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12、炎と水
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本物の天使が降臨したのかと、四乃宮郁美は思わず錯覚した。
16歳の女子高生にとって、雨がそぼ降るこの夜は、驚愕と悪夢の連続だった。姉は一夜にしてスーパーヒロインとなり、車は爆発に巻き込まれ、遥か天空を翔け抜けた。死者の群れに襲撃を受け、変身した姉はバケモノと死闘を繰り返し・・・すでに何度死を覚悟したか、数え知れない。
姉の天音は、オメガヴィーナス・・・最強の究極戦士と呼ばれる存在になったはずだった。白銀のスーツに黄金の髪・・・確かにその姿は、神々しいまでに美しい。
だが、胸元に輝く金色の「Ω」マークも、紺青のプリーツスカートから覗く生足も、鮮血の飛沫で汚れている。
次々と襲い掛かってくる妖魔の刺客に、オメガヴィーナスは追い込まれた。演技ではない、悲鳴をあげた。生命の奪い合いには無縁の郁美が見ても、姉の窮地はハッキリとわかった。
その危機のさなか、突如舞い降りた、ふたりの援軍。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・と。妖化屍は3人か。驚いたナ、妖化屍がチームつくってるなんて初めて見たヨ! それだけ天音を本気で斃しにきてる、ってことかナ!?」
オメガフェニックスと名乗った赤い戦士が、快活な声で言った。
スーツも、ケープも、ロングブーツも、腕に嵌めたグローブも、全てが鮮やかな真紅で統一されている。胸の「Ω」マークとベルトだけが、オメガヴィーナス同様に金色であるくらいだ。
全体的な意匠は、天音が纏うスーツと共通している。「オメガスレイヤー」という同じ括りであることが、誰の目にもわかる姿だ。しかし、オメガヴィーナスとは差別化された部分も、スーツのデザインにはあった。
最大の違いは、露出度の多さだろう。
紅蓮の炎天使・オメガフェニックスのスーツはノースリーブで、丈も短かった。いわゆるヘソ出しルック。腹筋の割れ目もよく見える。
しかも他のオメガスレイヤーと違い、スカートではなく、赤のショートパンツなのだ。
全体にキュっと締まったような衣装でありながら、バストのサイズは明らかに豊満で、ヒップもパンパンに張り出している。健康的な色香が、もぎたての果実のように芳醇に漂っていた。
同性の郁美でも、視線を吸いつけられるグラマラスボディ。で、ありながら。
栗色のショートヘアの下の顏は、明らかな少女のそれだった。
間違いなく、郁美よりは年下。華やかなコスチュームに身を包もうとも、細かな表情に残るあどけなさが、そう確信させる。
猫を思わす吊り上がった瞳。高く通った鼻梁。桜色の唇・・・ひとつひとつ、端整なパーツで構成された美貌には、瑞々しさが溢れている。果汁を発散するがごとく。確かに「美しい」顏なのに、その印象が薄いのは「キュートさ」が輪をかけて際立っている故か。
しかも美少女には、気品が滲んでいた。普通の中高生には、醸せるはずのない高貴さが。
額に結んだ赤のバンダナと、両耳と首元を飾ったジュエルの結晶。その全てが、顔立ちと雰囲気に絶妙にマッチしている。
活発さと上品さ。一見相反するふたつを併せ持ったのが、オメガフェニックスという少女戦士だった。
「でも、残念だったわね。こういうこともあろうかと、私たちも警戒はしていたのよ。ミサイルのような、派手な近代兵器を使ったのは失敗でしたね」
「いい目印になったもんネ! ま、駆け付けたときにはすでに移動した後だったから、絵里奈ったら慌てまくってたけどサ」
