6 / 20
第一章 ハッピー婚約破棄ライス
6
しおりを挟む
「いい匂いですわ~! ふっくらつやつやですわ~!」
「へえ、美味しそうに見えますね」
「パウラったら! 見えるだけじゃなくて美味しいに決まっていますわ! そうでしょう、エルフの方々!!」
「はい。お嬢さんのおっしゃる通りです」
言いながら、ヴェリというエルフがお米をかき混ぜましたわ。
ふむふむ。やはりお米のわかるエルフですわ。お米の扱いを心得ていますわね。
「まずはお嬢さん方に」
「ありがとうございますわ!」
「両手で受け取れよ。行儀が悪いな」
ヴェリというエルフがよそってくれたご飯を右手で受け取ったら憎まれ愚痴を叩くエルフの王子様。無視しますわ。
左手は痛くてピクリとも動かせないんですの。誰のせいだと思っていますの。
「何が赤子が泣いても蓋取るな、だ。王子である俺にぶつかるほどのことか」
「それほどのことですわ。何があっても蓋を取ってはならないという戒めですわ」
「へえ~? それじゃスタンピードが起きても蓋は取らないんだな?」
「取りませんわよ。絶対に」
王子様を見すえて断固たる口調で言うと、王子様が目に見えて動揺しましたわ。
この勝負、わたしの勝ちということでよろしくて?
「いただきまぁす! むふ~! 柔らかいですわ~! 美味しいですわ~!」
「おいっ! 俺もまだ食べていないのに先に食うやつがあるか!」
「殿下に対してなんと無礼な!」
「いいのですよ、アルト様、アーロ殿。彼女は毒味役です」
「そんなつもりで先についでくださったんですの!? まあいいですけど」
「いいのかよ!?」
「できたてホカホカが一番美味しいですもの」
王子様とアーロというらしい騎士装束のエルフがごくりと生唾を飲みましたわ。
お米が食べたいというこの方々の気持ちは本物のよう。
でしたら、わたしが大人になって差し上げましょう!
「苦しゅうないですわ。こうなったらみんなで美味しくお米を食べましょう!」
「なんでそんなに偉そうなんだよ、おまえ」
文句を言いながらも、アルトもアーロも我が家の炊きたてご飯を受け取りましたわ。
「なんだか……甘いですね、お嬢様」
「お米は甘いものですが、これは特にいいお米ですわ。とっても美味しいお米ですわ!」
パウラとお米の甘みを噛みしめていると、アルトがどの立場からか知らないけれどふんぞりかえりましたわ。
「当然だ。これはエルフの大森林で育てられた米なんだからな!」
「長命種のエルフが長年かけて品種改良したということですわね。それは美味しいに決まっていますわ」
「人間にしてはよくわかっているじゃないか」
そう言ってがっつく姿は親しみが持てなくもありません。
お米を求める気持ち、それはわかりますわ。でも。
「王子様ともあろう方がこんな場所まで押し入ってきて、王城では炊きたてのお米が食べられないんですの?」
「父上はエルフには珍しい肉食主義者でな。ライスラは草だと言って断固として食わないんだ。それで王城にはライスラが調理できる者がいなくてな」
「人生の半分損していますわ~!!」
「だよなあ!? 俺はライスラがないとダメだ。だから大森林に逃げていたんだが、王子なんだから帝都にいろと言われて、仕方なく戻ってきたんだ……」
しゅん、と肩を落とすアルト。なんだか同情してしまいますわ。
「わたしも女たるもの痩せていなければ、と強要されて、満足に食事も摂らせてもらえていなかったので、少し気持ちはわかりますわ……」
「たかだか数十年しか生きない人間ごときに同情されるとは、俺も焼きが回ったか」
