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1巻
1-3
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また前世と同じように理不尽に命を奪われようとしているのか。そう思うと、ステファンに対して激しい怒りが湧いてくる。けれど霞む視界に映る人はあまりにも美しく、憎みきれない。
滝のように流れる銀色の髪、夜色の瞳、赤い唇と白い肌。それらを見ていると、怒りが嘘のように冷めていく。嫌われているのが辛い。こんなに悲しい目に遭うくらいなら、全てをここで終わらせて次の人生に賭けてみたほうが、幸せになれるかもしれない。
悔しかった。死にたくないのに、死はエリーゼの気持ちなどおかまいなしにやってくる。
(――どうせ死ぬのなら、せめて少しでも反撃を)
前世の最期を思い出し、エリーゼは薄く笑った。
「お前にはわからない……父上に愛されているお前に、僕の気持ちがわかるものか!」
「わか、ら、ない」
「そうだ、お前になんかわからない。誰にも似ていない、僕の気持ちなんて! 兄上にだってわかるものか……ッ」
まったく似ていないということはない。エリーゼを憎らしげに見ている時のその表情は、機嫌が悪い時の父とそっくりだ。
だが、そんな優しい本音ではなく、挑発的な言葉がエリーゼの口から滑り落ちた。
「ばか、みたい」
「なんだと……!?」
目の前の美青年が、白い頬を真っ赤に染める。まだ美少年と言ってもいいかもしれない。
どこかあどけなさが残って見えるのは、白い肌に対して赤すぎる唇のせいだろうか。
「なん、でそんなに――お父様が、好き、なの?」
意味わかんない、とエリーゼは呟いた。前世で死んだ時、彼女は今のステファンより年下だった。だがその頃には、精神的な親離れはそれなりに済んでいた。
彼を嘲笑うように、エリーゼは口の端を歪める。ステファンの怒りがさらに激しくなるのを覚悟していたのに、なぜか彼の腕から急に力が抜けた。
支えを失い、エリーゼはその場にぐにゃりと崩れ落ちた。咳込み、ぐったりとしながら兄を見上げると、彼は目を見開いてエリーゼを見下ろしている。
「お前、父上のこと、好きじゃないのか……?」
信じられない、とその顔に書かれている。だが同時に、自分の常識を初めて疑うかのような、不安げな表情にも見えた。
エリーゼは唖然として彼を見つめ返した。
「それは、本気で言っているのか?」
「嫌いじゃ、ないですよ? でも、好きではありません」
あの父を、どうしてそこまで慕うのだろうか。美しいことは、ステファンにとっても正義なのだろうか。
「父上は、素晴らしい、方じゃないか」
「……どこを見てそう思ってるんですか? ステファンお兄様」
これまでずっと不思議に思いながらも、訊ねる機会はなかった。
答えを待つエリーゼに、ステファンは震える指を伸ばした。冷たくなった指の腹で、どういうつもりか彼女の頬に触れる。思わず鳥肌を立てるエリーゼを見て、彼は目を見開いた。
何に驚いたのだろう。エリーゼにはわからない。そして彼女の問いに、ステファンが答えることは結局なかった。
あれから改めて髪の毛をいじくり回され、身なりを整えられると、そのまま屋敷の外に連れ出された。押し込まれた辻馬車に、エイブリーとステファンも同乗する。
会話一つない、気まずい空気。半刻後、馬車を降りると、目の前には視界に収まりきらないほどの大きな建造物――王宮があった。
門を守る衛兵たちは、エイブリーの姿を見ると敬礼した。エリーゼは腹部を押さえて呻く。
「……お兄様、胃が痛いです」
「吐くなら反吐ではなくせめて血にしろ。血なら不愉快さより哀れを誘う」
エイブリーが冷たく言い放った。エリーゼは顔に浮いた冷や汗をハンカチで拭う。深呼吸をして、胃の痛みを忘れるよう努めた。
