溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華

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主任×私×飲み会

ストーリー3

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 溺愛の実践練習を始めてから一週間が経った。私はというと、主任からの溺愛を受け続け……げっそりとしている。

 私はイケメンからの甘い言葉や態度を舐めていたかもしれない。いちいちキュンキュンしてしまいめっちゃ疲れる。

 正直、主任が参考にしている恋愛小説にクレームをつけてやりたいくらいだ。全くどの溺愛恋愛小説を参考にしているのやら。

「なんか美織、最近やつれてない?」

 仕事の昼休み中、社員食堂でご飯を食べていると、同じ庶務課で同僚の清水しみず 裕香ゆうかが私の顔を見ながら言ってきた。

「まぁ……色々あってね」

 私は哀愁漂う表情をしながら遠くを見る。

「ふーん、じゃあ気分転換に今日飲みに行く?」

 裕香はニッコリして聞いてくる。いつ見ても裕香は落ち着いたオトナ女子って感じで綺麗だなぁと惚れ惚れしちゃう。そういえば今日は主任も夜は予定があると言ってたし、私も久しぶりに飲みに行こう。

「いいね、パァーッと飲んじゃいますか」

 私と裕香が話をしていると、私の後ろに座っていたどこの部署か知らない男性社員が声をかけてきた。

「ねぇ、良かったら今日俺たちと一緒に飲まない?男四人で飲む予定なんだけど」

 私達の会話を聞いていたのか、飲みに誘われてしまった。どうしようと裕香の方を見ると、裕香はOKと親指と人差し指で丸を作り男性社員の誘いを受けた。

「ちょっと裕香、いいの?」

 私は男性社員に聞こえないようにヒソヒソと小声で話す。

「いいじゃない。彼氏ゲットのチャンスだよ。美織だってクリスマスまでに彼氏欲しいでしょ?」

 彼氏ゲットねぇ。そうか、そしたら主任の溺愛から気兼ねなく解放されるんだ。

 私はこの飲み会に参加することにした。

 仕事が終わり、私と裕香そして同じ庶務課の女子二人を誘い、四人で待ち合わせしている居酒屋へ向かう。

「あっ、こっちだよ」

 店内は仕事終わりの大人達で大賑わいだ。中に入ってキョロキョロすると男性社員達の姿があった。

「ごめんなさい。お待たせしました」

 私は一番後ろからひょこっと顔を出し男性社員達の顔を見る。

 な、何で!?

 私以外の庶務課女子達はめっちゃテンション上がっている。男性社員の中に平国主任がいるではないか。

 私は主任と目を合わさないようにしながら男性社員達の前に座る。

「急に誘っちゃってゴメンね。じゃあ乾杯の前に軽く自己紹介しちゃおうかな。まずは……こちらはみんな知っていると思うけど、我ら営業企画課エースの平国 蓮主任でーす」

 ただの自己紹介で大盛り上がりしている。男性社員達の正体は営業企画課の人達だったんだ。ちゃんと確認しておくべきだった。っていうか、なんか合コンみたいになってるし。

「ほら美織、アンタの番だよ」

「え? あ……どうも赤崎 美織26歳です」

 いつのまにか順番が回ってきて作った笑顔で慌てて自己紹介をする。色々考えてしまって他の人の話聞いてなかったけど、まぁいいか。

 自己紹介も終わり、ビールを片手にみんなで乾杯する。そしてそれぞれ色々な話をして少し時間が経つと、席がシャッフルされた。

「偶然だな」

 私の隣に平国主任が座る。

「本当に偶然ですね」

 私達が知り合いとバレないように小声で話す。

「赤崎、いつもと雰囲気違う気がする」

「あー、外見ですか? 流石の私でも会社に行く時はきちんと化粧して髪型も変えますよ」

 確かに主任は、普段家にいる時の干物系女子の私しか知らないから違和感があるのかも。

「なんか可愛いな」

「へ? 何がですか?」

「赤崎がだよ」

 まさかこんな人前で溺愛の練習ですか!? 私は微笑んでいる主任の前で顔を赤くなった。
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