オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 【究極の破妖師、最後の闘い】

草宗

文字の大きさ
上 下
14 / 82

14、究極戦士

しおりを挟む
 
「ぐううぅ~~・・・やれいィッ、ケガレども! こやつらを肉片にしてしまうんじゃあッ!!」

 残ったゾンビ軍団に総動員をかけ、地獄妖・〝百識”の骸頭ガイズは襲撃させた。
 
 1対1じゃとッ? 冗談じゃないわいッ!
 
 ダメージは深いものの、オメガスレイヤーの頂点に立つ白銀の光女神と、五体満足で駆け付けた蒼碧の水天使。どちらを相手どるにせよ、自殺行為も同然だった。
 難度もリスクも最高レベルの黒魔術、悪魔召喚を破られたばかりなのだ。
 オメガヴィーナスをあそこまで苦しめた技は、そう簡単にできるものではない。今の骸頭にもっとも有効な手段は、撤退、ただあるのみだ。
 
 そのためには、ケガレの20や30、捨て石にするのは当然だった。
 襲撃のようで、その実体は究極戦士たちの足止め。知性なきゾンビを立ち向かわせ、その隙に逃亡を図る。必要とあれば、妖化屍アヤカシをも撒き餌にして骸頭はひとり逃げ切るつもりでいた。
 
 六道妖には、中心となる頭脳がいる。
 天、人、修羅、餓鬼、畜生。他の連中はまだ代わりがきくが、地獄妖の骸頭だけは外せないのだ。オメガスレイヤーというバケモノ、それも光属性の最強の戦士が出現したからには、骸頭の長年の知識と経験なしでは太刀打ちできない。
 
 ケガレの群れが、青のケープをなびかせるふたりに飛び掛かった瞬間、この場を脱せんと骸頭は踵を返した。
 
「あらぁ? どこへゆくつもりかしら?」

 甘く、蕩けるような声だけが響いた。
 折り重なった死者の土色の身体で、声の主の姿は見えない。
 
「オメガセイレーンか。生憎儂は、ヌシらと遊んでいるほど暇ではなくてのう。余興の続きは次の機会じゃ」

「うふふ・・・〝百識”の骸頭は女性の肉体を嬲るのがなにより好き、と聞いてたけど・・・私の身体はお気に召さなかった?」

「フンッ・・・ヌシのようなそそる肢体は、願わくばすぐにでも賞味したいのじゃがなァ・・・次にまみえる日を楽しみにしようぞ」

「くす・・・随分と奥ゆかしいのねぇ~。次などと言わず、今すぐに味わってみてはいかが?」

 ドシュウウッ!!
 
 地上から、天へと向けて。
 柱のように太いレーザーが、半ミイラ化した死者の肉体を貫いた。一瞬にして、塵芥と化す。
 いや、レーザーではない。よく見れば、それは水流。一直線に噴きあがった水飛沫。
 雨後の水溜まりから、オメガセイレーンは天を衝く一本槍を生み出したのだ。
 
「ツイてなかったわねぇ~、〝百識”の骸頭。水に恵まれたこの状況・・・今の私は、オメガヴィーナスよりも強いかもしれないわよ?」

 ドシュウウッ!! ドシュッ!! ドシュドシュドシュッ!!
 
 次々に足元から水流のレーザーが昇る。ケガレの群れを撃ち貫く。
 何十本もの水柱が立つ幻想的な光景。その中央に、腰まで伸びる長い茶髪を揺らした、蒼碧の天使はいた。
 睫毛の長い漆黒の瞳。高く通った鼻梁。吸い付きそうな、潤んだ唇。ひとつひとつがセクシャルな美女は、土煙に還るゾンビのなかで、妖艶に笑っていた。
 
 これが、オメガセイレーン。
 
「名付けて、〝雨の橋立”。あなたの下僕はひとり残らず、浄化させてもらうわね」

 地面に水は、いくらでもある。周囲一帯のケガレは、蒼碧の水天使に触れることもできずに水流に消し飛ばされていく。
 真っ赤な舌をちらりと出し、セイレーンは厚めの上唇を舐めた。自然で、それでいて蕩けそうに甘美な仕草。
 骸頭を真っ直ぐ見詰める大きな瞳は、次はあなたの番だと、語っているかのようであった。
 
「ヒッ・・・ヒイイィッ!?」

「あら、私と遊びたいんじゃないの?」

 走りかけた皺だらけの怪老の前に、水飛沫が風とともに舞う。
 反射的に眼をつぶった骸頭が、再び視界を開けた時、青のスーツとケープとは眼前で翻っていた。
 
「せっかくの機会だもの。愉しみましょう・・・〝百識”の骸頭」

 両手を腰に当てたオメガセイレーンが、立ち塞がっている。
 170cmはありそうな美女と、130cmほどの老人。あらゆる面で、対峙する両者は対照的だった。身長差。年齢。美と醜。破妖師と妖化屍。艶っぽくも、決意を秘めた微笑みと、怯えながらも、憎悪に歪む形相。
 
