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3、白銀の女神
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父の言葉が紡がれようとした寸前、緊張した天音の声が割って入る。
「・・・お父さん。どうやら相手は、私たちの行動を予め読んでいたようです」
低くつぶやき、天を駆けた美乙女は大地に着地した。
眼前に、切り立った崖がある。降り立ったのは、その前に開けた山肌の台地だった。
ざっと見渡して、100m四方ほどの広さは襲撃にはもってこいの場所と思えた。
「どうしたの、天音? この崖を昇るのは、さすがにムリ?」
「できなくはないけど・・・ダメよ」
すっと人差し指で、天音は崖の上を示した。
無数の人影が、蠢いている。その手には、マシンガンやバズーカ砲と思しき銃火器が握られていた。
「ッ!!」
「逃げているようで、私は巧みに、この場に誘導されていたみたい」
3人の家族を静かに降ろし、黒ワンピースの乙女は周囲に視線を飛ばす。
「ヒョッヒョッヒョッ・・・なかなかに利発な娘のようじゃなあ」
そぼ降る雨の彼方に、濃密な漆黒が滲み出した。
漆黒は、やがて影となる。四肢を伴い、人の形をとって、天音たち4人の前に進み出た。
「家族の身を案じ、安易に崖に昇るのを自重した。のみならず、瞬時に儂の意図するところを読み取ったか。悪くない。悪くないぞお」
「あなたが、今回の首謀者というわけね」
両親と妹を庇うように、天音もまた前に出た。
闇から姿を現したのは、背中の丸まった、皺だらけの老人だった。
「うッ・・・!」
思わず吐き気を催し、慌てて郁美は逆流しかけた胃の内容物を飲み込んだ。
不気味な老人だった。体長にして、130cmほどの小柄。異様に長く伸びた鷲鼻と尖った耳とが、魔法使いを連想させる。垂れ下がった眼は奥まで落ち窪み、吊り上がった唇が耳近くまで裂けている。髪の毛一本もなく禿げ上がった頭にも皺が深く刻まれ、カサカサに枯れた皮膚に、雨が沁み込んでいた。
これだけでも明らかに異様。常人でないのは明白だが、郁美を戦慄させたのはそれだけではない。
蛆が湧いていた。身体中の皺の狭間に、白く長いものがウヨウヨと。
それでいてこの老人は、我が身にたかる蛆に、まるで無頓着であるらしかった。
「んん~? ああ、これじゃな」
姉の背後で震える少女に気付き、老人はニヤリと笑った。
額の皺で蠢く蛆を掴むと、そのまま口の中にいれ、ムシャムシャと咀嚼する。
「うッ・・・うう”ゥッ・・・!!」
「なあに、儂の非常食じゃよ。お嬢ちゃんもおひとついかがかな?」
「郁美には手を出させないわ!」
鋭く言い放ち、天音は大の字で立ちはだかった。
「郁美、お父さん、お母さん。そこで固まって、動かないで。絶対に、私の後ろから外れてはダメよ」
「ヒョホホホ・・・!! いい気構えじゃのう~。情報では昨日まで普通の人間だったはずじゃが・・・信じられんわい」
「あなたの狙いは私のはずでしょう。この、四乃宮天音の命が」
「そうかね。ヌシの名は四乃宮天音というのかね。じゃが、生憎、死に逝くオメガスレイヤーの素性になど、興味はなくてのう」
オメガスレイヤー? ・・・オメガって、昨日あのコが言っていた?
聞き慣れぬ単語に、郁美が意識を奪われた瞬間だった。
「肉片になるがよい」
突如地中から、無数の人影が飛び出す。
20、30・・・いや、50はいるか。
手に手に持ったライフルや拳銃、マシンガンから果てはミサイルランチャーまで。ありとあらゆる銃火器の砲口が、一斉に大の字の天音に向けられた。
ドドドドッ!! パラパラパラ! ドガガガガッ!!
「きゃああああッ――ッ!!」
銃撃の炎が飛び散り、轟音が響く。郁美の悲鳴が、凄惨な音色に重なった。
家族を守るため、立ちはだかった美しき乙女。顔といわず、胸といわず、その全身に弾丸の嵐が浴びせられる。バズーカの砲弾までが、まともに天音に直撃した。
ひらひらと、千切れたワンピースの破片が宙を舞う。
衣服だけでなく、天音の肉体自体も、原型を残しているとは到底思えなかった。
「・・・それで、お終い?」
集中砲火の火花のなかで、信じられない声がした。
まず第一に、その声が聞こえるはずがなかった。何百発という銃撃を受けて、なぜ生き永らえている人間がいるのか。
そして次に、声の調子に余裕が漂うのが、怪物という概念すら越えて信じられなかった。
「・・・なるほどのう・・・これが、オメガスレイヤーの力かね」
よく目を凝らせば、大の字で動かないと思われた天音の両腕が、わずかにブレていることが確認できる。
凄まじい速度で、天音の両手は弾丸を掴んでいた。流れ弾が、後ろの家族に当たらないように。
我が身に当たる銃弾に関しては、避けない。なぜならば、いくら弾丸を浴びても四乃宮天音には通用しないから――。
「私には、こんなものは何万発撃っても効かないわ」
拳を握った両手を、ゆっくりと開く。潰れた弾丸が、パラパラと地に落ちた。
次の瞬間、眩い白光が、天音の全身で爆発する。
足元に転がった銃弾が、光の暴発に弾き飛ばされる。そのうちのいくつかは、何体かの襲撃者を貫通した。白光の余波をまともに浴びて、それだけでバタバタと倒れていく者もあった。
夜を昼に変えるような光の奔流に、地中から現れた襲撃者たちは後ずさった。
「こッ・・・これはッ!!」
光のなかから現れた姉の姿に、郁美は声をあげていた。
美しさに、目がくらむ。
街中ならば奇抜にさえ見えるファッションにも関わらず・・・よく見知ったはずの姉は、麗しく、気高く、神々しくすら郁美には映った。
黒のワンピースの下、天音が着こんでいたのは手甲にまで伸びた白銀のスーツ。膝下までのロングブーツも白く光り輝いている。
黄金に輝く胸の紋章とベルト。背中に纏ったケープとフレアミニのスカートは、知性を示すような澄み切った紺青だった。
漆黒の髪はプラチナブロンドに変わり、全身を光の粒子がキラキラと覆っている。
胸中央の黄金の紋章には、青色で「Ω」にも似た記号が刻まれていた。
「郁美・・・ごめんね。本当はこんな形で、あなたに教えたくはなかったんだけれど」
青のケープを翻し、腰に両手を添えて白銀の乙女は仁王立ちした。
光り輝くその姿は、まさに女神の降臨を思わせた。
「私は、白銀の光女神オメガヴィーナス・・・オメガスレイヤーの頂点に立つ戦士よ」
「・・・お父さん。どうやら相手は、私たちの行動を予め読んでいたようです」
低くつぶやき、天を駆けた美乙女は大地に着地した。
眼前に、切り立った崖がある。降り立ったのは、その前に開けた山肌の台地だった。
ざっと見渡して、100m四方ほどの広さは襲撃にはもってこいの場所と思えた。
「どうしたの、天音? この崖を昇るのは、さすがにムリ?」
「できなくはないけど・・・ダメよ」
すっと人差し指で、天音は崖の上を示した。
無数の人影が、蠢いている。その手には、マシンガンやバズーカ砲と思しき銃火器が握られていた。
「ッ!!」
「逃げているようで、私は巧みに、この場に誘導されていたみたい」
3人の家族を静かに降ろし、黒ワンピースの乙女は周囲に視線を飛ばす。
「ヒョッヒョッヒョッ・・・なかなかに利発な娘のようじゃなあ」
そぼ降る雨の彼方に、濃密な漆黒が滲み出した。
漆黒は、やがて影となる。四肢を伴い、人の形をとって、天音たち4人の前に進み出た。
「家族の身を案じ、安易に崖に昇るのを自重した。のみならず、瞬時に儂の意図するところを読み取ったか。悪くない。悪くないぞお」
「あなたが、今回の首謀者というわけね」
両親と妹を庇うように、天音もまた前に出た。
闇から姿を現したのは、背中の丸まった、皺だらけの老人だった。
「うッ・・・!」
思わず吐き気を催し、慌てて郁美は逆流しかけた胃の内容物を飲み込んだ。
不気味な老人だった。体長にして、130cmほどの小柄。異様に長く伸びた鷲鼻と尖った耳とが、魔法使いを連想させる。垂れ下がった眼は奥まで落ち窪み、吊り上がった唇が耳近くまで裂けている。髪の毛一本もなく禿げ上がった頭にも皺が深く刻まれ、カサカサに枯れた皮膚に、雨が沁み込んでいた。
これだけでも明らかに異様。常人でないのは明白だが、郁美を戦慄させたのはそれだけではない。
蛆が湧いていた。身体中の皺の狭間に、白く長いものがウヨウヨと。
それでいてこの老人は、我が身にたかる蛆に、まるで無頓着であるらしかった。
「んん~? ああ、これじゃな」
姉の背後で震える少女に気付き、老人はニヤリと笑った。
額の皺で蠢く蛆を掴むと、そのまま口の中にいれ、ムシャムシャと咀嚼する。
「うッ・・・うう”ゥッ・・・!!」
「なあに、儂の非常食じゃよ。お嬢ちゃんもおひとついかがかな?」
「郁美には手を出させないわ!」
鋭く言い放ち、天音は大の字で立ちはだかった。
「郁美、お父さん、お母さん。そこで固まって、動かないで。絶対に、私の後ろから外れてはダメよ」
「ヒョホホホ・・・!! いい気構えじゃのう~。情報では昨日まで普通の人間だったはずじゃが・・・信じられんわい」
「あなたの狙いは私のはずでしょう。この、四乃宮天音の命が」
「そうかね。ヌシの名は四乃宮天音というのかね。じゃが、生憎、死に逝くオメガスレイヤーの素性になど、興味はなくてのう」
オメガスレイヤー? ・・・オメガって、昨日あのコが言っていた?