壮麗な門をくぐり、王宮の中に入って奥へ進む。やがて衛兵の立ち並ぶ、赤い絨毯の敷かれた廊下に入った。
突きあたりの扉が開かれる。その部屋は天井が高くがらんとしていた。奥には壇が設えられており、壇上の椅子には人が座っている。見上げようとしたエリーゼの頭を、横に立っていたエイブリーが無理やり伏せさせた。
すると、壇上から声が降ってくる。
「……本当に、アイリスにそっくりなのだな」
「は、陛下。我が妹のエリーゼは、容姿だけなら母に瓜二つです」
「面を上げよ、エリーゼ」
まだ若干肌寒さが残る季節なのに、緊張のあまりエリーゼの顔には汗がびっしり浮いていた。
「おい、エリーゼ」
そう小声で言った兄の声は、すこぶる低い。エリーゼは、ブリキの人形のようなぎこちない動きで顔を上げた。
全校生徒を集めた集会で、何かスピーチをしろと壇上に立たされた時みたいな気分だ。
実際は、今エリーゼの周りには、壇上のおじさんを合わせて数人しかいない。
優しそうな白髭のおじさん、兄たち、近衛騎士数人。それだけ。
なのに、今まさに胃が溶けて消えていっているような気がする。
「精霊の加護は持たないと聞いたが」
おじさんの質問に、エリーゼは口を引き結ぶ。口を開けば吐きそうだった。
「申し訳ございません、陛下。礼儀もなっていない小娘でして」
「よいよい。アイリスもまた、自分の世界を持つ陽気な娘であったと聞いている。彼女に似ているのなら、王家にとってこれほど喜ばしいことはない」
おじさん、もとい王の言葉を受け、エイブリーは一瞬剣呑な空気をまとった。後ろにいるステファンも同じだろう。エリーゼの背中に突き刺さる視線が痛い。母に似ていることは、エリーゼにとって全く嬉しいことではない。けれどそのために父に可愛がられているので、兄たちにとっては羨ましいことなのだろう。
「彼女の血が濃いのは、ひと目見てわかること。エリーゼに精霊の加護がなくとも、その子や孫に、精霊が恩恵をくださる確率は高い」
「おっしゃるとおりでございます、陛下。我が妹は教養や品こそ備わってはおりませんが、血筋だけは王家に悪影響を与えるものではございません。以前陛下よりお話のあった褒美の件について、まだ有効なのでしたらぜひ、私の妹を」
「しかし、よいのかね? ドラゴンを倒したそなたの働きに報いるのに、わしは爵位を用意しておるのだが」
王と兄がエリーゼについて何を話しているのかはもちろん気になる。だがそれよりも、エイブリーがドラゴンを倒したとは、どういうことなのか。彼との仲が険悪でなければ、まとわりついて詳しく聞き出したいくらいだ。まさにリアルファンタジー。ときめきのあまり、エリーゼの胃が多少軽くなった気がした。すると、会話の内容がよく耳に入ってくる。
「準男爵の息子という今の身分でも、王家にお仕えすることはできます。それよりも、王家の役に立つ人間がハイワーズ家にはまだいるのだということを、ご覧いただきたいのです」
それに父より上の爵位など、と小さな声でつけ加えたのが、すぐ側にいたエリーゼには聞こえた。つまり、エイブリーは父の株を上げたいのだ。爵位は何をもらうにしても、最低の爵位である父と同じかそれより上になってしまう。父至上主義のエイブリーには耐えがたい話だろう。
王は、うーむと唸ってから頷いた。
「よいだろう。エイブリー、そなたの望みを聞き容れよう」
「は、ありがたき幸せに存じます」
「わしとしては、な……精霊に愛されし血はできるだけ、王家の血筋に広く、多く、残るようにしたいのだ。わかるか? エイブリー」
「承知しております」
「そなたの大事な妹のことだ……快諾しろとは言わぬ。だが、理解してくれるだろうか……?」
「無論でございます。不肖の妹も、王家の御為ならば、身を捧げる覚悟でございます」
不穏な言葉を聞き、エリーゼは目を瞬かせた。
勝手に気持ちを代弁されて狼狽する彼女をよそに、王とエイブリーの話は続いていく。
