6 / 40
想い伝えます
ストーリー6
しおりを挟む
蒼志に告白しようと決めてから既に一週間が過ぎていた。もちろん私は何のアクションも起こしていない。
何か告白するきっかけがあればと思いながら私はまた自分の気持ちから逃げているのかもしれない。
「おい桜、仕事中に何ボーッとしてんだ?」
考え事をしている私に蒼志は丸めた紙で頭をポンと叩いてきた。
「……ごめん」
「まぁ暇だからいいけど。それよりちょっとこっち来い」
蒼志に連れられて私は奥の和室に入る。そこには桜色の綺麗な袷着物が飾られていた。
「素敵な色ね」
「だろ? 今の時期にピッタリの袷着物だし、これをどーんとネットにアップしようと思うんだ」
蒼志は自信たっぷりの顔をする。若い人にも和服に興味を持ってもらいたいという思いから、蒼志はホームページやSNSにも力を入れていた。
「へぇ、いいんじゃない」
「それで桜、この袷着物を着てくれないか?俺が写真撮るからさ、お前モデルやってくれよ」
「でも、私にはこの桜色の袷着物は似合わないと思う」
綺麗な桜色だし着てみたいという気持ちもあるが、淡い色は私に似合わないといつも避けていた。だから今日も落ち着いた藍色の袷着物を着ている。
「いや似合うと思うぞ。お前無駄に顔だけはいいし。まぁ取り敢えず着てみろよ」
そう言うと蒼志は桜色の袷着物の前に立ち、ニッと笑みを浮かべて私を見る。
『似合うと思う』その言葉が私にとって何よりも嬉しかった。
「無駄にって何よ。取り敢えず着てみるだけだからね」
照れを隠すようにそう言って、和室から蒼志を追い出す。大丈夫かな? 私、顔がにやけてないかな?桜色の袷着物に着替えて鏡で表情を確認する。
「まだかぁ?」
和室の前で待っている蒼志から催促され、私は慌てて身だしなみを整える。
「……どうぞ」
私の声を聞くと蒼志は和室の戸を開けた。そして桜色の袷着物を着た私を頭からつま先までじっくりと見てくる。この少しの沈黙が更に私をドキドキさせた。
「へぇいいじゃん。よし、天気も良いしこのまま外に撮影行くぞ」
蒼志は撮影準備をするため先に和室を出る。はぁ、めっちゃ緊張した。一呼吸して私も和室を出た。
「ねぇ、撮影って何処でするの?」
てっきり近場で撮影するのかと思っていたのに、何故か蒼志は袷着物から洋服に着替えて車を出した。
「それは着いてからのお楽しみに決まってるだろ?」
蒼志は機嫌良さそうにハンドルを操作し、車から流れる音楽に耳を傾けている。私は運転の邪魔にならないよう窓の外を見た。
さっきまではコンクリートの建物が立ち並んでいたが、いつの間にか少しずつ自然の風景が増えている。
どんどん人気の少ない山道に進んでいくけど本当に何処に向かってるのだろう。
私はチラッと運転している蒼志の方を見る。私の視線に気づいたのか蒼志もチラッと私を見た。
「そういや桜と二人で出かけるの初めてだな」
「そうだっけ?」
私は惚けたように返事をするが、最初から気づいていた。だから余計にこの二人きりの空間に緊張というかドキドキが止まらない。
「着いたぞ」
そう言われて車を降り、ここで撮影するのかなと思いながら辺りをキョロキョロとする。着いた先は自然豊かな景色が広がっていた。
「あら、いらっしゃい」
関西の言葉の中年女性に声をかけられパッと振り向く。顔見知りなのか蒼志は『こんにちは』と笑顔で声をかけ会釈をする。
「若旦那、今日はえらいべっぴんさん連れてはるなぁ」
「はは、彼女はうちの着付師ですよ。それで今日は撮影しに来たんだけど、この辺りで撮影してもいいですか?」
「かまへんよ。それじゃあ茶でも出そうかね」
女性はいそいそと近くにある茶屋へ入っていく。どうやら女性は茶屋の店主のようだ。
「呉服屋のお得意様だよ。さてさっさと撮影するか。取り敢えずその桜の木の下に立ってくれ」
私は言われた通り桜の木の下に立つ。そうか、もう桜が咲く時期なんだ。今年は暖冬だったせいか、いつもより桜の開花が早まったらしい。
風が吹き、淡い桜色の花びらが空を舞っている。綺麗だな。私は撮影を忘れて空を眺めた。
「おい桜」
「あっごめん」
蒼志に呼ばれ、慌ててカメラの方を向く。
「いや、撮り終わったから茶を頂こうぜ」
撮り終わった? いつの間に。私、ボーッと桜を見てただけなのに。
