明日は明日の恋をする

彩里 咲華

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私の運命

ストーリー6

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「社長、お疲れ様です」

 マンションの入り口では男性が待っていた。男性は私のせいで手が塞がっている社長の代わりに入り口にある機械にカードキーを通す。

 入り口が開くと社長と男性はスタスタと歩き、エレベーターに乗り込んだ。

 社長にお姫様抱っこをされたまま、私はマンションの一室に連れて行かれた。

 部屋の中に入ると、社長は大きなソファの上に私を下ろし奥の部屋から救急箱を持ってきた。その箱を無言で男性に渡し、社長はまた奥の部屋へ戻る。

 何故、救急箱?と思ったが、なんだか靴擦れのような足の痛さを感じた。社長は私を抱きかかえた時に足の異変に気付いたようだ。その観察力は流石だなと密かに思う。

「水沢さん、パンスト脱いで貰って良いですか?それとも私が脱がせましょうか?」

「じ、自分で脱ぎます…後ろを向いててもらっていいですか?」

 社長に渡された救急箱を持って男性は私の元へやってきた。慌ててパンストを脱ぐ私に男性は後ろを向きながらクスクス笑っている。

「あ~血が出てますね。消毒しましょう。少ししみますけど我慢して下さいね」

 男性はまずソファに座る私の右足を手に取り怪我している部分の消毒を始めた。

 慣れないヒールで歩いたのと義雄を見つけて走ったせいで、自分でも気がつかなかったが靴擦れをおこし血が出ていた。

 それにしても治療とはいえ、男性に足を持たれるのはかなり恥ずかしい。私は赤面しながら治療が終わるのを待った。

「よし、これでお終いです。大丈夫ですか?しみませんでした?」

「は、はい。大丈夫です。ありがとうございました。えっと……」

 そういえばこの男性の名前をまだ聞いてなかった。今更聞いて良いものか悩んでいると、男性は私が何か聞きたそうにしているのに気づいたようだ。

「そういえばまだ名前を言ってませんでしたね。私は高瀬たかせ 直人なおとと申します。社長の専属秘書を務めております。以後お見知り置きを」

「高瀬さん、あの……私はこのマンションで何のお仕事をするんですか?」

「ハウスキーパーの仕事です。この家の住人は忙しいですからね。家の事を頼みたいんですよ」

 高瀬さんは救急箱の片付けをしながら、私の質問に笑顔で答えてくれた。

「この家の住人って…?」

「俺だ」

 後ろから声が聞こえたのでパッと振り返ると、そこには社長が立っていた。

「え、ここ社長の家!?ハウスキーパーって…私が?」

「お前以外に他に誰がいる?」

 社長は私の隣に座ると脚を組んだ。相変わらず仕事OFFモードで上から目線で話しかけてくる。しかし、スラリとした長い脚を組む姿は悔しいけど格好良い。

ピリリリリ……

ピリリリリ……

 珍しく私の携帯が鳴り始める。

「まさか、義雄?」

 私は立ち上がり、鞄から慌ててスマートフォンを取り出して着信を確認する。しかし、着信は義雄ではなく私の住むアパートの大家さんからだった。

 何だろう?

 取り敢えず着信に出てみる。

「もしもし?」

 切羽詰まったように話す大家さんの話を私は黙って聞く。電話が終わると私はスマートフォンをその場に落とし、私自身も呆然としたままその場に崩れるように座り込んだ。

「どうした?」

 様子のおかしい私を見て社長が声をかけるが、その声は私の耳に届かない。高瀬さんも不思議そうに私を見ている。

「テ、テレビつけても…いいですか?」

 私はか細い声でお願いした。状況は分からないが私の只ならぬ様子に何かを察し、社長はリモコンを取り部屋にあるテレビをつけてくれた。

「何を見るんだ?」

「ニュース……をお願い……します」

 大画面テレビのチャンネルをニュース番組に合わせる。

『……以上、火事の現場からお届けしました。続いてのニュースです』

「あれ?今の火事の現場って、水沢さんのアパートじゃ?」

 高瀬さんの問いかけに私はコクリと頷いた。そう、さっきの大家さんからの電話はアパートで火災が発生したからと安否確認の電話だった。 

 今現場は、警察と消防隊とテレビ局のカメラマン達で大変らしい。火元は私の隣の部屋で幸いにも怪我人はなし。

 ただ私の部屋は無残にも焼け落ちてしまい、現状ではとても住める状態ではないという。
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