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第二章 お魚マウント舞踏会
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「父上……? あのメイドの報告書には、なんて書いてありましたっけ?」
「イリスが……エルフの王子アルトに、見初められたと……」
「事実……だと……!?」
帝国舞踏会にリーンバルト王国の枠で参加した俺たちの目の前に広がっていたのは、受け入れがたい現実だった。
帝国の王子とダンスを踊る、見覚えしかない顔の女。
オレも父上も、何度も目をこすった。目を近くにあった水で洗いもした。
服がビショビショになった。それでも現実は変わらなかった。
しかし、最初から何かがおかしいとは思っていたんだ。
オレたちはヴァルターの臣下として帝国に来はしたが、本来舞踏会には参加できないはずだった。
参加できるのは殿下とそのパートナーのリリーだけだ。
それがリーンバルト王国に用意された枠であり、国力の表れだった。
だがしかし、何故か直前になってオレと父上にも招待状が来たのだ。
来たからには行くが、何故招待されたのかは正直わかっていなかった。
帝国の調査能力で、オレの有能さに目を付けたのではないかと思っていたというのに……!
「信じられんッ!! 何かがおかしい! 因果律が狂っている!?」
両手で頭を抱える父上。しかし、そこまで言うほどのことではないだろう。
「恐らくアルト王子はまだイリスの中身を知らないのでしょう。外見だけなら世にも稀な愛らしい少女ですからね。惑わされるアルト王子の気持ちもわかる」
「おまえの目も狂っているぞ! ハインリヒ!!」
失敬な。
しかし許して差し上げよう。父上は動揺のあまりおかしなことを口走っているだけなのだろうからな。
それに、人は誰しもオレのように有能ではないものだ。見る目もない。
それは仕方のないことだ。
だからこそ、世界がオレを求めるのだ!!
「考えようによってはこれは好機ですよ、父上」
「好機、だと……?」
「帝国の唯一の王子であるアルト殿下とオレの妹がくっつけば、いずれオレは帝国の王の義兄、父上は帝国の王の義父となるのですよ……!」
「な、なんと、そんなことが現実に!?」
「ククク、悪くない。悪くはないぞ……! でかしたイリス。愚妹だとばかり思っていたが、こうしてオレの役に立ってくれようとはな……!!」
「しかし、私たちはイリスを家から追い出してしまったのだぞ!?」
「なんとでも言い訳はできますよ、父上。実際、完全に放り出したわけではなく、パウラを付けてやったではありませんか? 報告書も上げさせている。リーンバルトの臣下である以上は国外追放の命令に従い、突き放さざるを得なかったが、内心オレたちはイリスを心配していたのです」
そういうことだと言い張ればいいのだ。
まさか、イリスが問題を起こすのを恐れて監視していたとは思うまい。
「イリスよ、今行くぞ!!」
オレに栄光の道を差し出すがよい!!
そうして近づいて行ったものの、何故かイリスに声をかけようとした直前、行く手を阻まれた。
エルフたちがオレを見下してくる。いや、見下ろしているだけか。
クソッ! エルフというのはこれだから嫌なんだ。背が高すぎていつも見上げねばならない!!
「名を名乗れ」
「お、オレはあなた様のパートナーの兄、ハインリヒ・フォン・フーデマンと申します、アルト殿下。お初にお目もじ仕りまして、恐悦至極に存じます」
「いつも偉そうなお兄様が敬語を喋っていますわ!」
黙れ、妹。
あと食べながら話すんじゃない。一旦食べるのをやめろ。
せっかくの美貌が台無しだぞ!
「なるほど……イリスの兄か。国外追放された妹を帝都に置き去りにした家族が、今更一体何の用だ?」
やはり、あまりよくは思われていないのか。
イリスが何か言ったのか? だが、それにしてはこちらにまったく興味を示さないな。
永遠に食べ続けている。ここに久方ぶりに会う兄がいるんだが??
「リーンバルト王国の命でしたから、致し方なく従っただけなのです。オレたち家族はいつでもイリスの身を案じていました。だからこそ、当家でもっとも優秀なメイドを一人、側につけて常に報告を上げさせていたのです」
「イリスが問題を起こすのを心配して――という意味ではなかったのか?」
「問題を起こしたイリスが困った状況に陥らないか心配で、心配でたまりませんでしたとも」
「へえ――問題を起こしたイリスに迷惑をかけられやしないか心配して、という意味かと思ったが、違ったのか」
アルト王子の言葉に違和感を覚えつつ、頭を下げる。
思わず顔がにやけてしまったのでな。
我が妹イリスよ、随分と上手くたらし込んだじゃないか。
お前のためにエルフの王子が今にもオレを殺さんばかりに睨みつけてくるぞ。
これは間違いなく、オレが覇王となるための助けとなるぞ!!
