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京都での一夜
ストーリー16
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「奏多さん、否定しなくていいんですか? 私が奏多さんの彼女って勘違いされてますけど」
「否定した方が良かったですか?」
「い、いえ私はどちらでも良いですけど」
最近、時々見せる奏多さんの全てを見透かしたような笑みに動揺した私は、目の前のお冷やを飲み落ち着こうとした。
しばらく奏多さんと世間話をしていると、美味しそうな湯豆腐のコース料理が出てきた。猫舌の私は熱々の湯豆腐を時間をかけてフゥフゥして食べた。
店特製のタレがまた美味しくて思わず笑みが溢れる。その様子を見た奏多さんは何故かクスッと笑った。
「桜さんって、クールビューティーな見た目から時折見せる可愛さがなんかいいですよね」
「それって褒め言葉ですか?」
「えぇ、もちろん」
またニコッと笑みを浮かべて私を見る。私は恥ずかしくなってパッと下を向いた。
多分、顔赤くなっているけど……奏多さんにバレてないよね?
確認するようにチラッと奏多さんの方を見る。その僅かな私の視線にも奏多さんは気づき、やっぱり全てを見透かしたような笑みを返してきた。
食事を終えて、私と奏多さんは店員さんに頭を下げて店を出た。
「凄く美味しかったです」
奏多さんが食事代を支払ってくれたので、私は食事代を返そうと鞄から財布を取り出す。
すると、財布を取ろうとする私の手の上に奏多さんは自分の手を置いた。
「ご馳走させて下さい」
「でも」
「今日は桜さんと一緒に食事ができて嬉しかったです。ありがとうございます」
私の手の上に手を乗せたまま、奏多さんは私に顔を近づけて優しい表情をした。
……ずるい、その表情
「私も……嬉しかったです」
私の言葉を聞くと、奏多さんはニコッとして歩き始めた。
帰り道、また桜並木を見ながら歩く。
「桜さん、空見て下さい」
「空?」
奏多さんは立ち止まり夜空を指差す。何だろうと思いながら、私はゆっくりと夜空を見上げた。
「あっ満月」
見上げた先には満月が夜空に輝いていた。そこから少し視線を下げると、満月の光に照らされた桜も一緒に目に映る。
「満月と桜……良いですよね」
満月と桜をジッと見つめている私に奏多さんが話しかけてきた。
「えぇ、素敵ですね」
満月と桜を見ながら一言だけ返事をして、私達は月の光に照らされながら、桜並木の道を歩き始めた。
「桜さん、お酒飲めます?」
家に戻ると、奏多さんがビールを片手に聞いてきた。
「えっと、少しなら」
「良かったら一緒に飲みませんか? 縁側で月でも見ながら……」
「ご一緒していいんですか?」
私が尋ねると奏多さんはニコッとしながら縁側に座り、持ってきた二つのグラスにビールを注いだ。
私もグラスを挟んで奏多さんの隣に座る。緊張しているせいか、私の表情は硬いままだ。
「乾杯」
ビールの入ったグラスを持ち乾杯して、一口ビールを口にする。その一口のビールが全身に染み渡り、肩の力が抜け少し緊張が解けた。
「お酒はあまり好きじゃなかったりしますか?」
ちびちびビールを飲む私を見て奏多さんが尋ねてきた。
「いえお酒は好きなんですけど、弱いみたいですぐに酔ってしまうんです。それに酒癖も良くないのでお酒を飲むのは控えてます」
恥ずかしい話に私は苦笑いで答える。奏多さんは顔色変えずにぐいぐいビール飲んでるからお酒が強いっぽい。
「酔うとどんな感じになるんですか?」
「実は自分でも分からないんです」
「分からない? 記憶をなくすとかですか?」
「いえ酔っても記憶はちゃんとあるんですけど、同窓会とか結婚式とかで蒼志と一緒に飲む機会が何度もあって、その度に蒼志に言われるんです。たち悪いからあまりお酒を飲むなって。特に男性と飲むのはやめとけって言うんです。自分では分からないけど変な酔い方してるんだろうなって思って」
私はちびちびビールを飲みながら話をする。
「……へぇ、蒼志君がね~」
奏多さんはボソッと呟いてグラスに入ったビールをグイッと飲む。何だか面白くなさそうな表情をしているように見えるのは気のせいかな?
「まぁ桜さんが悪酔いし始めたら僕が止めますし、今日は安心して飲んで下さい」
そう言いながら奏多さんは私のグラスにビールを追加する。今度は何か企んでいるような笑顔になっている。
後悔しても知らないんだから……と思いながらビールをグイッと飲んだ。夜風が吹き月を眺めながら飲むビールはまた格別に美味しかった。
ーーピリリリリ
唐突に奏多さんの携帯が鳴り出した。着信相手を確認して、すみませんと言いながら電話に出る。
「もしもしマナ? どうしたん?」
また『マナ』さんか。彼女と会話する奏多さんはやっぱり私といる時と違う……そう思うと何だか面白くない。
私はグラスに入っているたっぷりビールを勢いよくごくごく飲んだ。
「桜さん、一気に飲んで大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ」
勢いよくビールを飲む私を見て、奏多さんは心配そうに話しかけてきた。確かに一気に飲んだせいか、アルコールが回って今の私はとても良い気分になっている。
だから奏多さんに笑顔を返した。
「否定した方が良かったですか?」
「い、いえ私はどちらでも良いですけど」
最近、時々見せる奏多さんの全てを見透かしたような笑みに動揺した私は、目の前のお冷やを飲み落ち着こうとした。
しばらく奏多さんと世間話をしていると、美味しそうな湯豆腐のコース料理が出てきた。猫舌の私は熱々の湯豆腐を時間をかけてフゥフゥして食べた。
店特製のタレがまた美味しくて思わず笑みが溢れる。その様子を見た奏多さんは何故かクスッと笑った。
「桜さんって、クールビューティーな見た目から時折見せる可愛さがなんかいいですよね」
「それって褒め言葉ですか?」
「えぇ、もちろん」
またニコッと笑みを浮かべて私を見る。私は恥ずかしくなってパッと下を向いた。
多分、顔赤くなっているけど……奏多さんにバレてないよね?
