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出逢いは突然やってくる
ストーリー4
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詩織の合コン騒動から一ヶ月が経ち、私は変わらず地味な生活をしていた。
今日も仕事して、帰りにタピオカミルクティーを買って、家でのんびり過ごす。
ピリリ……ピリリ……
スマートフォンが鳴る。このタイミングの電話、何となく嫌な予感……。
スマートフォンを持って画面を確認。電話をかけてきたのは母だった。
「もしもし」
「あ、恋。仕事終わった?」
「仕事終わって家でゆっくりしてるとこ。どうしたの?」
「家でゆっくりって、明日は休みなんでしょ? デートする男はいないの?」
「うん、いないしどうでもいい。それより用件は? ないなら切るよ」
「もう、相変わらず冷めた態度なんだから。そうそう用件だけど、実は仕事で使う大事なデータを家に忘れちゃってさ。そして、今すっごく仕事忙しいの。だ・か・らお願い、恋ちゃん。職場まで持ってきて」
甘えるような声で母は話す。正直面倒くさい。母はしっかりしているように見えてちょいちょい私に頼み事をしてくる。
母は私の住むアパートからさほど遠くない所にあるマンションに一人で暮らしている。父親は居ない。
人気ファッション誌を扱っている出版社で働き、仕事にストイックな母は、現在編集長となり、毎日忙しいみたいだ。
「で? 何を持って行けばいいの?」
面倒くさいが仕事道具なら仕方ない。暇な私は母の役に立つ事にした。
「流石、恋ちゃん。助かるわ。家のPC前にUSBが置いてあると思うから、それを持ってきて」
「はいはい」
そう言って電話を切る。そして重い腰を上げて、まずは母のマンションへ向かった。
合鍵を使って中に入りUSBを持つと、今度は母の勤める会社へ向かう。普段なら電車で行く所だが、今日はめんど……急ぎみたいなので、タクシーに乗った。タクシー代は後で母に請求しよう。
到着すると、躊躇することなくスタスタと会社ビルの中へ入る。何度も会社へ来た事があるからもう慣れていた。
「恋さん」
中へ入るとすぐに声をかけられた。声のする方を振り向くと、スーツを着た男性が私の方へ駆け寄ってくる。
笹倉 悠人……母と同じ部署で働いて、よく母にこき使われている。高身長にサラッとした黒い髪に切れ長の目が、クール系の雰囲気を醸し出す。
母に用事があって会社に来た時は、大抵忙しい母に代わりに笹倉さんが対応してくれる。
「笹倉さん、お疲れ様です」
「編集長のお使いお疲れ様。そろそろ到着するかと思って待ってました」
「お待たせしてすみません。じゃあこれ母に渡して頂けますか?」
母のマンションから持ってきたUSBを笹倉さんに渡す。
「笹倉さんもお仕事頑張って下さいね。それでは……」
「はい、恋さんも帰り気をつけて」
よそよそしい空気が流れる中、お互い少しだけ微笑みペコっと頭を下げてその場を去った。
さて、帰りはゆっくり電車で帰ろう。
そう思って駅に向かって歩き出そうとした時だった。
「恋ちゃん」
語尾に音符が付くように軽快に名前を呼ばれ、思わずパッと振り向く。何処かで聞き覚えのある声だと思ったら……やっぱりか。
「……どうも」
「うわぁ、なんかさっきの彼氏の時よりテンション低くない?」
「見てたんですか? ていうか、あの人は彼氏じゃないですけど」
詩織を私の家まで送ってくれた『相沢さん』。まさかこんなところで再会するなんて思ってもいなかった。
「ふーん、良い感じに見えたけど彼氏じゃないの? それよりまた会っちゃったね」
にっこりと私に笑顔を向ける。なんか……この笑顔苦手だ。
「そうですね。じゃあ、私はこれで」
そそくさと退散しようとしたが、彼は歩き始めた私の横に並び、会話を続けてきた。
「ねぇ、恋ちゃん。暇だったら今から飲みに行くの付き合ってよ」
私を誘うなんて変わった人。でもこの後用事があるわけでもないし……。
「えっと……いいですけど」
「え!? いいの?」
「別に断る理由もないですし。……もしかして冗談でした?」
「いや本気本気。まさか誘いに乗ってもらえるとは思わなかったから驚いただけ。じゃあ気が変わらないうちに行こうか」
私は相沢さんについて行く。驚くのも無理はない。彼の中の私のイメージは、きっと見た目の地味な感じから、誰の誘いにも乗らないお堅い真面目なイメージなのだと思う。
実際、私は不特定多数の飲み会には参加しない。それは気を使って話をするのが面倒だし、人が多いのが苦手だからだ。
稀に男性から個人的に飲みに誘われる事もある。そういう時は意外かもしれないが、誘いを受ける事が多い。
