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26、甲斐凛香
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ビリビリと、深紅のドレスの両袖を凛香は引き裂いた。
記者会見の席では淑やかさと華やかさを伴った、令嬢らしき出で立ちであったのが、袖と裾とを破るだけで随分と様変わりする。ノースリーブにミニスカ、といった姿は、くしくもオメガフェニックスに変身した後の格好によく似ていた。
栗色のショートヘアに、猫を思わせる勝ち気な瞳。ひとつひとつは気品すら漂わす端整なパーツを持ちながら、全体としては活発なイメージを受けるのが甲斐凛香という少女だった。高貴な家に生まれながら、奔放に、かつ強い使命感を与えられて育つと、きっとこういう美少女になるのだろう。
「おい。それは一体、どういう意味かなぁ?」
「見てわからない? もちろん、動きやすくするためヨ。あんたを、ぶっ飛ばすためにネ!」
吊り気味の視線が、キッと蛙男を睨み付ける。
「聞いていなかったのか、お前? 反抗すれば四乃宮郁美が死ぬって言ってるんだよ! オメガヴィーナスの妹を、眼の前で殺されていいのかぁ!?」
引き裂くような乙女の悲鳴が、〝大蟇”の我磨の背後で響いた。
8人乗りの小型ジェットコースター。仰向けに縛りつけられた女子大生が、猛スピードで振り回されるなか、悲痛な叫びを迸らせる。
黒のインナーTシャツの胸部分は大きく破られ、白のスラックスの股間部もまた、局所が露出するよう切り取られていた。どのキャンパスに通おうともミス○○大学の栄誉に輝くであろう美乙女は、屈辱的な姿で拷問を受け続けている。
四乃宮郁美に処せられたのは、官能地獄であった。
形のいい乳房にも、淡い茂みの生えた股間にも、蛙男特製の催淫粘液がたっぷりと塗り込められていた。姉と違い、郁美は普通の女子大生なのだ。妖魔の媚薬は、二十歳の処女には酷すぎる。
このままの状況があと数十分も続けば、精神の破綻は避けられそうになかった。
「あたしたちオメガスレイヤーに、人質なんて効果あると思ってんの?」
突き放すように凛香は言った。
「一般人を人質にした妖化屍なんて、どれだけでもいたヨ。まっ、みんな次の瞬間には土に還ったけどネ。これがどういう意味か、わかるよネ?」
「クヒュヒュ、四乃宮郁美は一般人ではないだろう? 最強の破妖師の唯一の肉親で・・・少なくともお前たち『水辺の者』の仲間だ。妖魔討伐の貴重な犠牲となった、と簡単には割り切れないよなぁ」
踵を返した半人半妖の怪物は、ジェットコースターの線路に近づいていく。
手の内にあるリモコンを操作する。蛙男の眼の前に、小型ジェットコースターが測ったように停止した。
鎖で仰向けに緊縛された白黒コーデの女子大生は、胸を激しく波打たせていた。
まだ生きている証左であり、同時に、厚塗りされた緑の粘液が激しい愉悦を湧き立たせている証明であった。凛とした瞳が虚空を彷徨っているのは、怒涛のような快感に脳が麻痺しているからに違いない。
「なんだかんだ言っても、お前はオレに歯向かうことはできないさ。ほら、結局いまだにオメガフェニックスに変身しようとしないじゃないか」
「くっ・・・なにをする気ヨ!?」
