オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 【究極の破妖師、最後の闘い】

草宗

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66、連戦

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 教会内には、美乙女の悲痛な叫び声が響き続けていた。
 顔も、腹部も、脚も、頭も・・・。天妖の絶斗との肉弾戦で、オメガヴィーナスは何度も何度も痛烈な打撃を浴びせられた。〝無双”の虎狼のような、洗練された格闘術ではない。ただ、殴り、蹴る。単純な絶斗の攻撃は、しかし凄まじいパワーとスピードで放たれるため、どれもが必殺技のようなものだった。純粋な身体能力で、オメガヴィーナスを上回っていたのだ。
 
 リンチまがいに蹂躙された挙句、白銀の光女神はトドメともいうべき、暗黒の光線を撃ち込まれていた。
 金色に輝く、胸の『Ω』の紋章。オメガ粒子が集中したその場所を、灼熱の破壊光線が休む間もなく焼き焦がす。
 
「うああああ”あ”ア”ア”ッ~~~ッ!!! あぐう”ッ!! んはあ”ア”ッ!? む、胸がァッ――ッ!! と、溶けてしまう”う”ゥ”ッ――ッ!!」
 
 白銀のスーツと黄金のマークには、すでにわずかな綻びがある。先程、絶斗に右胸を揉まれた時。少年妖化屍の指は、特殊繊維で出来た生地に容易く穴を開けていた。
 その5つの穴を中心として、Dカップのバストを包んだスーツはどんどんと燃え溶けていく。
 ジュウジュウと黒い煙が立ち昇り、穴の大きさが広がる。『Ω』の紋章の半分は、焦げた炭と化した。
 天音の、丸く、白く、形のいい乳房は、その右半分がほとんど白日のもとに晒されつつあった。
 
「あははっ、すごくキレイなオッパイじゃん! 女神を名乗るだけのことはあるよね。オメガ粒子をゼロにしたら、たっぷり愛撫して遊んであげるよ」

 捕まえた蝶の美しさに感嘆するかのように、少年は無邪気に笑う。だが、おかっぱ頭の下で光る細い両目は、明らかな色欲に歪んでいる。絶斗は卑猥な視線で、露出したオメガヴィーナスの胸を凝視しているのだ。
 
「あはあ”ア”ッ・・・!! うああああ”あ”ア”ッ――ッ!!! ダ、ダメッ・・・!! か、身体がッ・・・オメガヴィーナスの、身体がッ・・・滅びてしまうぅッ~~ッ!!!」

「おまえはもう終わりだよ、オメガヴィーナス。まず動けなくして・・・死ぬまで犯し尽してやる。せっかく殺すんなら、その極上の身体をヤらなきゃ勿体ないよね?」

 外見には、到底似つかわしくない絶斗の台詞。だが、器は少年でも、絶斗の中身は残酷な妖魔に違いなかった。光属性の究極戦士に勝利するだけでは飽き足らず、その瑞々しい肉体を性処理の道具として貪るつもりなのだ。
 
 姦淫される・・・それは四乃宮天音にとって、二重の敗北を意味している。
 女性として、貞操を奪われる敗北と・・・オメガヴィーナスとして、『純潔』を散らされる敗北。
 オメガ粒子と天音とを繋ぐためには、『純潔』を守らねばならなかった。凌辱を受けることは、すなわちオメガスレイヤーにとっては弱体化を招くこととなる。
 ただ恥辱を与えるのみでなく、物理的に天音を『死』に近付ける・・・妖化屍によるレイプは、そのままオメガヴィーナスの処刑となるのだ。
 
「あはははっ・・・! やっぱりこのボクが・・・最強だったね!」

 絶斗の両手から発射される漆黒の光線が、射出の勢いを増す。
 キレイに円を描かれたように、天音の右乳房は完全に露出していた。さらに黄金のマークと、純白のコスチュームとが溶けていく。穴が広がっていく。
 
「いやああア”ア”ア”ッ~~~ッ!!! おねえちゃァッ―――んんッ!!」

 涙を散らして郁美が叫ぶ。姉であり、最強のヒロインであるはずのオメガヴィーナスが、敗れる。そう覚悟を決めたのも、無理はなかった。
 
 だが、急所である『Ω』の紋章に暗黒の光線を浴びながら、天音の瞳には強い光が灯っていた。
 長椅子の残骸の上で、大の字に仰臥していた肢体が動く。開いていた両脚が閉じられ、ピンと一直線に揃えられる。両腕はこれも一直線となるよう、真横に広げられた。
 まるでオメガヴィーナス自身の身体が、『十』の字を描くような。
 その姿を見た瞬間、地獄妖・骸頭の脳裏に記憶が蘇る。あれは――初めて天音と闘った、山中。4年半前の出来事。
 
「いかんッ!! 絶斗よ、気をつけよッ!! そやつの必殺技ッ・・・!!」

「〝クロスッ・・・ファイヤーァァッ!!”」

 ガカァッ!!!