「そうか、ならばよいのだが……何も無理強いするわけではない。訪れる男たちを己の目で選び、好きな相手と添い遂げればよいだけのこと。嫌なら拒んでもよいのだから」
小太りおじさんが、急にサンタクロースから痴漢に変身したように見えてエリーゼは息を呑んだ。丸っこい小さな目が、怪しい光を放っている。
「エイブリー、妹の働きはお前の評価にも繋がる。心しておくように」
エイブリーはひざまずいて壇上の王に頭を下げた。
だが、エリーゼはただ突っ立っていることしかできなかった。
「では、エイブリー。兄であるお前自ら、エリーゼを後宮へ送るがいい。ステファン、お前には話がある。ここに残るのだ」
その王の言葉で、さすがにエリーゼも状況を理解した。ここで逃げればハイワーズ家に泥を塗ることになり、場合によってはアールジス王国を敵に回すことになる。エリーゼは頭が真っ白になった。
前世で通っていた高校は、志望校ではなかった。他に行きたい公立高校があった。中学の友達のほとんどが、そこへ行くと聞いていたからだ。ただ、成績が足りていなかったので、親や学校の先生は反対した。成績は悪いわけではなかったが、志望校のレベルはさらに高かった。
必死に勉強をすると言って、大人たちを説得した。事実、頑張って勉強した。願書もそこへ出したつもりだった。けれど家に届いた受験票は、親や先生たちが薦めていた高校のものだった。願書の封筒の中身を、母が勝手にすり替えていたのだ。
「不満か? エリーゼ」
後宮へ向かいながらエリーゼが前世のことを思い出していると、エイブリーがそう問いかけてきた。
「どうして……」
何の断りもなく、と言いかけてエリーゼは口をつぐんだ。
そういえば、貴族の女性というのはこうして親兄弟の策略の道具にされるのが、前世の世界では歴史の常だった。特権階級の野心というのは、世界が違っても変わらないようだ。
エリーゼは一応貴族だが、庶民の子たちに交じってお小遣い稼ぎをしたり、時には食うに困って物乞いをしたことさえあった。貴族としての誇りなんてカケラもないし、そのように教育された覚えもない。だから、素直に不満を言えばいい。そう思うのに、エリーゼは唇を結んで俯いた。冷たい目でエリーゼを見ていたエイブリーは、やがて口を開いた。
「自分では何もできないお前が、父上の役に立てるよう用意してやった舞台だ。できるだけ王位継承権の高い男の子供を産むように」
「……どういうこと、ですか」
「ああ、お前は後宮の仕組みを知らないのか」
蔑むような目で見下ろされる。騎士として取り立てられたエイブリー。そしてステファンも謁見の間を去る際、王に引きとめられていた。手先が器用な彼は、王家から細工物を頼まれることもある。彼らに並び立つことのできる能力を、自分は持っているだろうか。
エリーゼはいよいよ何も言えなくなる。
「これからは後宮がお前の家になる。屋敷に戻ってきてもかまわないが、居場所などないと思え」
居場所がないのは元からだ。それより、後宮に入っても屋敷に戻れるとはどういうことなのか? エリーゼの知識にある後宮は、生涯出ることのできない王様のハーレムだ。首を傾げながら、エイブリーの話の続きを聞いた。
「第一王子が王宮に居つかない。それを憂慮した陛下が、女好きの第一王子をおびき寄せるため、数年前に後宮を設けられたのだ」
エイブリーと仲が悪くなければ、思いきりツッコミを入れたい話だった。
「後宮には国中の美女や、卓越した能力を持つ女性が揃っている。王宮に寄りつかなくなった第一王子も、最近はお戻りになることが増えたそうだ」
この国の後宮は、王様ではなく王子様のために存在しているらしい。
「そこにお前も入れるのだ。光栄に思え」
「あの、お兄様」
「なんだ?」
「……いくつか質問があります」
兄の冷たい視線に怯みそうになりながら、エリーゼは続けた。
「王位継承権が高い男の……って言ってましたけど、相手は第一王子だけじゃないんですか?」
