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21、パーティー
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ざわめく会場のなかで、その美女はひとり視線を集めていた。
決して派手な格好をしているわけではない。その逆で、華やかなパーティーにはそぐわないほど地味な服装だった。目立つ場所にいるわけでもなく、むしろ会場内の壁際にひっそりと立っている。
それでも男たちは、幾度も繰り返し彼女を眺めた。目蓋にその美形を焼き付けるために。
女たちは無視したくとも意識せざるを得なかった。羨望と嫉妬が自然に沸き起こってしまうが故に。
モデルあがりと思われる美女も、選りすぐりのコンパニオンも集まっている豪勢なパーティー会場で、ナンバー1がそこにいることに、誰もが気が付いていた。
「グラスが空いているようですが・・・いかがです?」
カクテルのグラスを手にした男が、勇敢にも声を掛ける。
イケメン、の部類に入る容姿だった。身長も180は越えていようか。
IT関連のベンチャー企業の社長、というその男を、会場の多くの者が見知っていた。つい最近まで、元タレントとの離婚がワイドショーや週刊誌を賑わせていたものだ。
ルックスにも経歴にも財力にも自信があるような、こういう男でもなければ、到底その美女に声を掛けることなどできなかっただろう。
「え? ・・・私、ですか?」
「貴女以外に周囲に誰もいませんよ。それともまさか、未成年ってわけでもないですよね?」
「ん・・・まあ、そうですけど」
白桃のような頬が、瞬く間に真っ赤に染まった。
男性に声を掛けられることが、恥ずかしいらしかった。ナンパされるのは、むろん初めてのことではないが、いつになっても慣れることがない。
しかし男は、美女が照れた理由を勘違いした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。テレビなどで報道されてるような、浮気性の男というのはあくまで捏造ですから。現実のボクは一途なんです」
「は、はぁ・・・?」
「今日の参加者のなかで、もっとも美しいあなたに惹かれただけのことです。元妻との間では、近々示談が成立する手はずですから、あなたは何も気にしなくていいんですよ」
大きな瞳をパチクリとさせながら、美女は言葉を探しているようだった。
透明感のある素肌が、真珠のように輝いている。
髪質がいいためか、茶色に染めたセミロングの髪も、角度によってはゴールドに輝くように見えた。柔らかなウェーブを描き、両肩にかかっている。
すっと高く通った鼻梁に、やや厚みある桃色の唇。口元だけを見れば、ドキリとするほど芳醇な色香が漂っているが、眦が少し切れ上がった魅惑の瞳には、芯の強さを感じさせる。
華やかな美貌とは対照的に、服装は簡素だ。黒のインナーTシャツに清潔そうなホワイトのジャケット。同じく白のパンツルックでまとめた姿は、スポーティーで颯爽としている。
式典パーティーの参列者というより、それを取材に来た女記者とでもいうような格好だった。きちんと正装しようとしたら、これくらいしか着るものがなかったのだ。だがそれでいて、着飾った周囲の誰よりも、飛び抜けて美が際立っていた。
「えっと・・・ごめんなさい。褒めてくれるのは嬉しいんですけど・・・どちら様でしたっけ?」
「え? あれ? その、ほら、テレビや雑誌なんかで見たこと、なかったかな?」
「テレビはあまり見ないので、タレントさんとかよく知らないんです・・・すみません」
赤くなるのは、今度は男の方だった。
「ああ、そう! 知らなかったんだね・・・はは。いや、気にしなくていいんだよ、別にタレントってわけではないし。ちょっとした企業の取締役をやってるだけだから。ほら、今流行っているクイズ&パズルのアプリ、知ってるかな? あの会社の・・・」
「私、どうしてもやらなきゃいけないことがあるんで、今日はお酒は飲めないんです。せっかくだけど、これはお返ししますね」
「え、ちょッ・・・! せ、せめて名前だけでも教えッ・・・」
白と黒のコーデでまとめた美女は、グラスを返すと壁際から放れて歩き出す。
視線は正面に向けられていた。それまでオードブルのひとつも取ることなく、立ち尽くすだけだった美女は、急に動きを見せていた。
