴィーナスに危機が迫っているのだ。悠長に掟を守っている余裕はない。
また、一般人がオメガカルラの全力疾走を見かけたところで、黄色の突風が通り過ぎたとしか、認識できないことだろう。
『水辺の者』とはいえ、同じ速度で走れる司具馬が異常なのだ。
「知っているのか!? 郁美のことを」
普段は東北地方の警備に当たっている四方堂亜里沙が、オメガヴィーナスの妹と面識があるとは意外だった。
「まあね。アリサもさ、いたから。オメガヴィーナスを選ぶ選考会場に」
「会場に・・・というと、あの山奥の洋館のことだな」
4年半前。雨。夜の山中で。
司具馬の脳裏にも、記憶が蘇る。四乃宮天音が初めてオメガヴィーナスになったあの日。生まれたばかりの最強戦士と、六道妖とが交戦した日。
「・・・オレが天音や郁美と初めて出会ったのも、あの日だった」
「郁美さ、年上なのにすごく気さくにアリサに話しかけてきたんだよね。いい子だったな。でもオメガスレイヤーのこと、全然教えてもらってなくてビックリしちゃった」
緊迫した空気の漂う洋館のなかで、唯一会話した『征門二十七家』の友人をカルラは思い出していた。
「あそこにいる女の子たちはみんな・・・死を覚悟してたってのにね」
「・・・ご両親と天音の計らいで、郁美にはなにも伝えていなかったらしい。最初から、四乃宮の一族は、天音が全てを背負うことに決めていた」
初めて天音と、キスを交わした日。
彼女が秘めていたすべての想いを、司具馬は打ち明けられた。心が通じ合ったと、確認できた瞬間だった。
「『征門二十七家』に生まれた限り・・・女子は闘いの宿命から逃れられない。妖化屍が、この世からいなくなるまで」
「妖化屍がいなくなるなんて、有り得ないっての。それ、『死者がいなくなる』ってのとほとんど同じ意味よ?」
「そうだ。だからこそ、天音が犠牲になることで、せめて娘のひとりは普通に幸せを掴んで欲しいと両親は願った。天音も、喜んでその責務を受け入れた」
ギリ、と司具馬の歯が鳴る。
どこか飄々とした青年の、これほど激しい形相を、亜梨沙は見たことがなかった。
「叶えねばならない。天音の願いを。郁美の幸福を。あの姉妹を、絶対に死なせてはいけない」
「あーあ、なんかジェラシるなぁ。アリサも『征門二十七家』に生まれちゃったカワイソーな女の子なのに」
冗談めかして、ポニーテールの少女は言った。
「まっ、ひとのために妖魔退治も悪くないけどね」
風が舞う。カルラの背に翻る黄色のケープが、激しくたなびく。
萌黄の風天使は、一段と走る速度をあげたようだった。
「天音と郁美・・・あと、あんたのためにも、ふたりは必ず助けてみせるわ。この命に代えてもね」
左右の胸と股間から、蠢くような電流が押し寄せる。
痺れるような、蕩けるような、その刺激が快感であることを、すでに郁美は知っていた。強引に、骨の髄まで沁み込まされた、と表現するのがより正しいだろう。催淫の秘薬と執拗な愛撫で、美しき女子大生は官能の深淵に叩き落されていた。いまだ処女であるにもかかわらず。
じわじわと湧き上がる快楽によって、郁美の意識は現実に引き戻された。
「ふぅっ・・・!! ぁ”っ・・・ぁア”ッ・・・・・・!!」
気を失っていたのは、何分だろう? あるいは何時間か?
