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41、隙
しおりを挟む『キャバクラ シーサイド』に響く絶叫が、聖司具馬を絶望に叩き落としていた。
悶え苦しむ叫びの主は、蒼碧の水天使オメガセイレーン。反オメガ粒子ともいうべきA.O.V.=〝オーヴ”をさんざんに浴びた妖艶な美女に、すでに反撃の力は皆無であることは明らかだった。
オレンジ色の髪が網となって、大の字でセイレーンを磔にしている。だが、そんな拘束などなくても、瀕死のセイレーンは指一本満足に動かせぬだろう。
「キーッヒッヒッヒィッ!! じっくりと切り裂いてくれるぞォ、オメガセイレーンッ! オメガスレイヤー第一の敗死者はヌシじゃあ!」
乳房を背中から貫いた杖で、地獄妖・骸頭は徐々にセイレーンの胸を引き裂いていく。
前後から噴き出す鮮血で、スレンダーな肢体は深紅に染まっている。
純血・・・即ち血を失うことは、オメガスレイヤーとしての弱体化を意味する。ただ身体的な死だけではない、もっと根源的な破滅が、セイレーンには刻一刻と迫っていた。
「ホホホ・・・イク? イっちゃうのかしら、セイレーン!? ここで昇天しちゃったら、いよいよお前もオシマイかねェ?」
股間の秘窟へと挿入した大蛇を、人妖・縛姫は激しく出し入れさせた。
純潔であることもオメガの戦士として重要なファクターになる以上、性的な凌辱も確実にセイレーンを弱らせていく。〝オーヴ”によって大幅に減らされたオメガ粒子が、さらに強制的に引き剥がされていくのだ。
ゾリゾリと、蛇の鱗が膣襞を擦りあげた。ビラビラの内肉に点在する過敏な箇所を、無数の鱗が逆撫でるのだ。子宮奥にまで突かれるだけでなく、抜かれる際にも強烈な快感が下腹部で湧きあがる。
「ふはア”ァ”ッ・・・!! へぶう”ゥッ・・・!! ェ”・・・ア”ッ・・・!!」
まともに声を放つことさえ、セイレーンこと藤村絵里奈は出来なくなっていた。
白目を剥き、涎を垂らし・・・胸を抉られる激痛と、破壊的な快楽に翻弄されるのみ。
鮮やかな紺碧のコスチュームに身を包んでいても、オメガセイレーンの実態はコスプレしたただのキャバ嬢に他ならない。なぜなら、すでに超人的な身体能力も、水を操る異能力も使えないのだから・・・。
「プルプルしてきたわねェ!? もうダメ? イクのね? いかにもヒロインって格好をしてるけど、お前はただの淫乱なメス豚よォ! ホホホッ、なにもかもぶちまけなさいッ、ブザマな水天使サマッ!」
ゴボオオ・・・グボオァ・・・ゾリゾリィッ・・・ゴリィィッ!!
強く深く、激しい巨蛇のストローク。じっくりと、しかし長々とペニス代わりの緑蛇はセイレーンの肉壺を刺激し続けた。じわじわと湧きあがる愉悦が積み重なる。たった一回のグラインドで、子宮口から陰唇まで、過敏なポイントを一気に擦りあげられる。その間も、乳房に噛みついたもう一匹の縛蛇は尖った乳首をレロレロと愛撫した。
究極と呼ばれた聖戦士は、いまや身動きもできぬ格好の肉人形だった。
抵抗不能なモデル体型を、二匹の蛇は成すがままに貪り尽くす。
「あぎィ”ッ!! ・・・ひあ”ァ”ッ!! ・・・ィ”ッ、ェ”ア”ッ!! んあああ”ア”ッ――ッ!! ふェア”ア”ア”ッ~~ッ!!」
我慢する、という意識すら、今のセイレーンは持てなかった。鮮やかな青のスーツに包まれたスーパーヒロインは、意志すら満足に保てない。
姿だけは勇ましいまま、法悦の刺激を無防備に浴びてオメガセイレーンは呆気なく陥落した。
ぶしゅッ!! ぷしゅしゅッ!! ぶしゃあああッ・・・!!
