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7、慧眼
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「あ、天音・・・」
張り詰める空気に、女子高生のピンクの唇から姉の名が漏れた。
敵の懐に飛び込んだのは、白銀と青の女神の方だった。
ブオオオオッ!!
右腕が消える。オメガヴィーナスの周囲にだけ、雨粒が霧散する。
パンチの連打を放っているとは、普通の人間である3人の家族にはまるで見えなかった。
「ッ!?」
「どうした? 〝慧眼”という異名の理由が、少しはわかったか」
右腕が再び姿を現した時、白銀の女神は驚きを隠さなかった。
ローブの男は、平然と立っている。
それがおかしかった。不自然だった。超人的パワーとスピードを誇る究極戦士が連打を浴びせたというのに・・・生きているどころか、ダメージを受けた形跡すらないとは。
「ッ・・・そんな・・・はずがないわ!」
妖化屍も尋常ではない怪物だ。オメガスレイヤーほどではないにせよ、パワーもスピードもタフネスも、規格外なものを持っている。
しかし、最強を名乗る光の女神の攻撃が、通用しないなんて・・・考えられない。
少なくとも、不可視同然のスピードの打撃を、どうして避けられるのか?
「ならッ、本気を出すわよ!」
右だけでなく、左のパンチも美女神が放つ。突風のような連打が、ローブの男を包む。
眼にも止まらぬ攻防のなかで、パパパパッ! と乾いた音が連続した。
〝慧眼”は変わらず、立ち続けている。
「バカなッ!? なぜ私のッ・・・オメガヴィーナスの打撃が効かないの!?」
凛とした瞳が見開く。白銀と青の女神が、動揺しているのは明らかだった。
「光の属性を持つオメガヴィーナスは、誰よりも速いと聞いたのにッ・・・! 私のパンチが見えるはずがないのにッ・・・!」
「天音ッ、落ち着くんだッ!!」
「そんなに不思議か? ならば教えてやろう」
ローブの中にある漆黒の闇が、不敵に言い放つ。
「いくらお前に脅威的なパワーとスピードがあろうとも、四乃宮天音は戦闘のド素人ということだ。常に顔面を狙う打撃。フェイクもない、率直な軌道。リキむほどに単調になる動き。無駄の多い、わかりやすい予備動作。初めて闘う小娘に相応しく、お前の攻撃は実に読みやすいのだ」
端整な美貌が、言葉を失い紅潮した。
これが〝慧眼”と呼ばれる所以か。男の言葉は、天音の欠点を正確に抉っていた。
「飛んでくる場所がわかれば、どんな怪力のパンチも、目に留まらぬ打撃も、ちょっと横から力を加えれば簡単に軌道をずらすことができる」
「くッ・・・! このッ!」
「そして、指摘を受けたお前が、パンチではなくキックを繰り出すのも想定済みだ」
青のフレアミニを翻し、高々とオメガヴィーナスは右脚をあげた。
健康的な美脚が、弧を描いて〝慧眼”の側頭部に迫る。
「素人にありがちな・・・大振りの右ハイキックをな」
全て、読まれていた。
並の人間には閃光のごとき一撃も、妖化屍にとっては無駄の多すぎる、隙だらけの蹴り技。
大股を開いて右脚を跳ね上げた白銀の女神に、身体を沈めた〝慧眼”がカウンターのブローを打ち込む。
乙女にとってもっとも大切な、股間の秘部に。
ゴキャアアアッ!!
「あくう”ッ!?」
効いた。
数百の弾丸を浴びても平気な鋼鉄の乙女といえど、妖魔の一撃は効いた。なにしろ、直撃したのは女の秘所。それもカウンター。
股間を抑えたオメガヴィーナスが、前のめりに90度折れ曲がる。
「天音ッ!?」
家族たちの悲鳴を、妖化屍の連打が掻き消した。
ローブのなかから打ち出される、左右の拳。男の腕そのものは見えなくても、白銀のスーツに起こる変化が、攻撃の正体を家族に教えた。
膨らんだ胸に。引き締まった腹筋に。拳の形をした痕が無数に刻まれていく。
ドドドドォッ!!
「ぐッ! くう”ッ! うふゥ”ッ・・・!!」
「へ」の字に折れ曲がったまま、白銀と青の女神が50cmは宙に浮いた。
〝慧眼”の猛撃により、オメガヴィーナスの肢体が地から離れてしまったのだ。
「天音ェッ!? ・・・お姉ちゃんッ!!」
今から思えば、ローブの男が家族を人質に取らなかったのも、心理的な作戦だったのだろう。
漂う余裕に、内心で天音は不安を覚えた。初めての戦闘、という特殊な状況で、不安は焦りに繋がった。焦りから、より攻撃は単調となった。
実をいえば、人妖の座にあるという妖化屍・・・つまりローブの男にもダメージはあった。それも浅からぬダメージが。
オメガヴィーナスの打撃を避ける、といっても超スピードの拳をかわすのは至難の業だ。たとえ軌道が読めていても。妖化屍の能力をもってしても。実際には〝慧眼”は、主な急所が集まる正中線のみを守り、致命傷には至らぬ打撃は、かわすのを諦め喰らっていた。
立ってこそいるがボロボロの身体・・・その真実は、骸頭の黒魔術が宿るローブに隠されている。
初めて白銀の光女神に変身した四乃宮天音が、動揺するのも無理はなかった。
「そんッ・・・な!? オメガヴィーナスが・・・妖化屍に遅れをとるわけがッ・・・!」
「信じなさいッ、天音! オメガの力は最強なんだ!」
「わかってるわッ、お父さん! この程度の攻撃・・・私には通用しな・・・」
ハッとした表情を浮かべ、白銀の女神が瞳を見開く。
ローブの男がさらに踏み込んできていた。痛烈な一撃が、くる。
「舐めないで!」
バシイィッ!!
