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突然の告白

ストーリー26

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「ちょっと急に何言い出すの? 揶揄からかわないで」

「いや本気で言ってんだけど」

 私が動揺していると、蒼志はニィッと笑みを浮かべた。

「だって蒼志から見たら私は結婚対象外じゃない」

「俺さ、桜に好きな男がいるの嫌なんだよ。お前への想いはとっくに吹っ切ったつもりだったけど、まだ残ってたみたいだ」

 蒼志はビールグラスを手に取り、勢いをつけるかのようにグイグイと飲む。そして話を続けた。

「だからさ、考えたんだ。どうしたら桜と結婚出来るかって。そしたら解決策があったんだよ」

「解決策?」

「あぁ。俺は華月流家元にはなれない。柊木家の跡を継がなきゃいけないからな。だから華月流家元には桜、お前がなれよ」

「えっ……私が華月流の家元に?」

「俺は家元にはなれないけど、華月家に婿入りして桜のサポートはする。呉服屋にいる時だけ俺は柊木姓を名乗ればいいから。それなら桜も柊木家に嫁入りしなくていいし、今みたいに時々呉服屋を手伝ってくれるだけで問題ない」

「でも、私が家元なんて」

「桜ん家の親も何処の馬の骨か分からない奴より、桜が華月家を継ぐ方が安心するんじゃないか? それに俺は桜には家元になる素質があると思うけどな」

 私が華月家を継いで家元になんて考えた事もなかった。私の役割は婿養子になってくれる人と結婚して家元になる夫のサポートをする事だと思っていたからだ。

「まぁ簡単に返事できる話じゃねぇし、少し考えてくれないか?」

「……うん」

その後も蒼志は色々話をしていたけど、私はうわの空で話が頭に入ってこなかった。

「さて、俺の理性があるうちに帰るか」

 蒼志は腕を伸び~と上を上げ、席を立つ。続くように私もスッと席を立った。

 居酒屋を出た私達は何となく気まずい空気の中、並んで歩き出す。

「帰り、送ってくれなくて大丈夫よ」

「ばぁか、こういう時は黙って送られとけ」

 私の頭をガシッと掴んで蒼志はニッと笑顔を見せる。

 それにしても蒼志のいつもと違う態度に私は戸惑ってしまう。前に私を女性扱いするのは最後だって言ったはずなのに。

「おい、桜?」

 ボーっとしながら歩いている私の前に蒼志が立ち止まる。

「えっ? あ、ごめん。ボーっとしてた」

 私は謝りながら俯き加減だった顔を上げる。気がつくともう私の家に着いていた。

「じゃあまた明日な」

 私を送り終えた蒼志はクルッと背を向けて歩き出す。でも数歩進んでピタッと止まり、また私の方を向いた。

「さっきはハッキリ言わなかったけど、俺……桜の事好きだから」

 蒼志の表情は暗くてよく見えなかったけど、それだけ言って足早に帰って行った。

 私は自分の部屋に入り、そのままベッドに腰掛ける。

 思いがけない蒼志からの告白…っていうかプロポーズ? を受け、再度自分の気持ちを整理してみた。

 少し前まで蒼志に恋心をいだいていたのは事実だ。学生時代からずっと好きだった。

 でも、いつの間にか私の心の中には奏多さんがいる。蒼志はこの気持ちを勘違いというけど、告白された今もやっぱり頭に浮かんでくるのは奏多さんの姿……

 華月家の事を考えれば蒼志の提案プロポーズを受けるべきだと思う。

 奏多さんへの想いもいつかは終わらせないといけない事も分かっている。

 だけど……

 私は窓際に移動して夜空に輝く月を見上げ、京都での夜を思い出す。

「……奏多さん」

 月に向かってそっと呟いた。

 ちょうどその時、私の携帯が鳴り始める。こんな時間に誰? と思いながらバックに入れたままの携帯を取り出して着信に出た。

「もしもし」

「……一ノ瀬やけど、こんな時間にごめんな。今、話出来る?」

「かっ奏多さん!?」

 着信相手も見ずに携帯に出てしまったので、相手が奏多さんと分かり今かなり動揺している。

 それにしても、奏多さんからのプライベート電話なんて初めてだ。

「桜さん?」

 動揺から会話するのを忘れてしまった私に、奏多さんが不思議そうな声で私の名前を呼ぶ。

「えっと、ごめんなさい」

「今話すのが無理やったらまたかけ直すけど」

「いえ、全然大丈夫です。話出来ます」

 私は心を落ち着かせて奏多さんと話を始めた。
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