溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華

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主任×私×悩み

ストーリー2

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 次の日の夜、仕事から帰った私はいつものように髪を一つに結びほぼスッピンの状態で自分の部屋でダラダラと過ごしていた。

……ピンポーン

 呼び鈴が鳴り、こんな時間に誰?と思いながらも取り敢えず玄関のドアを開ける。

「しゅ、主任? どうしたんです?」

 ドアを開けた先にいたのは私服の平国主任だった。

「いや、ご飯の準備が出来たから呼びに来た」

 ご飯って、流石に連日ご飯をご馳走になっているから、今日は遠慮しておこうと思って主任の部屋に行かなかったんだけど……わざわざ呼びに来てくれたんだ。

 でもご飯作ってくれたのならせっかくだし食べに行こうかな。

「すぐ行きます」

 私はそのまま主任の部屋に行った。玄関を開けるとビーフシチューの良い匂いがする。

 そしてビーフシチューを食べていると、主任が話を始めた。

「昨日の溺愛についてだけど……」

「へ? 溺愛?」

「赤崎が言っただろう?女性は溺愛小説が好きだって」

 言ったかな?……言ったような気もする。

「あーはいはい」

「……言った事忘れてたな。それでその溺愛について勉強してみたんだ」

 私は思わず笑いを堪えるため咳き込んだ。主任、面白すぎる。溺愛の勉強って何したんだろう。

「べ、勉強って何をしたんですか?」

「今は携帯サイトで簡単に小説が読めるんだな。仕事の休憩中に恋愛小説を読みまくった」

 コーヒーを優雅に飲みながら携帯を見つめる主任の姿がポワーンと頭に浮かび上がる。女子社員がうっとりする場面だけど、溺愛の勉強の為に恋愛小説を読んでいるとは誰も思わないだろう。

「それで勉強になりましたか?」

「そうだな……そこが問題なんだよな」

 主任は困った表情でハァとため息をつく。私には何が問題かは分からないが、自分には関係のない事なので深くは聞かなかった。

 食事も終わり、私はいつも通り食べ終わった食器をキッチンへ運ぶと鼻唄まじりで機嫌良く洗い始めた。

「……赤崎、いつもありがとな」

 洗い物をしている私の後ろから突然ふわっと抱きしめてきて、耳元で囁くように声を出す。

 私は何が起きたか分からないままその場にピシッと硬直してしまう。五秒くらいして意識が戻り何事かと思い振り返ると、至近距離に主任の顔があった。

「うわぁっ」

 びっくりしたのとドキッとした私は、洗いかけの皿をその場に落としてしまった。運良く皿は割れなかったが、落とした皿を拾うため慌ててしゃがんだ。

「大丈夫か?」

 主任もしゃがみこみ、落とした皿を拾おうとする。そして二人同時に皿を拾おうとして手がれた。

 やばい。
 何このドキドキシチュエーションは!?

 私はパッと立ち上がり、顔を赤くさせながら主任を見る。すると主任もスッと立ち上がって私の手を握る。

「手、怪我してないか?」

「だ、だ、大丈夫ですから。……主任、どうしちゃったんですか!?」

 動揺しながら主任に聞いた。だって明らかに変だし。

「やっぱり変か? 溺愛を実践してみたんだけど……難しいな」

 主任は何か考え込むように腕を組み下を向く。

「溺愛を実践って……私で練習したんですか?」

「練習……そうか、やっぱり溺愛の実践練習が必要だな。なぁ赤崎」

 主任は目をキラキラさせながら私を見る。

「無理です」

「まだ何も言ってないだろ」

 確かに何も言われてないけど、何となく主任の言おうとしている事が分かった。

「何も言わなくていいですから」

「頼む。赤崎で溺愛の実践練習をさせてくれ」

 私は首を大きく横に振る。いくら恋愛感情がないとはいえ、こんなイケメンに溺愛されたらドキドキしすぎていくつ心臓があっても足りませんから。そもそも溺愛に練習ってしないでしょ、普通。

 そうか、分かった。

 前から薄々感じてはいたけど、主任この人は何に対しても真面目過ぎるんだ。主任なら女性に一声かけるだけで彼女が出来るのに、真面目過ぎてそれも出来ないのかも。なんて勿体無い性格だ。

「赤崎の好きなもの奢るから」

 そんなに必死に頼まれたらなんか断るのに罪悪感が生まれるじゃない。

「……高くつきますよ?」

 結局根気負けしてしまった私は、主任の溺愛の実践練習とやらに付き合う事にした。

「助かるよ。それで赤崎にもう一つお願いがあるんだけど」

「何ですか?」

「もし嫌でなければ……連絡先を交換しないか?」

「はい、いいですよ」

 私は携帯を取り出し連絡先を交換する準備をする。

「そんなに簡単に連絡先を教えていいのか!?」

「自分で聞いておいて……だって別に断る理由もないし、連絡先を知ってた方が何かと都合がいいと思いますし」

 私はそう言いながらスマートフォンをポチポチして主任の携帯番号を登録した。
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