郁美に迫る我磨に気付き、思わず凛香は声を裏返した。
蛙の口が大きく開き、ドロドロと濃緑の粘液を吐き出す。盛り上がった乳房に、さらに厚く重なっていく。
コチコチに尖ったふたつの突起を中心に、ペタペタとした掌が入念に粘液を染み込ませていく。横臥しても、崩れることなく美形を保つ白い乳房。郁美の胸を遠慮なく、ぐにゃぐにゃと揉み潰す。
「きゃはア”ッ!? ア”ッ・・・!! んんああア”ア”ッ~~~ッ!!」
「クヒュヒュヒュッ!! いいオッパイだぁ! 固さといい、ボリュームといい、感度といい・・・これほどの上玉を嬲れる機会も滅多にないなぁ!」
「や、やめなさいっ、このゲス野郎っ!!」
怒りに燃える凛香の視線を無視し、催淫粘液は露出した股間にもドロドロと浴びせられる。
秘裂の縦筋に沿って、蛙の指が濃緑のローションを擦り込む。開かれた股間部を、スリスリと摩擦する。
郁美にとっては、快感を通り越し痛みすら伴うような桃色の電撃であった。
「んああ”ッ!! アア”ア”ッ~~~ッ!! ア”ッ!! ア”ッ!! ア”ッ・・・!!」
「陰唇がピクピクと震えているなぁ! 生意気な小娘のカラダがいい具合に壊れてきたぞ。さあ、胸とアソコ、どっちが気持ちいいかね、四乃宮郁美くん?」
ガクガクとセミロングの茶髪が揺れた。涙の飛沫を散らし、透明な涎を振り撒く。
快楽の洪水に溺れた脳は、とっくにまともな思考など、できなくなっているはずだった。
今の郁美は、悦楽に支配された肉人形・・・それでも容赦なく局部を愛撫する蛙男に、変身前の紅蓮の天使は、怒りのあまりに突撃しようとする。
甲斐凛香の脚がピタリと留まったのは、異変に気付いたからであった。
快楽に身悶え、嬌声を迸らせていた白黒コーデの乙女。その、郁美の悲鳴が聞こえなくなったのだ。
「ッ・・・こいつ・・・」
同じタイミングで嬌声が途絶えたことを悟った〝大蟇”が、忌々しげに言い放つ。
郁美は下唇を噛んでいた。強く、強く。甘い吐息が、漏れ出ないように。
突き刺さる官能の刺激に負けないよう・・・せめて肉体は屈しても心は抵抗するよう、嬌声を懸命に抑えていた。
「ッ・・・!! ・・・ぅ”ッ・・・!!」
ブツッ・・・!!
噛み締めた下唇から、鮮血が噴き出す。
頭を振りながらも、瞳を歪めながらも、声だけは出さぬように必死だった。自分が泣き喚けば、甲斐凛香が苦境に陥るとわかっていたから――。
「勝てなくても、屈しないことはできる」・・・郁美が語った台詞が、〝大蟇”の脳裏に蘇っていた。
「・・・気に入らないなぁ。とことん反抗的な女は大嫌いだよ。ならば、完全に壊れるまでジェットコースターの風を愉しむといいッ!」
蛙男がリモコンのスイッチを押すのと、深紅の女子高生が走り出すのとは同時だった。
「させないッ・・・ヨ!」
ジェットコースターが走り出す。追いすがる凛香が、蛙男の横を通り抜けようとする。
「バカだね! 変身前のお前が、オレに勝てると思ってるのかぁ!?」
「くす。バカはあなたの方だヨ!」
一直線にジェットコースターへと向かう凛香の前に、〝大蟇”は立ちはだかった。
オメガスレイヤーの力を開放していない女子高生相手なら、人外の妖魔が負けるはずがなかった。少なくとも我磨はそう思い込んでいた。
噂で集めた情報と現実との乖離を、蛙男は知ることとなった。
パパパパパンッ!!
