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再会
ストーリー74
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進藤コーポレーションの近くにある小さめの公園まで歩くと、進藤さんはベンチに座った。私も隣に座る。
「俺は今、汗かいてるからあんまり近寄らない方がいいぞ」
そう言って進藤さんはスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを少し緩める。よく見ると汗で前髪も濡れていた。
とは言え、進藤さんからいつもと同じ良い香りしかしないのだけど。
「久しぶりだな。それにしても義雄のくせに再登場しやがって」
進藤さんは前と変わらない素のままで話しかけてきた。私はそれが嬉しかった。
「義雄って。久しぶり……ですね。私を探して走ってくれたんですか?」
「突然、鈴里さんが慌てて社長室へ駆け込んできて、明日香の様子がおかしいって言ってきたんだ。電話中に義雄っていう知り合いっぽい人に会ったみたいでそれから何か変だっていうから、会社近くにいる明日香を探した」
「ありがとうございます……助かりました」
私がお礼を言うと、進藤さんはニィッと笑みを浮かべて私の方を見る。
「それにしてもこの程度の走りで疲れるとは俺も運動不足だな。ジムにでも通うか」
進藤さんの言葉に私は思わず笑う。そしてベンチからスクッと立ち上がり、スーツの上着を私に渡してきた。
「ここで待ってろ」
そう言い残し、進藤さんは公園から何処かへ向かった。公園に一人になった私は、進藤さんの上着をギュッと抱きしめる。
進藤さん……。
しばらく一人で待っていると、スマートフォンが鳴り始めた。慌てて取り出すと、着信は進藤さんからだ。
「もしもし」
「公園前まで来てくれ」
それだけ言って電話は切れた。何だろう? と思いながら進藤さんの上着を持ち、公園の前に行く。そこには車に乗った進藤さんが待っていた。
「会社に戻る途中なんだろう?」
車の窓を開けて進藤さんは顔で私に助手席に乗るように促す。
「そこまで甘えるわけには……」
私は遠慮しようとしたが、笑みを浮かべる進藤さんを見ると何も言えず、結局助手席に乗った。
「会社までのナビを頼む」
進藤さんは車を走らせた。
どうしよう……進藤さんの車には何度も乗っているのに、何でこんなに胸がキュンとするんだろう。やっぱりまだ私……。
「……今日は静かだな。まさか緊張してるのか?」
口数の少ない私に進藤さんが聞いてきた。
「進藤さんは今まで通り素で話しかけてくれるんですね」
「今更だろ? 俺の素を知っているのにビジネス的な話し方しても気持ち悪いって思われそうだし。嫌なら話し方変えるが?」
「いえ嫌とかではなく、どちらかといえば嬉しいんだけど……」
思わず嬉しいと本音が出てしまい、しまったと思いながら進藤さんの方をチラッと見て反応を見る。
すると進藤さんは驚いているような表情で私の方を見ていた。
目が合うと二人とも慌ててパッと前を向いた。なんだかくすぐったい感じの雰囲気が車内に流れる。
そしてあっという間に私の勤務先付近に到着した。
「色々ありがとうございました」
「あぁ、仕事頑張れよ」
「はい。じゃあ……」
私は車を降りペコっと頭を下げる。
危うく『またね』と言うところだった。これから先、私達に会う予定はないのに。
その日の夜、家で晩酌しながら私は真彩さんに今日の一連の流れを話した。
「……元彼二人と再会するなんて凄い光景ね」
「そうだね。マイさんが進藤さんに教えてくれたんでしょ? ありがとう」
真彩さんは酎ハイの入ったグラスを持ち、円を描くようにグラスを回す。
「私が事情を説明すると、瞬時に状況を把握したのか勢いよく社長室を飛び出して行ってね。あれはカッコよかったわ進藤社長」
真彩さんは私の方を見てニヤッとする。私は照れを隠すように酎ハイをゴクゴク飲んだ。
「それで? 進藤社長との再会は嬉しかった?」
「それは……嬉しかった」
私は小さな声でボソッと答える。
「ねぇ明日香。無理して進藤社長の事忘れる事ないんじゃない? 好きなままでいいと思うよ。そのうちまた素敵な出会いがあるだろうし、それまでは……さ」
「素敵な出会いかぁ。私にまたそんな出会いあるかな?」
「あるある。明日香は可愛いからきっとすぐ良い出会いあるよ」
次の恋愛かぁ。まだ想像つかないけど、その日が来ることを願ってもう少しだけ進藤さんの事を想っててもいいですか?
