明日は明日の恋をする

彩里 咲華

文字の大きさ
上 下
44 / 85
幸せのひととき

ストーリー44

しおりを挟む
再びマンション ーー

 高瀬さんが帰った後、進藤さんが私の頭を拳でコツンとしてきた。

「ナオトと何話してたんだ?」

「えっいえ、何も……」

 歯切れの悪い私の答えに、進藤さんはじぃっと見てくる。私は思わず視線を逸らし明後日の方を向いた。

「聞いてたぞ。ナオトに変な事聞きやがって」

「うっ、だって」

「だって、じゃない」

 そう言ってまた私の頭を拳でコツンとしてくる。そして進藤さんはソファーに座った。

「じゃあ、私って少しでも魅力ありますか?」

 私はソファーに座る進藤さんの後ろから手を回し、ギュッと抱きついて聞いてみた。

「バカな事聞くな。明日香には魅力しかない。俺が毎日必死にクールダウンしてるの知らないだろ?」

 進藤さんは座ったまま私の方を向き、私の後頭部に手を当てぐいっと自分の方に引き寄せ、強引に唇を奪う。

「クールダウンって、何してるんですか?」

唇が離れると、少し言いにくそうに私の質問に答えた。

「仕事に打ち込んだり、理性が飛びそうな時は頭の中で数字を思い浮かべたりだな、3.14159265…とか」

「あはは、まさかの円周率」

 思いがけない答えに、私は笑ってしまった。いつもクールな進藤さんが何か可愛くみえる。

「笑うな」

「でも……我慢しなくてもいいのに」

 また進藤さんにギュッと抱きついて、耳元でコソッと囁いた。そのセリフを言うのが恥ずかしくて私の手は少し震えていた。

「そうだな、もう我慢しない」

「うん」

「でも、今日は何もしない。何かナオトの思い通りにいくのは嫌だからな」

「ふふ、何それ」

「宣言しとく。明日、最後まで明日香を抱くから。心の準備しとけよ」

 真っ直ぐな目で私を見つめ、フッと笑みを浮かべる。

 えっ、明日……

 そんな事言われたら私、どんな顔したらいいんですか?

 取り敢えず今の私は心臓が爆発するんじゃないかっていうほどドキドキして、明日を楽しみにしていた。

 眠れない夜……

 気がついたらもう朝になっていた。カーテンを開け日差しを浴びる。今日もいい天気だ。

「あぁ、もうどんな顔して進藤さんに会えばいいの?」

 考えてもしょうがないか。私は部屋を出てコソコソ気味にリビングへ向かう。

 リビングには……誰もいない。少し緊張が解け朝のコーヒーを入れる。

「……明日香」

「きゃあ」

 突然呼ばれてビックリした私は思わず悲鳴をあげてしまった。ゆっくり振り向くと、私の悲鳴の大きさに耳を塞いだ進藤さんが立っていた。

「ご、ごめんなさい」

「俺にもコーヒーを入れてくれ」

 進藤さんはそのままソファーに座り、テレビをつけてニュースを見始めた。私はそっとコーヒーをテーブルに置く。

「緊張してるのか?」

「それは……しますよ」

「今日は早く帰るから、外食しようか」

「外食ですか?」

「あぁ。たっぷり昼寝しとけよ」

 進藤さんは笑みを浮かべて立ち上がり、仕事の支度を始めた。余裕たっぷりだな進藤さん。私だけ緊張しちゃって恥ずかしい。

「じゃあ仕事行ってくる」

 支度を終えた進藤さんが私の元へ来た。そして耳元で囁く。

「夜が楽しみだ」

 ふわっと香る進藤さんの香水……

 その香りと囁きだけで、私はゾクッと感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...