「王のためだけの後宮というものも遠い国にはあるらしいが、アールジス王国においては違う。一夫一妻が基本だが、地位の高い貴族には子を生む義務が発生する」
「……結婚しても交際は自由、と?」
「貴族は娘が年頃になると、アールジス王国を守護する精霊と契約させる。その時定めた契約内容に合致しない男との交わりは、精霊によって阻まれる」
エイブリーの話はよく理解できなかったが、一つだけわかったのは、大事な娘に手を出そうとする狼藉者がいても、精霊が追い払ってくれるということだ。
けれど、どちらかというと貴族にとって策略の道具である娘が、身分違いの恋や駆け落ちをするのを防ぐための契約のような気がする。
「お前は処女だろうな?」
「……は!? い、いきなりなんですか!」
いくら実の兄でも、言っていいことと悪いことがあるだろう。エリーゼは、思わず兄を凝視してしまった。
「お前も、その契約を結ぶことになる。準男爵の娘という身分から考えて、王位継承権百位程度までの貴族がお前の相手になるだろう。このあと、お前は守護精霊の御代に触れることになる。もしも処女でなかったとして、それを俺たちに隠しているとしても、精霊の目をごまかすのは不可能だ」
「ごまかしてなんかいませんよ! 正真正銘の乙女です!」
「そうか。……悪かったな」
前世も含めてな! 悪いか畜生! と内心で憤慨しながら言うと、なぜか謝られた。あのエイブリーに。
「……おに、お兄様……? お、お、おかか加減がよろしくなかったり、なくなかったりするのではないでするか?」
「おかしな敬語を使うぐらいなら、いつものように黙っていろ」
そう突き放すように言ってから、エイブリーは無言になる。そんな彼に続き、エリーゼは渡り廊下を進んでいった。
長い廊下を進むとやがて目の前に庭園が現れる。その向こうに白い建物が見えた。
「あれが後宮ですか?」
「ああ。今は後宮として使われているが、元は水晶宮という名の離宮だ。王子殿下以外の男の立ち入りも可能であり、後宮の女たちも自由に外に出られる」
やはり、エリーゼが知る後宮とはだいぶ違うようだ。いまいちピンとこないが、出入りが認められているというのなら、できるだけ後宮には留まっていたくない。一人の男の寵愛をめぐって争うわけではないのだし、女たちのバトルもそれほどではないだろう。お気に入りの男性が被ったら大変なのかもしれないが。
万が一にもないこととはいえ、偉い人に気に入られでもしたらと思うと、恐ろしい。ただでさえ兄たちとの仲が険悪なのに、これ以上敵を増やすなんてご免である。エリーゼ自身に大した魅力はなくとも、精霊バンクに入っているお金のことを知ったら、興味を持つ男性もいるだろう。何せ十年前の時点で、正貨の白銀貨四枚に相当する額が振り込まれていたのだ。今はどうなっているのか、考えるだけで足が震える。
とにかく王としては、王子でなくとも国の誰かがエリーゼに子供を作らせればそれでよし、と考えているようだった。精霊に加護されている子供が、国に生まれるということが重要らしい。王位継承権百位以内の男子がエリーゼの相手候補だというが、この後宮においてエリーゼの立場は非常に弱い。エリーゼに選ぶ権利があるとは思えない。
「お前の頑張り次第では、精霊の契約は更改され、より王位継承順位の高い候補者を相手にすることもできるだろう」
「お兄様、私が後宮でヘマをしたらどうするつもりですか?」
「後宮というものは元来、不審死の多い場所らしいな」
どうやらハイワーズ家――ひいては父の顔に泥を塗るようなヘマをしたら、不審死として処理されるようだ。他ならない血を分けた兄の手によって。
お父様のために頑張らなくてはバッドエンド。
それが嫌なら、王子またはそれに準じる偉い人と仲良くしろと? なんという無茶振り。
エリーゼは頭を抱えた。今吐いたら、溶けかけの胃が出てくるかもしれない。
「ちなみに、第一王子はランクBという凄腕の冒険者でもあらせられるそうだ。案外、お前が先頃していたようなバカげた格好をお気に召されるかもしれないぞ」
