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第二章 お魚マウント舞踏会
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「イリス、おまえにこれを贈る」
「ありがとうございますわ、アルト様」
そう言ってアルトが差し出してきた箱を受け取って、開くとそこには事前に見せていただいたデザイン案の通りのドレスが入っていました。
他にもセットらしき靴や装飾品もありますわ。
「とても軽い布ですわね。知らない肌触りですわ」
「ああ、木綿の一種だ。どうだろう。おまえが気に入るといいんだが。もし気になる部分があるようなら言ってくれ。すぐに直させる」
そこまでわたしを気づかってくれるだなんて、相当お米のおかずのレパートリーを増やしたいに違いないですわ。
気持ちはとってもわかりますわ。飽食の国の記憶を持って生まれ変わっていますもの。
毎日同じ料理なんて飽き飽きしますわ!
「エンパイア・スタイルですわね」
「エンパイア?」
「ふむ。帝国、という意味ですわ」
「それはいいな。帝国風のドレスとして広めればみんな倣うようになるだろう。コルセットなど駆逐してくれる」
何故そこまでコルセットに対して憎悪を燃やしているのかは知りませんが、好都合なので全力で乗っかりますわ。
つい口にしてしまったのは前世の意味合いでの帝国です。違和感がないので放置でいいですわね。
ヨーロッパの帝政時代のドレスって、こんな感じのデザインだった気がしますわ。
当時のお料理がどんな感じか気になって調べた時に、ちょいと囓りましたの。
広げてみたドレスはうっすらとラメがかかったようにきらきらと輝く不思議な布地で作られた、ハイウエストのシンプルなドレスでした。
そうそう、わたしもリーンバルトでこういう感じのドレスを流行らせたかったのですわ。
失敗してしまいましたけれど。
こういう形のドレスを作るにはある程度柔らかな布が必要なのですけれど、うちの国には代用できるような布が見つからなかったのですわ。
「わたし、この布地が好きですわ。肌触りがとってもいいですわ。全部の服をこれで作りたいですわ」
「それなら余った布地を贈ってやろう」
「余っているなら遠慮なくありがたくいただきますわ!」
先日採寸を受けたので当然ではありますけれど、サイズも合っているようです。
「あれ……世界樹の……」
「アーロ殿、言っても詮ないことですよ」
「お待ちくださいお二方。あのドレスの手入れをするのは私なのですが??」
「大丈夫ですよ、パウラ殿。世界樹素材は丈夫ですので普通に洗っても早々毛玉にはなりません」
「うう……っ、お嬢様が世界樹の木綿のドレスを贈られて舞踏会に出席すると報告書を提出したところで真に受けられず一笑に付される未来が見えます……!」
「本当のことなのにおかしいですねえ?」
「おかしいのはそのような事態が起こっている現実の方だから仕方がないですな。同情に値する」
アーロとヴェリとパウラ、相変わらず仲良しですわね。
遠くで和気藹々と喋っていますわ。仲良きことは美しきかなですわ!
「きっとおまえに似合う、イリス」
「ありがとうございます、アルト様。さっそく着替えて来ますわ!」
「私の力の及ぶ限りお嬢様を美しく仕立て上げてみせます」
パウラの顔がマジですわ。ゴルゴですわ。
久方ぶりの舞踏会の準備だからか、自分が出席するわけでもないのに数日前からパウラの熱の入りようが半端ないんですの。
パウラと共に奥に引っ込み、わたしはパウラの手にすべてを委ねます。
流石に生まれてから十六年は公爵令嬢をやっておりましたから、世話をされるのには慣れていますわ。
「パウラ、そんなに肩肘張らずとも構わないとアルト様も言ってくれたじゃないの?」
「できるだけ美しく豪奢に着飾った方が心地よいマウントが取れるのでは?」
「絶世の美少女になってみせますわ!!」
パウラがいいことを言いましたわ。そうでしたわ。
わたし、帝国全土の料理人が集うという食事にばかり気を取られて、忘れていましたわ! 食事に比べれば些末なことですもの。
「ですがお料理を食べる時に邪魔にならないよう、髪の毛が垂れ下がらないようにピンで留めるのは忘れないでくださいませ」
「本当に何故このようなお嬢様を……世の中狂っています!!」
「どうしてわたし急にディスられましたの??」
「……ですが、私はお嬢様のような方にお仕えできてよかったと思っていますよ」
「突然のデレ!?」
「お嬢様の考える料理が美味しいですし、なんと言っても料理が美味しいですし、美味しいですし」
「料理だけが理由ッッ!?」
パウラの掌の上で転がされているうちに、準備が終わったようですわ。
ドレスを身につけているのが信じられないほど身体が軽いですわ。
これならいくらでもご飯が食べられますわッ!!