何か告白するきっかけがあればと思いながら私はまた自分の気持ちから逃げているのかもしれない。
「おい桜、仕事中に何ボーッとしてんだ?」
考え事をしている私に蒼志は丸めた紙で頭をポンと叩いてきた。
「……ごめん」
「まぁ暇だからいいけど。それよりちょっとこっち来い」
蒼志に連れられて私は奥の和室に入る。そこには桜色の綺麗な袷着物が飾られていた。
「素敵な色ね」
「だろ? 今の時期にピッタリの袷着物だし、これをどーんとネットにアップしようと思うんだ」
蒼志は自信たっぷりの顔をする。若い人にも和服に興味を持ってもらいたいという思いから、蒼志はホームページやSNSにも力を入れていた。
「へぇ、いいんじゃない」
「それで桜、この袷着物を着てくれないか?俺が写真撮るからさ、お前モデルやってくれよ」
「でも、私にはこの桜色の袷着物は似合わないと思う」
綺麗な桜色だし着てみたいという気持ちもあるが、淡い色は私に似合わないといつも避けていた。だから今日も落ち着いた藍色の袷着物を着ている。
「いや似合うと思うぞ。お前無駄に顔だけはいいし。まぁ取り敢えず着てみろよ」
そう言うと蒼志は桜色の袷着物の前に立ち、ニッと笑みを浮かべて私を見る。
『似合うと思う』その言葉が私にとって何よりも嬉しかった。
「無駄にって何よ。取り敢えず着てみるだけだからね」
照れを隠すようにそう言って、和室から蒼志を追い出す。大丈夫かな? 私、顔がにやけてないかな?桜色の袷着物に着替えて鏡で表情を確認する。
「まだかぁ?」
和室の前で待っている蒼志から催促され、私は慌てて身だしなみを整える。
「……どうぞ」
私の声を聞くと蒼志は和室の戸を開けた。そして桜色の袷着物を着た私を頭からつま先までじっくりと見てくる。この少しの沈黙が更に私をドキドキさせた。
「へぇいいじゃん。よし、天気も良いしこのまま外に撮影行くぞ」
蒼志は撮影準備をするため先に和室を出る。はぁ、めっちゃ緊張した。一呼吸して私も和室を出た。
「ねぇ、撮影って何処でするの?」
てっきり近場で撮影するのかと思っていたのに、何故か蒼志は袷着物から洋服に着替えて車を出した。
「それは着いてからのお楽しみに決まってるだろ?」
蒼志は機嫌良さそうにハンドルを操作し、車から流れる音楽に耳を傾けている。私は運転の邪魔にならないよう窓の外を見た。
さっきまではコンクリートの建物が立ち並んでいたが、いつの間にか少しずつ自然の風景が増えている。
どんどん人気の少ない山道に進んでいくけど本当に何処に向かってるのだろう。
私はチラッと運転している蒼志の方を見る。私の視線に気づいたのか蒼志もチラッと私を見た。
「そういや桜と二人で出かけるの初めてだな」
「そうだっけ?」
私は惚けたように返事をするが、最初から気づいていた。だから余計にこの二人きりの空間に緊張というかドキドキが止まらない。
「着いたぞ」
そう言われて車を降り、ここで撮影するのかなと思いながら辺りをキョロキョロとする。着いた先は自然豊かな景色が広がっていた。
「あら、いらっしゃい」
関西の言葉の中年女性に声をかけられパッと振り向く。顔見知りなのか蒼志は『こんにちは』と笑顔で声をかけ会釈をする。
「若旦那、今日はえらいべっぴんさん連れてはるなぁ」
「はは、彼女はうちの着付師ですよ。それで今日は撮影しに来たんだけど、この辺りで撮影してもいいですか?」
「かまへんよ。それじゃあ茶でも出そうかね」
女性はいそいそと近くにある茶屋へ入っていく。どうやら女性は茶屋の店主のようだ。
「呉服屋のお得意様だよ。さてさっさと撮影するか。取り敢えずその桜の木の下に立ってくれ」
私は言われた通り桜の木の下に立つ。そうか、もう桜が咲く時期なんだ。今年は暖冬だったせいか、いつもより桜の開花が早まったらしい。
風が吹き、淡い桜色の花びらが空を舞っている。綺麗だな。私は撮影を忘れて空を眺めた。
「おい桜」
「あっごめん」
蒼志に呼ばれ、慌ててカメラの方を向く。
「いや、撮り終わったから茶を頂こうぜ」
撮り終わった? いつの間に。私、ボーッと桜を見てただけなのに。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる