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主任×私×元彼
ストーリー30
しおりを挟む『会議室』、『図書館』、『資料室』などと美化して呼ばれることが多い司法局実働部隊男子下士官寮の壁を三つぶち抜いて作られた部屋にアメリア達は集合していた。モニターが汚いシミだらけの寮の壁と不釣合いな清潔感をかもしだす。周りには通信端末やゲーム機、そして漫画や写真集が転がっている。この部屋はアメリアの寮への引越しによりさらにカオスの度合いが高まっていた。
以前は男子寮らしい雑多なものの集積所だったこの部屋は、アメリアによりもたらされたさらに多数の乙女ゲームが女性隊員までも呼び込み、拡張工事によりさらにゲーム用の大型スクリーンや同人誌が積み上げられると言う循環を経て司法局実働部隊の行きつけの焼鳥屋『月島屋』と並ぶ一大拠点に成長していた。
「カウラ、最近この部屋について騒がないのね」
部屋に入るとすぐに端末を占領してゲームを始めようとしたところをルカに止められて不機嫌そうにしていたアメリアがそう言いながら端末の電源を落す。カウラは最初のうちは野球部のミーティングをここでやろうとするアメリアやかなめを露骨に軽蔑するような目で見ていたが、今では慣れたというようにたまに山から崩れてきたゲームを表情も変えずに元に戻すくらいのことは平気でするようになっていた。
だが、この部屋に慣れていない住人も居た。
近くの別宅に暮らしているがこの部屋に入るのが今日がはじめてと言う日野かえで少佐と渡辺リン大尉だった。
「クラウゼ少佐。この部屋にはいくつこういうものがあるんだ?」
そう言ってかえではアメリアに手にした人妻もののゲームのパッケージを見せる。従者のリンは照れながらちらちらとヌード写真が開かれたままになっている週刊誌に視線を向ける。
「かえでちゃん、なに硬くなってるのよ。仕事が終わったんだからアメリアでいいわよ」
そう言いながらアメリアはパーラから渡された書類を並べる。
「そうか、じゃあ僕のこともかえでと呼び捨ててもらった方が気が楽なんだ。ちゃんづけは……ちょっと……」
そう言いながらかなめを見つめるかえでにかなめは身をそらした。
「ああ、お袋を思い出すのか。まあ、あの生き物の前じゃ叔父貴も『新ちゃん』だからな」
そう言いながらすでにかなめの手にはラム酒の瓶が握られていた。誠は引きつるかなめの表情を見逃さなかった。噂に聞く西園寺康子。かなめとかえでの母にして部隊長嵯峨惟基特務大佐の戸籍上は姉、血縁では叔母に当たる人物である。薙刀の名手として知られ、あの嵯峨惟基を奸雄と呼ばれるまで鍛え上げた女傑だった。
「何持ってんのよ!」
アメリアの言葉にかなめはむきになったように瓶のふたを取るとラム酒をラッパ飲みした。
「どうせまともな会議なんてする気はねえんだろ?それにあちらは今はサラ達は月島屋でどんちゃん騒ぎしているみたいだぞ」
そう言うとかなめは珍しく自分から立ち上がって通信端末のところまで行くと襟元のジャックから通信ケーブルを端末に差し込んでモニターを起動させる。そこには時間を逆算するとまだ三十分も経っていないだろうというのに真っ赤な顔のサラにズボンを下ろされかけている西の姿があった。
「やばいな誠。脱ぎキャラがお前以外にも出てきたぞ」
ニヤニヤ笑いながらかなめは誠に飛びついてヘッドロックをかける。130キロ近いサイボーグの体に体当たりを食らって誠は倒れこんだ。カウラはそれを見ながら苦虫を噛み潰すような表情でわざとらしくいつもは手も出さないゲームのパッケージを手にとって眺めている。
誠が何とかかなめを引き離して座りなおすとかえでがいつ火がつくかわからないと言うような殺気を込めた視線を送ってくる。
「なるほどねえ。あっちが動いていないならこちらから何かを仕掛けるわけには行かないわね」