話し掛けてくれた男には悪いが、もうじっくり相手をする暇はなかった。彼女の「目的」が動き出したからだ。
『・・・皆様、本日はKアミューズ・エンタープライゼスが本格運営する、アミューズメントパーク第一号店の開店祝賀パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。来年4月の正式オープンとともに代表取締役に就任したします甲斐より、皆様にご挨拶申し上げます』
司会の女性アナウンサーが、正面の檀上に次期社長となる人物を呼び寄せている。
弱冠18歳の女子高生が、大手企業のトップになる、ということで話題になっている人物だった。深紅のドレスが登壇した瞬間、あちこちで感嘆の声があがっている。
話題のひとを目の当たりにする、という感激もさることながら、衣装に負けぬ美少女ぶりに圧倒されたのだろう。若くして社長の椅子に座る少女が、容姿にも恵まれているとなれば、耳目を集めるのは当然のことだ。
甲斐家といえば、日本でも有数のコンツェルンのひとつである。
檀上の中央でスピーチを始めた少女が、Kアミューズなる会社の代表となるのも、なんら不思議なことではない。要は、経営者一族の一員として、ポストを割り当てられたに過ぎないのだ。
少女は朗々とスピーチを続けている。真っ直ぐに前を向いて語る姿勢には、遠目からでも、可憐さと爽やかさが伝わってきた。
人波を掻き分け、前へと進む白黒コーデの美女は思った。とても自分には、マネできない芸当だと。
真の令嬢とは、こういうものなのだろう。300人は下らぬ百戦錬磨の企業人を相手に、まるで物怖じしていない。大人数へのあいさつに慣れている・・・というより、当たり前として育っている。
「・・・どう考えても私、場違いだよね・・・」
茶髪の美女は、少し後悔した。
パーティー会場への潜入は、予想以上に簡単だった。多くのひとが行き来するため、紛れ込むのも可能かと思ってはいたが・・・チェックは甘いどころか、無きに等しかった。
招待されていないのに、無断侵入していたことがバレれば、どうなっちゃうんだろう?
ふと湧き上がる不安を、頭を振って打ち消した。こうでもしなければ、「目的」は達成できないのだ。怯えて行動しないほど、愚かなことはない。
『それでは、質疑応答の時間を少々ですが設けさせていただきます。各社記者の皆様、質問などあれば挙手で・・・』
マスコミの取材も来ていることに、白黒コーデの美女は驚いた。
話題の女子高生が社長を務めることに加え、都内の一等地に巨大アミューズメントパークが誕生するのだ。確かに、ニュース素材としての価値は十分あろう。
『来年4月から代表取締役に就任されるとのことですが、なぜ今じゃないんです?』
『私が高校を卒業するのを待つため、ですね。規則的には二足のわらじを履くのも問題はないのですが、けじめはきちんとつけるべきだと思いまして』
『となると、我々は厳密には女子高生社長の誕生を見られない、というわけですね』
『あら? セーラー服を脱いだら脱いだなりに、皆さんからは力添え頂けると期待していますよ』
檀上の少女がわざと艶めかしく言うと、場内で笑いが起こった。
なにが面白いのか、白黒コーデの美女にはさっぱりわからない。むしろ、女をバカにされたようで不愉快ですらある。
『アミューズメントパークの一号店・・・つまりは、今まさにパーティーが開かれているこの会場ですが、〝呪い”があるとして有名な大樹が根を張っていた土地ですよね? 大樹はどうされたんですか?』
そう、パーティーが開かれているのは、ホテルの宴会場などではなかった。
内装もほとんどできあがったアミューズメントパーク。
アーケードゲームやクレーンゲーム、果ては室内用ジェットコースターからお化け屋敷まで、その他様々な遊戯が揃った巨大な空間が、レセプションパーティーの場となっているのだ。
ゲームセンターと遊園地が、ひとつ屋根の下でぎゅっと凝縮された空間、といえばいいだろうか。
今宵のパーティーは、内装の展覧会も兼ねて行われているものだった。
『もちろん、伐採して処分いたしました』
『〝呪いの大樹”をですか!? その・・・悪影響が出ることなどは考えなかったんでしょうか』
『私ども、Kアミューズ・エンタープライゼスは未来を切り開くことが与えられた使命だと自認しております。〝呪い”などと非科学的な事象に、惑わされることはありません』