第一王子が行方不明になっても誘拐を疑われない理由を理解して、エリーゼは嘆息した。
この世界の文字をアルファベットに置き換えてわかりやすく説明すると、冒険者ランクは上から順にS、A、B、C、D、E、F、Gまである。Sより上にもSSなどの特別なランクがあるが、そこまでいくともはや勇者レベル、伝説の域である。Gは初心者で、そこからEぐらいまではまだ半人前。普通の冒険者はDで、一流と呼ばれる冒険者でもCである。
もしかしたら、王子という身分によって贔屓されているのかもしれないが、ランクBといえば、もはや雲の上の人。エリーゼは素直に尊敬してしまった。
だからこそ余計に思う。そんな第一王子の心を射止めろだなんて、ハードルが高すぎる。嘲笑う兄の口もとを見るに、期待なんてもちろんされていないだろうが。
「俺はここまでだ。出入りすることは特に禁止されていないが、王位継承権を認められていない男は歓迎されない。中に入り、女官長に案内を請うがいい。父上には、お前が父上のために努力していると伝えておいてやる」
兄にしてみれば、目障りな妹をやっと追い払えるといったところだろう。加えて父の名声を高めるための駒にもなるし、邪魔になったらどうにでもできる。去っていく兄の長靴の音が、呆然としているエリーゼの背後で響く。
目の前に立つ白亜の柱を見ながら、エリーゼは思い出した。高校の合格通知が届いた時、喜ぶ母に、怒ることも苛立ちをぶつけることもできなかった。ただひどい脱力感に襲われて、足から力が抜けていく。それからしばらく、立つことすらできなかった。
後宮を前にして、あの時の無力感に似たものを覚える。萎えそうになる足を無理やり動かして、エリーゼは中に入った。
エイブリーが夜半に屋敷へ戻ると、ステファンが部屋に閉じこもっていると使用人から報告があった。数刻の間、部屋からの破壊音がやまないらしい。ガラスの砕ける高い音が玄関ホールまで届いたのを聞いて、エイブリーは眉根を寄せた。
「ステファンはまだ、あれを部屋に入れたことに苛立っているのか?」
「はい。わたくしどもはもう、心配で……」
「食事をお召し上がりにもなりませんで……」
口々に言い、廊下の奥を心配そうに見つめる使用人たちを、エイブリーは眺めた。
彼らのお仕着せは落ちついた白茶色の生地で作ったものに揃えている。だが容姿や身分は様々だった。騎士団に入り、王宮におけるハイワーズ家の評価が芳しくないことを知った時から、この屋敷の改革を試みたのだ。
エイブリーが定めた使用人の選考基準は、忠実さ。あらゆる常識や倫理、身分や宗教を越えてハイワーズ家を――ひいては父を選ぶことのできる人間。エイブリーやステファンに心酔してハイワーズ家に仕えることを選んだ者たちは、父に対しても忠実だった。
父を知れば、人びとは自然と膝を折る。彼の顔色を窺わずにはいられず、彼の一言のために死ぬことすら厭わない。
エイブリーにとって、それはごく自然な現象であり、当然のなりゆきだった。
彼が八歳の時、エリーゼが生まれてくるまでは。
「ステファン、入るぞ」
返事が返ってくる前に扉を開いたエイブリーを、部屋の中央にいたステファンが睨んだ。金づちを持ち、へたり込むように床に腰を下ろしている。その周りにはガラスや木片が散乱していた。
父に靴を与えられるまで裸足で屋敷内を歩いていたエリーゼなら、すぐに足を傷だらけにしていたに違いない。押し黙って泣くのをこらえているエリーゼを、父が甘やかに微笑んで抱き上げる。そんなことが過去にあったわけではないのに、その光景が浮かんできて、エイブリーは口を曲げた。
「……どんな細工でも、母上は喜んでくださるだろうに。なぜこんなバカげたことをする。あれに見られたのがそんなに嫌だったか? それほどまでにあれが嫌いか?」