目覚めてみると、郁美を取り囲む状況に、大きな変化はなかった。
悪夢は夢などではなく、やはり現実で・・・残酷すぎる光景を郁美の網膜に焼きつける。
緑色のロープに亀甲縛りにされたオメガヴィーナスが、目の前には吊り下げられていた。
ボトボトと、滝のように飛沫が、姉である天音の肢体から垂れ落ちている。麻縄の食い込んだ股間からは、特に体液の量が酷かった。白目を剥いた、自分と同じ顔が、ヌラヌラと濡れ光っている。
スーツを破りとられ、剥き出しになった乳房がわずかに上下している。オメガヴィーナスはまだ、生きていた。信じがたい生命力だが、元々の天音自身の肉体の強さと、完全に消滅させるのは難しいというオメガ粒子のおかげだろう。
郁美もよく使う除菌用のウェットティッシュなどに・・・『99.9%除菌』などと表記してあるのを見かける。
『100%』という表示にお目にかかったことはないが、その理由をこんな形で理解することになるとは思わなかった。菌の一種であるというオメガ粒子も、執拗に〝オーヴ”で責め立てられてもゼロにはならないのだ。ほんのわずか、0.1%ほどになっても、しぶとく残っている。
とはいえ、限りなく弱り切った今のオメガヴィーナスは、もはや最強でも無敵でもない。
天音の死は近い。まして六道妖には、その気になればいつでもオメガヴィーナスを細切れにできる、紫水晶の剣がある。
「あ”っ・・・あああ”っ・・・!! いや・・・いやぁっ・・・・・・!!」
両腕を真っ直ぐ天に向かって突き出した姉の姿は、白銀の光女神が飛翔しようとしているようにも見える。
だが実際にはオメガヴィーナスは・・・官能に飲まれて、昇天していた。
惨めに喘ぎ悶え、ヨガリ狂った天音の痴態が、脳裏に蘇る。『ケガレ殺し』の強壮興奮剤を服用されたオメガヴィーナスは、悦楽に負けたのだ。あれほど感度が過敏になっては耐えられるわけがないと、同じ媚薬の餌食になった郁美にはわかる。今でも郁美の子宮は、松明を突っ込まれたかのようにアツくたぎっている。
「ホホホッ・・・!! また地獄に戻ってきてしまったねぇ、小娘?」
背後から、〝妄執”の縛姫が耳元で囁く。
ようやく郁美は気付いた。胸を襲うモゾモゾとした快感は、縛姫の両手で揉み潰されているためだと。大蛇ではなく、人間の形をした手も〝妄執”は持っているようだ。
「死ねなくて残念だったねぇッ!? 簡単にラクになどさせるものか、お前たち姉妹には苦しみ抜いてもらわないと」
痺れるような快感、だけでなく、痛みも胸を襲っているのは、全身の体重がバストにかかっているためだった。縛姫は背後から乳房を鷲掴んで、郁美を持ち上げているのだ。
そうでもしないと、首に巻き付けられた髪によって、郁美は首吊り状態になってしまう。
敢えて六道妖が、郁美を生かしているのは明白であった。
「くふぅッ・・・!! ぅあ”ッ・・・あ、あたしっ・・・は・・・もう・・・・・・ダっ」
「ゲヒ、ヒヒヒ・・・あたしはもうダメ~~・・・そんなのはわかってるんだよぉ~、郁美ちゃ~~ん・・・・・・イキまくってぇ、心もカラダも壊れかけてるのはぁ~~・・・わかってるんだよぉ~~・・・」
〝流塵”の呪露の声は、下腹部から響いてきた。
失神する以前よりも、ずっと大量の泥が郁美の下半身を覆っている。餓鬼妖の怪物は、狙いを妹一本に絞ったようだ。股間の秘唇から絶え間なく甘い電流が送られるのは、呪露の泥愛撫が原因であった。
「お前なんかいつでも殺せるからねぇ~~・・・ウヒヒ・・・楽しいのは、大好きなお姉ちゃまの死ぬところを~~・・・見せつけることだよぉ~~ん」
「よく見ておくがよい、オメガヴィーナスの妹よ」
地獄妖・骸頭の声に視線を送った郁美は、整った美貌を蒼白にさせた。
ひと目見た瞬間に、六道妖が、いよいよ本格的にオメガヴィーナスとの決着をつけるつもりなのが確信できたのだ。
皺だらけの怪老の頭上には、真っ黒な靄がモクモクと沸き立っている。教会に現れてはいけない存在が、〝百識”の魔術によって生み出されようとしていた。
かつて郁美もその眼にしたことのある、巨大な悪魔の掌。
通称〝ディアボロハンド”。骸頭最大にして最強の黒魔術が、気絶したオメガヴィーナスに襲いかかる。
「あ”っ、ああ”ッ!! やめ、やめてぇ・・・! お願い、お姉ちゃんをッ!!」
「そろそろ終焉を迎えねばのう。これよりオメガヴィーナスの、処刑を始めようぞ」
亀甲縛りにされた白銀の光女神を、身の丈以上はある悪魔の掌が鷲掴む。左手は上半身を。右手は下半身を。
意識を失っている天音に、抵抗できるはずもなかった。仮に覚醒したとしても、〝オーヴ”製の縄で、それも縛姫によって緊縛されたオメガヴィーナスに、脱出は不可能だ。
白銀の光女神を抹殺する包囲網は、十重二十重に完成している。
「まずは『純血』。オメガヴィーナスの血を・・・とことん搾り尽してやるわいッ!!」
オメガヴィーナスの背中には、紫水晶で出来た刃が3つ、突き刺さったままだ。腹部には、結晶によって貫通した穴さえ開いている。
右の太ももを抉り抜いた穴は、さらに大きかった。アメジストの剣で貫かれたのだ。今のオメガヴィーナスは、オメガ粒子を失って苦しんでいるだけでなく、肉体の損傷も激しい。
そんな傷だらけの美女神を、巨大な悪魔が力の限りに握り潰したら・・・・・・
「ダッ・・・・・・ダメぇッ~~~ッ!!! お姉ちゃんがッ・・・死んでしまッ!!」
「ヒョホホホホォォッ――ッ!! 派手に『純血』を撒き散らせッ!! オメガヴィーナスぅぅッ~~ッ!!!」
ギュウルルルルルウウウッッ・・・・・・ッ!!!