「オメガフェニックス。変身した時は、その名前を出すのはNGと言ってるでしょ?」
青いオメガスレイヤーが、ショートヘアの少女に優しく微笑みかける。
お転婆娘を注意する母親のような、ふたりの関係だった。
実際にそこまでの年齢差、とは思えない。蒼碧の水天使、と名乗った美女も十分に若かった。恐らくは四乃宮天音と同じくらい、二十歳前後といったところだろう。
それでもオメガセイレーンが遥かオトナに見えるのは、母性が見え隠れするためと、圧倒的な色艶のせいだ。
170cmは越える長身と、腰まで届く茶髪のロングストレート。
均整の取れた抜群のスタイルが、青のスーツとフレアミニに包まれている。オメガフェニックスと同様、胸の「Ω」マークとベルトが金色なだけで、他は全て、ケープからブーツに至るまで醒めるような蒼色だった。
スーツの裾が短く、お臍が見えているのもフェニックスと変わらない。
ただ、袖が手首まで長く伸びている代わりに、乳房の谷間が見えるほどに、大胆に胸元がカットしてあった。
膝上まで、濃紺のニーハイソックスを着用しているので、露出自体はフェニックスよりも少ない。しかし、素肌の見えている部分が、胸元、お臍、太腿の絶対領域とあっては、効果的にエロスを醸し出すために他を隠しているようなものだ。
単純なバストの大きさも、少女である紅蓮の炎天使に軍配が上がりそうだ。だが、モデル顔負けのスレンダーなボディに、適度に盛り上がった双丘は、異性の掌を吸い寄せそうに魅惑的だった。
瓜実型の輪郭に、バランスよく乗った大きな瞳と高い鼻。ぷっくりと浮き上がった、潤んだ唇。
特にやや垂れがちな瞳は、睫毛が長いせいか、深く濃い漆黒を湛えていた。この美貌、そして微笑みのなかにさえ溢れる妖艶さがあれば、ハリウッド女優としてだって十分活躍できるだろう。
「・・・す・・・ごい・・・」
郁美の口から、感嘆の呟きが漏れていた。
美しく、凛々しく、煌びやか。
これが、オメガスレイヤーか。簡素なはずのコスチュームに身を包んでいるふたりが、眩しかった。神々しい、とすら言っていい。
姉の天音がオメガヴィーナスに変身した時にも、同じ感動は沸き起こった。豊満ボディの赤い少女と、妖艶漂う青い美女。ふたりを見ているだけで、郁美はすでに救われた気持ちになった。
「名前? 大丈夫だってば! 知られて困ることもないでしょ」
「もう~・・・ホントにこのコは、緊張感が足りないのよねぇ~」
「だってサ。ここでコイツら、みんな倒せば問題ないじゃん!」
ニカッ、と白い歯を見せてオメガフェニックスは笑った。
なんと無邪気で、チャーミングな笑顔。
だが、笑えない連中もいる。妖化屍や下僕であるケガレにとっては、緊急事態だ。最上位ランクの破妖師であるオメガスレイヤーが、3人も勢揃いしたのだから。
「ぐッ! ・・・ヌヌゥッ・・・!!」
呻くたび、〝百識”の骸頭の全身から、鮮血が噴き出した。
炎の属性を持つオメガスレイヤーと、水の属性を持つオメガスレイヤー。その存在は、当然知識に入れている。光属性のオメガヴィーナスを頂点とし、その下には5つの属性のオメガスレイヤーが控える。それが破妖師の最高戦力なのだ。
しかし・・・よもやそのうちのふたりが、この場に駆け付けるとは。
「・・・すみません。絵里奈さん、凛香さん」
「コラコラ。そんな顏しなくてもいいのよ、天音ちゃん」
唇を噛み締めるオメガヴィーナスに、ロングストレートの青い美女は微笑んだ。
「光の力を修めることになったからって、頑張りすぎなくていいの。あなたはまだオメガスレイヤーに選ばれたばかり。先輩に頼ってくれて構わないのよ?」
「ま、どっちみち、妖化屍を見つけたら浄化するのがあたしたちの役目だしネっ。助けてもらったなんて、気にしない、気にしない!」
