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想い伝えます
ストーリー8
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「今日はもうこのまま帰れ」
私の家の近くで蒼志は車を止める。
「でも着替えないと」
「いいって。せっかくホームページ載せるんだし、しばらくはその桜色の袷着物で仕事来いよ」
私は『分かった』と言って車を降りる。そして『じゃあな』と言って車を走らせる蒼志に私は小さく手を振って見送った。
「今日は帰りが早いですね。蒼志君が車で送ってくれたんですか?」
蒼志の車が見えなくなった頃、後ろから声をかけられ、振り向くと花束を抱えた奏多さんがいた。
「はい。呉服屋のホームページ用の撮影をしに蒼志と一緒に外出して、そのまま直帰しました。奏多さんは花屋に行かれてたんですか?」
「茶室に花を生けようと思いまして」
「あの、邪魔はしませんので私も茶室に行っても良いですか?」
「構いませんよ。じゃあ行きましょうか」
私と奏多さんは家に入り、話をしながら茶室へと向かう。
「桜さんが淡い色の和服を着るなんて珍しいですね」
「蒼志に言われて撮影の為に着たんですけど……やっぱり似合わないですよね」
「今の時期にピッタリですし、何より桜さんによく似合ってますよ。とても綺麗です」
「本当ですか? ありがとうございます」
奏多さんに褒められて、私は照れながら頬を赤くさせる。社交辞令と分かっていても褒められるのは嬉しかった。
「お茶入れましょうか?」
「いえ、私の事は気になさらないで下さい」
茶室に入り、奏多さんは買ってきた花を畳に広げて生花の準備を始める。私は邪魔にならないように、奏多さんから少し離れて座った。
「すみません桜さん。離れて座られると少し気になってしまいますので、出来れば僕の隣に座ってくれませんか?」
「す、すみません」
私は慌てて奏多さんの隣に座り直す。奏多さんはクスッと笑いながら私を見た。そして生花に集中したのか、手際良くハサミを入れながら花を生けていく。
「うわぁ……お見事です」
彩り、バランス、どれも完璧で春を感じさせるような仕上がりだ。花を見てると心が落ち着いてくる。癒し効果があるのかな。私はしばらくじぃっと生花を見つめていた。
「蒼志君と何かあったんですか?」
生花を見つめる私に奏多さんが話しかけてきた。いつもの甘いフェイス……この優しい笑顔につい甘えちゃうんだよなぁ。
「ふふ、やっぱり奏多さんは鋭いですね」
私もニコッと微笑んで奏多さんの方に顔を向ける。今日は話すつもりはなかったけど、甘えようかな。
私は一呼吸して話を始めた。
「私、蒼志に想いを伝えました。なんか思い描いたような告白じゃなくて、勢い任せに言ってしまったんですけどね」
「そうですか。頑張りましたね」
「蒼志もはっきり付き合えないと言ってくれました。失恋したらもっと落ち込むかと思ったけど……どうしてかな、思ったより平気みたいです」
ヘラっとした私の表情を見て、奏多さんは私の頭にポンと手を乗せ、前髪をサラッと揺らしながら顔を覗き込んできた。
「まだ実感がないのかもしれませんね。僕は席を外しましょうか?」
「あっいえ……ここにいて下さい」
何だか一人にはなりたくなかった。だから私は奏多さんについて来たのかも。
「じゃあ……僕が胸を貸しますよ」
「えっ?」
奏多さんは優しく私を包み込むように抱きしめた。もちろん突然の事に私は頭が真っ白になっている。
「か、奏多さん?」
「茶室には俺しかおらんし……泣いてええよ」
奏多さんは私の耳元で囁くように言う。その言葉を聞いてホッと安心したのか、私の頬に一筋の涙が伝う。
「ごめんなさい奏多さん。少しだけ……少しだけ胸をお借りします」