〝慧眼”が振り下ろす右腕を、オメガヴィーナスは容易く捉えていた。
人妖の右手首を、左手でガッシリと掴む。
だが、精神的ショックに襲われたのは、天音の方だった。
「えッ!?」
ローブの闇から放たれた右腕は、骨だけになっていた。
これが人妖の正体だったのか。
〝慧眼”の術中に嵌ったと悟るには遅すぎた。焦りを抱いて闘った光の女神は、すべて策略通りに踊らされていた。
カチャ、と音がして、手首から右手が外れる。骨だけの、右手が。
驚愕するオメガヴィーナスの美貌に、指を伸ばした右手が飛んだ。
ズブウウゥッッ!!
「うわああああ”ッ――ッ!!」
突き出された二本の指が、オメガヴィーナスの両目に吸い込まれていた。
たまらず両手で顔を覆う白銀の女神。そのふたつの瞳に、ピースサインをしたような指の骨が、第二関節まで埋まっている。
「あッ・・・天ッ・・・!!」
視界を閉ざされたオメガヴィーナスに、ローブの男が飛び掛かる。
突き上げる膝蹴りが、尖った顎をグシャリと跳ね上げた。
紺青のフレアミニとケープをなびかせ、白銀のスーツを着た戦士が、高々と上空に舞った。
「今だッ!! 骸頭ッ!」
「キヒヒヒッ!! 〝ディアボロハンド”よ、オメガヴィーナスを捻り潰せッ!!」
左右の巨大な掌が、プラチナブロンドの女神を鷲掴む。
召喚された悪魔は、スレンダーな肢体を凄まじい力で握り潰した。
ベキベキベキィッ!! ミチミチッ・・・!!
「きゃあああ”あ”ッ~~ッ!!! うあああ”あ”ァッ――ッ!!!」
山深い森林に、美乙女の悲鳴が響き渡った。
張り詰める空気に、女子高生のピンクの唇から姉の名が漏れた。
敵の懐に飛び込んだのは、白銀と青の女神の方だった。
ブオオオオッ!!
右腕が消える。オメガヴィーナスの周囲にだけ、雨粒が霧散する。
パンチの連打を放っているとは、普通の人間である3人の家族にはまるで見えなかった。
「ッ!?」
「どうした? 〝慧眼”という異名の理由が、少しはわかったか」
右腕が再び姿を現した時、白銀の女神は驚きを隠さなかった。
ローブの男は、平然と立っている。
それがおかしかった。不自然だった。超人的パワーとスピードを誇る究極戦士が連打を浴びせたというのに・・・生きているどころか、ダメージを受けた形跡すらないとは。
「ッ・・・そんな・・・はずがないわ!」
妖化屍も尋常ではない怪物だ。オメガスレイヤーほどではないにせよ、パワーもスピードもタフネスも、規格外なものを持っている。
しかし、最強を名乗る光の女神の攻撃が、通用しないなんて・・・考えられない。
少なくとも、不可視同然のスピードの打撃を、どうして避けられるのか?
「ならッ、本気を出すわよ!」
右だけでなく、左のパンチも美女神が放つ。突風のような連打が、ローブの男を包む。
眼にも止まらぬ攻防のなかで、パパパパッ! と乾いた音が連続した。
〝慧眼”は変わらず、立ち続けている。
「バカなッ!? なぜ私のッ・・・オメガヴィーナスの打撃が効かないの!?」
凛とした瞳が見開く。白銀と青の女神が、動揺しているのは明らかだった。
「光の属性を持つオメガヴィーナスは、誰よりも速いと聞いたのにッ・・・! 私のパンチが見えるはずがないのにッ・・・!」
「天音ッ、落ち着くんだッ!!」
「そんなに不思議か? ならば教えてやろう」
ローブの中にある漆黒の闇が、不敵に言い放つ。
「いくらお前に脅威的なパワーとスピードがあろうとも、四乃宮天音は戦闘のド素人ということだ。常に顔面を狙う打撃。フェイクもない、率直な軌道。リキむほどに単調になる動き。無駄の多い、わかりやすい予備動作。初めて闘う小娘に相応しく、お前の攻撃は実に読みやすいのだ」
端整な美貌が、言葉を失い紅潮した。
これが〝慧眼”と呼ばれる所以か。男の言葉は、天音の欠点を正確に抉っていた。
「飛んでくる場所がわかれば、どんな怪力のパンチも、目に留まらぬ打撃も、ちょっと横から力を加えれば簡単に軌道をずらすことができる」
「くッ・・・! このッ!」
「そして、指摘を受けたお前が、パンチではなくキックを繰り出すのも想定済みだ」
青のフレアミニを翻し、高々とオメガヴィーナスは右脚をあげた。
健康的な美脚が、弧を描いて〝慧眼”の側頭部に迫る。
「素人にありがちな・・・大振りの右ハイキックをな」
全て、読まれていた。
並の人間には閃光のごとき一撃も、妖化屍にとっては無駄の多すぎる、隙だらけの蹴り技。
大股を開いて右脚を跳ね上げた白銀の女神に、身体を沈めた〝慧眼”がカウンターのブローを打ち込む。
乙女にとってもっとも大切な、股間の秘部に。
ゴキャアアアッ!!