 怪老の台詞を掻き消す、爆発的な光の奔流。
 十字架の形を模したオメガヴィーナスの全身が、自ら発光する。眩い閃光は教会内部を真っ白に塗りつぶした。
 圧力を感じるほどの、光の氾濫だった。人間の郁美ですら、瞳に刺さるフラッシュに思わず呻く。まして死者である妖化屍ともなれば。
 
「ウギャアアアアァァッ――ッ!!!」
 
 誰のものともわからぬ悲鳴が、あちこちからこだました。ボボボンンッ!! と無数に爆発が起こり、教会内に新たな光と熱を生み出す。
 あらゆる魔を滅ぼす、聖なる光の放射・・・それがオメガヴィーナス最大の必殺技〝クロス・ファイヤー”。
 
 ようやく白光の刺激が収まり、祭壇上に転がる郁美が、チカチカする瞳を聖堂の中央に向けたとき。
 立っていた者は、鮮やかな青のケープを翻した白銀の女神と・・・おかっぱ頭の少年だけであった。
 
「・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・!!」

「・・・なるほどね。たくさんエネルギーを使うから、こんな技があっても、温存してたんだ」

 もっとも間近で被弾したはずなのに、聖光の照射すら〝覇王”絶斗には通用しないというのか。
 悲鳴が、郁美の口から漏れかけた。両肩で息をする天音とは対照的に、少年妖化屍は平然と立ち尽くしている。
 
「このボクにこんなことしやがって・・・ッ! ・・・おまえ、許さないからな・・・ッ・・・」

 糸のように細い両目が吊り上がる。それと、同時だった。
 ゴボリと鮮血の塊が絶斗の口を割り、1mほどの身体がゆっくり後ろに倒れていく。
 どしゃりと崩れ落ちた〝覇王”の両目は、白く裏返っていた。思い出したかのように、全身からシュウシュウと白煙が昇る。
 全身に叩きつけられた〝クロス・ファイヤー”の光は、絶斗の意識を遠き彼方にまで吹き飛ばしていた。
 
「・・・恐ろしい・・・敵だったわ・・・」

 少年妖化屍の動きが止まったのを確認し、ボツリと天音は呟いた。
 勝った、と言ってもいいものか。純粋な身体能力で圧倒されるなど、オメガヴィーナスになって初めての経験だった。いや、そもそも最強のオメガスレイヤー以上のスピードやパワーを持つ存在など、考えたこともない。想定し得ない、有り得ない存在なのだ。
 だが現実には・・・いた。
 奇跡のような存在であるのは、確かだろう。しかし、オメガヴィーナスと互角以上の実力を持つ妖魔は、この現世にいたのだ。絶斗が子供らしい不用意さで、油断し切っていなければどうなっていたことか・・・
 
「ようやくオレの番だな」

 教会に響く低い声音に、青ケープを羽織った両肩がビクンと上下する。
 
「・・・・・・虎狼ッ!!」

「貴様の必殺技は、オレも以前に知っている。容易く通じると思うなよ」

 肥大した筋肉を包む獣の毛皮と、青みがかった弁髪。
 大陸系の武人を思わせる巨漢が、絶斗と入れ替わるように光女神の眼前に立った。〝無双”の虎狼。天音たち姉妹にとって父母の仇であり、幾度も激闘を繰り広げた因縁の相手。
 
「昼間のオレと、同じとは思わぬことだ。もはや、なりふり構わぬ。今日。この場で。どんな手を使っても貴様を999人目の獲物とすると、オレは決めた」

「・・・わかっているわ。あなたが違うということは」

 アーモンド型の魅惑的な瞳が、吸い寄せられるように虎狼の右手を鋭く見詰めた。
 ゴツゴツとした掌が握るのは、鋼鉄を束ねた長い柄。虎狼愛用の武具は、槍とは少し違っていた。刃物がついた穂先の部分が、十字状になっている。縦横に鋭利な刃があるために、ヒットポイントが広く、「突く」だけの槍とは違って「切る」「薙ぐ」「引っ掛ける」などの攻撃も可能だろう。この形状の長柄の武具は、戟と呼ぶのがより相応しい。
 その戟の、十字状の穂先が緑色に輝いている。
 この場の虎狼が、以前と比べものにならないほど危険なのは、そのためだった。〝オーヴ”製の戟。反オメガ粒子で作られた緑の穂先は、オメガスレイヤーに触れた瞬間、彼女たちが誇る鉄壁の防御力を奪い去ってしまうのだ。
 
「けれど、私もさっきとは違うわ・・・ッ!」

 絶斗戦での疲労を隠すためか、最強の破妖師として強がるためか。
 いまだ肩で息をしていても、オメガヴィーナスは両手を腰に添えて己を大きく見せた。強く、美しいスーパーヒロインらしきポーズ。その姿が、深いダメージにも関わらず、天音の戦意がまるで落ちていないことを示している。
 
 そもそもオメガヴィーナスがこの教会に運び込まれたのは、〝オーヴ”の戟を持った虎狼に敗れたためだ。しかし、その敗北が「わざと」であったことは、天音自身の口から語られている。
 全力を開放した白銀の光女神と、〝オーヴ”戟を得た虎狼。
 本当に強いのはどちらなのか、闘ってみなければわからない・・・
 