「カーッ! 慰めてあげているのに小憎らしい! 見た目は同年代くらいじゃありませんの! そのたかだか数十年しか生きない人間ごときと大恋愛するよう呪ってやりますわ!」
「恐ろしい呪いをかけるのはやめろ!」
「まあ、呪いはさておき――たくさん食べていくといいですわよ。やっぱり、ご飯はみんなで食べた方が美味しいですもの」
いつの間にか器が空になっていたアルト。
わたしの顔を見て固まっていたアルトの手に、そっとしゃもじ代わりの木のへらを握らせてあげましたわ。
食べたいだけ、好きなだけ自分でよそっていいのですわよ、と微笑んでみせると、サッと目を逸らされましたわ。でも、嫌な気分にはなりません。
自らお米を継ぎ足す横顔が赤いんですもの。
たくさん食べるのは恥ずかしいことだとかいう風潮って、リーンバルト王国以外にもあるみたいですわね。
「心ゆくまで食べてくださって構いませんのよ。わたしたちは同じ釜の飯を食べたむじなですわっ!」
「お嬢様、色々と混ざっています」
パウラが控えめに突っ込みを入れてきますわ。
エルフがいるから猫を被っているようですわね。
そういえばこの方々、エルフでしたわね。
エルフの一言があればわたしたちの首なんてひとっ飛びですわね。
黒髭危機一髪ならぬ、令嬢の首危機一髪ですわ。
そうなる前に、わたしもお腹いっぱいご飯を食べておかないと損ですわ。
「なあ」
「むぐむぐ、何ですの?」
「……また、食べに来てもいいか?」
「お金を払うなら構いませんわ」
「お嬢様ッ」
パウラが控えめにピアニッシモをかけて突っ込みを入れてくるけれど、アルトは特に気にした様子はありませんわ。
「わかった。金があればいいんだな?」
「ええ」
首が飛ぶ様子がないですわ。きっとお米が美味しかったからですわね。
こうなったら、本当に料理屋を営むのも悪くはないかもしれないですわ!
「へえ、美味しそうに見えますね」
「パウラったら! 見えるだけじゃなくて美味しいに決まっていますわ! そうでしょう、エルフの方々!!」
「はい。お嬢さんのおっしゃる通りです」
言いながら、ヴェリというエルフがお米をかき混ぜましたわ。
ふむふむ。やはりお米のわかるエルフですわ。お米の扱いを心得ていますわね。
「まずはお嬢さん方に」
「ありがとうございますわ!」
「両手で受け取れよ。行儀が悪いな」
ヴェリというエルフがよそってくれたご飯を右手で受け取ったら憎まれ愚痴を叩くエルフの王子様。無視しますわ。
左手は痛くてピクリとも動かせないんですの。誰のせいだと思っていますの。
「何が赤子が泣いても蓋取るな、だ。王子である俺にぶつかるほどのことか」
「それほどのことですわ。何があっても蓋を取ってはならないという戒めですわ」
「へえ~? それじゃスタンピードが起きても蓋は取らないんだな?」
「取りませんわよ。絶対に」
王子様を見すえて断固たる口調で言うと、王子様が目に見えて動揺しましたわ。
この勝負、わたしの勝ちということでよろしくて?
「いただきまぁす! むふ~! 柔らかいですわ~! 美味しいですわ~!」
「おいっ! 俺もまだ食べていないのに先に食うやつがあるか!」
「殿下に対してなんと無礼な!」
「いいのですよ、アルト様、アーロ殿。彼女は毒味役です」
「そんなつもりで先についでくださったんですの!? まあいいですけど」
「いいのかよ!?」
「できたてホカホカが一番美味しいですもの」
王子様とアーロというらしい騎士装束のエルフがごくりと生唾を飲みましたわ。
お米が食べたいというこの方々の気持ちは本物のよう。
でしたら、わたしが大人になって差し上げましょう!