拳と脚の連打が、半人半妖の肉体に吸い込まれていた。
〝大蟇”が真っ赤な舌を伸ばそうとした矢先。遥かに速い凛香の打撃が、一瞬にして叩き込まれたのだ。
「ぐぶッ!! ぶッ!!」
「どうせ死ぬんだから教えてあげるネ! 確かに、今のあたしはオメガフェニックス本来から比べたら、パワーもスピードもタフネスもせいぜい10分の1くらいだヨ。だけどそれでも!」
深紅のドレスが旋風となって回転する。蛙男がまばたきする間に。
「簡単にどうにかできると思ったら、大間違いなんだからっ!」
「ぐえええッ!!」
鮮やかなローリングソバットが、〝大蟇”の鳩尾を的確に射抜いていた。
凛香の2倍はあろうかという質量が宙に浮く。催淫の粘液と吐瀉物とが、混ざり合って蛙の口から噴き出した。
我磨にとっての失敗は、よりによって甲斐凛香を襲ったことにあった。最強の破妖師とされるオメガスレイヤーのなかにあっても、純粋な格闘術において紅蓮の炎天使に勝る者はいない。こと変身前に限れば、凛香はもっとも攻撃力の高い戦士といって間違いなかった。
「今、助けるからネっ!」
折れ曲がる蛙男の肩口に手をつき、深紅の令嬢はジャンプした。
跳び箱の要領で、一気に飛び越える。全身のバネと身体能力を見せつけた凛香は、走り出したジェットコースターに追いつこうと駆ける。
蛙の妖化屍にトドメを刺さず、郁美の救出を優先したのは、女子高生戦士のミスであった。
「あっ!?」
あと10cmで郁美の身体に手が届く・・・というところで、凛香の脚は止まっていた。
左の足首に、長く伸びたベロが絡みついている。
「クヒュ、クヒュヒュッ! お前こそ妖化屍をナメるなよ。あの程度で倒せると思ったかぁ!?」
「し、しまっ・・・!!」
〝大蟇”の舌が、凛香の肢体を高々と持ち上げる。
アミューズメントパークの固いフロアに、全力で女子高生の背中を叩き付けた。
「ぐはア”っ・・・!!」
バラバラになりそうな衝撃に、たまらず端整な顏が歪む。
クレーターを思わす陥没が、床に広がった。唾液とともに肺から空気が一気に吐き出され、俊敏な格闘令嬢も動きを止めてしまう。
足首に巻き付いたベロが、急激に凛香の肢体を引っ張った。
瑞々しく張り詰めた身体が、蛙男の元へ引き寄せられる。怪力によって、矢のように飛んでいく。
カウンターの一撃を喰らわせんと、〝大蟇”が拳を引いて待っていた。
「簡単に・・・いかないって、言ってるよネっ!?」
驚嘆すべきは甲斐凛香の身体能力だった。
凄まじい速度で脚から引っ張られながら・・・空中でバランスを整える。待ち構える妖魔に対して、戦闘態勢を完成させる。
「小娘だからって、甘く見ないことネっ!」
「ゲッ!?」
甲高い破裂音が響く。続いて、大きな物体が倒れ込む音。
破れたドレスの裾から伸びた生足が、蛙の顔面に回し蹴りを叩き込んでいた。
無様に濃緑の妖化屍が床に崩れる。ゴロゴロと転がっていく。
「ジャキーンっと! 変身しないからって、あたしに勝てると思ったら大間違いヨ!」
拳法家らしく、キメのポーズをとる深紅の令嬢戦士。確かにこれが空手の試合ならば、凛香の「一本」で勝負アリだった。
背後では、郁美を縛りつけたジェットコースターが、スピードに乗って走り出していた。もう追いつくことが出来ない以上、凛香の狙いは妖化屍殲滅に絞られる。
「郁美には悪いけど、あとちょっとだけ我慢してもらうわ。要は、あんたを倒せばゼンブ終わるんだもん。元々このアミューズメントパークを建てたのも、〝呪いの大樹”に巣食ってる妖化屍を誘き出すためだしネ。多くのひとたちの命を奪った代償・・・この甲斐凛香が払わせてあげるわっ、このケロロ野郎!」
