オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 【究極の破妖師、最後の闘い】

草宗

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22、大蟇(おおびき)

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 美女の右手を掴んだまま、蛙男が記者会見の場から抜け出す。
 薄暗い室内で、異変に気付いた者はいなかった。質疑応答はまだ続いているのだ。意識が檀上に向くのも無理からぬことだった。
 
 ふたりが移動した先は、ジェットコースターやメリーゴーランドがある、簡易遊園地ゾーンだった。
 パーティー会場となったゲームエリアとは、同じ室内とはいえやや距離がある。様々な遊具の機械電子音が飛び交うなかでは、なにが起きようが気付かれることはないだろう。
 
「オレたち妖化屍アヤカシも、お前たち破妖師も、一般人に存在を知られるのは得策ではないからなぁ」

 パンツルックの美女の耳元で、蛙男が臭い息を吐いた。
 右手首を捻りあげ、背中に回す。
 一気に肩関節を極められた美女は、たまらず叫んでしまっていた。
 
「ぐああ”ッ!! ――ッ・・・!!」

「クヒュヒュ・・・脆い。やっぱり脆いなあ、お前。オメガスレイヤーも変身前には本来の力は発揮できないという噂は、本当だったようだなぁ」

 背中に回された右腕と肩が、ギリギリと悲鳴をあげる。
 脂汗が、凛とした美貌に浮かぶ。呻き声が漏れそうになるのを、歯を食い縛って美女は耐えた。
 
「まさかこんなところで、最強のオメガスレイヤーに逢えるとはなぁ。しかも変身前の、人間状態で。オレは本当に運がいい」

「ッ・・・なぜッ・・・妖化屍が、こんなところに・・・ッ!?」

「困るんだよなぁ。あの〝大樹”はオレの隠れ家だったのさ。切ろうとするヤツは片っ端から喰ってやったら、〝呪い”の噂がひとり歩きしてくれていたのに・・・。責任者とかいうあの小娘を引き裂くつもりでいたんだが、もっとおいしい獲物が現れたってわけさぁ」

「どうして・・・オメガヴィーナスの正体をッ・・・!?」

「四乃宮天音、あんた有名人だぜ? オレたち妖化屍がどれだけあんたを恐れ・・・憎んでいるのか。わかってないのかなぁ。変身前の姿の情報は、かなり広まっているんだよ。白と黒の服装を好み・・・そそらずにいられない美貌の持ち主だってなぁ」

 白のジャケットとスラックス。インナーの黒Tシャツを着こんだ美女の右腕を、蛙男はさらに捩じ上げた。
 ボギイ”ッ!! と嫌な音色が響き、右の肩が脱臼する。
 
「んうゥ”ッ!! きゃあああッ――ッ!! ア”ア”ア”ッ・・・!!」

「クヒュヒュヒュ! 真の姿になれないとこうも脆いかなぁ、オメガヴィーナス!?」

 絶叫する白い背中を、蛙男は蹴り飛ばす。
 右肩を抑えたまま、もんどりうって茶髪の美女が倒れた。
 
「自己紹介がまだだったなぁ。オレは〝大蟇おおびき”の我磨ガマ。見ての通り、蛙との半人半妖の妖化屍さぁ!」

 男の全身が膨れ上がった、と見えるや、黒のスーツが弾け飛ぶ。
 まさしく、ひとと蛙とのキメラ、だった。
 がっしりした四肢は人間のものだが、濡れ光る濃緑の体表は蛙のものだ。胸から上は、ほとんど蛙そのもの。両生類らしい針目の眼球が、苦悶する美女をギロリと覗き込む。
 
「どれだけ叫んでも、助けは来ないぜ。まぁ、人間が何人集まろうが腹の足しになるだけだがなぁ」

「う”ゥッ・・・! くッ・・・!」

「お前を殺せば、オレも晴れて六道妖の一員になれるかもなぁ。力を開放する前に嬲り殺しにしてやるよ」

 六道妖――。
 その名を聞いた瞬間、白黒コーデの乙女は美貌をあげた。
 明確な怒りが、切れ上がった大きな瞳に灯っている。
 
「お? なんだぁ、その眼は。お前は絶対許さない、とでも言いたそうだなぁ?」

「・・・あなたは・・・いえ、あなたたちは、ゼッタイに許さないわ」

「そういや聞いたことがあるぞ。お前の両親は、六道妖のひとりに殺されたらしいじゃないか。仇討ちの感情が急にムクムク湧き上がりでもしたかぁ?」

 脱臼した右肩を抑え、無言で美女は立ち上がる。
 真珠のような肌が、脂汗で濡れ光っていた。襲っている激痛は二十歳前後の乙女に耐えられるものではないはずなのに、意志の力で抑え込んでいるようだった。
 