あっさりとそう言ったアメリアだが、この部屋に居る誰もがこのままでアメリアが終わらないと言うことは分かっていた。
「なに余裕ぶっこいてんだよ。なんか策でもあるのか?」
明らかに泥酔へと向かうようなペースでかなめはラム酒の瓶を空けようとしている。だが、アメリアはただ微笑みながらその濃紺の長い髪を軽くかきあげて入り口の扉を見つめていた。
「まあね。今この場所に入りたくてしょうがない人がもうすぐ来るでしょうから」
「はあ?なんだそりゃ?」
かなめの言葉を聞くと誰もが同じ思いだった。アメリアが嵯峨に次ぐ食えない人物であることは司法局実働部隊の隊員なら誰もが知っている。この場の全員の意識がアメリアが見つめているドアに集中した。
ドアが少しだけ開いている。そしてその真ん中くらいに何かが動いているのが見えた。
「なんですか?もしかして……」
そう言いながらリンが扉を開いた。
「よう!元気か?」
わざとらしく入ってきたのは小さい姐御ことクバルカ・ラン中佐だった。
「なあに?中佐殿もお仲間に入りたいの?」
つっけんどんに答えるアメリアだが、ランはにんまりと笑うと後ろに続く菰田達に合図した。彼らの手には大量のピザが乗っている。さらにビールやワイン。そしていつの間にかやってきた本庄が大量の茹でたソーセージを手に現れた。
「なんだ。アタシもそれなりにもてなされたからな。その礼だ」
かなめやカウラの目が輝く。パーラはすでに一枚のシーフードビザを自分用に確保していた。
「すみませんねえ、中佐殿。で?」
アメリアは相変わらず無愛想にランを見つめる。
「そのー、なんだ。アタシも仲間に入れてくれって言うか……」
それが明らかにカウラの隣に自然に座っている自分に向けられているのに気づいた誠は冷や汗をかきながら下を向いて目を背けた。
「なあにいつでも歓迎ですよ!コップとかは?」
「持って来てますよ!」
しなを作りながら落ち着かない誠の隣にコップを並べ始めるのはアンだったがそれを見てさらに一歩下がってしまう。
「神前先輩!僕の酒を飲んでください!」
大声で叫ぶアンだが、彼は数人を敵に回したことに気づいていなかった。
以前は男子寮らしい雑多なものの集積所だったこの部屋は、アメリアによりもたらされたさらに多数の乙女ゲームが女性隊員までも呼び込み、拡張工事によりさらにゲーム用の大型スクリーンや同人誌が積み上げられると言う循環を経て司法局実働部隊の行きつけの焼鳥屋『月島屋』と並ぶ一大拠点に成長していた。
「カウラ、最近この部屋について騒がないのね」
部屋に入るとすぐに端末を占領してゲームを始めようとしたところをルカに止められて不機嫌そうにしていたアメリアがそう言いながら端末の電源を落す。カウラは最初のうちは野球部のミーティングをここでやろうとするアメリアやかなめを露骨に軽蔑するような目で見ていたが、今では慣れたというようにたまに山から崩れてきたゲームを表情も変えずに元に戻すくらいのことは平気でするようになっていた。
だが、この部屋に慣れていない住人も居た。
近くの別宅に暮らしているがこの部屋に入るのが今日がはじめてと言う日野かえで少佐と渡辺リン大尉だった。
「クラウゼ少佐。この部屋にはいくつこういうものがあるんだ?」
そう言ってかえではアメリアに手にした人妻もののゲームのパッケージを見せる。従者のリンは照れながらちらちらとヌード写真が開かれたままになっている週刊誌に視線を向ける。
「かえでちゃん、なに硬くなってるのよ。仕事が終わったんだからアメリアでいいわよ」
そう言いながらアメリアはパーラから渡された書類を並べる。
「そうか、じゃあ僕のこともかえでと呼び捨ててもらった方が気が楽なんだ。ちゃんづけは……ちょっと……」
そう言いながらかなめを見つめるかえでにかなめは身をそらした。