「クヒュ・・・クヒュヒュッ!」
実力の差が明らかになったというのに、しかし、笑い出したのは〝大蟇”の方だった。
「なにヨ、それ? ハッタリなんか通用しないからネ!」
「どうやらオレは、間違っていたらしいなぁ・・・。全ての妖化屍が恐れるオメガスレイヤーが、まさかこれほどの甘チャンだったとは・・・」
手に持ったリモコンを、蛙男はジェットコースターの路線に突き出した。
悲鳴こそ留めているものの、その先には、官能地獄に堕ちた四乃宮郁美が愛の飛沫を降らせている。
「教えておいたよなぁ。スイッチひとつで、四乃宮郁美を縛っている鎖は外れ、あの小娘は宙に投げ出されると。オメガヴィーナスの妹を救いたければ、変身しないだけではダメだ。抵抗をやめ、オレの言う通りに従え」
「はあ? そんなこと、うんって言うわけないで・・・」
「いいや、お前は郁美を助けるためなら、命を差し出すさ。さっきの行動でわかったのだよ。お前は、このオレを攻撃するより、郁美の救出を優先しようとした。オメガヴィーナスの妹がいかに大切な存在か、お前自身が教えてくれたわけだ」
静寂が、訪れた。
猫の瞳で妖化屍を射抜く凛香の表情に、変化はなかった。
ただその額を、一筋の冷たい汗が流れる。
「・・・あたしたちオメガスレイヤーの行動は、ゼンブお前たち妖魔を滅ぼすためのものヨ。そのために最善と思える選択をする。場合によっては、犠牲者が出ることだって厭わないわ」
ふぅ、と大きく美少女は溜め息を吐いた。
ショートヘアを垂らし、勝ち気な瞳を伏せる。
「これでいいでショ? 好きにすればいいわ」
無抵抗を示し、甲斐凛香は構えを解いた。
「クヒュッ、クヒュヒュヒュッ!! 素直でいいぞぉ~ッ、オメガフェニックス! 本来の力を出すことなく、死んでいくといいッ!!」
歓喜に震えるようにうねる舌が、ゆっくりと、棒立ちになった深紅の令嬢に迫った。
記者会見の席では淑やかさと華やかさを伴った、令嬢らしき出で立ちであったのが、袖と裾とを破るだけで随分と様変わりする。ノースリーブにミニスカ、といった姿は、くしくもオメガフェニックスに変身した後の格好によく似ていた。
栗色のショートヘアに、猫を思わせる勝ち気な瞳。ひとつひとつは気品すら漂わす端整なパーツを持ちながら、全体としては活発なイメージを受けるのが甲斐凛香という少女だった。高貴な家に生まれながら、奔放に、かつ強い使命感を与えられて育つと、きっとこういう美少女になるのだろう。
「おい。それは一体、どういう意味かなぁ?」
「見てわからない? もちろん、動きやすくするためヨ。あんたを、ぶっ飛ばすためにネ!」
吊り気味の視線が、キッと蛙男を睨み付ける。
「聞いていなかったのか、お前? 反抗すれば四乃宮郁美が死ぬって言ってるんだよ! オメガヴィーナスの妹を、眼の前で殺されていいのかぁ!?」
引き裂くような乙女の悲鳴が、〝大蟇”の我磨の背後で響いた。
8人乗りの小型ジェットコースター。仰向けに縛りつけられた女子大生が、猛スピードで振り回されるなか、悲痛な叫びを迸らせる。
黒のインナーTシャツの胸部分は大きく破られ、白のスラックスの股間部もまた、局所が露出するよう切り取られていた。どのキャンパスに通おうともミス○○大学の栄誉に輝くであろう美乙女は、屈辱的な姿で拷問を受け続けている。
四乃宮郁美に処せられたのは、官能地獄であった。
形のいい乳房にも、淡い茂みの生えた股間にも、蛙男特製の催淫粘液がたっぷりと塗り込められていた。姉と違い、郁美は普通の女子大生なのだ。妖魔の媚薬は、二十歳の処女には酷すぎる。