オメガヴィーナスを握り掴んだ〝悪魔の掌”が、雑巾を搾るかのように白銀の肢体をねじり回した。
「ッんう”ッ!!? ガア”ッ!! ・・・ぅあああア”ア”ア”ッ~~~ッ!!! ウギャアアアア”ア”ア”ッ―――ッ!!!」
カッ、と瞳を開いた天音は、獣のような絶叫を迸らせた。
うっすらと腹筋の浮かんだ、くびれたウエストがギュルリと一回転する。
無慈悲な〝ディアボロハンド”に捻じられ、オメガヴィーナスの下半身は、360度旋回していた。
「ウアアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! アア”ッ、ぐアア”ッ!! はアぎゅウ”ッ!! お腹ァ”ッ!! お腹がァ”ッ!! ・・・・・・捻じィ”切れェ”ッ・・・るゥゥ”ッ~~~ッ!!!」
ブシュシュッ!! ブジュウウ”ッ!! ブシュウウゥゥッ―――ッ!!!
白銀と紺青の肢体から、鮮血のシャワーが噴霧される。教会の聖堂内を、赤く染め上げていく。
普通の人間なら、むろん即死は免れないだろう。しかし四乃宮天音の身体には、いまだオメガ粒子がかすかではあっても残っている。強靭なオメガヴィーナスは、捻じり回され、大量に失血しようとも死ぬことができない。
「キヒィッ!! ヒョホホホオオォッ!! さすがに頑丈じゃのう、オメガヴィーナスッ!! じゃがどこまで耐えられるかなッ? 伝説の白銀の戦士が、深紅に染まってゆくわいッ!!」
「ぐあア”ぅッ!! ウガあ”ッ、アア”ッ――ッ!!! 捻じれェ”ッ・・・!! 捻じれッ・・・てぇ”ッ!! あぎゅうう”ウ”ウ”ゥ”ッ~~~ッ!!! こんなァ”ッ!! こんッ・・・はああ”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」
スレンダーな天音のボディが完全に一回転しているというのに、〝悪魔の掌”は容赦なくその完璧なプロポーションをさらに捻じっていく。
背中に埋まっていた鋭利な紫の結晶が、噴き出す鮮血とともにたまらずジュボリと抜け落ちた。
腹部や、右脚の太ももに開いた穴からは、グブグブと泡の混ざった血が溢れる。まさしくオメガヴィーナスは、雑巾のごとく『純血』を搾り取られていた。〝ディアボロハンド”が捻じり回すほどに、ブシュブシュと乙女の肉体から鮮血が霧を吹く。
「おねえッ・・・・・・ちゃッ・・・・・・!!」
目前で展開される地獄絵図に、郁美は注がれ続ける肉悦の愛撫さえ、数瞬忘れた。
激痛に苦しみもがき、美貌を歪ませたまま・・・オメガヴィーナスは血飛沫を撒き散らした。聖堂に、赤い雨が降る。体内の三分の一は、血を流したのではないか。
輝くような白銀のボディスーツは、おぞましい紅色に変色していた。
瞳を見開き、外れそうになるまで顎を大きく開いて、天音は再び意識を失っていた。
「ふむ。これ以上は、あまり『純血』も搾り取れぬか。まあよいわ」
想定通り、といった調子で骸頭は呟く。〝悪魔の掌”が、闇に溶けるように掻き消えていく。
もはや緊縛の必要はない、そう悟った縛姫が〝オーヴ”を含んだ麻縄をほどく。亀甲縛りから解放された乙女の肢体は、力無くズルリと縄目から抜けた。
己の血に濡れたオメガヴィーナスのグラマラスボデイは、頭からぐしゃりと、教会の床に落下した。
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