「ありがとうございますわ、アルト様」
そう言ってアルトが差し出してきた箱を受け取って、開くとそこには事前に見せていただいたデザイン案の通りのドレスが入っていました。
他にもセットらしき靴や装飾品もありますわ。
「とても軽い布ですわね。知らない肌触りですわ」
「ああ、木綿の一種だ。どうだろう。おまえが気に入るといいんだが。もし気になる部分があるようなら言ってくれ。すぐに直させる」
そこまでわたしを気づかってくれるだなんて、相当お米のおかずのレパートリーを増やしたいに違いないですわ。
気持ちはとってもわかりますわ。飽食の国の記憶を持って生まれ変わっていますもの。
毎日同じ料理なんて飽き飽きしますわ!
「エンパイア・スタイルですわね」
「エンパイア?」
「ふむ。帝国、という意味ですわ」
「それはいいな。帝国風のドレスとして広めればみんな倣うようになるだろう。コルセットなど駆逐してくれる」
何故そこまでコルセットに対して憎悪を燃やしているのかは知りませんが、好都合なので全力で乗っかりますわ。
つい口にしてしまったのは前世の意味合いでの帝国です。違和感がないので放置でいいですわね。
ヨーロッパの帝政時代のドレスって、こんな感じのデザインだった気がしますわ。
当時のお料理がどんな感じか気になって調べた時に、ちょいと囓りましたの。
広げてみたドレスはうっすらとラメがかかったようにきらきらと輝く不思議な布地で作られた、ハイウエストのシンプルなドレスでした。
そうそう、わたしもリーンバルトでこういう感じのドレスを流行らせたかったのですわ。
失敗してしまいましたけれど。
こういう形のドレスを作るにはある程度柔らかな布が必要なのですけれど、うちの国には代用できるような布が見つからなかったのですわ。
「わたし、この布地が好きですわ。肌触りがとってもいいですわ。全部の服をこれで作りたいですわ」
「それなら余った布地を贈ってやろう」
「余っているなら遠慮なくありがたくいただきますわ!」
先日採寸を受けたので当然ではありますけれど、サイズも合っているようです。
「あれ……世界樹の……」
「アーロ殿、言っても詮ないことですよ」
「お待ちくださいお二方。あのドレスの手入れをするのは私なのですが??」
「大丈夫ですよ、パウラ殿。世界樹素材は丈夫ですので普通に洗っても早々毛玉にはなりません」
「うう……っ、お嬢様が世界樹の木綿のドレスを贈られて舞踏会に出席すると報告書を提出したところで真に受けられず一笑に付される未来が見えます……!」
「本当のことなのにおかしいですねえ?」
「おかしいのはそのような事態が起こっている現実の方だから仕方がないですな。同情に値する」
アーロとヴェリとパウラ、相変わらず仲良しですわね。
遠くで和気藹々と喋っていますわ。仲良きことは美しきかなですわ!
「きっとおまえに似合う、イリス」
「ありがとうございます、アルト様。さっそく着替えて来ますわ!」
「私の力の及ぶ限りお嬢様を美しく仕立て上げてみせます」
パウラの顔がマジですわ。ゴルゴですわ。
久方ぶりの舞踏会の準備だからか、自分が出席するわけでもないのに数日前からパウラの熱の入りようが半端ないんですの。
パウラと共に奥に引っ込み、わたしはパウラの手にすべてを委ねます。
流石に生まれてから十六年は公爵令嬢をやっておりましたから、世話をされるのには慣れていますわ。
「パウラ、そんなに肩肘張らずとも構わないとアルト様も言ってくれたじゃないの?」
「できるだけ美しく豪奢に着飾った方が心地よいマウントが取れるのでは?」
「絶世の美少女になってみせますわ!!」
パウラがいいことを言いましたわ。そうでしたわ。
わたし、帝国全土の料理人が集うという食事にばかり気を取られて、忘れていましたわ! 食事に比べれば些末なことですもの。
「ですがお料理を食べる時に邪魔にならないよう、髪の毛が垂れ下がらないようにピンで留めるのは忘れないでくださいませ」
「本当に何故このようなお嬢様を……世の中狂っています!!」
「どうしてわたし急にディスられましたの??」
「……ですが、私はお嬢様のような方にお仕えできてよかったと思っていますよ」
「突然のデレ!?」
「お嬢様の考える料理が美味しいですし、なんと言っても料理が美味しいですし、美味しいですし」
「料理だけが理由ッッ!?」
パウラの掌の上で転がされているうちに、準備が終わったようですわ。
ドレスを身につけているのが信じられないほど身体が軽いですわ。
これならいくらでもご飯が食べられますわッ!!
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