このままの状況があと数十分も続けば、精神の破綻は避けられそうになかった。
「あたしたちオメガスレイヤーに、人質なんて効果あると思ってんの?」
突き放すように凛香は言った。
「一般人を人質にした妖化屍なんて、どれだけでもいたヨ。まっ、みんな次の瞬間には土に還ったけどネ。これがどういう意味か、わかるよネ?」
「クヒュヒュ、四乃宮郁美は一般人ではないだろう? 最強の破妖師の唯一の肉親で・・・少なくともお前たち『水辺の者』の仲間だ。妖魔討伐の貴重な犠牲となった、と簡単には割り切れないよなぁ」
踵を返した半人半妖の怪物は、ジェットコースターの線路に近づいていく。
手の内にあるリモコンを操作する。蛙男の眼の前に、小型ジェットコースターが測ったように停止した。
鎖で仰向けに緊縛された白黒コーデの女子大生は、胸を激しく波打たせていた。
まだ生きている証左であり、同時に、厚塗りされた緑の粘液が激しい愉悦を湧き立たせている証明であった。凛とした瞳が虚空を彷徨っているのは、怒涛のような快感に脳が麻痺しているからに違いない。
「なんだかんだ言っても、お前はオレに歯向かうことはできないさ。ほら、結局いまだにオメガフェニックスに変身しようとしないじゃないか」
「くっ・・・なにをする気ヨ!?」
郁美に迫る我磨に気付き、思わず凛香は声を裏返した。
蛙の口が大きく開き、ドロドロと濃緑の粘液を吐き出す。盛り上がった乳房に、さらに厚く重なっていく。
コチコチに尖ったふたつの突起を中心に、ペタペタとした掌が入念に粘液を染み込ませていく。横臥しても、崩れることなく美形を保つ白い乳房。郁美の胸を遠慮なく、ぐにゃぐにゃと揉み潰す。
「きゃはア”ッ!? ア”ッ・・・!! んんああア”ア”ッ~~~ッ!!」
「クヒュヒュヒュッ!! いいオッパイだぁ! 固さといい、ボリュームといい、感度といい・・・これほどの上玉を嬲れる機会も滅多にないなぁ!」
「や、やめなさいっ、このゲス野郎っ!!」
怒りに燃える凛香の視線を無視し、催淫粘液は露出した股間にもドロドロと浴びせられる。
秘裂の縦筋に沿って、蛙の指が濃緑のローションを擦り込む。開かれた股間部を、スリスリと摩擦する。
郁美にとっては、快感を通り越し痛みすら伴うような桃色の電撃であった。
「んああ”ッ!! アア”ア”ッ~~~ッ!! ア”ッ!! ア”ッ!! ア”ッ・・・!!」
「陰唇がピクピクと震えているなぁ! 生意気な小娘のカラダがいい具合に壊れてきたぞ。さあ、胸とアソコ、どっちが気持ちいいかね、四乃宮郁美くん?」
ガクガクとセミロングの茶髪が揺れた。涙の飛沫を散らし、透明な涎を振り撒く。
快楽の洪水に溺れた脳は、とっくにまともな思考など、できなくなっているはずだった。
今の郁美は、悦楽に支配された肉人形・・・それでも容赦なく局部を愛撫する蛙男に、変身前の紅蓮の天使は、怒りのあまりに突撃しようとする。
甲斐凛香の脚がピタリと留まったのは、異変に気付いたからであった。
快楽に身悶え、嬌声を迸らせていた白黒コーデの乙女。その、郁美の悲鳴が聞こえなくなったのだ。
「ッ・・・こいつ・・・」
同じタイミングで嬌声が途絶えたことを悟った〝大蟇”が、忌々しげに言い放つ。
郁美は下唇を噛んでいた。強く、強く。甘い吐息が、漏れ出ないように。
突き刺さる官能の刺激に負けないよう・・・せめて肉体は屈しても心は抵抗するよう、嬌声を懸命に抑えていた。
「ッ・・・!! ・・・ぅ”ッ・・・!!」
ブツッ・・・!!