工作物の残骸を踏み越えて、エイブリーはステファンの近くに寄った。ステファンは急に力を失ったかのようにうなだれた。そして金づちを持つ手を小刻みに震わせて言った。
「見下されたんだ」
「お前が?」
誰に、とエイブリーが息を吐くように言うと、「あいつは」とステファンは呟いた。
「僕を、嘲笑うような目で見た」
「あの弱いのが? いつもおどおどして、人を見れば殺人鬼にでも遭ったかのような顔をして逃げるあれがか。そんなこと、できるわけがない」
「あいつは僕に言ったんだ。――どうしてそんなに父上が好きなのか? って」
「……相変わらず、あれは父上の素晴らしさも理解できない虫けらだな」
吐き捨てるように言ったエイブリーを、ステファンは緩慢な動作で見上げた。父にも母にも似ていない藍色の目には、その憔悴ぶりを表すように隈ができている。
「僕はあいつのその問いに、答えられなかったんだ」
ステファンの言葉を、エイブリーは鼻で笑った。
「答える必要などない。わかりきったことだ。愛することに理由が必要か? 父祖に敬愛の念を抱くことは、ごく自然なことだ。褒められこそすれ、謗られることではない。あれがお前に何を言った?」
「問うことしかしなかった。……僕が首を絞めて殺そうとしても」
「絞め殺す? 何をやっているんだ、お前は」
呆れたように言うエイブリーに、ステファンは溜息を吐き、言った。
「わかってる。僕にとってどんなに価値のない命でも、あいつは父上の子で、父上のものだ。父上が目をかけている以上、よほどのことがない限り死なせちゃいけない」
「わかっているのなら、なぜそんなことをした」
「言っただろう? 見下されたんだ。あいつは母上に似ているからって、調子に乗ってるんだ。でも母上に似ているだけあって、僕にもわからないことがわかるのかもしれない。あいつはきっと、父上が尊敬されるべき理由を知ってるんだ」
「――どうしてそう思う?」
「父上にも母上にも似ていない僕を見下した。答えられない僕を見下した……! あいつは笑ったんだ。そして心底不思議そうな目で見てきやがった……ッ。まるで理解できないって顔で! 父上を好きじゃないなんてぬかしたけど、きっと僕を試したんだ。あいつ自身は答えを知っているから! まるで高みから見下ろすような目で僕を――」
「ステファン、落ちつけ」
エイブリーが伸ばした腕を、ステファンは金づちを振って追い払った。
「落ちつけるもんか。……父上に似ている兄上に、僕の気持ちなんてわかるはずがない! 本当に自分が父上と母上の子供なのかって、不安になったこともないだろう?」
睨み上げてくるステファンの目には、涙が浮かんでいた。藍色の瞳の中で涙が銀色に光って、小さな星が瞬いているように見える。
父の瞳に映る光に似ている。エイブリーがそう口にする前に、ステファンは頬を赤く染めてまくしたてた。
「もしかしたら父上の子じゃなくて、将来使える駒になりそうだから拾われて、育てられたんじゃないかって! 子供として扱われているのは父上の気まぐれで、父上に飽きられたら終わってしまうような、儚い幸運なんじゃないかって! いらなくなったら捨てられてしまうかもしれないっていう不安に苛まれながら、いつも母上に献上する銀細工を作っている。こんな思い、兄上はしたこともないだろう!」
「父上は、厳しく残酷な方だ。だが、嘘を吐いたりなどしない」
「僕だってそう思おうとしたさ。だけど、あの役に立たない妹が愛でられているのを見るたびに思うんだ。本当の子供だから、あんなふうに可愛がられるんじゃないかって!」
「それは俺に対する侮辱ともとれるぞ」
剣呑な空気をまとったエイブリーを見て、ステファンは笑いながら言った。
「わかってる、わかってるさ! 兄上は父上の子。そんなの顔を見れば、火を見るよりも明らかだよ! 僕とは違ってね。あの妹が可愛がられている理由も明らかだ。母上に似ているから。父上のためになることをしなければ、お言葉すらかけてもらえない僕たちとは存在のレベルが違うんだ」