場所柄、室内の照明は薄暗い。
薄闇のなか、なんとか人を掻き分け前進してきた白黒コーデの美女だが、記者たちが陣取る最前列には、どうしても割り込むことができなかった。強引に前へ出ようとすれば、ギロリと睨まれる始末だ。
だが、この状況はチャンスかもしれない。
(この暗がりのなかで、こんな格好してるんだから・・・他の記者さんたちと、見分けつかないよね? 質問することもできるんじゃないかな・・・)
檀上の人物、つまり甲斐家のひとり娘に接触するのが、彼女の「目的」であった。
とはいえ相手は、巨大グループ企業の創業者一族だ。気軽に声を掛けるどころか、近づくことすら難しい。
しかし今なら、記者のひとりにしか見えない状況を利用して、話をすることができるのだ。
(とはいえ、あんな質問に・・・ちゃんと答えてくれるんだろうか? きっと、こんな大勢の前で話す内容じゃないよね・・・ううん、でも私が彼女に近づけるチャンスなんて、滅多に有り得ないわ)
質疑応答が繰り返される間にも、セミロングの美女のなかで葛藤は続いた。
だが、ここでなにもしなければ、これまでの苦労が意味を持たなくなってしまう。今日一日のことだけではない。彼女がこの場に辿り着くまでは、4年もの調査の期間が必要だったのだ。
意を決し、右手をあげた。
指名を受ければ、容赦なく質問をぶつけるつもりだった。場の雰囲気が硬直しようが、呆気にとられようが構わない。白黒コーデの美女にとっては、なによりも重要な疑問なのだ。
(甲斐凛香さん・・・あなたは、オメガスレイヤーのひとり、オメガフェニックスなんですか!?)
「えッ!?」
あげかけた右手が、何者かに背後から掴まれ止められていた。
反射的に振り返る。男がいた。黒のスーツに包まれた男。
顏が異様に、横に広かった。
えらが張っているのと、両肩の僧帽筋が発達しているため、首がないまま顎と肩とが直接つながっているように見える。顏の幅に合わせるように、薄い唇も横に長い。両目の間がやけに離れ、ほとんど側頭部ともいう場所に、丸い眼がギョロリと浮き出ている。
ゾッとするとともに、ピンときた。
この男の顔は、蛙にそっくりだ。
「四乃宮天音さん・・・だね?」
美女の魅惑的な瞳が、大きく見開かれた。
つ・・・と額を垂れる汗が、蛙男への返答としては十分だった。
「隣のゾーンへ移動しようじゃないか。なにしろここでは、ギャラリーが多すぎる。なあ、究極の破妖師オメガヴィーナス?」
決して派手な格好をしているわけではない。その逆で、華やかなパーティーにはそぐわないほど地味な服装だった。目立つ場所にいるわけでもなく、むしろ会場内の壁際にひっそりと立っている。
それでも男たちは、幾度も繰り返し彼女を眺めた。目蓋にその美形を焼き付けるために。
女たちは無視したくとも意識せざるを得なかった。羨望と嫉妬が自然に沸き起こってしまうが故に。
モデルあがりと思われる美女も、選りすぐりのコンパニオンも集まっている豪勢なパーティー会場で、ナンバー1がそこにいることに、誰もが気が付いていた。
「グラスが空いているようですが・・・いかがです?」
カクテルのグラスを手にした男が、勇敢にも声を掛ける。
イケメン、の部類に入る容姿だった。身長も180は越えていようか。
IT関連のベンチャー企業の社長、というその男を、会場の多くの者が見知っていた。つい最近まで、元タレントとの離婚がワイドショーや週刊誌を賑わせていたものだ。
ルックスにも経歴にも財力にも自信があるような、こういう男でもなければ、到底その美女に声を掛けることなどできなかっただろう。
「え? ・・・私、ですか?」
「貴女以外に周囲に誰もいませんよ。それともまさか、未成年ってわけでもないですよね?」
「ん・・・まあ、そうですけど」
白桃のような頬が、瞬く間に真っ赤に染まった。
男性に声を掛けられることが、恥ずかしいらしかった。ナンパされるのは、むろん初めてのことではないが、いつになっても慣れることがない。
しかし男は、美女が照れた理由を勘違いした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。テレビなどで報道されてるような、浮気性の男というのはあくまで捏造ですから。現実のボクは一途なんです」