「アアア”ッ・・・あああ”ア”ア”ッ――ッ!! ァァああァあ”あ”ア”ッ~~・・・ッ!!」
紺青のフレアミニの中央から、半濁の女汁が飛沫をあげる。
甲高い喘ぎとともに、ガクガクと痙攣するオメガセイレーン。
「ホーッホッホッ!! 惨めッ!! イッちゃったのねェ~、セイレーンッ!! こんなに激しく潮を吹いて・・・究極の破妖師さまともあろう者が、なんて惨めなの!?」
「ケヒッ、ケヒヒヒィィッ――ッ!! あと少し! もうほんのちょっとでセイレーンは死ぬッ! 六道妖がオメガスレイヤーを凌駕する、記念すべき瞬間じゃあ!」
二体の妖化屍の哄笑も、もはや水天使には届いていなかった。
瞳を裏返し、ヒクヒクと震えながら、セイレーンの意識は弾け飛んでしまっている。自然に開いた口から、トロトロと透明な涎が溢れこぼれた。
ナンバー1キャバ嬢にまで登り詰め、青のスーツとケープとがよく似合った妖艶な美戦士が、今、最期のときを迎えようとしていた。
「もう、限界だ」
無理矢理に、司具馬は言葉を搾り出した。
「オメガセイレーンの・・・絵里奈さんの、命を無駄にはできない。いくぞ」
「待って! 嫌よッ、私はイヤ! 絵里奈さんを見捨てるなんて、私は絶対にできないわッ!」
「オレだって嫌だ。だが」
己の甘さが、司具馬は歯痒かった。いつの間に、こんな惰弱になったのかと、呆れ果てる。
もうとっくに、オメガセイレーンのことは諦めねばならなかった。水天使に闘う力はなく、自分ひとりに対し敵は六道妖がふたり。藤村絵里奈を犠牲にして四乃宮郁美だけでも助けられれば、御の字と言うべきだ。
しかし、郁美の切実な叫びと、司具馬の奥底に眠るかすかな希望とが、逃げるべき脚を止めさせた。もしやセイレーンを助ける、奇跡が起こるのではないかと。
(・・・もう無理だ。骸頭と縛姫の手によって、オメガセイレーンは完全に破壊されてしまった・・・。逆襲はない。純血と純潔をも穢され、残る純真・・・心が折れた瞬間に、絵里奈さんは死ぬ。いや、あれほどオメガ粒子を失った身体では、心が折れずとも肉体に限界が・・・)
「オメガセイレーンは、もう死んだんだ」
「なに言ってるの!? まだ生きてるッ! 絵里奈さんは、まだ生きてるじゃんッ!」
「わからないのか!? 絵里奈さんの命はヤツらの掌の上だッ! その気になれば一瞬で潰されるッ! 次に狙われるのは、郁美なんだぞ!」
「わからないわよッ! 絵里奈さんはまだ生きてるのよッ!? 殺されてなんかいないわッ、あいつらはオメガセイレーンを斃せていないッ!」
「バカな! こうしている間にも、天音にも脅威が迫って・・・ッ!?」
無駄な押し問答だと、司具馬は思った。いっそ、両腕に抱いた郁美を、強引にこのまま連れ去ろうかと。
ふと思考を巡らせたのは、この男にいまだ冷静な判断力が残っていたからこそ。
そして、四乃宮郁美の必死な言葉が、きっかけとなってくれたからこそ。
(・・・確かに・・・あいつら、なぜいまだに絵里奈さんを殺せていないんだ?)
当初は漠然と、なんらかの理由が隠されているとばかり思っていた。相手は地獄妖〝百識”の骸頭。六道妖の司令塔は、策を弄して当然だ。
だが、この状況でオメガセイレーンの命を引き延ばすメリットがあるのか?
セイレーンをじわじわと嬲り殺して愉しむ。そういう悪趣味な発想が、妖化屍にあってもおかしくはない。しかし、今はセイレーン以外に郁美という極上の獲物がいるのだ。オメガスレイヤーの抹殺が目的というならばすぐに蒼碧の水天使を処刑して、有効な人質となる郁美の拉致を実行するべきだ。
それなのに、いまだに無抵抗のセイレーンを、始末できずにいる。
「殺して」いないのではない。「殺せて」いないのだ。
(こいつら・・・! 自分たちでも気付いていないうちに、力が落ちている・・・のかッ!?)
オメガ粒子を大幅に消滅させられた今のセイレーンは、普通の人間の生命力とほとんど変わらない。
そんな絵里奈を絶命せしめていないのならば・・・骸頭も縛姫も、妖化屍本来の能力を発揮できていないのではないか!?
(なぜだ? 特に攻撃を受けたわけでもないヤツらが、なぜ・・・? だが、その推論が正しければ)
「郁美」
両腕に抱いた女子大生に、黒ずくめの青年はそっと語り掛けた。
真っ直ぐに見つめ合う。恋人と瓜二つの美貌の妹は、思わずドキリとするほど美しかった。
真摯な、瞳だった。
イマドキの可愛らしい女子大生、ではあるが、真剣になった表情は究極戦士の姉とますますそっくりだった。
「イチかバチか、絵里奈さんを救えるかもしれない。だが、失敗したら、郁美まで危険に晒すことになる」
「もしかして、私に許可をとるために訊いているの?」
「オレに与えられた役目は、君を守ることだ」
「考えるまでもないわ。お願い。私に構わず、一刻も早く絵里奈さんを助けてッ!」
「・・・すまん」
そっと冷たい床に、美麗な女子大生を司具馬は降ろした。
「すぐに、戻ってくるよ」
言い終わるより早く、黒ずくめの肉体は全力で駆け出していた。
「はァ?」
先に反応したのは、人妖〝妄執”の縛姫だった。
主武器である、両腕代わりの緑の大蛇。そしてオレンジ髪の緊縛は、セイレーンへと向けられている。残る髪の毛を、網のように広げて迎え撃つ。
オメガスレイヤー以外の『水辺の者』など、妖化屍の相手ではない。当然縛姫も、走り迫る司具馬に脅威を覚えるはずもなかった。
だが、気付いた。
司具馬の動きに、緊縛の髪の網は追いつけなかった。
速い。予想より、ずっと。黒い影は飛燕のごとく。
それよりなにより、己の動きが驚くほどに鈍くなっている――。
グシャアアアッ!!