Vサインを指で作り、オメガフェニックスは天音たち姉妹に向ける。
スーツの赤色が示すように、明るさと烈しさが伝わってくる少女だった。凛香というのは本名だろう。
「それと天音ちゃん、あなたには大事なものを渡しに来たのよ」
オメガセイレーンがなにかを投げる。
投げるスピードも尋常でなければ、受け取るのも神業だった。郁美には、金色のレーザーがセイレーンからヴィーナスに放たれたかに見えた。
天音の右手が掴んだものは、まるでロザリオのような、ゴールドに輝く十字型の結晶だった。
「はい。それがあなたの、光属性のオメガストーン。ちゃんと持っておいた方がいいわよ~?」
「いえ、私にはこれは・・・必要ないって・・・」
「ふふ、そう言わないの。あればあったで、困るものじゃないでしょ? 私たちだって、ほら」
セイレーンの長い指が、己の胸元を示す。
露わになった鎖骨と乳房の谷間の中間あたり、金色の結晶が首から提げられていた。天音のものとは違い、涙型の楕円をしている。
「確かにオメガストーンは、戦闘に役立つもんじゃないけどサ。オメガスレイヤーとしてのルーツを持っとくのも、悪いことじゃないと思うヨ」
鈴のような声を出すオメガフェニックスの首元の結晶も、よく見れば同じ黄金の光を放っていた。
むろん、郁美にはオメガストーンがどんなものかも、彼女たちの会話の内容もよくわからない。「部外者」である郁美に、説明がなされる気配は一切なかった。
すでに遠い世界にいってしまった姉の天音は、黙って十字型の結晶を首から提げた。
「・・・そろそろ、決着をつけたいと思います」
白銀の光女神オメガヴィーナスの言葉は、仲間に向けているようであり、敵に告げているようでもあった。
ぐっと、口元の血をスーツの裾で拭う。
3人の美戦士のなかでも際立って魅惑的な瞳が、燦々と輝き始める。
「これは参ったな、骸頭よ」
〝慧眼”の異名を持つローブの男が、溜め息混じりに言った。
「これまでの闘いで、オレたちのダメージは浅くない。いや、ダメージの有無など関係ないか。妖化屍3体に対し、オメガスレイヤーが3人。始めから勝負は・・・」
「みなまで言わずともよいわッ!」
苦渋に歪む怪老の顏のなかで、皺に挟まれた蛆虫がブチブチと潰れた。
3対1でも、初戦闘のオメガヴィーナスを仕留められなかった。それがふたりもの援軍が入って、どうすれば勝てるというのか。そもそも本来の仕様からして、妖化屍がオメガスレイヤーを上回ることはあり得ないのだ。
逃げる、しかない。
それが唯一の策だと思われた。生きていれば、次のチャンスはまた訪れる。
「四乃宮さん。奥さん」
天音たちの両親に、蒼碧の水天使が声をかける。
距離を置いた場所で、我に返った父母がコクコクと頷いた。
「先に逃げてくださいね。そのまま真っ直ぐ、樹林を進んだ先に、『水辺の者』が待っていますわ。乗用車を用意して、待機しているはずです」
指を伸ばす仕草すら、オメガセイレーンがやると艶めかしかった。
「・・・『水辺の者』って?」
「私たち組織の・・・一般的な破妖師の方々のことよ。詳しくはいずれ話そうと思っていたけど・・・郁美もある意味で、『水辺の者』のひとりなの」
胸のなかで訊いてくる妹を、白銀の女神はぎゅっと強く抱き締めた。
再び、始まる。わかっているからこそ、もう二度と郁美を不安な気持ちにはさせたくなかった。
「まっ、ややこしいことは気にしないでネ。要するにあたしたちの仲間、ってこと!」
不敵に、かつ愛くるしく、紅蓮の炎天使が微笑んだ。
それが開戦の、合図。
強く握り締めた両手の拳を、オメガフェニックスが胸の前で合わせる。
真紅のグローブに力がこもった瞬間、燃え盛る炎のリングが左右の手首で渦を巻いた。
ゴオオオオウウッ!!