「いくぞ」

 戟を握る武人の右手に、血管が浮き出る。充血した鋭い眼がカッと見開く。
 小細工なし。真正面から虎狼は突っ込んだ。踏み込む脚の威力だけで、荘厳な聖堂全体がグラグラと揺れる。
 
「ッ!!」
 
 頭上から叩き潰すか、横に切り裂くか、真っ直ぐ突くか。
 砲弾並みの虎狼の動きも、オメガヴィーナスには見えている。視線を集中する。戟の軌跡に。変幻自在の虎狼の斬撃に、どう対処するか。刹那の間に交錯する、攻撃と防御の駆け引き。
 
「ホホホホッ!! オメガヴィーナスッ!! もらったァッ――ッ!!」

 邪魔が入るはずのない1対1の闘いに、魔女の哄笑が割って入ったのは、その時であった。
 翻る、紺青のケープの背後。天音の後方から襲い掛かったのは、オレンジのソバージュを振り乱した熟女の妖化屍。
 
「この顔を潰した恨みィッ!!・・・ただ殺すくらいじゃ許さないからねェッ~~ッ!!」

 顔面中央をクレーターのように陥没させた、人妖〝妄執”の縛姫が叫ぶ。
 全身からほのかに昇る煙が、〝クロス・ファイヤー”の効力を示している。だが、怨恨と憎悪は、聖なる光のダメージなどものともせずに女妖化屍を衝き動かす。〝妄執”の通り名どおり、四乃宮姉妹への復讐だけが縛姫の脳裏を占める全てだった。
 
 細かく波打つオレンジの髪が、一斉に長く伸びる。投網のように大きく広がり、背後からオメガヴィーナスを包もうとする。
 妖化屍としての身体能力は、せいぜいが中の上クラスといった縛姫だが、こと緊縛に関してはスペシャルランクだった。捕獲されたが最後、容易には脱出できない。拘束力の強さだけは、虎狼よりも、絶斗さえも、上回っているのが縛姫という妖化屍だ。
 
 その緊縛の網が、白銀の光女神に迫る。襲撃する虎狼に、タイミングを合わせて。
 前方からは〝オーヴ”の斬撃。後方からは緊縛のオレンジ髪。
 六道妖の恐るべき挟み撃ちが、オメガヴィーナスを噛み砕かんとする。
 
「くうゥッ!!」

 緑色に妖しく光る戟の穂先が、一直線に突き出される。ギリギリまで、虎狼の攻撃が放たれるのを白銀の光女神は待った。
 身を捻り、背後を振り返りながら、天音は〝オーヴ”の突きを避けた。メギィッ、と音がして、十字の刃が左の脇腹をかすめる。肋骨が奏でる悲鳴と痛み。その程度の犠牲など覚悟していた美乙女は、鋭い苦痛を無視した。
 
 鼻先にまで、オレンジ髪の網は迫っていた。厚めの、艶やかなピンク色の唇が尖る。勢いよく、オメガヴィーナスは吐息を吹き出した。
 
 突風。ただ、強い風、というわけではない。オメガヴィーナスが吐き出す息には、聖なる光が含まれている。
 その名を〝威吹”。
 紛れもない光女神の技のひとつが、広がる投網をまとめて吹き飛ばす。のみならず、顔面陥没の女妖魔をも、凍てつく光の烈風が飲みこんでいく。
 
「ぎいィッ!? ぎゃああ”ッ、うぎゃあああア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!」

 猛烈な寒さと、光による灼熱。そして突き刺さる風の威力に、紫のドレスを纏った縛姫が悶え踊る。苦しみながら、木の葉のごとく軽々と飛ばされる。
 
「貴様ッ!!」

 虎狼が吼えたときには、戟の柄の部分、〝オーヴ”の宿らぬ鋼鉄の柄を、素早くオメガヴィーナスの左手に握られていた。なんという速さ。オメガヴィーナス、やはり貴様こそが本当のバケモノだ。〝無双”の脳裏に、怒りと焦りと称賛が同時に沸き起こる。
 
「愚か者めがァッ~~ッ!! ヌシを抹殺する舞台は、とっくに完成しておるんじゃあッ!!」

 もっとも遠く離れた長椅子の影から、飛び出したのは〝百識”の骸頭であった。
 聖徳太子が生まれる前から存在するこの怪老は、光属性の破妖師の強さを知っている。誰よりも恐れている。だから迂闊には絶対に近付かなかった。
 距離を置いても攻撃できるよう、常に準備しているのが魔術と科学を識るこの老妖魔。
 両手に抱えているのは、携帯用のバズーカ砲だった。その砲身の内部で、緑色が発光するのをオメガヴィーナスの瞳は見透かす。
 
 骸頭が用意した、対オメガヴィーナスの最新兵器は、〝オーヴ”の砲弾を装填したロケットランチャーだった。
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