だけど、それは出会いを求めてとか何かを期待してるわけではなく、断る理由がないからというだけだ。もちろん食事の後はすぐ帰る。
今日も仕事して、帰りにタピオカミルクティーを買って、家でのんびり過ごす。
ピリリ……ピリリ……
スマートフォンが鳴る。このタイミングの電話、何となく嫌な予感……。
スマートフォンを持って画面を確認。電話をかけてきたのは母だった。
「もしもし」
「あ、恋。仕事終わった?」
「仕事終わって家でゆっくりしてるとこ。どうしたの?」
「家でゆっくりって、明日は休みなんでしょ? デートする男はいないの?」
「うん、いないしどうでもいい。それより用件は? ないなら切るよ」
「もう、相変わらず冷めた態度なんだから。そうそう用件だけど、実は仕事で使う大事なデータを家に忘れちゃってさ。そして、今すっごく仕事忙しいの。だ・か・らお願い、恋ちゃん。職場まで持ってきて」
甘えるような声で母は話す。正直面倒くさい。母はしっかりしているように見えてちょいちょい私に頼み事をしてくる。
母は私の住むアパートからさほど遠くない所にあるマンションに一人で暮らしている。父親は居ない。
人気ファッション誌を扱っている出版社で働き、仕事にストイックな母は、現在編集長となり、毎日忙しいみたいだ。
「で? 何を持って行けばいいの?」
面倒くさいが仕事道具なら仕方ない。暇な私は母の役に立つ事にした。
「流石、恋ちゃん。助かるわ。家のPC前にUSBが置いてあると思うから、それを持ってきて」
「はいはい」
そう言って電話を切る。そして重い腰を上げて、まずは母のマンションへ向かった。
合鍵を使って中に入りUSBを持つと、今度は母の勤める会社へ向かう。普段なら電車で行く所だが、今日はめんど……急ぎみたいなので、タクシーに乗った。タクシー代は後で母に請求しよう。
到着すると、躊躇することなくスタスタと会社ビルの中へ入る。何度も会社へ来た事があるからもう慣れていた。
「恋さん」
中へ入るとすぐに声をかけられた。声のする方を振り向くと、スーツを着た男性が私の方へ駆け寄ってくる。
笹倉 悠人……母と同じ部署で働いて、よく母にこき使われている。高身長にサラッとした黒い髪に切れ長の目が、クール系の雰囲気を醸し出す。
母に用事があって会社に来た時は、大抵忙しい母に代わりに笹倉さんが対応してくれる。
「笹倉さん、お疲れ様です」
「編集長のお使いお疲れ様。そろそろ到着するかと思って待ってました」
「お待たせしてすみません。じゃあこれ母に渡して頂けますか?」
母のマンションから持ってきたUSBを笹倉さんに渡す。
「笹倉さんもお仕事頑張って下さいね。それでは……」
「はい、恋さんも帰り気をつけて」
よそよそしい空気が流れる中、お互い少しだけ微笑みペコっと頭を下げてその場を去った。
さて、帰りはゆっくり電車で帰ろう。
そう思って駅に向かって歩き出そうとした時だった。
「恋ちゃん」
語尾に音符が付くように軽快に名前を呼ばれ、思わずパッと振り向く。何処かで聞き覚えのある声だと思ったら……やっぱりか。
「……どうも」
「うわぁ、なんかさっきの彼氏の時よりテンション低くない?」
「見てたんですか? ていうか、あの人は彼氏じゃないですけど」
詩織を私の家まで送ってくれた『相沢さん』。まさかこんなところで再会するなんて思ってもいなかった。
「ふーん、良い感じに見えたけど彼氏じゃないの? それよりまた会っちゃったね」
にっこりと私に笑顔を向ける。なんか……この笑顔苦手だ。
「そうですね。じゃあ、私はこれで」
そそくさと退散しようとしたが、彼は歩き始めた私の横に並び、会話を続けてきた。
「ねぇ、恋ちゃん。暇だったら今から飲みに行くの付き合ってよ」
私を誘うなんて変わった人。でもこの後用事があるわけでもないし……。
「えっと……いいですけど」
「え!? いいの?」
「別に断る理由もないですし。……もしかして冗談でした?」
「いや本気本気。まさか誘いに乗ってもらえるとは思わなかったから驚いただけ。じゃあ気が変わらないうちに行こうか」
私は相沢さんについて行く。驚くのも無理はない。彼の中の私のイメージは、きっと見た目の地味な感じから、誰の誘いにも乗らないお堅い真面目なイメージなのだと思う。
実際、私は不特定多数の飲み会には参加しない。それは気を使って話をするのが面倒だし、人が多いのが苦手だからだ。
稀に男性から個人的に飲みに誘われる事もある。そういう時は意外かもしれないが、誘いを受ける事が多い。
だけど、それは出会いを求めてとか何かを期待してるわけではなく、断る理由がないからというだけだ。もちろん食事の後はすぐ帰る。
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