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想い伝えます

ストーリー7

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 茶屋の外に赤い布で覆われた竹のベンチがあり、そこに座って茶とみたらし団子を頂いた。

「美味しそう」

「あっちょい待て」

 蒼志は私の前に来てカメラを向ける。そして桜の木を背景に座っている私をパシャっと写した。

「よしOK」

 撮影が終わると、今度は私の隣に座ってカメラを見ながら写真を確認し始める。

「撮影は終わり?」

「あぁ、カメラマンの腕が良いから良い写真が撮れた」

 そう言って写した写真を私に見せてきた。空を舞う桜の花びらを眺めている写真に、さっき座って撮った写真……どれも少しだけ微笑むように写っている。

 うわぁ私、蒼志の前でこんな表情してたのか。自分の写真を見ながら恥ずかしくなった。

「この写真、高校時代の同級生に見せたら高く買い取ってくれそうだな」

「私の写真なんて買うわけないじゃない」

 カメラで写真を見ながら蒼志はニヤッとするが、私は冷めた表情で蒼志に言った。

「気づいてなかったかもしれないけど、桜は高校時代めっちゃモテてだぞ」

「まさか。全然そんな気配なかったけど?」

「そりゃそうだろ。だって桜は同級生の間では高嶺の花だったみたいだし、おまけに俺と付き合ってる事になってたんだから」

 蒼志の言葉にん? っとなる。高嶺の花……は置いておき、付き合ってるって誰と誰が?

「ごめん、意味分かんないんだけど。誰と誰が付き合ってたって?」

「だから、俺と桜だよ。本当に知らなかったのか?あんだけ噂されてたのにさ」

 記憶を高校時代まで遡ってみる。だけど、そんな噂聞いた事なかった……はず。私だけ知らなかったの?

「……全然知らなかった。でもさ、蒼志もそんな噂あるって知ってたなら何で否定しなかったのよ?」

「まぁ一つは面倒かったからかな。あの頃は俺に言い寄ってくる女子をウザいと思っててさ、桜と付き合ってる事にしてたら告白も減ったしちょうど良かったんだ」

 噂を利用したってわけね。それにしても一言くらい言ってくれれば良かったのに。

「他にも理由があるの?」

 私が尋ねると、蒼志は何も言わずにじぃっと私を見てきた。

「もう時効だしいいか。もう一つの理由は……桜に男が寄り付かないようにする為だよ。お前モテたって言ったろ?」

「何でそんな事」

 意味不明。私がモテるのが気に入らなかったって事?でも蒼志には関係ないじゃない。

 そんな事を思いながら、蒼志の返事を待った。

「……学生時代、桜の事がずっと好きだったんだよ。だから絶対他の男に渡したくなかった」

「えっ」

 私の頭の中で色んな思考が入り乱れる。蒼志が私の事を?

 えっ?

 えっ!?

 蒼志の方を見ると、空を見ながら懐かしそうな表情をしていた。

「あっ、安心しろよ。今はちゃんと吹っ切ってるし、桜に対してもう恋愛感情は持ってないから」

 蒼志は笑いながら言うけれど、私は笑えないよ。だって私の気持ちはまだ…

「……何で、何で今そんな事言うのよ」

「だから昔話だって」

「蒼志にとって昔話でも、私は今も好きなのよ……蒼志の事が!!」

「はぁ? お前が……俺を? 嘘だろ?」

 一人だけスッキリしている蒼志に腹が立って、私は怒りに任せ勢いよく告白してしまった。

 蒼志は私の告白に言葉を失っているみたいだ。少し沈黙が続く。その沈黙の中、まるで私を慰めてくれてるようにそよ風が頬を撫でた。

「自分でも信じられないけど、好きになったものはしょうがないじゃない」

「いや、マジかよ」

 蒼志は座ったまま頭を抱えて、思いっきりはぁっと息を吐き出した。こっちだって頭抱えたいわよ。私はお茶をグィっと飲んだ。

「俺はお前と付き合えねぇからな」

「分かってる」

「ったく、何でこのタイミングで告るかな~。いや、このタイミングだから良かったのか。学生時代に告られてたら、家業の事なんて放棄して付き合っただろうからな」

 さっきまで下を向いてたのに、蒼志は急に私を見てニヤッとする。その表情を見て私の表情も柔らかくなった。

 蒼志の気持ちが私にも分かったからだ。

「つい想いを口にしてしまったけど、蒼志と恋愛したいわけじゃないから安心して。私だって家業が大事だもの。想いを出して自分をリセットしたかった。ただそれだけだから」

 私は蒼志を見て微笑んだ。何でかな。想いを口に出してから、何だか蒼志の前でも素直になれてる気がする。

「まぁなんだ。桜とは恋愛は出来ないけど、一生の付き合いになるからな。これからもよろしく」

 珍しく蒼志も素直に話をする。でも照れたような表情でなんか可愛く見えた。

「蒼志が素直だとなんか気持ち悪い」

「うるせぇな」

 そう言いながら、蒼志は片腕で座る私を強引に引き寄せ抱きしめてきた。そして耳元で囁く。

「女扱いするのは最初で最後だからな」

「……うん」

 私は引き寄せられた蒼志の腕の中で小さく呟き微笑む。不思議とこのまま時が止まってしまえばいいのに……とかいう未練がましい思いはなかった。

 帰りの車の中、お互い照れ臭さからか口数が減っていた。まぁ告白のせいで気まずくなるよりはいいか。

 それよりも失恋したはずなのに、蒼志と二人のこの空間にくすぐったさを感じているのは……やっぱりまだ失恋の実感がないからかな。

 ……失恋したんだよなぁ、私。
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