聞き慣れぬ単語に、郁美が意識を奪われた瞬間だった。
「肉片になるがよい」
突如地中から、無数の人影が飛び出す。
20、30・・・いや、50はいるか。
手に手に持ったライフルや拳銃、マシンガンから果てはミサイルランチャーまで。ありとあらゆる銃火器の砲口が、一斉に大の字の天音に向けられた。
ドドドドッ!! パラパラパラ! ドガガガガッ!!
「きゃああああッ――ッ!!」
銃撃の炎が飛び散り、轟音が響く。郁美の悲鳴が、凄惨な音色に重なった。
家族を守るため、立ちはだかった美しき乙女。顔といわず、胸といわず、その全身に弾丸の嵐が浴びせられる。バズーカの砲弾までが、まともに天音に直撃した。
ひらひらと、千切れたワンピースの破片が宙を舞う。
衣服だけでなく、天音の肉体自体も、原型を残しているとは到底思えなかった。
「・・・それで、お終い?」
集中砲火の火花のなかで、信じられない声がした。
まず第一に、その声が聞こえるはずがなかった。何百発という銃撃を受けて、なぜ生き永らえている人間がいるのか。
そして次に、声の調子に余裕が漂うのが、怪物という概念すら越えて信じられなかった。
「・・・なるほどのう・・・これが、オメガスレイヤーの力かね」
よく目を凝らせば、大の字で動かないと思われた天音の両腕が、わずかにブレていることが確認できる。
凄まじい速度で、天音の両手は弾丸を掴んでいた。流れ弾が、後ろの家族に当たらないように。
我が身に当たる銃弾に関しては、避けない。なぜならば、いくら弾丸を浴びても四乃宮天音には通用しないから――。
「私には、こんなものは何万発撃っても効かないわ」
拳を握った両手を、ゆっくりと開く。潰れた弾丸が、パラパラと地に落ちた。
次の瞬間、眩い白光が、天音の全身で爆発する。
足元に転がった銃弾が、光の暴発に弾き飛ばされる。そのうちのいくつかは、何体かの襲撃者を貫通した。白光の余波をまともに浴びて、それだけでバタバタと倒れていく者もあった。
夜を昼に変えるような光の奔流に、地中から現れた襲撃者たちは後ずさった。
「こッ・・・これはッ!!」
光のなかから現れた姉の姿に、郁美は声をあげていた。
美しさに、目がくらむ。
街中ならば奇抜にさえ見えるファッションにも関わらず・・・よく見知ったはずの姉は、麗しく、気高く、神々しくすら郁美には映った。
黒のワンピースの下、天音が着こんでいたのは手甲にまで伸びた白銀のスーツ。膝下までのロングブーツも白く光り輝いている。
黄金に輝く胸の紋章とベルト。背中に纏ったケープとフレアミニのスカートは、知性を示すような澄み切った紺青だった。
漆黒の髪はプラチナブロンドに変わり、全身を光の粒子がキラキラと覆っている。
胸中央の黄金の紋章には、青色で「Ω」にも似た記号が刻まれていた。
「郁美・・・ごめんね。本当はこんな形で、あなたに教えたくはなかったんだけれど」
青のケープを翻し、腰に両手を添えて白銀の乙女は仁王立ちした。
光り輝くその姿は、まさに女神の降臨を思わせた。
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