溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華

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主任×私×元彼

ストーリー26

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 昔を思い出しながら、私は座席の後ろにある窓に頭を寄せ、少しだけ頭を傾けて外の景色を見る。いつも見ている景色だけど、ボーっと同じ景色を見続けた。

 そんな時、スマートフォンのバイブがブルっと震える。取り出して見てみると、裕香からメッセージが届いていた。

『大丈夫?』

 可愛らしいキャラクターのスタンプが私を心配そうに見ている。

『大丈夫だよ。杉村さんとは少し話して別れたから。でも疲れたから二次会はパスするね』

『了解。ゆっくり休みなよ』

 裕香とのやりとりが終わり、またボーっとする。本当に疲れたなぁと思っていると、またスマートフォンのバイブがブルっと震えた。

 また裕香かなと思いスマートフォンを見ると、今度は蓮さんからメッセージが届いた。

『今日、家に来るか?』

 蓮さんからのメッセージを見た後、胸の奥がキューっと苦しくなった。

 どうしようもないこの罪悪感……不意打ちとはいえ、私は蓮さん以外の男性とキスしてしまった。でも、これは元彼と二人で会ってしまった私の不注意が招いてしまったこと。

『ごめんね。今日は疲れたので家に帰ってすぐ寝ます』

 蓮さんに返信する。本当は会いたかった。疲れてても会って一緒に居たかった。でも……会えないよ。

 私は胸元に光る蓮さんから貰ったネックレスをぎゅっと握りしめ、必死に涙を堪えた。

『今どこにいる?』

 蓮さんからまたメッセージが届く。

『今は電車の中。もうすぐ駅に着くよ』

 その後蓮さんからの返信はなかった。

 駅に着き、気持ちが沈んだまま電車を降りる。なんか足取りが重いな。周りの人達に抜かれながら私はゆっくりと歩いた。

「美織」

 駅を出ると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。声がする方に顔を上げると優しい顔で微笑んでいる蓮さんがいた。

「……蓮さん、どうしてここに?」

「夜道を一人で歩くのは危ないだろ?それに……少しでも美織に会いたかったし」

 私を迎えに来てくれたんだ。嬉しい……けど蓮さんのその優しさで私の中の罪悪感が増す。

「ありがとう」

 そう言って蓮さんの胸に顔をぽふっと埋める。蓮さんは私の頭をポンとして、その後私達は指を絡ませながら家に向かって歩き始めた。

「……美織、何かあったのか?」

 しばらく何も喋らず暗い夜道を黙々と歩いていたが、私の様子がいつもと違うのに気づいたのか蓮さんが話しかけてきた。

「何も……ないよ」

 胸の奥がチクっと痛む。蓮さんに嘘をついてしまった。

「そっか」

 蓮さんは私の方をしばらく見ていたけど、何も言わずに何となく重い空気のまま黙々と歩く。

 あー嫌だ。私、何してるんだろう。

「……美織?」

 蓮さんが急に立ち止まって驚いたような表情で私をじぃっと見ている。何だろう。顔に何かついてるとか? そういえば何だか顔が冷んやりする。私は自分の手で顔を触ってみた。

 あれ?……涙が出てる?

 私は慌てて指で涙を拭う。蓮さんに嘘をつくのは嫌だよ。そう思った私はさっきの出来事を話した。

「ごめん蓮さん。私……忘年会の後、元彼と二人で会ったんだ。そして……そして彼とキス……した」

「元彼って……どういう事だ?」

「ごめんなさい。もう……蓮さんと付き合えない。……別れよう」

 私の目からは涙が溢れ止まらないし、自分で何を言っているのかよく分からない。でも蓮さんの顔を見るのが怖くて、目も合わせず私はこの場から走って逃げた。

 家に着いてからも何度も蓮さんから着信があったけど、私は電話には出なかった。

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