上 下
33 / 40
君との出逢いー奏多sideー

ストーリー33

しおりを挟む
「今、何時やろ?」

 目を覚ました俺は、ムクっとベッドから起き上がり状況を確認する。まだ午前3時過ぎか。

 さっきまで熱のせいで頭がボーッとしていたはずやけど、薬が効いたのかだいぶ楽になっていた。

 ここ最近、桜さんの事を考え過ぎてずっと寝れない日が続いていた。寝不足のせいで免疫力が低下したんやろか。

 京都では桜さんを抱きしめたり挙句にキスまでして、桜さんが帰った後も声が聞きたくて電話したり、蒼志君と二人で会ったと聞いたら妬いてしまったり……

 桜さんの前では余裕ある大人の男で居たかったのに、最近全然余裕ないしカッコ悪いとこばかり見せてる気がする。

 ほんま俺って情けないわ。でもそんな俺でも桜さんは好きやと言ってくれた。もう愛おしくてしょうがない。

 そしてふと横を見ると、桜さんがうつ伏せになって寝てるし……側にいてくれたんか。嬉しくて思わず表情が緩む。

 俺は桜さんの髪をひと撫でしてベッドから降りた。今度は桜さんを抱きかかえてベッドの上に移動させ、布団をかける。

「……んっ」

 かけた布団に反応したのか、桜さんの口から言葉が漏れる。

 あかん、無防備な桜さんの姿に理性が吹っ飛びそうや。

 汗もかいたし、シャワー浴びてついでに頭も冷やしてこよう。

 浴室でシャワーを浴びながら、初めて桜さんと会った時の事を思い出していた。

 俺が華月家で修行始めたのが確か一年くらい前だっただろうか。あの頃はまだ標準語に慣れず、話し方に苦戦してたっけ。



一年前ーー

「奏多、すまんがこの着物を柊木呉服店に持っていってくれないか?」

「はい、分かりました」

 家元のお使いで近くにある馴染みという呉服屋に行く事になった。着物と一緒に渡された家元手書きの地図を見て場所を確認する。

「……全然分からんやん」

 開いた地図には、ただ華月家から呉服屋までの道が書かれているだけで、目印となる建物などは書いてないし、どれくらいの距離なのかも分からない。

 この辺りの土地勘のない俺にはこの地図が暗号に見えた。

 家元に地図を見ても分からないなんて言いづらいし、とにかく歩いていればそれらしき看板でも出てくるかな。そう思ってとりあえず歩き始めた。

 歩いているとたまに視線を感じる。京都ではそんなに目立たないけど、あわせ着物で歩くのはこの辺りでは珍しいのかも。

「あの……華月流の方ですか?」

 声をかけられ、見ていた地図から視線を上げるとそこには若い女性が立っていた。

『綺麗な人やな』

 それが第一印象、俺は思わず彼女をジッと見つめてしまった。

「ごめんなさい……間違ってました?」

 見惚れてボーッとしている俺に、彼女はオドオドしながら話しかけてくる。あかん、俺完全に変なやつって思われるわ。

「あっいや、合ってます。俺……いや僕は華月流で修行させてもらってる者です。よく分かりましたね」

 気を落ち着かせて笑顔を作る。

「この辺りを和服着て歩くのは、華月流の方が殆どですので。何か困ったような表情をしてたように見えましたので、思わず声をかけてしまいました」

「そうなんですね。声をかけてくれて助かりました。実はここに行きたいんですけど、よく道が分からなくて」

 そう言って家元が書いてくれた地図を彼女に見せた。

「行き先は柊木呉服店ですか。ここから近いですし案内しますね」

「いえ、それは申し訳ないですから大体の道順を教えて貰えれば大丈夫ですよ」

 それでも彼女はニッコリ微笑んで、呉服屋まで案内させて下さいと言ってくれた。

「何かすみません。この辺りの土地勘がまだないもので」

 歩きながら案内してくれてる彼女に頭を下げる。

「あっ、もしかして奏多さんですか?」

「えっ……何で僕の名前を?」

 彼女とは初対面のはず。何故、俺の名前を知っているのだろうか。思わず立ち止まって尋ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...