確認するようにチラッと奏多さんの方を見る。その僅かな私の視線にも奏多さんは気づき、やっぱり全てを見透かしたような笑みを返してきた。
食事を終えて、私と奏多さんは店員さんに頭を下げて店を出た。
「凄く美味しかったです」
奏多さんが食事代を支払ってくれたので、私は食事代を返そうと鞄から財布を取り出す。
すると、財布を取ろうとする私の手の上に奏多さんは自分の手を置いた。
「ご馳走させて下さい」
「でも」
「今日は桜さんと一緒に食事ができて嬉しかったです。ありがとうございます」
私の手の上に手を乗せたまま、奏多さんは私に顔を近づけて優しい表情をした。
……ずるい、その表情
「私も……嬉しかったです」
私の言葉を聞くと、奏多さんはニコッとして歩き始めた。
帰り道、また桜並木を見ながら歩く。
「桜さん、空見て下さい」
「空?」
奏多さんは立ち止まり夜空を指差す。何だろうと思いながら、私はゆっくりと夜空を見上げた。
「あっ満月」
見上げた先には満月が夜空に輝いていた。そこから少し視線を下げると、満月の光に照らされた桜も一緒に目に映る。
「満月と桜……良いですよね」
満月と桜をジッと見つめている私に奏多さんが話しかけてきた。
「えぇ、素敵ですね」
満月と桜を見ながら一言だけ返事をして、私達は月の光に照らされながら、桜並木の道を歩き始めた。
「桜さん、お酒飲めます?」
家に戻ると、奏多さんがビールを片手に聞いてきた。
「えっと、少しなら」
「良かったら一緒に飲みませんか? 縁側で月でも見ながら……」
「ご一緒していいんですか?」
私が尋ねると奏多さんはニコッとしながら縁側に座り、持ってきた二つのグラスにビールを注いだ。
私もグラスを挟んで奏多さんの隣に座る。緊張しているせいか、私の表情は硬いままだ。
「乾杯」
ビールの入ったグラスを持ち乾杯して、一口ビールを口にする。その一口のビールが全身に染み渡り、肩の力が抜け少し緊張が解けた。
「お酒はあまり好きじゃなかったりしますか?」
ちびちびビールを飲む私を見て奏多さんが尋ねてきた。
「いえお酒は好きなんですけど、弱いみたいですぐに酔ってしまうんです。それに酒癖も良くないのでお酒を飲むのは控えてます」
恥ずかしい話に私は苦笑いで答える。奏多さんは顔色変えずにぐいぐいビール飲んでるからお酒が強いっぽい。
「酔うとどんな感じになるんですか?」
「実は自分でも分からないんです」
「分からない? 記憶をなくすとかですか?」
「いえ酔っても記憶はちゃんとあるんですけど、同窓会とか結婚式とかで蒼志と一緒に飲む機会が何度もあって、その度に蒼志に言われるんです。たち悪いからあまりお酒を飲むなって。特に男性と飲むのはやめとけって言うんです。自分では分からないけど変な酔い方してるんだろうなって思って」
私はちびちびビールを飲みながら話をする。
「……へぇ、蒼志君がね~」
奏多さんはボソッと呟いてグラスに入ったビールをグイッと飲む。何だか面白くなさそうな表情をしているように見えるのは気のせいかな?
「まぁ桜さんが悪酔いし始めたら僕が止めますし、今日は安心して飲んで下さい」
そう言いながら奏多さんは私のグラスにビールを追加する。今度は何か企んでいるような笑顔になっている。
後悔しても知らないんだから……と思いながらビールをグイッと飲んだ。夜風が吹き月を眺めながら飲むビールはまた格別に美味しかった。
ーーピリリリリ
唐突に奏多さんの携帯が鳴り出した。着信相手を確認して、すみませんと言いながら電話に出る。
「もしもしマナ? どうしたん?」
また『マナ』さんか。彼女と会話する奏多さんはやっぱり私といる時と違う……そう思うと何だか面白くない。
私はグラスに入っているたっぷりビールを勢いよくごくごく飲んだ。
「桜さん、一気に飲んで大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ」
勢いよくビールを飲む私を見て、奏多さんは心配そうに話しかけてきた。確かに一気に飲んだせいか、アルコールが回って今の私はとても良い気分になっている。
だから奏多さんに笑顔を返した。
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