「シャキーンっと! さーて、始めますかっ!! このオメガフェニックスの〝炎舞”に灰にされるのは、誰かナ!?」
16歳の女子高生にとって、雨がそぼ降るこの夜は、驚愕と悪夢の連続だった。姉は一夜にしてスーパーヒロインとなり、車は爆発に巻き込まれ、遥か天空を翔け抜けた。死者の群れに襲撃を受け、変身した姉はバケモノと死闘を繰り返し・・・すでに何度死を覚悟したか、数え知れない。
姉の天音は、オメガヴィーナス・・・最強の究極戦士と呼ばれる存在になったはずだった。白銀のスーツに黄金の髪・・・確かにその姿は、神々しいまでに美しい。
だが、胸元に輝く金色の「Ω」マークも、紺青のプリーツスカートから覗く生足も、鮮血の飛沫で汚れている。
次々と襲い掛かってくる妖魔の刺客に、オメガヴィーナスは追い込まれた。演技ではない、悲鳴をあげた。生命の奪い合いには無縁の郁美が見ても、姉の窮地はハッキリとわかった。
その危機のさなか、突如舞い降りた、ふたりの援軍。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・と。妖化屍は3人か。驚いたナ、妖化屍がチームつくってるなんて初めて見たヨ! それだけ天音を本気で斃しにきてる、ってことかナ!?」
オメガフェニックスと名乗った赤い戦士が、快活な声で言った。
スーツも、ケープも、ロングブーツも、腕に嵌めたグローブも、全てが鮮やかな真紅で統一されている。胸の「Ω」マークとベルトだけが、オメガヴィーナス同様に金色であるくらいだ。
全体的な意匠は、天音が纏うスーツと共通している。「オメガスレイヤー」という同じ括りであることが、誰の目にもわかる姿だ。しかし、オメガヴィーナスとは差別化された部分も、スーツのデザインにはあった。
最大の違いは、露出度の多さだろう。
紅蓮の炎天使・オメガフェニックスのスーツはノースリーブで、丈も短かった。いわゆるヘソ出しルック。腹筋の割れ目もよく見える。
しかも他のオメガスレイヤーと違い、スカートではなく、赤のショートパンツなのだ。
全体にキュっと締まったような衣装でありながら、バストのサイズは明らかに豊満で、ヒップもパンパンに張り出している。健康的な色香が、もぎたての果実のように芳醇に漂っていた。
同性の郁美でも、視線を吸いつけられるグラマラスボディ。で、ありながら。
栗色のショートヘアの下の顏は、明らかな少女のそれだった。
間違いなく、郁美よりは年下。華やかなコスチュームに身を包もうとも、細かな表情に残るあどけなさが、そう確信させる。
猫を思わす吊り上がった瞳。高く通った鼻梁。桜色の唇・・・ひとつひとつ、端整なパーツで構成された美貌には、瑞々しさが溢れている。果汁を発散するがごとく。確かに「美しい」顏なのに、その印象が薄いのは「キュートさ」が輪をかけて際立っている故か。
しかも美少女には、気品が滲んでいた。普通の中高生には、醸せるはずのない高貴さが。
額に結んだ赤のバンダナと、両耳と首元を飾ったジュエルの結晶。その全てが、顔立ちと雰囲気に絶妙にマッチしている。
活発さと上品さ。一見相反するふたつを併せ持ったのが、オメガフェニックスという少女戦士だった。
「でも、残念だったわね。こういうこともあろうかと、私たちも警戒はしていたのよ。ミサイルのような、派手な近代兵器を使ったのは失敗でしたね」
「いい目印になったもんネ! ま、駆け付けたときにはすでに移動した後だったから、絵里奈ったら慌てまくってたけどサ」
「オメガフェニックス。変身した時は、その名前を出すのはNGと言ってるでしょ?」
青いオメガスレイヤーが、ショートヘアの少女に優しく微笑みかける。
お転婆娘を注意する母親のような、ふたりの関係だった。
実際にそこまでの年齢差、とは思えない。蒼碧の水天使、と名乗った美女も十分に若かった。恐らくは四乃宮天音と同じくらい、二十歳前後といったところだろう。
それでもオメガセイレーンが遥かオトナに見えるのは、母性が見え隠れするためと、圧倒的な色艶のせいだ。
170cmは越える長身と、腰まで届く茶髪のロングストレート。
均整の取れた抜群のスタイルが、青のスーツとフレアミニに包まれている。オメガフェニックスと同様、胸の「Ω」マークとベルトが金色なだけで、他は全て、ケープからブーツに至るまで醒めるような蒼色だった。
スーツの裾が短く、お臍が見えているのもフェニックスと変わらない。
ただ、袖が手首まで長く伸びている代わりに、乳房の谷間が見えるほどに、大胆に胸元がカットしてあった。
膝上まで、濃紺のニーハイソックスを着用しているので、露出自体はフェニックスよりも少ない。しかし、素肌の見えている部分が、胸元、お臍、太腿の絶対領域とあっては、効果的にエロスを醸し出すために他を隠しているようなものだ。
単純なバストの大きさも、少女である紅蓮の炎天使に軍配が上がりそうだ。だが、モデル顔負けのスレンダーなボディに、適度に盛り上がった双丘は、異性の掌を吸い寄せそうに魅惑的だった。
瓜実型の輪郭に、バランスよく乗った大きな瞳と高い鼻。ぷっくりと浮き上がった、潤んだ唇。
特にやや垂れがちな瞳は、睫毛が長いせいか、深く濃い漆黒を湛えていた。この美貌、そして微笑みのなかにさえ溢れる妖艶さがあれば、ハリウッド女優としてだって十分活躍できるだろう。
「・・・す・・・ごい・・・」
郁美の口から、感嘆の呟きが漏れていた。
美しく、凛々しく、煌びやか。
これが、オメガスレイヤーか。簡素なはずのコスチュームに身を包んでいるふたりが、眩しかった。神々しい、とすら言っていい。
姉の天音がオメガヴィーナスに変身した時にも、同じ感動は沸き起こった。豊満ボディの赤い少女と、妖艶漂う青い美女。ふたりを見ているだけで、郁美はすでに救われた気持ちになった。
「名前? 大丈夫だってば! 知られて困ることもないでしょ」
「もう~・・・ホントにこのコは、緊張感が足りないのよねぇ~」
「だってサ。ここでコイツら、みんな倒せば問題ないじゃん!」
ニカッ、と白い歯を見せてオメガフェニックスは笑った。
なんと無邪気で、チャーミングな笑顔。
だが、笑えない連中もいる。妖化屍や下僕であるケガレにとっては、緊急事態だ。最上位ランクの破妖師であるオメガスレイヤーが、3人も勢揃いしたのだから。
「ぐッ! ・・・ヌヌゥッ・・・!!」
呻くたび、〝百識”の骸頭の全身から、鮮血が噴き出した。
炎の属性を持つオメガスレイヤーと、水の属性を持つオメガスレイヤー。その存在は、当然知識に入れている。光属性のオメガヴィーナスを頂点とし、その下には5つの属性のオメガスレイヤーが控える。それが破妖師の最高戦力なのだ。
しかし・・・よもやそのうちのふたりが、この場に駆け付けるとは。
「・・・すみません。絵里奈さん、凛香さん」
「コラコラ。そんな顏しなくてもいいのよ、天音ちゃん」
唇を噛み締めるオメガヴィーナスに、ロングストレートの青い美女は微笑んだ。
「光の力を修めることになったからって、頑張りすぎなくていいの。あなたはまだオメガスレイヤーに選ばれたばかり。先輩に頼ってくれて構わないのよ?」