「俺は今、汗かいてるからあんまり近寄らない方がいいぞ」
そう言って進藤さんはスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを少し緩める。よく見ると汗で前髪も濡れていた。
とは言え、進藤さんからいつもと同じ良い香りしかしないのだけど。
「久しぶりだな。それにしても義雄のくせに再登場しやがって」
進藤さんは前と変わらない素のままで話しかけてきた。私はそれが嬉しかった。
「義雄って。久しぶり……ですね。私を探して走ってくれたんですか?」
「突然、鈴里さんが慌てて社長室へ駆け込んできて、明日香の様子がおかしいって言ってきたんだ。電話中に義雄っていう知り合いっぽい人に会ったみたいでそれから何か変だっていうから、会社近くにいる明日香を探した」
「ありがとうございます……助かりました」
私がお礼を言うと、進藤さんはニィッと笑みを浮かべて私の方を見る。
「それにしてもこの程度の走りで疲れるとは俺も運動不足だな。ジムにでも通うか」
進藤さんの言葉に私は思わず笑う。そしてベンチからスクッと立ち上がり、スーツの上着を私に渡してきた。
「ここで待ってろ」
そう言い残し、進藤さんは公園から何処かへ向かった。公園に一人になった私は、進藤さんの上着をギュッと抱きしめる。
進藤さん……。
しばらく一人で待っていると、スマートフォンが鳴り始めた。慌てて取り出すと、着信は進藤さんからだ。
「もしもし」
「公園前まで来てくれ」
それだけ言って電話は切れた。何だろう? と思いながら進藤さんの上着を持ち、公園の前に行く。そこには車に乗った進藤さんが待っていた。
「会社に戻る途中なんだろう?」
車の窓を開けて進藤さんは顔で私に助手席に乗るように促す。
「そこまで甘えるわけには……」
私は遠慮しようとしたが、笑みを浮かべる進藤さんを見ると何も言えず、結局助手席に乗った。
「会社までのナビを頼む」
進藤さんは車を走らせた。
どうしよう……進藤さんの車には何度も乗っているのに、何でこんなに胸がキュンとするんだろう。やっぱりまだ私……。
「……今日は静かだな。まさか緊張してるのか?」
口数の少ない私に進藤さんが聞いてきた。
「進藤さんは今まで通り素で話しかけてくれるんですね」
「今更だろ? 俺の素を知っているのにビジネス的な話し方しても気持ち悪いって思われそうだし。嫌なら話し方変えるが?」
「いえ嫌とかではなく、どちらかといえば嬉しいんだけど……」
思わず嬉しいと本音が出てしまい、しまったと思いながら進藤さんの方をチラッと見て反応を見る。
すると進藤さんは驚いているような表情で私の方を見ていた。
目が合うと二人とも慌ててパッと前を向いた。なんだかくすぐったい感じの雰囲気が車内に流れる。
そしてあっという間に私の勤務先付近に到着した。
「色々ありがとうございました」
「あぁ、仕事頑張れよ」
「はい。じゃあ……」
私は車を降りペコっと頭を下げる。
危うく『またね』と言うところだった。これから先、私達に会う予定はないのに。
その日の夜、家で晩酌しながら私は真彩さんに今日の一連の流れを話した。
「……元彼二人と再会するなんて凄い光景ね」
「そうだね。マイさんが進藤さんに教えてくれたんでしょ? ありがとう」
真彩さんは酎ハイの入ったグラスを持ち、円を描くようにグラスを回す。
「私が事情を説明すると、瞬時に状況を把握したのか勢いよく社長室を飛び出して行ってね。あれはカッコよかったわ進藤社長」
真彩さんは私の方を見てニヤッとする。私は照れを隠すように酎ハイをゴクゴク飲んだ。
「それで? 進藤社長との再会は嬉しかった?」
「それは……嬉しかった」
私は小さな声でボソッと答える。
「ねぇ明日香。無理して進藤社長の事忘れる事ないんじゃない? 好きなままでいいと思うよ。そのうちまた素敵な出会いがあるだろうし、それまでは……さ」
「素敵な出会いかぁ。私にまたそんな出会いあるかな?」
「あるある。明日香は可愛いからきっとすぐ良い出会いあるよ」
次の恋愛かぁ。まだ想像つかないけど、その日が来ることを願ってもう少しだけ進藤さんの事を想っててもいいですか?
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