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第二章 お魚マウント舞踏会

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「具体的に、どうして舞踏会が嫌なんだ? 俺はおまえが喜んで参加してくれるものだと思っていたから意外なんだが。大陸中の様々な料理が出されるぞ?」
「それは大変魅力的ですわ。だけど、だからこそ、ろくに食べられないのが辛くてたまらないんですの……」
「ん? 食えばいいじゃないか。誰かに止められるのか? そいつを出禁にしてやろうか?」
「なんですぐに人を出禁にしようとうするんですの? 食べられないのはコルセットのせいですわ」
「コルセット?」
「そうですわ。正式な集まりでは正装を求められるでしょう? そうなればコルセットは必需品ですし、ですがコルセットなんぞしていたら胸が苦しくてお腹も気持ち悪くて肋骨は歪むし内臓はどこかへ行くし寿命が縮まるばかりなんですの」
「今日をもって帝国中のコルセットの廃止を宣言するッッ!!」
「それは面白い冗談ですわね」

 王子でしかないアルトに女性の服装を制限する権限なんてないと思いますが。
 恐らくそのあたりは王后陛下の権限でしょう。

「もしも本当にコルセットを身につけなくていいのなら、そしてドレスや装飾品を用立てるお金さえあれば、アルト様のパートナーになって舞踏会に出席できたらどれほど楽しいかしらと思いますわ」
「そ、そうか? 楽しいか?」
「ええ! だってアルト様のパートナーになったら、わたしを婚約破棄して追放したリーンバルトの方々にものすごいマウントが取れますわ!!」

 わたしが拳を握りしめると、場の空気が変わりましたわ。
 でもこんな感じの空気には慣れっこですわ!

「な、なんという無礼極まりない本音を真正直に口にするのです……!? この女、正気ですかッ!?」
「流石のアルト様もこれにはドン引きするのでは……? 権力に媚びへつらう女はアルト様がもっとも嫌う存在……」
「お嬢様に悪気はないのです。どうか命だけはお助けください」

 皆様散々な言いようですが、これが本心だから仕方がないんですわ!

「アルト様、こんなわたしが嫌でしたら別の方を誘ってくださいませ。わたし、舞踏会で元婚約者と遭遇したらドヤ顔をしない自信がありませんわ」
「ドヤ、顔……?」
「うちのお嬢様は得意満面の表情を指してそのような呼び方をしております、殿下」

 パウラの注釈に、アルトはこくりと頷きましたわ。

「参考までに、どんな顔か見せてもらえるか?」
「こんな顔ですわ。ふふん」
「かわいい」
「殿下ァッッ!?」

 アルトが何か言ったけれど、アーロが間髪入れずに被せてきたからよく聞こえませんでしたわ。

「イリス、俺がコルセットを着けなくてもいいたくさん食べられるデザインのドレスを用意してやる。金の心配は一切無用だ。だから俺のパートナーにならないか? 渾身のドヤ顔をさせてやる」
「パートナーになりますわー!!」
「殿下アアアアアアッッ!!」

 アルトを呼びながら床に崩れ落ちるアーロ。
 いつの間にか椅子からずり落ちて震えながら机の脚と抱き合うヴェリ。
 アルトの周りの方々って変わっていますわね。類友ですの?

 アルトはどんな顔をしているのだろうと見上げてみたら、よく見ればエルフの中でもとびきり美しい顔をしていることに何故だかどうして気づかされましたわ。
 白樺のように白い頬をほんのりと桜色に染め、緑の瞳を不思議な熱で潤ませています。

 わたしがパートナーになったことがよっぽど嬉しいらしいのが伝わってきますわ。
 もしかしたら友達が相当少ないのかもしれませんわね。
 出会い方を思い出してみれば納得ですわ。あんなことをあちこちでしていたらできる友達もできませんわ。

 でも、悪い方ではないんですけどね。
 アルトはご飯をとっても美味しそうに食べるんですもの。
 ご飯を美味しく食べる方に悪い方はいませんわ。

 ちなみにわたしも友達はいませんわ!
 パウラは友達というには主従関係が強すぎますし、故国の方々は独特の価値基準をお持ちだから中々お近づきになれませんの。わたし目線。

 もしかして……この方はわたしの初めての友達なのではなくて!?

「おまえは何も気にせず気楽に過ごしてくれればいい」
「はい! わかりましたわ!」

 美味しいお料理を食べて次なるご飯のおかずのインスピレーションを得るためと、あとはリーンバルト王国の方々にマウントを取るために舞踏会に参加するつもりですけれど。

 初めての友人のあなたのために、いつもよりちょっぴりだけ頑張りますわ!

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