婚約破棄された悪役令嬢は追放されたので好きなものを食べますわ!

山梨ネコ

文字の大きさ
上 下
17 / 20
第二章 お魚マウント舞踏会

10

しおりを挟む
「父上……? あのメイドの報告書には、なんて書いてありましたっけ?」
「イリスが……エルフの王子アルトに、見初められたと……」
「事実……だと……!?」

 帝国舞踏会にリーンバルト王国の枠で参加した俺たちの目の前に広がっていたのは、受け入れがたい現実だった。
 帝国の王子とダンスを踊る、見覚えしかない顔の女。
 オレも父上も、何度も目をこすった。目を近くにあった水で洗いもした。
 服がビショビショになった。それでも現実は変わらなかった。

 しかし、最初から何かがおかしいとは思っていたんだ。
 オレたちはヴァルターの臣下として帝国に来はしたが、本来舞踏会には参加できないはずだった。
 参加できるのは殿下とそのパートナーのリリーだけだ。
 それがリーンバルト王国に用意された枠であり、国力の表れだった。

 だがしかし、何故か直前になってオレと父上にも招待状が来たのだ。
 来たからには行くが、何故招待されたのかは正直わかっていなかった。

 帝国の調査能力で、オレの有能さに目を付けたのではないかと思っていたというのに……!

「信じられんッ!! 何かがおかしい! 因果律が狂っている!?」

 両手で頭を抱える父上。しかし、そこまで言うほどのことではないだろう。

「恐らくアルト王子はまだイリスの中身を知らないのでしょう。外見だけなら世にも稀な愛らしい少女ですからね。惑わされるアルト王子の気持ちもわかる」
「おまえの目も狂っているぞ! ハインリヒ!!」

 失敬な。
 しかし許して差し上げよう。父上は動揺のあまりおかしなことを口走っているだけなのだろうからな。
 それに、人は誰しもオレのように有能ではないものだ。見る目もない。
 それは仕方のないことだ。

 だからこそ、世界がオレを求めるのだ!!

「考えようによってはこれは好機ですよ、父上」
「好機、だと……?」
「帝国の唯一の王子であるアルト殿下とオレの妹がくっつけば、いずれオレは帝国の王の義兄、父上は帝国の王の義父となるのですよ……!」
「な、なんと、そんなことが現実に!?」
「ククク、悪くない。悪くはないぞ……! でかしたイリス。愚妹だとばかり思っていたが、こうしてオレの役に立ってくれようとはな……!!」
「しかし、私たちはイリスを家から追い出してしまったのだぞ!?」
「なんとでも言い訳はできますよ、父上。実際、完全に放り出したわけではなく、パウラを付けてやったではありませんか? 報告書も上げさせている。リーンバルトの臣下である以上は国外追放の命令に従い、突き放さざるを得なかったが、内心オレたちはイリスを心配していたのです」

 そういうことだと言い張ればいいのだ。
 まさか、イリスが問題を起こすのを恐れて監視していたとは思うまい。

「イリスよ、今行くぞ!!」

 オレに栄光の道を差し出すがよい!!
 そうして近づいて行ったものの、何故かイリスに声をかけようとした直前、行く手を阻まれた。

 エルフたちがオレを見下してくる。いや、見下ろしているだけか。
 クソッ! エルフというのはこれだから嫌なんだ。背が高すぎていつも見上げねばならない!!

「名を名乗れ」
「お、オレはあなた様のパートナーの兄、ハインリヒ・フォン・フーデマンと申します、アルト殿下。お初にお目もじ仕りまして、恐悦至極に存じます」
「いつも偉そうなお兄様が敬語を喋っていますわ!」

 黙れ、妹。
 あと食べながら話すんじゃない。一旦食べるのをやめろ。
 せっかくの美貌が台無しだぞ!

「なるほど……イリスの兄か。国外追放された妹を帝都に置き去りにした家族が、今更一体何の用だ?」

 やはり、あまりよくは思われていないのか。
 イリスが何か言ったのか? だが、それにしてはこちらにまったく興味を示さないな。
 永遠に食べ続けている。ここに久方ぶりに会う兄がいるんだが??

「リーンバルト王国の命でしたから、致し方なく従っただけなのです。オレたち家族はいつでもイリスの身を案じていました。だからこそ、当家でもっとも優秀なメイドを一人、側につけて常に報告を上げさせていたのです」
「イリスが問題を起こすのを心配して――という意味ではなかったのか?」
「問題を起こしたイリスが困った状況に陥らないか心配で、心配でたまりませんでしたとも」
「へえ――問題を起こしたイリスに迷惑をかけられやしないか心配して、という意味かと思ったが、違ったのか」

 アルト王子の言葉に違和感を覚えつつ、頭を下げる。
 思わず顔がにやけてしまったのでな。

 我が妹イリスよ、随分と上手くたらし込んだじゃないか。
 お前のためにエルフの王子が今にもオレを殺さんばかりに睨みつけてくるぞ。

 これは間違いなく、オレが覇王となるための助けとなるぞ!!
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜

白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」 はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。 ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。 いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。 さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか? *作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。 *小説家になろう様でも投稿しております。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

処理中です...