「は、はぁ・・・?」
「今日の参加者のなかで、もっとも美しいあなたに惹かれただけのことです。元妻との間では、近々示談が成立する手はずですから、あなたは何も気にしなくていいんですよ」
大きな瞳をパチクリとさせながら、美女は言葉を探しているようだった。
透明感のある素肌が、真珠のように輝いている。
髪質がいいためか、茶色に染めたセミロングの髪も、角度によってはゴールドに輝くように見えた。柔らかなウェーブを描き、両肩にかかっている。
すっと高く通った鼻梁に、やや厚みある桃色の唇。口元だけを見れば、ドキリとするほど芳醇な色香が漂っているが、眦が少し切れ上がった魅惑の瞳には、芯の強さを感じさせる。
華やかな美貌とは対照的に、服装は簡素だ。黒のインナーTシャツに清潔そうなホワイトのジャケット。同じく白のパンツルックでまとめた姿は、スポーティーで颯爽としている。
式典パーティーの参列者というより、それを取材に来た女記者とでもいうような格好だった。きちんと正装しようとしたら、これくらいしか着るものがなかったのだ。だがそれでいて、着飾った周囲の誰よりも、飛び抜けて美が際立っていた。
「えっと・・・ごめんなさい。褒めてくれるのは嬉しいんですけど・・・どちら様でしたっけ?」
「え? あれ? その、ほら、テレビや雑誌なんかで見たこと、なかったかな?」
「テレビはあまり見ないので、タレントさんとかよく知らないんです・・・すみません」
赤くなるのは、今度は男の方だった。
「ああ、そう! 知らなかったんだね・・・はは。いや、気にしなくていいんだよ、別にタレントってわけではないし。ちょっとした企業の取締役をやってるだけだから。ほら、今流行っているクイズ&パズルのアプリ、知ってるかな? あの会社の・・・」
「私、どうしてもやらなきゃいけないことがあるんで、今日はお酒は飲めないんです。せっかくだけど、これはお返ししますね」
「え、ちょッ・・・! せ、せめて名前だけでも教えッ・・・」
白と黒のコーデでまとめた美女は、グラスを返すと壁際から放れて歩き出す。
視線は正面に向けられていた。それまでオードブルのひとつも取ることなく、立ち尽くすだけだった美女は、急に動きを見せていた。
話し掛けてくれた男には悪いが、もうじっくり相手をする暇はなかった。彼女の「目的」が動き出したからだ。
『・・・皆様、本日はKアミューズ・エンタープライゼスが本格運営する、アミューズメントパーク第一号店の開店祝賀パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。来年4月の正式オープンとともに代表取締役に就任したします甲斐より、皆様にご挨拶申し上げます』
司会の女性アナウンサーが、正面の檀上に次期社長となる人物を呼び寄せている。
弱冠18歳の女子高生が、大手企業のトップになる、ということで話題になっている人物だった。深紅のドレスが登壇した瞬間、あちこちで感嘆の声があがっている。
話題のひとを目の当たりにする、という感激もさることながら、衣装に負けぬ美少女ぶりに圧倒されたのだろう。若くして社長の椅子に座る少女が、容姿にも恵まれているとなれば、耳目を集めるのは当然のことだ。
甲斐家といえば、日本でも有数のコンツェルンのひとつである。
檀上の中央でスピーチを始めた少女が、Kアミューズなる会社の代表となるのも、なんら不思議なことではない。要は、経営者一族の一員として、ポストを割り当てられたに過ぎないのだ。
少女は朗々とスピーチを続けている。真っ直ぐに前を向いて語る姿勢には、遠目からでも、可憐さと爽やかさが伝わってきた。
人波を掻き分け、前へと進む白黒コーデの美女は思った。とても自分には、マネできない芸当だと。
真の令嬢とは、こういうものなのだろう。300人は下らぬ百戦錬磨の企業人を相手に、まるで物怖じしていない。大人数へのあいさつに慣れている・・・というより、当たり前として育っている。
「・・・どう考えても私、場違いだよね・・・」
茶髪の美女は、少し後悔した。
パーティー会場への潜入は、予想以上に簡単だった。多くのひとが行き来するため、紛れ込むのも可能かと思ってはいたが・・・チェックは甘いどころか、無きに等しかった。
招待されていないのに、無断侵入していたことがバレれば、どうなっちゃうんだろう?