噛み締めた下唇から、鮮血が噴き出す。
頭を振りながらも、瞳を歪めながらも、声だけは出さぬように必死だった。自分が泣き喚けば、甲斐凛香が苦境に陥るとわかっていたから――。
「勝てなくても、屈しないことはできる」・・・郁美が語った台詞が、〝大蟇”の脳裏に蘇っていた。
「・・・気に入らないなぁ。とことん反抗的な女は大嫌いだよ。ならば、完全に壊れるまでジェットコースターの風を愉しむといいッ!」
蛙男がリモコンのスイッチを押すのと、深紅の女子高生が走り出すのとは同時だった。
「させないッ・・・ヨ!」
ジェットコースターが走り出す。追いすがる凛香が、蛙男の横を通り抜けようとする。
「バカだね! 変身前のお前が、オレに勝てると思ってるのかぁ!?」
「くす。バカはあなたの方だヨ!」
一直線にジェットコースターへと向かう凛香の前に、〝大蟇”は立ちはだかった。
オメガスレイヤーの力を開放していない女子高生相手なら、人外の妖魔が負けるはずがなかった。少なくとも我磨はそう思い込んでいた。
噂で集めた情報と現実との乖離を、蛙男は知ることとなった。
パパパパパンッ!!
拳と脚の連打が、半人半妖の肉体に吸い込まれていた。
〝大蟇”が真っ赤な舌を伸ばそうとした矢先。遥かに速い凛香の打撃が、一瞬にして叩き込まれたのだ。
「ぐぶッ!! ぶッ!!」
「どうせ死ぬんだから教えてあげるネ! 確かに、今のあたしはオメガフェニックス本来から比べたら、パワーもスピードもタフネスもせいぜい10分の1くらいだヨ。だけどそれでも!」
深紅のドレスが旋風となって回転する。蛙男がまばたきする間に。
「簡単にどうにかできると思ったら、大間違いなんだからっ!」
「ぐえええッ!!」
鮮やかなローリングソバットが、〝大蟇”の鳩尾を的確に射抜いていた。
凛香の2倍はあろうかという質量が宙に浮く。催淫の粘液と吐瀉物とが、混ざり合って蛙の口から噴き出した。
我磨にとっての失敗は、よりによって甲斐凛香を襲ったことにあった。最強の破妖師とされるオメガスレイヤーのなかにあっても、純粋な格闘術において紅蓮の炎天使に勝る者はいない。こと変身前に限れば、凛香はもっとも攻撃力の高い戦士といって間違いなかった。
「今、助けるからネっ!」
折れ曲がる蛙男の肩口に手をつき、深紅の令嬢はジャンプした。
跳び箱の要領で、一気に飛び越える。全身のバネと身体能力を見せつけた凛香は、走り出したジェットコースターに追いつこうと駆ける。
蛙の妖化屍にトドメを刺さず、郁美の救出を優先したのは、女子高生戦士のミスであった。
「あっ!?」
あと10cmで郁美の身体に手が届く・・・というところで、凛香の脚は止まっていた。
左の足首に、長く伸びたベロが絡みついている。
「クヒュ、クヒュヒュッ! お前こそ妖化屍をナメるなよ。あの程度で倒せると思ったかぁ!?」
「し、しまっ・・・!!」
〝大蟇”の舌が、凛香の肢体を高々と持ち上げる。
アミューズメントパークの固いフロアに、全力で女子高生の背中を叩き付けた。
「ぐはア”っ・・・!!」
バラバラになりそうな衝撃に、たまらず端整な顏が歪む。
クレーターを思わす陥没が、床に広がった。唾液とともに肺から空気が一気に吐き出され、俊敏な格闘令嬢も動きを止めてしまう。
足首に巻き付いたベロが、急激に凛香の肢体を引っ張った。
瑞々しく張り詰めた身体が、蛙男の元へ引き寄せられる。怪力によって、矢のように飛んでいく。