私はヒックヒックと肩を震わせながら、奏多さんの胸に顔を当て涙を流した。まるで蒼志への気持ちを涙と一緒に外へ出すかのように……
私の家の近くで蒼志は車を止める。
「でも着替えないと」
「いいって。せっかくホームページ載せるんだし、しばらくはその桜色の袷着物で仕事来いよ」
私は『分かった』と言って車を降りる。そして『じゃあな』と言って車を走らせる蒼志に私は小さく手を振って見送った。
「今日は帰りが早いですね。蒼志君が車で送ってくれたんですか?」
蒼志の車が見えなくなった頃、後ろから声をかけられ、振り向くと花束を抱えた奏多さんがいた。
「はい。呉服屋のホームページ用の撮影をしに蒼志と一緒に外出して、そのまま直帰しました。奏多さんは花屋に行かれてたんですか?」
「茶室に花を生けようと思いまして」
「あの、邪魔はしませんので私も茶室に行っても良いですか?」
「構いませんよ。じゃあ行きましょうか」
私と奏多さんは家に入り、話をしながら茶室へと向かう。
「桜さんが淡い色の和服を着るなんて珍しいですね」
「蒼志に言われて撮影の為に着たんですけど……やっぱり似合わないですよね」
「今の時期にピッタリですし、何より桜さんによく似合ってますよ。とても綺麗です」
「本当ですか? ありがとうございます」
奏多さんに褒められて、私は照れながら頬を赤くさせる。社交辞令と分かっていても褒められるのは嬉しかった。
「お茶入れましょうか?」
「いえ、私の事は気になさらないで下さい」
茶室に入り、奏多さんは買ってきた花を畳に広げて生花の準備を始める。私は邪魔にならないように、奏多さんから少し離れて座った。
「すみません桜さん。離れて座られると少し気になってしまいますので、出来れば僕の隣に座ってくれませんか?」
「す、すみません」
私は慌てて奏多さんの隣に座り直す。奏多さんはクスッと笑いながら私を見た。そして生花に集中したのか、手際良くハサミを入れながら花を生けていく。
「うわぁ……お見事です」
彩り、バランス、どれも完璧で春を感じさせるような仕上がりだ。花を見てると心が落ち着いてくる。癒し効果があるのかな。私はしばらくじぃっと生花を見つめていた。
「蒼志君と何かあったんですか?」
生花を見つめる私に奏多さんが話しかけてきた。いつもの甘いフェイス……この優しい笑顔につい甘えちゃうんだよなぁ。
「ふふ、やっぱり奏多さんは鋭いですね」
私もニコッと微笑んで奏多さんの方に顔を向ける。今日は話すつもりはなかったけど、甘えようかな。
私は一呼吸して話を始めた。
「私、蒼志に想いを伝えました。なんか思い描いたような告白じゃなくて、勢い任せに言ってしまったんですけどね」
「そうですか。頑張りましたね」
「蒼志もはっきり付き合えないと言ってくれました。失恋したらもっと落ち込むかと思ったけど……どうしてかな、思ったより平気みたいです」
ヘラっとした私の表情を見て、奏多さんは私の頭にポンと手を乗せ、前髪をサラッと揺らしながら顔を覗き込んできた。
「まだ実感がないのかもしれませんね。僕は席を外しましょうか?」
「あっいえ……ここにいて下さい」
何だか一人にはなりたくなかった。だから私は奏多さんについて来たのかも。
「じゃあ……僕が胸を貸しますよ」
「えっ?」
奏多さんは優しく私を包み込むように抱きしめた。もちろん突然の事に私は頭が真っ白になっている。
「か、奏多さん?」
「茶室には俺しかおらんし……泣いてええよ」
奏多さんは私の耳元で囁くように言う。その言葉を聞いてホッと安心したのか、私の頬に一筋の涙が伝う。
「ごめんなさい奏多さん。少しだけ……少しだけ胸をお借りします」
私はヒックヒックと肩を震わせながら、奏多さんの胸に顔を当て涙を流した。まるで蒼志への気持ちを涙と一緒に外へ出すかのように……
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