「イリスが……エルフの王子アルトに、見初められたと……」
「事実……だと……!?」
帝国舞踏会にリーンバルト王国の枠で参加した俺たちの目の前に広がっていたのは、受け入れがたい現実だった。
帝国の王子とダンスを踊る、見覚えしかない顔の女。
オレも父上も、何度も目をこすった。目を近くにあった水で洗いもした。
服がビショビショになった。それでも現実は変わらなかった。
しかし、最初から何かがおかしいとは思っていたんだ。
オレたちはヴァルターの臣下として帝国に来はしたが、本来舞踏会には参加できないはずだった。
参加できるのは殿下とそのパートナーのリリーだけだ。
それがリーンバルト王国に用意された枠であり、国力の表れだった。
だがしかし、何故か直前になってオレと父上にも招待状が来たのだ。
来たからには行くが、何故招待されたのかは正直わかっていなかった。
帝国の調査能力で、オレの有能さに目を付けたのではないかと思っていたというのに……!
「信じられんッ!! 何かがおかしい! 因果律が狂っている!?」
両手で頭を抱える父上。しかし、そこまで言うほどのことではないだろう。
「恐らくアルト王子はまだイリスの中身を知らないのでしょう。外見だけなら世にも稀な愛らしい少女ですからね。惑わされるアルト王子の気持ちもわかる」
「おまえの目も狂っているぞ! ハインリヒ!!」
失敬な。
しかし許して差し上げよう。父上は動揺のあまりおかしなことを口走っているだけなのだろうからな。
それに、人は誰しもオレのように有能ではないものだ。見る目もない。
それは仕方のないことだ。
だからこそ、世界がオレを求めるのだ!!
「考えようによってはこれは好機ですよ、父上」
「好機、だと……?」
「帝国の唯一の王子であるアルト殿下とオレの妹がくっつけば、いずれオレは帝国の王の義兄、父上は帝国の王の義父となるのですよ……!」
「な、なんと、そんなことが現実に!?」
「ククク、悪くない。悪くはないぞ……! でかしたイリス。愚妹だとばかり思っていたが、こうしてオレの役に立ってくれようとはな……!!」
「しかし、私たちはイリスを家から追い出してしまったのだぞ!?」
「なんとでも言い訳はできますよ、父上。実際、完全に放り出したわけではなく、パウラを付けてやったではありませんか? 報告書も上げさせている。リーンバルトの臣下である以上は国外追放の命令に従い、突き放さざるを得なかったが、内心オレたちはイリスを心配していたのです」
そういうことだと言い張ればいいのだ。
まさか、イリスが問題を起こすのを恐れて監視していたとは思うまい。
「イリスよ、今行くぞ!!」
オレに栄光の道を差し出すがよい!!
そうして近づいて行ったものの、何故かイリスに声をかけようとした直前、行く手を阻まれた。
エルフたちがオレを見下してくる。いや、見下ろしているだけか。
クソッ! エルフというのはこれだから嫌なんだ。背が高すぎていつも見上げねばならない!!
「名を名乗れ」
「お、オレはあなた様のパートナーの兄、ハインリヒ・フォン・フーデマンと申します、アルト殿下。お初にお目もじ仕りまして、恐悦至極に存じます」
「いつも偉そうなお兄様が敬語を喋っていますわ!」
黙れ、妹。
あと食べながら話すんじゃない。一旦食べるのをやめろ。
せっかくの美貌が台無しだぞ!
「なるほど……イリスの兄か。国外追放された妹を帝都に置き去りにした家族が、今更一体何の用だ?」
やはり、あまりよくは思われていないのか。
イリスが何か言ったのか? だが、それにしてはこちらにまったく興味を示さないな。
永遠に食べ続けている。ここに久方ぶりに会う兄がいるんだが??
「リーンバルト王国の命でしたから、致し方なく従っただけなのです。オレたち家族はいつでもイリスの身を案じていました。だからこそ、当家でもっとも優秀なメイドを一人、側につけて常に報告を上げさせていたのです」
「イリスが問題を起こすのを心配して――という意味ではなかったのか?」
「問題を起こしたイリスが困った状況に陥らないか心配で、心配でたまりませんでしたとも」
「へえ――問題を起こしたイリスに迷惑をかけられやしないか心配して、という意味かと思ったが、違ったのか」
アルト王子の言葉に違和感を覚えつつ、頭を下げる。
思わず顔がにやけてしまったのでな。
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