カウンターの一撃を喰らわせんと、〝大蟇”が拳を引いて待っていた。
「簡単に・・・いかないって、言ってるよネっ!?」
驚嘆すべきは甲斐凛香の身体能力だった。
凄まじい速度で脚から引っ張られながら・・・空中でバランスを整える。待ち構える妖魔に対して、戦闘態勢を完成させる。
「小娘だからって、甘く見ないことネっ!」
「ゲッ!?」
甲高い破裂音が響く。続いて、大きな物体が倒れ込む音。
破れたドレスの裾から伸びた生足が、蛙の顔面に回し蹴りを叩き込んでいた。
無様に濃緑の妖化屍が床に崩れる。ゴロゴロと転がっていく。
「ジャキーンっと! 変身しないからって、あたしに勝てると思ったら大間違いヨ!」
拳法家らしく、キメのポーズをとる深紅の令嬢戦士。確かにこれが空手の試合ならば、凛香の「一本」で勝負アリだった。
背後では、郁美を縛りつけたジェットコースターが、スピードに乗って走り出していた。もう追いつくことが出来ない以上、凛香の狙いは妖化屍殲滅に絞られる。
「郁美には悪いけど、あとちょっとだけ我慢してもらうわ。要は、あんたを倒せばゼンブ終わるんだもん。元々このアミューズメントパークを建てたのも、〝呪いの大樹”に巣食ってる妖化屍を誘き出すためだしネ。多くのひとたちの命を奪った代償・・・この甲斐凛香が払わせてあげるわっ、このケロロ野郎!」
「クヒュ・・・クヒュヒュッ!」
実力の差が明らかになったというのに、しかし、笑い出したのは〝大蟇”の方だった。
「なにヨ、それ? ハッタリなんか通用しないからネ!」
「どうやらオレは、間違っていたらしいなぁ・・・。全ての妖化屍が恐れるオメガスレイヤーが、まさかこれほどの甘チャンだったとは・・・」
手に持ったリモコンを、蛙男はジェットコースターの路線に突き出した。
悲鳴こそ留めているものの、その先には、官能地獄に堕ちた四乃宮郁美が愛の飛沫を降らせている。
「教えておいたよなぁ。スイッチひとつで、四乃宮郁美を縛っている鎖は外れ、あの小娘は宙に投げ出されると。オメガヴィーナスの妹を救いたければ、変身しないだけではダメだ。抵抗をやめ、オレの言う通りに従え」
「はあ? そんなこと、うんって言うわけないで・・・」
「いいや、お前は郁美を助けるためなら、命を差し出すさ。さっきの行動でわかったのだよ。お前は、このオレを攻撃するより、郁美の救出を優先しようとした。オメガヴィーナスの妹がいかに大切な存在か、お前自身が教えてくれたわけだ」
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猫の瞳で妖化屍を射抜く凛香の表情に、変化はなかった。
ただその額を、一筋の冷たい汗が流れる。
「・・・あたしたちオメガスレイヤーの行動は、ゼンブお前たち妖魔を滅ぼすためのものヨ。そのために最善と思える選択をする。場合によっては、犠牲者が出ることだって厭わないわ」
ふぅ、と大きく美少女は溜め息を吐いた。
ショートヘアを垂らし、勝ち気な瞳を伏せる。
「これでいいでショ? 好きにすればいいわ」
無抵抗を示し、甲斐凛香は構えを解いた。
「クヒュッ、クヒュヒュヒュッ!! 素直でいいぞぉ~ッ、オメガフェニックス! 本来の力を出すことなく、死んでいくといいッ!!」
歓喜に震えるようにうねる舌が、ゆっくりと、棒立ちになった深紅の令嬢に迫った。
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