「苦しゅうないですわ。こうなったらみんなで美味しくお米を食べましょう!」
「なんでそんなに偉そうなんだよ、おまえ」
文句を言いながらも、アルトもアーロも我が家の炊きたてご飯を受け取りましたわ。
「なんだか……甘いですね、お嬢様」
「お米は甘いものですが、これは特にいいお米ですわ。とっても美味しいお米ですわ!」
パウラとお米の甘みを噛みしめていると、アルトがどの立場からか知らないけれどふんぞりかえりましたわ。
「当然だ。これはエルフの大森林で育てられた米なんだからな!」
「長命種のエルフが長年かけて品種改良したということですわね。それは美味しいに決まっていますわ」
「人間にしてはよくわかっているじゃないか」
そう言ってがっつく姿は親しみが持てなくもありません。
お米を求める気持ち、それはわかりますわ。でも。
「王子様ともあろう方がこんな場所まで押し入ってきて、王城では炊きたてのお米が食べられないんですの?」
「父上はエルフには珍しい肉食主義者でな。ライスラは草だと言って断固として食わないんだ。それで王城にはライスラが調理できる者がいなくてな」
「人生の半分損していますわ~!!」
「だよなあ!? 俺はライスラがないとダメだ。だから大森林に逃げていたんだが、王子なんだから帝都にいろと言われて、仕方なく戻ってきたんだ……」
しゅん、と肩を落とすアルト。なんだか同情してしまいますわ。
「わたしも女たるもの痩せていなければ、と強要されて、満足に食事も摂らせてもらえていなかったので、少し気持ちはわかりますわ……」
「たかだか数十年しか生きない人間ごときに同情されるとは、俺も焼きが回ったか」
「カーッ! 慰めてあげているのに小憎らしい! 見た目は同年代くらいじゃありませんの! そのたかだか数十年しか生きない人間ごときと大恋愛するよう呪ってやりますわ!」
「恐ろしい呪いをかけるのはやめろ!」
「まあ、呪いはさておき――たくさん食べていくといいですわよ。やっぱり、ご飯はみんなで食べた方が美味しいですもの」
いつの間にか器が空になっていたアルト。
わたしの顔を見て固まっていたアルトの手に、そっとしゃもじ代わりの木のへらを握らせてあげましたわ。
食べたいだけ、好きなだけ自分でよそっていいのですわよ、と微笑んでみせると、サッと目を逸らされましたわ。でも、嫌な気分にはなりません。
自らお米を継ぎ足す横顔が赤いんですもの。
たくさん食べるのは恥ずかしいことだとかいう風潮って、リーンバルト王国以外にもあるみたいですわね。
「心ゆくまで食べてくださって構いませんのよ。わたしたちは同じ釜の飯を食べたむじなですわっ!」
「お嬢様、色々と混ざっています」
パウラが控えめに突っ込みを入れてきますわ。
エルフがいるから猫を被っているようですわね。
そういえばこの方々、エルフでしたわね。
エルフの一言があればわたしたちの首なんてひとっ飛びですわね。
黒髭危機一髪ならぬ、令嬢の首危機一髪ですわ。
そうなる前に、わたしもお腹いっぱいご飯を食べておかないと損ですわ。
「なあ」
「むぐむぐ、何ですの?」
「……また、食べに来てもいいか?」
「お金を払うなら構いませんわ」
「お嬢様ッ」
パウラが控えめにピアニッシモをかけて突っ込みを入れてくるけれど、アルトは特に気にした様子はありませんわ。
「わかった。金があればいいんだな?」
「ええ」
首が飛ぶ様子がないですわ。きっとお米が美味しかったからですわね。
こうなったら、本当に料理屋を営むのも悪くはないかもしれないですわ!
67
お気に入りに追加
1,590
あなたにおすすめの小説
モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?
狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?!
悪役令嬢だったらどうしよう〜!!
……あっ、ただのモブですか。
いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。
じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら
乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
婚約破棄にも寝過ごした
シアノ
恋愛
悪役令嬢なんて面倒くさい。
とにかくひたすら寝ていたい。
三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。
そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。
それって──最高じゃない?
ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる