オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 【究極の破妖師、最後の闘い】

草宗

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11、援軍

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「いッ、いやあああ”ッ~~ッ!! お姉ちゃ――んッ!!」

 泣き叫ぶ妹・郁美の声が響く。
 自慢であり、嫉妬の対象でもあった姉のために、ここまで泣くのはいつ以来のことか。
 天音がどうしてあのような姿になったのか。超人的パワーを手に入れたのか。わからないことばかりでも、姉を助けたいとい気持ちだけは、確かなものだ。
 しかし、走り寄ろうとする女子高生の肩を、強く掴んだのは父親だった。
 
「行ってはいけないッ、郁美!」

「でも! あのままじゃ、お姉ちゃんが!」

「違うよ。天音は・・・オメガヴィーナスは、ボクたちを逃がすためにわざと時間を稼いでいるんだ!」

 白銀のオメガスレイヤーにとって、この場で優先すべきことはなにか。
 妖化屍アヤカシを葬ることは確かに宿命ではあるが・・・第一にすべきことではない。優先事項は他にある。
 まず最優先すべきは、この闘いに巻き込まれた家族たちを守ること。
 次にすべきは、光属性の力を得た自分が、無事に生き延びることであった。
 
 その気になれば、3対1というこの状況下でも、天音ひとりなら逃げることは可能だろう。しかし、家族たちも一緒に、となるとひとりで3人を守り切るのは難しい。
 ならば、まずは己が囮となって、父母と妹を逃がす。
 その後、独力でオメガヴィーナスは死地を脱するつもりなのだ・・・だからこそ、無抵抗で蹂躙され続けていると、父は気付いた。
 
「ボクたちは全力で逃げること。そうでないと、天音の頑張りが無意味になってしまうよ」

「だけど! お姉ちゃんは、私たちの代表であの力を得たんでしょ!? 誰よりもお姉ちゃんが生きなきゃ、意味ないじゃんッ!!」

 子供だと思っていた娘の言葉に、父は言葉を詰まらせた。
 
「まだくたばらぬかッ! じゃが、硬い装甲を持つ生物も、内側からの攻撃には弱いのがセオリーじゃて!」

「ホホホホッ・・・! 地獄を見せてあげるわ、オメガヴィーナス!」

 甲高く笑う縛姫バクキの袖口から、新たな緑の蛇が飛び出す。
 蛇は乙女の内股を伝い、太腿の付け根へと昇っていく。
 
「ひうッ!? い、いやッ・・・あああ”ッ!!」

 事態に気付き、明らかな動揺を天音は見せた。
 ブルブルと震える腿を、這い上る蛇。
 その頭が、白銀のスーツを押し分けて秘唇の内部へと潜っていく。
 
「ダ、ダメぇっ・・・!! そこはッ・・・うあああ”あ”ッ~~ッ!!」

 ガブウッ!! ガブッ! ブシュッ! ブチブチッ!!
 
 膣内に潜入した蛇が、肉襞を、子宮の底を噛みまくる。
 内部も強化されているとはいえ、縛姫の蛇もまた、普通ではない。
 
「きゃあああ”ア”ア”ッ――ッ!! ひィう”ッ!? うがああ”あ”ァッ~~ッ!!」

「キヒヒヒィッ~~ッ!! 今度は上の口からじゃあッ!!」

 絶叫する光女神の口腔に狙いを定め、骸頭は槍を構えた。
 三又の中央。ひとつの尖先が、一気に伸びる。
 
 ドシュッ!!
 
「んむう”ゥ”ッ――ッ!?」

「ヒョホホホッ!! 咽喉を通過し、胃の内部まで達したようじゃなッ!」

 ザクッ! ザシュッ! ザクンッ!
 
 オメガヴィーナスの口に突っ込んだ漆黒の槍を、骸頭ガイズはめちゃめちゃに暴れさせた。
 ビクビクと肩を揺らして悶絶する白銀の女神。だが、スーパーヒロインの肢体は蛇によって緊縛され、それ以上の動きを許されない。
 
「ブシュッ・・・!! ごぷゥ”ッ!! ・・・ゴボア”ッ!!」

「イヒッ、イッ~ヒヒヒィッ!! さすがの女神さまも、これはこたえるようじゃのう!」

 喘ぐ口から鮮血の破片が飛び散り、股間からはボトボトと赤い糸が落ちる。
 凛とした天音の瞳が、めまぐるしく白黒裏返る。究極戦士がこのような醜態を見せるなど、誰が想像し得ただろうか。
 
(こ、このままじゃ・・・本当に、殺されて・・・しまう・・・)

 敗北の予感が、初めて天音の脳裏によぎった。
 家族を逃がすため、もはや耐えている余裕はない。全力を解放して、一気に緊縛からの脱出を図る。
 
 ドシュドシュドシュッ!!
 
「んぐう”ッ!! ・・・かはァっ・・・ア”ッ・・・!!」

「残念だが、オレもいることを忘れるな」

 〝慧眼”のローブのなかから、白い凶器が6本飛び出し、胸の「Ω」マークに刺さっていた。
 ギリギリと、締め付ける。紋章に深く食い込むたび、身を裂くような激痛にオメガヴィーナスは悲鳴をあげた。
 左右で対となった凶器は、よく見れば肋骨が変形したものだった。
 
「アアア”ア”ッ~~ッ!! ぐッ、うう”ゥッ・・・うあああ”あ”ッ~~ッ!!」
 
「このマークにも何か秘密がありそうだと思っていたが・・・思った以上に効果があったようだ」

「アハア”ッ・・・!! ゴブッ!! ・・・う”、ああ”ッ・・・!!」

 天を仰ぐオメガヴィーナスの瞳から、一筋の雫が頬を流れた。
 ピクピクと痙攣を続ける、白銀と紺青の女神。
 四乃宮天音は死を覚悟した。
 
(・・・力・・・が・・・抜けてい・・・く・・・も、う・・・・・・)

 ・・・バキイィッ!!
 
 硬い殴打の音が、ローブの男の後頭部で響いた。
 ゆっくりと、〝慧眼”が振り返る。
 ブレザー姿の女子高生が、マシンガンを逆に構えて震えていた。
 
「いくっ・・・みッ!? ・・・バカッ・・・逃げな、さいッ・・・!!」

「はあっ! はあっ! はあっ! ・・・お姉ちゃんからッ・・・離れてよッ!!」

 気がつけば、父の制止を振り切って、郁美は地面に落ちていた銃器を拾っていた。
 離れた場所から、両親が真っ青な顔で娘たちの様子を見詰めている。
 マシンガンの銃床が曲がっている。16歳の少女とは思えぬ、思い切りの良さだった。妖魔相手の勇敢な行動は、賞賛されるべき胆力であったが、むろん人妖ジンヨウの妖化屍に通じるはずもない。
 ダメージはゼロ。しかし、少女の勇気は大きな変化をもたらした。
 肋骨のクローが抜けるのも構わず、〝慧眼”は姉ではなく妹に正対した。
 
「小娘・・・なにを考えている?」

「はあっ、はあッ・・・!! 出来の悪い妹が、お姉ちゃん助けるのがそんなに不思議!?」

「死ぬのが、怖くないのか?」

「怖いに決まってるよッ! けどッ! ・・・あなた、さっき私たちには手を出さない、って言ったよね!? 正々堂々と闘うんでしょっ!?」

 闇に包まれたベールのなかで、〝慧眼”が表情を変えたのがわかった。
 オメガヴィーナスによく似た、端整な容貌の少女。
 大きく、眦の切れ上がった綺麗な瞳は、真っ直ぐに妖化屍を見詰めていた。
 
「・・・ウソをついているとは、疑わないのか。さすが、オメガヴィーナスの妹だな」

「なにをベラベラくっちゃべっておるか! 〝慧眼”よぉ、とっととそんな小娘は殺して、オメガヴィーナスにトドメを刺すんじゃ!」

「させない、わ」

 大いなるエネルギーの波動を感じ、骸頭は窪んだ眼を見開いた。
 オメガヴィーナスの胸で、黄金の紋章が眩く輝いている。
 白銀のスーツにも、プラチナブロンドの髪にも、煌めきが戻っていた。妖化屍3体による同時の猛攻が途絶えた刹那、光女神に復活の時間を与えてしまったことを悟る。
 
「郁美、ありがとう。今度は、私があなたを助ける番よ」

 全力を解放するオメガヴィーナスに、負けじと全力を振るう妖化屍。
 縛姫がミンチにすべく全身を締め上げ、骸頭は内部から串刺しにせんと、漆黒の槍を突き出す。
 
 ボンッッ!! と衝撃波が、四囲の森林を震わせた。
 
 白銀と紺青のスーツに絡まった蛇が爆散し、口腔に突っ込まれた槍が黒霧のように消滅する。
 一気に放ったオメガヴィーナスの光に、全身を叩かれた3体の妖化屍が派手に吹き飛ぶ。
 
「ぐうッ・・・うおおおッ―ッ!!」

 暴風と閃光が収まった後、崖下の台地に立っているのは、妹を抱き寄せたオメガヴィーナスただひとりであった。
 
「・・・・・・おのッ・・・れェッ~~・・・!!」

 怨嗟の呟きを漏らし、やがて皺だらけの怪老が立ち上がる。
 ローブの男、そして紫のドレスを着こんだ〝妄執”の縛姫も、ダメージは受けつつも生きている。
 光の属性を持つオメガスレイヤーと、3体の妖化屍との闘いは、消耗戦となっていた。現状、有利にあるのは白銀の女神に見えるが、ダメージの総量に差はない。むしろ、オメガヴィーナスの方が受けた苦痛は多いのだ。
 
「お父さん・・・お母さん・・・先に、逃げてください。私と郁美は、あとで必ず追いかけます」

 崩れそうになる膝をなんとか支え、離れた両親に言葉を飛ばす。
 攻撃を受け続けたのも効いているが、光のパワーをあまりに放出し過ぎていた。未熟なうちに天音の命を狙った骸頭の策が、結果的には、この後の悲劇に繋がることになる。
 
「オメガ・・・ヴィーナス・・・こやつが相当に疲弊しておるのは間違いないッ・・・! 今じゃッ・・・今が、最強とされるオメガスレイヤーを葬る好機ぞッ!!」

 魔導士の怪老が、血を吐きながら叫ぶ。
 オメガスレイヤーが妖化屍にとっていかなる脅威か、〝百識”の骸頭は知っている。多少のリスクは冒しても、この機に白銀の光女神は抹殺しておくべきだった。
 
 切り立った崖の上から、新たな声が轟いたのは、その時であった。
 
「ふぅーっ! やっと追いつけたわネ! まったく、車事故の現場からとっても離れてるんだもん。探すの、大変だったヨ!」

「光女神も、ご家族もご無事のようですし・・・なんとか間にあったようねぇ~」

 溌剌とした声と、艶やかな声音が響き、一気に崖下へと飛び降りる。
 深紅と紺碧。ふたつの彗星が激突するかの勢いで、一直線に地表に降り立った。
 
「ッッ!!! ヌ、ヌシらはッ・・・!?」

「紅蓮の炎天使・オメガフェニックスっ!」

「蒼碧の水天使・オメガセイレーン。私たちの大事な白銀の女神・・・天音ちゃんを護らせていただきますね」

 鮮やかな赤、そして青のスーツ。翻るケープに、胸に輝く金色の「Ω」。
 妖化屍の行く手を遮るように、ふたりのオメガスレイヤーが、死闘の台地に降臨した。
 



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