驚愕する縛姫の顔面。陥没した顏の中央に、司具馬の飛び膝が直撃した。
「げぱああッ!! ギャッ・・・!!」
「なッ!? き、きさッ・・・!!」
有り得ない事態に、皺だらけの怪老が狼狽する。
無理もなかった。人間が妖化屍に挑むなど、ウサギがライオンを襲うようなもの。しかも勝っている。司具馬の並外れた格闘術以上に、己たちの能力が大きく削がれていることに驚く。
「身体が・・・重いッ!? なんじゃあッ、一体なぜこんなッ・・・!?」
「・・・圧倒的だったが故に、気付けなかったようだな」
〝オーヴ”の一撃により、オメガセイレーンと六道妖二体の闘いは一方的となった。全力をほとんど出すことなく、骸頭も縛姫も、蒼碧の水天使を容易く蹂躙できた。
だから二体は、自分たちの身に起きた異変がわからなかった。まともに闘っていれば、徐々に力が落ちていく非常事態に気付いただろう。
得意の黒魔術を駆使する余裕は、骸頭にはなかった。
人間相手ならば肉弾戦であっても敵ではないが、今の骸頭に本来の力はなく、一方の司具馬は『水辺の者』きってのエリートだ。
ドオオンンッ!!
「ごぼアァッ!! ・・・お・・・のれェッ・・・!!」
地獄妖の右手が心臓を毟ろうとするより速く、司具馬の豪打が皺だらけの顔面に撃ち込まれていた。
「・・・お前たちが、接近戦タイプの妖化屍でなくてよかったぜ」
膝から崩れる――と見えた瞬間、骸頭は耐えた。態勢を立て直し、一気に後方へと跳ぶ。
その隙に、セイレーンを縛っていたオレンジの網を、司具馬は切り裂いた。息も絶え絶えの青い破妖師が、青年の胸に抱かれる。
「死人同然のセイレーンを、決死の想いで奪還したか! たかが人間の分際で、我らに歯向かうとはよほどのウツケと見えるのう!」
一度遅れを取ったからといって、〝百識”の骸頭に怯えはなかった。現時点の戦闘では司具馬に分があるといっても、その上下関係は一時的に過ぎないことを互いが理解している。
距離を置いたまま、睨み合う。青の戦士を抱いた司具馬と、鼻から血を垂らす不気味な妖魔。
敢えて二度目の交戦を、骸頭は望まなかった。
無理をする必要は、ない。その余裕が、オメガセイレーンへの執着をひとまず妖化屍に諦めさせた。
「小僧、ヌシのことはよく覚えておくぞ! 今回はセイレーンを返してくれるわ。原因もわからぬうちに力を封じられた今、無謀を犯すのは愚の骨頂じゃて」
ヒョッヒョッと皺だらけの怪老は笑う。絶命寸前まで追い詰めた水天使を、奪われたとは思えぬ陽気さだった。
「人間としては、なかなかの力をもっておるのう、小僧。じゃがぬかったな。ふたりも一度に守れぬ、とはヌシ自身が吐いたセリフではなかったかな」
骸頭の嘲笑に、もうひとつの笑い声が重なる。
振り返る司具馬の視線の先に、こちらも鼻血を垂らした〝妄執”の縛姫が立っていた。
網のごときオレンジの髪は、白黒ボーダーの長袖Tシャツに身を包んだ、美貌の女子大生に絡みついている。
「ッッ!!」
「オメガセイレーンの息の根を止められなかったのは残念だけど・・・こっちの獲物も悪くないわ。〝オーヴ”の威力もわかったし、ここは引き下がってあげましょう」
司具馬の脚が、全力で地を蹴るより速く、二体の妖化屍は飛び去った。
力を弱めたとはいえ、六道妖。それも逆方向に逃げた二体を、重傷のセイレーンを抱えたままで追うのは、あまりに困難。
やり場のない怒りをぶつけた咆哮が、血臭漂う暗い店内に響き渡った。
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