涙を流しながらも、ステファンは笑って言う。
「あいつの肌に触れたことがある? 母上と同じ触り心地の肌、母上と同じ声を出す喉! あんなふうに生まれるなんて、ずるい。兄上だってそう思うだろう?」
父に抱き上げられるエリーゼの姿が脳裏に浮かんで、エイブリーは顔をしかめた。
滝のように流れる銀色の髪、夜色の瞳、赤い唇と白い肌。それらを見ていると、怒りが嘘のように冷めていく。嫌われているのが辛い。こんなに悲しい目に遭うくらいなら、全てをここで終わらせて次の人生に賭けてみたほうが、幸せになれるかもしれない。
悔しかった。死にたくないのに、死はエリーゼの気持ちなどおかまいなしにやってくる。
(――どうせ死ぬのなら、せめて少しでも反撃を)
前世の最期を思い出し、エリーゼは薄く笑った。
「お前にはわからない……父上に愛されているお前に、僕の気持ちがわかるものか!」
「わか、ら、ない」
「そうだ、お前になんかわからない。誰にも似ていない、僕の気持ちなんて! 兄上にだってわかるものか……ッ」
まったく似ていないということはない。エリーゼを憎らしげに見ている時のその表情は、機嫌が悪い時の父とそっくりだ。
だが、そんな優しい本音ではなく、挑発的な言葉がエリーゼの口から滑り落ちた。
「ばか、みたい」
「なんだと……!?」
目の前の美青年が、白い頬を真っ赤に染める。まだ美少年と言ってもいいかもしれない。
どこかあどけなさが残って見えるのは、白い肌に対して赤すぎる唇のせいだろうか。
「なん、でそんなに――お父様が、好き、なの?」
意味わかんない、とエリーゼは呟いた。前世で死んだ時、彼女は今のステファンより年下だった。だがその頃には、精神的な親離れはそれなりに済んでいた。
彼を嘲笑うように、エリーゼは口の端を歪める。ステファンの怒りがさらに激しくなるのを覚悟していたのに、なぜか彼の腕から急に力が抜けた。
支えを失い、エリーゼはその場にぐにゃりと崩れ落ちた。咳込み、ぐったりとしながら兄を見上げると、彼は目を見開いてエリーゼを見下ろしている。
「お前、父上のこと、好きじゃないのか……?」
信じられない、とその顔に書かれている。だが同時に、自分の常識を初めて疑うかのような、不安げな表情にも見えた。
エリーゼは唖然として彼を見つめ返した。
「それは、本気で言っているのか?」
「嫌いじゃ、ないですよ? でも、好きではありません」
あの父を、どうしてそこまで慕うのだろうか。美しいことは、ステファンにとっても正義なのだろうか。
「父上は、素晴らしい、方じゃないか」
「……どこを見てそう思ってるんですか? ステファンお兄様」
これまでずっと不思議に思いながらも、訊ねる機会はなかった。
答えを待つエリーゼに、ステファンは震える指を伸ばした。冷たくなった指の腹で、どういうつもりか彼女の頬に触れる。思わず鳥肌を立てるエリーゼを見て、彼は目を見開いた。
何に驚いたのだろう。エリーゼにはわからない。そして彼女の問いに、ステファンが答えることは結局なかった。
あれから改めて髪の毛をいじくり回され、身なりを整えられると、そのまま屋敷の外に連れ出された。押し込まれた辻馬車に、エイブリーとステファンも同乗する。
会話一つない、気まずい空気。半刻後、馬車を降りると、目の前には視界に収まりきらないほどの大きな建造物――王宮があった。
門を守る衛兵たちは、エイブリーの姿を見ると敬礼した。エリーゼは腹部を押さえて呻く。
「……お兄様、胃が痛いです」
「吐くなら反吐ではなくせめて血にしろ。血なら不愉快さより哀れを誘う」
エイブリーが冷たく言い放った。エリーゼは顔に浮いた冷や汗をハンカチで拭う。深呼吸をして、胃の痛みを忘れるよう努めた。
壮麗な門をくぐり、王宮の中に入って奥へ進む。やがて衛兵の立ち並ぶ、赤い絨毯の敷かれた廊下に入った。
