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想い伝えます

ストーリー6

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 蒼志に告白しようと決めてから既に一週間が過ぎていた。もちろん私は何のアクションも起こしていない。

 何か告白するきっかけがあればと思いながら私はまた自分の気持ちから逃げているのかもしれない。

「おい桜、仕事中に何ボーッとしてんだ?」

 考え事をしている私に蒼志は丸めた紙で頭をポンと叩いてきた。

「……ごめん」

「まぁ暇だからいいけど。それよりちょっとこっち来い」

 蒼志に連れられて私は奥の和室に入る。そこには桜色の綺麗なあわせ着物が飾られていた。

「素敵な色ね」

「だろ? 今の時期にピッタリのあわせ着物だし、これをどーんとネットにアップしようと思うんだ」

 蒼志は自信たっぷりの顔をする。若い人にも和服に興味を持ってもらいたいという思いから、蒼志はホームページやSNSにも力を入れていた。

「へぇ、いいんじゃない」

「それで桜、このあわせ着物を着てくれないか?俺が写真撮るからさ、お前モデルやってくれよ」

「でも、私にはこの桜色のあわせ着物は似合わないと思う」

 綺麗な桜色だし着てみたいという気持ちもあるが、淡い色は私に似合わないといつも避けていた。だから今日も落ち着いた藍色のあわせ着物を着ている。

「いや似合うと思うぞ。お前無駄に顔だけはいいし。まぁ取り敢えず着てみろよ」

 そう言うと蒼志は桜色のあわせ着物の前に立ち、ニッと笑みを浮かべて私を見る。

 『似合うと思う』その言葉が私にとって何よりも嬉しかった。

「無駄にって何よ。取り敢えず着てみるだけだからね」

 照れを隠すようにそう言って、和室から蒼志を追い出す。大丈夫かな? 私、顔がにやけてないかな?桜色のあわせ着物に着替えて鏡で表情を確認する。

「まだかぁ?」

 和室の前で待っている蒼志から催促され、私は慌てて身だしなみを整える。

「……どうぞ」

 私の声を聞くと蒼志は和室の戸を開けた。そして桜色のあわせ着物を着た私を頭からつま先までじっくりと見てくる。この少しの沈黙が更に私をドキドキさせた。

「へぇいいじゃん。よし、天気も良いしこのまま外に撮影行くぞ」

 蒼志は撮影準備をするため先に和室を出る。はぁ、めっちゃ緊張した。一呼吸して私も和室を出た。

「ねぇ、撮影って何処でするの?」

 てっきり近場で撮影するのかと思っていたのに、何故か蒼志はあわせ着物から洋服に着替えて車を出した。

「それは着いてからのお楽しみに決まってるだろ?」

 蒼志は機嫌良さそうにハンドルを操作し、車から流れる音楽に耳を傾けている。私は運転の邪魔にならないよう窓の外を見た。

 さっきまではコンクリートの建物が立ち並んでいたが、いつの間にか少しずつ自然の風景が増えている。

 どんどん人気ひとけの少ない山道に進んでいくけど本当に何処に向かってるのだろう。

 私はチラッと運転している蒼志の方を見る。私の視線に気づいたのか蒼志もチラッと私を見た。

「そういや桜と二人で出かけるの初めてだな」

「そうだっけ?」

 私はとぼけたように返事をするが、最初から気づいていた。だから余計にこの二人きりの空間に緊張というかドキドキが止まらない。

「着いたぞ」

 そう言われて車を降り、ここで撮影するのかなと思いながら辺りをキョロキョロとする。着いた先は自然豊かな景色が広がっていた。

「あら、いらっしゃい」

 関西の言葉の中年女性に声をかけられパッと振り向く。顔見知りなのか蒼志は『こんにちは』と笑顔で声をかけ会釈をする。

「若旦那、今日はえらいべっぴんさん連れてはるなぁ」

「はは、彼女はうちの着付師ですよ。それで今日は撮影しに来たんだけど、この辺りで撮影してもいいですか?」

「かまへんよ。それじゃあ茶でも出そうかね」

 女性はいそいそと近くにある茶屋へ入っていく。どうやら女性は茶屋の店主のようだ。

呉服屋うちのお得意様だよ。さてさっさと撮影するか。取り敢えずその桜の木の下に立ってくれ」

 私は言われた通り桜の木の下に立つ。そうか、もう桜が咲く時期なんだ。今年は暖冬だったせいか、いつもより桜の開花が早まったらしい。

風が吹き、淡い桜色の花びらが空を舞っている。綺麗だな。私は撮影を忘れて空を眺めた。

「おい桜」

「あっごめん」

蒼志に呼ばれ、慌ててカメラの方を向く。

「いや、撮り終わったから茶を頂こうぜ」

撮り終わった? いつの間に。私、ボーッと桜を見てただけなのに。
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