「あくう”ッ!?」
効いた。
数百の弾丸を浴びても平気な鋼鉄の乙女といえど、妖魔の一撃は効いた。なにしろ、直撃したのは女の秘所。それもカウンター。
股間を抑えたオメガヴィーナスが、前のめりに90度折れ曲がる。
「天音ッ!?」
家族たちの悲鳴を、妖化屍の連打が掻き消した。
ローブのなかから打ち出される、左右の拳。男の腕そのものは見えなくても、白銀のスーツに起こる変化が、攻撃の正体を家族に教えた。
膨らんだ胸に。引き締まった腹筋に。拳の形をした痕が無数に刻まれていく。
ドドドドォッ!!
「ぐッ! くう”ッ! うふゥ”ッ・・・!!」
「へ」の字に折れ曲がったまま、白銀と青の女神が50cmは宙に浮いた。
〝慧眼”の猛撃により、オメガヴィーナスの肢体が地から離れてしまったのだ。
「天音ェッ!? ・・・お姉ちゃんッ!!」
今から思えば、ローブの男が家族を人質に取らなかったのも、心理的な作戦だったのだろう。
漂う余裕に、内心で天音は不安を覚えた。初めての戦闘、という特殊な状況で、不安は焦りに繋がった。焦りから、より攻撃は単調となった。
実をいえば、人妖の座にあるという妖化屍・・・つまりローブの男にもダメージはあった。それも浅からぬダメージが。
オメガヴィーナスの打撃を避ける、といっても超スピードの拳をかわすのは至難の業だ。たとえ軌道が読めていても。妖化屍の能力をもってしても。実際には〝慧眼”は、主な急所が集まる正中線のみを守り、致命傷には至らぬ打撃は、かわすのを諦め喰らっていた。
立ってこそいるがボロボロの身体・・・その真実は、骸頭の黒魔術が宿るローブに隠されている。
初めて白銀の光女神に変身した四乃宮天音が、動揺するのも無理はなかった。
「そんッ・・・な!? オメガヴィーナスが・・・妖化屍に遅れをとるわけがッ・・・!」
「信じなさいッ、天音! オメガの力は最強なんだ!」
「わかってるわッ、お父さん! この程度の攻撃・・・私には通用しな・・・」
ハッとした表情を浮かべ、白銀の女神が瞳を見開く。
ローブの男がさらに踏み込んできていた。痛烈な一撃が、くる。
「舐めないで!」
バシイィッ!!
〝慧眼”が振り下ろす右腕を、オメガヴィーナスは容易く捉えていた。
人妖の右手首を、左手でガッシリと掴む。
だが、精神的ショックに襲われたのは、天音の方だった。
「えッ!?」
ローブの闇から放たれた右腕は、骨だけになっていた。
これが人妖の正体だったのか。
〝慧眼”の術中に嵌ったと悟るには遅すぎた。焦りを抱いて闘った光の女神は、すべて策略通りに踊らされていた。
カチャ、と音がして、手首から右手が外れる。骨だけの、右手が。
驚愕するオメガヴィーナスの美貌に、指を伸ばした右手が飛んだ。
ズブウウゥッッ!!
「うわああああ”ッ――ッ!!」
突き出された二本の指が、オメガヴィーナスの両目に吸い込まれていた。
たまらず両手で顔を覆う白銀の女神。そのふたつの瞳に、ピースサインをしたような指の骨が、第二関節まで埋まっている。
「あッ・・・天ッ・・・!!」
視界を閉ざされたオメガヴィーナスに、ローブの男が飛び掛かる。
突き上げる膝蹴りが、尖った顎をグシャリと跳ね上げた。
紺青のフレアミニとケープをなびかせ、白銀のスーツを着た戦士が、高々と上空に舞った。
「今だッ!! 骸頭ッ!」
「キヒヒヒッ!! 〝ディアボロハンド”よ、オメガヴィーナスを捻り潰せッ!!」
左右の巨大な掌が、プラチナブロンドの女神を鷲掴む。
召喚された悪魔は、スレンダーな肢体を凄まじい力で握り潰した。
ベキベキベキィッ!! ミチミチッ・・・!!
「きゃあああ”あ”ッ~~ッ!!! うあああ”あ”ァッ――ッ!!!」
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