「グッ、ヌウウッ~~ッ・・・小娘めがァ~ッ・・・!!」

「案外と弱気なのねぇ~。あなたの目的は、私たちオメガスレイヤーを斃すことじゃなかったのかしら? なんなら、眼の前にある私の身体を、好きにしてもいいのよ」

「あまりッ・・・図に乗るでないわァッ!!」

 皺だらけの右手が、青いスーツに包まれた左乳房を、ガッシリと握り掴んだ。
 セイレーンの柳眉がピクリと動く。構わず骸頭は、小ぶりなお椀をぐにゃぐにゃと揉み潰す。
 
「・・・ふふ・・・大したものねぇ~。少し見直したわ」

「この地獄妖・骸頭を・・・ナメくさるでないぞォ、オメガセイレーン」
 
 真実を知る者から見れば、奇妙かつ、恐るべき意地の張り合いだった。
 このふたりの立場は、圧倒的に青いスーツの美女が上なのだ。オメガセイレーンがその気になれば、一撃で骸頭は粉塵と化してこの世から消える。
 それがわかっていてなお、怪老はオメガセイレーンの乳房を弄っている。死が着々と、迫ると知りつつ。
 そして蒼碧の水天使は、骸頭の凌辱を甘んじて受けている。死をも恐れぬ気概に、敬意を表するように。
 
「いいわ。私から言ったことだもの・・・好きにすればいいわ」
 
 仁王立ちしたまま、蒼碧の水天使は同じポーズを取り続けた。すっと一筋の汗が、妖艶に微笑む頬を流れる。
 対する骸頭の顏も、流れる汗で濡れ光っていた。
 歪んだその表情は、憎悪よりも、懸命と呼ぶのに近くなっている。
 空いた左手を青いフレアミニの内側に伸ばすと、生地越しにセイレーンの股間をすりすりと摩擦する。右手は胸の谷間からスーツのなかへと滑り込み、直接生肌を撫で回した。
 
「ヌシにッ・・・ヌシらごとき小娘にィッ!! この骸頭が、簡単に殺されてなるものかァッ!!」

 両手を腰に当てたまま動かないオメガセイレーンを、必死の形相で老人は愛撫し続けた。だらだらと汗を垂れ流し、唾を飛ばして叫びながら。
 直に触れた左胸を揉み、尖り立った頂点を転がす。湿り気を帯びた股間の縦筋は、強弱をつけて擦り上げた。
 凌辱の手が止まった瞬間、水天使の征伐が下されることを、骸頭は本能的に悟っていた。
 
 オメガセイレーンを愛撫する。それが、ただひとつ、配下のゾンビ集団を全て失った骸頭にできること。そして、一縷の生存の望みを託せるもの。
 弱者による、絶対的強者への凌辱――不可思議な光景が、しばし流れ続けた。
 
 
 
 マズい。
 
 蒼碧の水天使により、無数に立ち昇る水流の柱。水色の林に囲まれて、〝妄執”の縛姫バクキは焦りを覚えた。
 雨上がりのこの地では、オメガセイレーンの攻撃力は圧倒的すぎる。
 さらに彼方、山林の上空ではローブの男が巨大な炎に包まれたのが見えた。詳細はわからずとも、紅蓮の炎天使に敗れたのは疑いようがない。
 
 破妖師のなかで頂点に立つ存在。オメガスレイヤーの強さが、妖化屍を上回るとは聞いていた。
 だが、現実は想像の遥か上をいく。この差は・・・草食動物が、肉食動物とまともにやりあうようなものだ。
 
「骸頭のヤツめェッ・・・!! けど、私はひとりでも生き残ってみせるわァ・・・」

 3人いるオメガスレイヤーに対して、誰に勝つこともできないのは、縛姫自身がよく悟っている。
 しかし「穴」はあった。生還へと繋がる抜け穴は。そこをうまく突けば、きっとこの窮地も脱出できるはずだ。
 
「カッコつけの〝慧眼”が何言ったか知らないけど・・・私は家族を襲わない、なんて約束はした覚えないわよォ~!」

 オレンジの髪を振り乱し、縛姫は一直線に駆け出した。
 目指すは樹木の間を通った山道。寄り添いながら走り逃げる、四乃宮天音の父と母。
 どんな硬い鋼鉄よりも信頼できる最強の「盾」が、こんなに近くにあるのに・・・手に入れない道理はない。
 
「いかせないわ」

 白い輝きが、眼の前でスパークした。
 縛姫の脚が止まる。原初の畏れにも近い感情が、反射的に妖魔の動きを止めていた。
 
「くうゥッ!?」

「大切な人々には指一本触れさせないわ・・・もちろん、このコも含めてね」

 白銀のスーツに、紺青のケープ。プラチナブロンドの髪を揺らした光の女神は、一瞬にして縛姫の前に立ちはだかった。そのスピードは、並の妖化屍にはもはや閃光にしか思えない。
 一時は己を苦しめた女妖魔に対し、オメガヴィーナスは妹を片手で抱き寄せながら言った。
 
「終わらせましょう。妖化屍、〝妄執”の縛姫。私は家族も、そして世界も、無事に守り切ってみせるわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...