「クヒュヒュ! 愚かだなぁ。親の仇もなにも・・・これから自分が死ぬっていうのに」

 蛙との半人半妖が跳んだ。二本の脚で、大地を蹴る。
 アミューズメントパークの天井に届くほどの、大ジャンプ。
 瞳を見開き、白黒コーデの乙女は硬直した。驚くべき、敵の能力。それもあるが、上空から襲撃されるということに、そもそもひとは慣れていない。
 どう避ければいいのか、一瞬で判断できずに固まってしまったのだ。
 
 ドガアアアッ!!
 
 〝大蟇”の我磨が頭から突っ込んでくるのを、もろに茶髪の美女は喰らった。
 くぐもった悲鳴を漏らし、派手に10mは吹っ飛んでいく。
 
「ぐうう”ッ!! ・・・んくッ・・・う”ッ・・・!!」

「本当にお前弱いね。変身する前は、こうもオメガスレイヤーってのは力が落ちるものなのかぁ? これじゃあ普通の人間と変わらないぞ」

 遊園地の床に突っ伏し、小刻みに震える美女に蛙男が近づく。
 茶髪のセミロングを掴むと、片腕のみで易々と吊り上げた。
 
「ああ”ッ・・・あ”っ・・・!!」

「もしかして、四乃宮天音じゃないのかなぁ? それにしてはオメガヴィーナスのことを知ってるのはおかしいし」

 我磨の針目が、眼の前で回っているメリーゴーランドを見詰める。
 誰も乗っていないが、パーティーの盛り上げのためか、全ての遊具は稼働していた。メルヘンな仕様で装飾された木馬たちも、当然のようにクルクルと回っている。
 ユラユラと波打ちながらやってくる木馬のひとつに、蛙男は乙女の美貌を叩き付けた。
 
 ゴガンッッ!!
 
「があ”あ”ッ!! ああ”ッ――ッ!!」

 パッと鮮血の華が咲く。
 セミロングの茶髪を引っ張られ、美女の顔面が木馬から引き剥がされる。鼻血、さらには額からの出血で、端整な美貌はねっとりとした紅に染まっていた。
 切れ上がった大きな瞳に、うっすらと雫が滲んでいる。単に痛いだけではない。顏を潰されるということは、妙齢の乙女にとってはなにより忌むべき行為なのだ。悔しさと悲しさが、どっと押し寄せても無理はない。
 
「うああ”ッ・・・ああ”ッ・・・!!」

「おやおや。顏を傷つけられるのが、そんなに嫌だったかなぁ? そうとわかれば、ますますこの美しいマスクを潰したくなるよねぇ」
 
 声が漏れそうになるのを、懸命にこらえた。白黒コーデの美女が、思わず眉を八の字に寄せる。
 蛙の眼には、続いてやってくる木馬が映っていた。髪を掴んだまま、血に濡れた美貌をグイと突き出す。
 
「いや・・・いやッ・・・いやあッ――ッ!!」

「ダメだね。万が一、お前が四乃宮天音でなくても、このオレに生意気な口を聞いたメスを許すわけないだろ?」

 波打ちながら回る木馬。そのデコボコの側面に、我磨は美女の顔面を押し付けた。
 
 ギャリギャリギャリッッ!! ガリガリッ!!
 
「うわああああ”あ”ッ~~ッ!! ア”ッ!! くあああ”あ”ッ――ッ!!」

「いい声で鳴くなぁ、お前。よし、今度は胸をすり潰してやるよ」

 真っ赤に染まった顏を引くと、今度は黒のTシャツに収まったバストを突き出す。
 二十歳代の乙女に相応しい、弾力と瑞々しさを感じさせる形のいい乳房。
 やってきたのは木馬でなく、カボチャを模した馬車だった。派手な装飾を施した壁に、ふたつの丸みを押し当てていく。
 ガリガリと、摩擦で柔肉が削られる音が、美女の胸部で響いた。
 
「きゃああ”あ”ッ――ッ!! あッ、ああ”ッ~~ッ!! うああ”ッ~~ッ!!」

 蛙男が手を離した瞬間、もんどりうって大地に転がる白黒コーデの乙女。
 顏と胸とを、交互に左手で抑える。脱臼した右腕は、使いたくても動かない。
 メリーゴーランドによる擦り潰し刑に処された美女は、白のスーツが汚れるのも構わず転がり続けた。
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