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恋の結末

ストーリー38

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 梅雨も終わり、華月家の庭も緑豊かな葉っぱが色付いて爽やかな夏を感じるようになった。

 私はいつものように蒼志と呉服屋で仕事をしている。奏多さんとの交際宣言後、蒼志と私の距離感も変わらず今まで通りで、蒼志は時折奏多さんとの話を面白半分に聞いてくる。

 そして午後3時を過ぎた頃、私は奥の部屋で着物の手入れをしていると、呉服屋に思いがけない来客が訪れた。

「いらっしゃいませ」

「桜さん居る!?」

 蒼志が挨拶した途端にそのお客様は慌てた素振りで私を呼ぶ。何となく聞き覚えのある男性の声……奥にいた私は何事かと顔を出す。

「あなたは確か……光さん?」

「桜の知り合い?」

 蒼志は私の方を見る。知り合いっていうか、奏多さんの知り合いの方なんだけど。とりあえず、光さんの元へ移動する。

「あの……私に何か?」

「歩きながら話すから、とりあえず華月家まで案内して」

「えっちょ、ちょっと!?」

 蒼志の呆気にとられた表情を横目に、私は光さんに手を取られて強制的に連行された。

 外の日差しを浴びながら、足早にぐいぐい歩く。薄物の着物を着ている私にはこのペースで歩くのは辛い。

「ちょっと……待って」

「あっ悪い」

 はぁはぁと息を切らしながら声をかけると、ようやく光さんは私の手を離し立ち止まった。

「そろそろ事情を話してくれませんか?」

 手を胸に当てて乱れた息を整えながら光さんを見る。

「華月家できっと奏多が暴走するはずだから、とりあえずアンタを連れて行こうと思って」

「華月家で奏多さんが? どうして……」

「奏多が桜さんの事でアクション起こすからに決まってんじゃん」

 私の事で奏多さんが華月家で暴走……まさか付き合っている事を父に言うつもり?

 私は『近いうちに華月家を出て行く事になる』という奏多さんの言葉をふと思い出した。

「光さんは奏多さんのご友人ですよね? どこまで私達の事情を知っているのですか?」

「全部知ってるよ。奏多から相談されてたし。っていうか奏多は俺の事紹介してないの?」

 私はコクンと頷く。

「アイツめ。じゃあ改めて……俺の名前は一ノ瀬 光、奏多の弟だよ。桜さんより年下だから『さん』付けで呼ばなくていいし」

 そう言えば、京都で奏多さんが大学生の弟がいるって言ってた気がする。

「光さ……光君は関西の言葉じゃないのね」

「あぁ大学こっちだし、友達と話してたら標準語になっちった。京都に帰ったら関西弁出るけどね」

 私達は歩きながら話をする。光君をよく見ると笑ったところとか特に奏多さんに似ているかも。

「それで奏多さんは何をしようと?」

「それは俺の口からは言えないし、まずは華月家に行ってみたいと何とも……。ここから家近い?」

「近いけど」

「よし、道案内よろしくな」

 そう言って光君は私をお姫様抱っこして走り出した。

「えっ!?」

「ちゃんと掴まってて。その格好だと走れないっしょ? 急がないと間に合わないよ」

 よく分からないけど光君の言う通りに掴まって、抱えられたまま頭の中を整理する。

 父に私達の恋愛報告するだけで光君が慌てるほど騒ぎになるかしら? もしかしたら他にも何かあるのかも……

 奏多さん、一体何をしようとしているの?

 気がつくともう華月家の前まで来ていた。

「あっここです」

 光君はピタッと止まり私を降ろす。そして華月家を見上げて『へぇ』と声を漏らした。

「でかい家だな。とりあえず奏多達が居そうな部屋に案内してくれ」

 奏多さんと父が話をするとしたら恐らく大広間……私は急ぎ足で廊下を走り、大広間へ光君を誘導する。

 大広間の前に着くと確かに部屋の中に誰かがいる気配がした。私は一度大きく深呼吸をする。そして『失礼します』と言ってゆっくりと障子を開けた。

 部屋に入ると想像通り重苦しい空気を感じた。父と母、その前に奏多さん……そして何故か奏多さんの父親と母親がいる。

 どういう事!?

 その場にいる全員が突然入ってきた私と光君の方をパッと向く。

「何で二人がここへ?」

 驚いた表情で奏多さんが私達に声をかけてきた。
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