「ま、どっちみち、妖化屍を見つけたら浄化するのがあたしたちの役目だしネっ。助けてもらったなんて、気にしない、気にしない!」
Vサインを指で作り、オメガフェニックスは天音たち姉妹に向ける。
スーツの赤色が示すように、明るさと烈しさが伝わってくる少女だった。凛香というのは本名だろう。
「それと天音ちゃん、あなたには大事なものを渡しに来たのよ」
オメガセイレーンがなにかを投げる。
投げるスピードも尋常でなければ、受け取るのも神業だった。郁美には、金色のレーザーがセイレーンからヴィーナスに放たれたかに見えた。
天音の右手が掴んだものは、まるでロザリオのような、ゴールドに輝く十字型の結晶だった。
「はい。それがあなたの、光属性のオメガストーン。ちゃんと持っておいた方がいいわよ~?」
「いえ、私にはこれは・・・必要ないって・・・」
「ふふ、そう言わないの。あればあったで、困るものじゃないでしょ? 私たちだって、ほら」
セイレーンの長い指が、己の胸元を示す。
露わになった鎖骨と乳房の谷間の中間あたり、金色の結晶が首から提げられていた。天音のものとは違い、涙型の楕円をしている。
「確かにオメガストーンは、戦闘に役立つもんじゃないけどサ。オメガスレイヤーとしてのルーツを持っとくのも、悪いことじゃないと思うヨ」
鈴のような声を出すオメガフェニックスの首元の結晶も、よく見れば同じ黄金の光を放っていた。
むろん、郁美にはオメガストーンがどんなものかも、彼女たちの会話の内容もよくわからない。「部外者」である郁美に、説明がなされる気配は一切なかった。
すでに遠い世界にいってしまった姉の天音は、黙って十字型の結晶を首から提げた。
「・・・そろそろ、決着をつけたいと思います」
白銀の光女神オメガヴィーナスの言葉は、仲間に向けているようであり、敵に告げているようでもあった。
ぐっと、口元の血をスーツの裾で拭う。
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「これは参ったな、骸頭よ」
〝慧眼”の異名を持つローブの男が、溜め息混じりに言った。
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逃げる、しかない。
それが唯一の策だと思われた。生きていれば、次のチャンスはまた訪れる。
「四乃宮さん。奥さん」
天音たちの両親に、蒼碧の水天使が声をかける。
距離を置いた場所で、我に返った父母がコクコクと頷いた。
「先に逃げてくださいね。そのまま真っ直ぐ、樹林を進んだ先に、『水辺の者』が待っていますわ。乗用車を用意して、待機しているはずです」
指を伸ばす仕草すら、オメガセイレーンがやると艶めかしかった。
「・・・『水辺の者』って?」
「私たち組織の・・・一般的な破妖師の方々のことよ。詳しくはいずれ話そうと思っていたけど・・・郁美もある意味で、『水辺の者』のひとりなの」
胸のなかで訊いてくる妹を、白銀の女神はぎゅっと強く抱き締めた。
再び、始まる。わかっているからこそ、もう二度と郁美を不安な気持ちにはさせたくなかった。
「まっ、ややこしいことは気にしないでネ。要するにあたしたちの仲間、ってこと!」
不敵に、かつ愛くるしく、紅蓮の炎天使が微笑んだ。
それが開戦の、合図。
強く握り締めた両手の拳を、オメガフェニックスが胸の前で合わせる。
真紅のグローブに力がこもった瞬間、燃え盛る炎のリングが左右の手首で渦を巻いた。
ゴオオオオウウッ!!
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