「ああ、お袋を思い出すのか。まあ、あの生き物の前じゃ叔父貴も『新ちゃん』だからな」
そう言いながらすでにかなめの手にはラム酒の瓶が握られていた。誠は引きつるかなめの表情を見逃さなかった。噂に聞く西園寺康子。かなめとかえでの母にして部隊長嵯峨惟基特務大佐の戸籍上は姉、血縁では叔母に当たる人物である。薙刀の名手として知られ、あの嵯峨惟基を奸雄と呼ばれるまで鍛え上げた女傑だった。
「何持ってんのよ!」
アメリアの言葉にかなめはむきになったように瓶のふたを取るとラム酒をラッパ飲みした。
「どうせまともな会議なんてする気はねえんだろ?それにあちらは今はサラ達は月島屋でどんちゃん騒ぎしているみたいだぞ」
そう言うとかなめは珍しく自分から立ち上がって通信端末のところまで行くと襟元のジャックから通信ケーブルを端末に差し込んでモニターを起動させる。そこには時間を逆算するとまだ三十分も経っていないだろうというのに真っ赤な顔のサラにズボンを下ろされかけている西の姿があった。
「やばいな誠。脱ぎキャラがお前以外にも出てきたぞ」
ニヤニヤ笑いながらかなめは誠に飛びついてヘッドロックをかける。130キロ近いサイボーグの体に体当たりを食らって誠は倒れこんだ。カウラはそれを見ながら苦虫を噛み潰すような表情でわざとらしくいつもは手も出さないゲームのパッケージを手にとって眺めている。
誠が何とかかなめを引き離して座りなおすとかえでがいつ火がつくかわからないと言うような殺気を込めた視線を送ってくる。
「なるほどねえ。あっちが動いていないならこちらから何かを仕掛けるわけには行かないわね」
あっさりとそう言ったアメリアだが、この部屋に居る誰もがこのままでアメリアが終わらないと言うことは分かっていた。
「なに余裕ぶっこいてんだよ。なんか策でもあるのか?」
明らかに泥酔へと向かうようなペースでかなめはラム酒の瓶を空けようとしている。だが、アメリアはただ微笑みながらその濃紺の長い髪を軽くかきあげて入り口の扉を見つめていた。
「まあね。今この場所に入りたくてしょうがない人がもうすぐ来るでしょうから」
「はあ?なんだそりゃ?」
かなめの言葉を聞くと誰もが同じ思いだった。アメリアが嵯峨に次ぐ食えない人物であることは司法局実働部隊の隊員なら誰もが知っている。この場の全員の意識がアメリアが見つめているドアに集中した。
ドアが少しだけ開いている。そしてその真ん中くらいに何かが動いているのが見えた。
「なんですか?もしかして……」
そう言いながらリンが扉を開いた。
「よう!元気か?」
わざとらしく入ってきたのは小さい姐御ことクバルカ・ラン中佐だった。
「なあに?中佐殿もお仲間に入りたいの?」
つっけんどんに答えるアメリアだが、ランはにんまりと笑うと後ろに続く菰田達に合図した。彼らの手には大量のピザが乗っている。さらにビールやワイン。そしていつの間にかやってきた本庄が大量の茹でたソーセージを手に現れた。
「なんだ。アタシもそれなりにもてなされたからな。その礼だ」
かなめやカウラの目が輝く。パーラはすでに一枚のシーフードビザを自分用に確保していた。
「すみませんねえ、中佐殿。で?」
アメリアは相変わらず無愛想にランを見つめる。
「そのー、なんだ。アタシも仲間に入れてくれって言うか……」
それが明らかにカウラの隣に自然に座っている自分に向けられているのに気づいた誠は冷や汗をかきながら下を向いて目を背けた。
「なあにいつでも歓迎ですよ!コップとかは?」
「持って来てますよ!」
しなを作りながら落ち着かない誠の隣にコップを並べ始めるのはアンだったがそれを見てさらに一歩下がってしまう。
「神前先輩!僕の酒を飲んでください!」
大声で叫ぶアンだが、彼は数人を敵に回したことに気づいていなかった。
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