陽炎

王里さつき

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日常

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完全に閉め切られた部屋にカタカタと軽い音だけが響く。
電気をつけていないため薄暗い部屋。その中に一点、様々な光を発しているものが一つ。
そのものを食い入るように見つめている人物が一人。器用なことに手はカタカタとその下にあるものを打ち続けている。
視線の先では、鋼鉄の鎧に身を包んだ騎士とその仲間らしき人物が敵を打撃や魔法で攻撃していた。

―渾身の一撃。

敵の頭上にある横長のゲージがゼロになる。
明るい音楽や華やかな花火とともに、画面には「STAGE CLEAR」の文字がでかでかと誕生日会の催しの如く表示された。
今度は、村へと帰還した一向の頭上にふきだしマークが浮かび上がる。枠の中にはおさめられた様々な言葉が送られてくる。


『ありがとうございました(*^_^*)』

『やっぱり強いです(^O^)』

『最高!\(^o^)/』


同じパーティにいた仲間―――オンラインでのゲーム仲間からの礼。 
これらの言葉を見るなり、無意識にため息を漏らした。
彼の名はノア。部屋から出ることを好まず、ネットサーフィンに一日を費やす。大抵が今やっているオンラインゲームである。
彼は世間一般で言う引きこもりで、学校にはもう一年あまり行っていない。
両親は幼いころに他界し、今は一人で生活している。
高校に入学したものの、わずか数日で、あることをきっかけに不登校となった。
結果、学校、制服に慣れない、友達が出来ない状態に陥ってしまったまま月日は流れるばかり。
一人暮らしには広すぎる家の中で、ついには自分の部屋にしか居場所がなくなった。理由は単純、最も落ち着く場所だから。

「ふぅ・・・」

暗い部屋の中で画面をずっと見ていたため目が極端に疲れる。疲労を少しでも回復するべく目頭を指でつまむ。

―この処方が合っているのかは不明だが・・・。

追い打ちをかけるかのように、目の下にはわずかに隈が出来ている。昨日からまともに寝ていない。

「さすがに寝ないと・・・」


限界を感じ、重くなっていく瞼に逆らえずノアは自ら睡魔に身を委ねた。
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