ふと湧き上がる不安を、頭を振って打ち消した。こうでもしなければ、「目的」は達成できないのだ。怯えて行動しないほど、愚かなことはない。
『それでは、質疑応答の時間を少々ですが設けさせていただきます。各社記者の皆様、質問などあれば挙手で・・・』
マスコミの取材も来ていることに、白黒コーデの美女は驚いた。
話題の女子高生が社長を務めることに加え、都内の一等地に巨大アミューズメントパークが誕生するのだ。確かに、ニュース素材としての価値は十分あろう。
『来年4月から代表取締役に就任されるとのことですが、なぜ今じゃないんです?』
『私が高校を卒業するのを待つため、ですね。規則的には二足のわらじを履くのも問題はないのですが、けじめはきちんとつけるべきだと思いまして』
『となると、我々は厳密には女子高生社長の誕生を見られない、というわけですね』
『あら? セーラー服を脱いだら脱いだなりに、皆さんからは力添え頂けると期待していますよ』
檀上の少女がわざと艶めかしく言うと、場内で笑いが起こった。
なにが面白いのか、白黒コーデの美女にはさっぱりわからない。むしろ、女をバカにされたようで不愉快ですらある。
『アミューズメントパークの一号店・・・つまりは、今まさにパーティーが開かれているこの会場ですが、〝呪い”があるとして有名な大樹が根を張っていた土地ですよね? 大樹はどうされたんですか?』
そう、パーティーが開かれているのは、ホテルの宴会場などではなかった。
内装もほとんどできあがったアミューズメントパーク。
アーケードゲームやクレーンゲーム、果ては室内用ジェットコースターからお化け屋敷まで、その他様々な遊戯が揃った巨大な空間が、レセプションパーティーの場となっているのだ。
ゲームセンターと遊園地が、ひとつ屋根の下でぎゅっと凝縮された空間、といえばいいだろうか。
今宵のパーティーは、内装の展覧会も兼ねて行われているものだった。
『もちろん、伐採して処分いたしました』
『〝呪いの大樹”をですか!? その・・・悪影響が出ることなどは考えなかったんでしょうか』
『私ども、Kアミューズ・エンタープライゼスは未来を切り開くことが与えられた使命だと自認しております。〝呪い”などと非科学的な事象に、惑わされることはありません』
場所柄、室内の照明は薄暗い。
薄闇のなか、なんとか人を掻き分け前進してきた白黒コーデの美女だが、記者たちが陣取る最前列には、どうしても割り込むことができなかった。強引に前へ出ようとすれば、ギロリと睨まれる始末だ。
だが、この状況はチャンスかもしれない。
(この暗がりのなかで、こんな格好してるんだから・・・他の記者さんたちと、見分けつかないよね? 質問することもできるんじゃないかな・・・)
檀上の人物、つまり甲斐家のひとり娘に接触するのが、彼女の「目的」であった。
とはいえ相手は、巨大グループ企業の創業者一族だ。気軽に声を掛けるどころか、近づくことすら難しい。
しかし今なら、記者のひとりにしか見えない状況を利用して、話をすることができるのだ。
(とはいえ、あんな質問に・・・ちゃんと答えてくれるんだろうか? きっと、こんな大勢の前で話す内容じゃないよね・・・ううん、でも私が彼女に近づけるチャンスなんて、滅多に有り得ないわ)
質疑応答が繰り返される間にも、セミロングの美女のなかで葛藤は続いた。
だが、ここでなにもしなければ、これまでの苦労が意味を持たなくなってしまう。今日一日のことだけではない。彼女がこの場に辿り着くまでは、4年もの調査の期間が必要だったのだ。
意を決し、右手をあげた。
指名を受ければ、容赦なく質問をぶつけるつもりだった。場の雰囲気が硬直しようが、呆気にとられようが構わない。白黒コーデの美女にとっては、なによりも重要な疑問なのだ。
(甲斐凛香さん・・・あなたは、オメガスレイヤーのひとり、オメガフェニックスなんですか!?)
「えッ!?」
あげかけた右手が、何者かに背後から掴まれ止められていた。
反射的に振り返る。男がいた。黒のスーツに包まれた男。
顏が異様に、横に広かった。
えらが張っているのと、両肩の僧帽筋が発達しているため、首がないまま顎と肩とが直接つながっているように見える。顏の幅に合わせるように、薄い唇も横に長い。両目の間がやけに離れ、ほとんど側頭部ともいう場所に、丸い眼がギョロリと浮き出ている。
ゾッとするとともに、ピンときた。
この男の顔は、蛙にそっくりだ。
「四乃宮天音さん・・・だね?」
美女の魅惑的な瞳が、大きく見開かれた。
つ・・・と額を垂れる汗が、蛙男への返答としては十分だった。
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