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明暗
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目が覚めた頃には日は沈み、空は闇色に染まっていた。
早めに夕食を済ませようと、冷蔵庫を漁る。冷気とともに中から冷凍食品を取り出す。
―はずだった。
冷蔵庫の中には何もなく、もはや冷たいだけの箱と化していた。こうなれば残る希望は棚に置いてあるインスタントヌードルしかない。
ノアは勢いよく、あることを祈り棚の開き戸を開けた。
「嘘だろ・・・」
元気よく開けた割には棚の中は悲しいほどに空虚だった。自分の気持ちも棚の中の様、空虚になりつつも、買い物をしに行くことをしぶしぶ決意したのだった。
少し大きめのパーカーを着、袖を三回ほどまくる。久々に出た外の世界に日の光は無く、あるのは道の両端にある街灯のみ。
時間帯のせいか、人通りが少ない、いや一人もいないと言った方が正しいか。
月は雲が隠していて見えない。唯一の明かりである街灯を頼りに近所のスーパーへと足を運ぶ。
それにしても人っ子一人いない夜の道はどこか不気味だ。一刻も早く家に帰りたい。そう思い、うつむきながら足早に歩いていくと。
チリチリン・・・
突如聞こえた音に思わず足を止める。鈴のような音色が今、確かに耳に響いた。が、幻聴だと思いたい自分がいる。
顔を上げて自分の周りを隅々まで見渡し、音の根源がどこなのか探したいが、残念なことにそれは難しい。何故、難しいのかという答えはとても単純なものである。
目の前に誰かいる。
自分の影に対になるようにして伸びるその影は、何も言わずにただ佇んでいる。
いつの間に・・・。疑問符と焦りがじりじりと迫る感覚。手には変な汗がじわり、出てくる。反射的に固く握る。
暫くの沈黙についに耐え切れず、恐る恐る顔を上げた。そして、息をのんだ。
対向の影の主である目の前の人物はもしかしたら人間ではないのかもしれない。足が全て隠れてしまうほどの白いマントに身を包み、猫の顔のような仮面をつけていた。
頭髪は長くも短くもなく、人間のそれに似ている。
そして何より、ネコ科の獣の耳と、長くすらっとしたしっぽまでついていて、時たまピクリと動く。
また、マントや仮面、髪にはところどころ煤が付き汚れていた。
全身を一通り見終えたところで、鈴がついていないことに気付く。先ほど聞えたのはやはり幻聴だったのだろうか。
「君には鈴の音が聞こえたのかい?」
「!!」
心を読んだのか、表情に表れてしまっていたのか、仮面の人物は言った。動揺を隠しきれず目が泳ぐ。
「鈴の音は心が弱い者にしか聞こえない。心の弱い者は『鬼』に火を消され『ヌケガラ』になり、欲の強いものは火を求め『鬼』と化す。君はそれでいいと思うかい?」
いきなりの話で頭が回らない。『鬼』?『火を消す』?『ヌケガラ』?一体何の話をしているんだ。思考が追い付かない。
「君は何者なんだ」
仮面の人物は言う。仮面の下でかすかに微笑んだ気がした。
「ネコ、とでも言っておこうかな」
仮面の人物―ネコはこれだけ言うと、すぐそばにある狭い路地へと入って行ってしまった。
ネコの姿が路地へ消えゆく前に、何故かノアは、ネコを追いかけるかの様に狭い路地へと足を踏み入れたのだった。
雲は流れ、大きな三日月が顔を見せる。
そして、小さな影二人を、
――食べた――
早めに夕食を済ませようと、冷蔵庫を漁る。冷気とともに中から冷凍食品を取り出す。
―はずだった。
冷蔵庫の中には何もなく、もはや冷たいだけの箱と化していた。こうなれば残る希望は棚に置いてあるインスタントヌードルしかない。
ノアは勢いよく、あることを祈り棚の開き戸を開けた。
「嘘だろ・・・」
元気よく開けた割には棚の中は悲しいほどに空虚だった。自分の気持ちも棚の中の様、空虚になりつつも、買い物をしに行くことをしぶしぶ決意したのだった。
少し大きめのパーカーを着、袖を三回ほどまくる。久々に出た外の世界に日の光は無く、あるのは道の両端にある街灯のみ。
時間帯のせいか、人通りが少ない、いや一人もいないと言った方が正しいか。
月は雲が隠していて見えない。唯一の明かりである街灯を頼りに近所のスーパーへと足を運ぶ。
それにしても人っ子一人いない夜の道はどこか不気味だ。一刻も早く家に帰りたい。そう思い、うつむきながら足早に歩いていくと。
チリチリン・・・
突如聞こえた音に思わず足を止める。鈴のような音色が今、確かに耳に響いた。が、幻聴だと思いたい自分がいる。
顔を上げて自分の周りを隅々まで見渡し、音の根源がどこなのか探したいが、残念なことにそれは難しい。何故、難しいのかという答えはとても単純なものである。
目の前に誰かいる。
自分の影に対になるようにして伸びるその影は、何も言わずにただ佇んでいる。
いつの間に・・・。疑問符と焦りがじりじりと迫る感覚。手には変な汗がじわり、出てくる。反射的に固く握る。
暫くの沈黙についに耐え切れず、恐る恐る顔を上げた。そして、息をのんだ。
対向の影の主である目の前の人物はもしかしたら人間ではないのかもしれない。足が全て隠れてしまうほどの白いマントに身を包み、猫の顔のような仮面をつけていた。
頭髪は長くも短くもなく、人間のそれに似ている。
そして何より、ネコ科の獣の耳と、長くすらっとしたしっぽまでついていて、時たまピクリと動く。
また、マントや仮面、髪にはところどころ煤が付き汚れていた。
全身を一通り見終えたところで、鈴がついていないことに気付く。先ほど聞えたのはやはり幻聴だったのだろうか。
「君には鈴の音が聞こえたのかい?」
「!!」
心を読んだのか、表情に表れてしまっていたのか、仮面の人物は言った。動揺を隠しきれず目が泳ぐ。
「鈴の音は心が弱い者にしか聞こえない。心の弱い者は『鬼』に火を消され『ヌケガラ』になり、欲の強いものは火を求め『鬼』と化す。君はそれでいいと思うかい?」
いきなりの話で頭が回らない。『鬼』?『火を消す』?『ヌケガラ』?一体何の話をしているんだ。思考が追い付かない。
「君は何者なんだ」
仮面の人物は言う。仮面の下でかすかに微笑んだ気がした。
「ネコ、とでも言っておこうかな」
仮面の人物―ネコはこれだけ言うと、すぐそばにある狭い路地へと入って行ってしまった。
ネコの姿が路地へ消えゆく前に、何故かノアは、ネコを追いかけるかの様に狭い路地へと足を踏み入れたのだった。
雲は流れ、大きな三日月が顔を見せる。
そして、小さな影二人を、
――食べた――
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