溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華

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主任×私×飲み会

ストーリー4

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「ちょっと主任、人前で溺愛の練習はやめて下さいよ?」

「人前で溺愛の練習なんてする訳ないだろう。それよりちゃんと飲み会を楽しんでいるか?」

 練習じゃないって事は、さっきの可愛いってやつは本心?……いや社交辞令か、きっと。

「楽しんでますよ。主任こそ楽しんでますか?」

「あぁ……ただ赤崎以外の女性が目を合わせてくれないけどな。そういやお前、美織って名前だったんだな。初めて知った」

 私は突然の名前呼びにドキッとしてしまった。そういえば引越しの挨拶の時には赤崎です、としか言わなかったなぁ。

「それに26歳っていうのも知らなかったし、俺は赤崎の事何にも知らなかったんだなって思った」

 主任は不意打ちの笑顔を見せる。その笑顔に魅了されて、私は主任から目が離せないでいた。

「美織、席代わって?」

 そんな中、ビールを片手に裕香が私の席にやってきて、耳元でコソッと話す。

「……いいよ」

「ありがとう。せっかくの機会だから勇気を出して平国主任と話をしてみるね」

 裕香、主任を狙っている? チャレンジャーだなぁ。それなら私は退散しよう。

「赤崎さん、いらっしゃい」

 元々裕香が座っていた席に座ると、隣の男性がニコッとしながら話しかけてきた。

「お邪魔します」

 私も笑顔を返す。

「赤崎さん、平国主任と普通に話してたよね? 緊張とかしなかった?」

「それは……もちろん緊張しますよ」

 そうか。社長御曹司と噂の主任と普通に話をする女子はいないのか。裕香と主任をチラッと見ると、確かに裕香も緊張しながら話をしているのがこっちにまで伝わってくる。

「じゃあ今、俺の隣で緊張してる?」

「……緊張しますね」

 むしろよく顔を合わせる主任よりも初対面の貴方の方が緊張してます、と心の中で思う。

「そうなんだ。ちなみに赤崎さん、俺の名前覚えてくれてる?」

「えっと……」

 しまった。自己紹介をちゃんと聞いてなかったから名前知らないや。どうしよう。

「あはは、赤崎さん顔に出てるよ。俺の名前分からないって」

「す、すみません」

「改めまして高成たかなり りくです。よろしく」

 高成さん、ね。ちゃんと名前覚えなきゃ。それにしても営業の人って、みんな爽やかな表情してるなぁ。

 そして私は飲み会が終わるまで、高成さんの隣でずっと二人で話をした。

「じゃあ解散しますか」

 全員居酒屋の外に出てそこで解散した。帰り道が同じ人達で一緒に帰る事になった。

 私は裕香と駅に向かって歩く。そしてもちろん帰り道が同じの平国主任と高成さんも一緒だ。並びは自然と私と高成さん、主任と裕香に分かれた。

「なんか前の二人、良い感じじゃない?」

 主任と裕香の後ろを歩いていると、高成さんがコソッと言ってきた。確かに……良い雰囲気だ。

そんな二人の後ろ姿を見ながら駅に到着して電車に乗る。そして高成さんと裕香が駅で電車を降り、私と主任の二人になった。

「あの……先にマンション帰っちゃっていいですよ?」

「赤崎には俺が女性を夜道に残して帰る薄情な男に見えるのか?」

 駅を降りて人通りの少なくなった夜道を歩きながら話をする。

「そうは見えないですけど、私コンビニで買い物して帰るので……」

「買い物付き合うよ」

 私はコンビニでお酒とつまみになりそうなものを購入した。大した買い物でもないのに付き合わせてしまってなんか申し訳ない。

「まだ飲むのか?」

 主任は私が持っているお酒とつまみが入ったビニール袋を見ながら聞いてきた。

「少し飲み足りなかったので。あっ、一緒に部屋で飲み直します?」

「ダメだ。密室で一緒に酒なんか飲んで、もし間違いでも起きたらどうする!? 酒のせいとはいえ、理性を抑えきれなくなるかもしれないじゃないか」

 そんな力いっぱい言わなくても……また主任の真面目すぎる性格がまた現れたようだ。私と主任で間違いが起こる訳ないのに。

「じゃあ一人で飲み直しますよ」

「一緒に酒は飲めないが……少し話というか相談がある」

「相談?」

 じゃあ寒いから部屋で話をしましょうと言ったのに、主任は頑なにお酒を飲んだ後に一緒の部屋に入れないと拒否するので、仕方なくマンション近くの公園のブランコに座り話を聞く事にした。

「寒いですね。それで話というのは?」

 少しだけブランコを揺らしながら私は聞いた。

「実は、話の流れで清水さんと出かける事になったんだ」

「出かけるってデートですか? へぇ、やったじゃないですか」

 主任と裕香、良い感じに話が進んでいるんだ。

「赤崎は清水さんと仲が良いんだろう? 何処に出かけたらいいかな?」

「裕香は落ち着いた感じのデートが好みと思いますよ」

「落ち着いた感じか……例えば?」

「そこは自分で考えて下さい。主任が計画したデートプランなら裕香は絶対喜びますから」

 私はニッコリして言うと、そのままブランコから降りた。

「主任、頑張って下さい」

「あぁ」

 そして私達はそれぞれ自分のマンションの部屋へと帰った。

 私はスマートフォンを手に持ち、さっき買ってきた缶チューハイを飲む。

「あれ? 着信入ってる」

 気づかなかったけど裕香から電話があったみたい。折り返し裕香に電話をかけ直した。

「もしもし。美織、家に着いた?」

「うん。今家に着いて缶チューハイ飲み直してるところ。どうしたの?」

 多分、主任の事なんだろうけど私は知らないふりして用件を聞いた。

「平国主任の事なんだけど……なんか一緒に出かける事になっちゃった。どうしよう」

「へぇデートするんだ。良かったじゃん」

「良かった……のかな」

「あれ? 裕香、嬉しくないの?」

「まだ実感がないのかも。だってあの平国主任だよ? まさか私が彼とデートするなんて夢にも思わないじゃない?」

 まぁ噂が噂だからなかなか実感なんて湧かないだろうな。

「頑張れ、裕香」

 その後、少し裕香と話をして電話を切った。

「裕香、いいなぁ」

 電話を切った後、私はテーブルに横顔をつけボソッと呟いた。

 あれ……いいなぁって、私は何でこんな事思ったのだろう。

 主任とデートするのが? いやそんなはずない。きっとクリスマスまでに彼氏が出来そうな裕香が羨ましいと思っているんだ。

 ……私も頑張ろう。
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