突きあたりの扉が開かれる。その部屋は天井が高くがらんとしていた。奥には壇が設えられており、壇上の椅子には人が座っている。見上げようとしたエリーゼの頭を、横に立っていたエイブリーが無理やり伏せさせた。
すると、壇上から声が降ってくる。
「……本当に、アイリスにそっくりなのだな」
「は、陛下。我が妹のエリーゼは、容姿だけなら母に瓜二つです」
「面を上げよ、エリーゼ」
まだ若干肌寒さが残る季節なのに、緊張のあまりエリーゼの顔には汗がびっしり浮いていた。
「おい、エリーゼ」
そう小声で言った兄の声は、すこぶる低い。エリーゼは、ブリキの人形のようなぎこちない動きで顔を上げた。
全校生徒を集めた集会で、何かスピーチをしろと壇上に立たされた時みたいな気分だ。
実際は、今エリーゼの周りには、壇上のおじさんを合わせて数人しかいない。
優しそうな白髭のおじさん、兄たち、近衛騎士数人。それだけ。
なのに、今まさに胃が溶けて消えていっているような気がする。
「精霊の加護は持たないと聞いたが」
おじさんの質問に、エリーゼは口を引き結ぶ。口を開けば吐きそうだった。
「申し訳ございません、陛下。礼儀もなっていない小娘でして」
「よいよい。アイリスもまた、自分の世界を持つ陽気な娘であったと聞いている。彼女に似ているのなら、王家にとってこれほど喜ばしいことはない」
おじさん、もとい王の言葉を受け、エイブリーは一瞬剣呑な空気をまとった。後ろにいるステファンも同じだろう。エリーゼの背中に突き刺さる視線が痛い。母に似ていることは、エリーゼにとって全く嬉しいことではない。けれどそのために父に可愛がられているので、兄たちにとっては羨ましいことなのだろう。
「彼女の血が濃いのは、ひと目見てわかること。エリーゼに精霊の加護がなくとも、その子や孫に、精霊が恩恵をくださる確率は高い」
「おっしゃるとおりでございます、陛下。我が妹は教養や品こそ備わってはおりませんが、血筋だけは王家に悪影響を与えるものではございません。以前陛下よりお話のあった褒美の件について、まだ有効なのでしたらぜひ、私の妹を」
「しかし、よいのかね? ドラゴンを倒したそなたの働きに報いるのに、わしは爵位を用意しておるのだが」
王と兄がエリーゼについて何を話しているのかはもちろん気になる。だがそれよりも、エイブリーがドラゴンを倒したとは、どういうことなのか。彼との仲が険悪でなければ、まとわりついて詳しく聞き出したいくらいだ。まさにリアルファンタジー。ときめきのあまり、エリーゼの胃が多少軽くなった気がした。すると、会話の内容がよく耳に入ってくる。
「準男爵の息子という今の身分でも、王家にお仕えすることはできます。それよりも、王家の役に立つ人間がハイワーズ家にはまだいるのだということを、ご覧いただきたいのです」
それに父より上の爵位など、と小さな声でつけ加えたのが、すぐ側にいたエリーゼには聞こえた。つまり、エイブリーは父の株を上げたいのだ。爵位は何をもらうにしても、最低の爵位である父と同じかそれより上になってしまう。父至上主義のエイブリーには耐えがたい話だろう。
王は、うーむと唸ってから頷いた。
「よいだろう。エイブリー、そなたの望みを聞き容れよう」
「は、ありがたき幸せに存じます」
「わしとしては、な……精霊に愛されし血はできるだけ、王家の血筋に広く、多く、残るようにしたいのだ。わかるか? エイブリー」
「承知しております」
「そなたの大事な妹のことだ……快諾しろとは言わぬ。だが、理解してくれるだろうか……?」
「無論でございます。不肖の妹も、王家の御為ならば、身を捧げる覚悟でございます」
不穏な言葉を聞き、エリーゼは目を瞬かせた。
勝手に気持ちを代弁されて狼狽する彼女をよそに、王とエイブリーの話は続いていく。
「そうか、ならばよいのだが……何も無理強いするわけではない。訪れる男たちを己の目で選び、好きな相手と添い遂げればよいだけのこと。嫌なら拒んでもよいのだから」
小太りおじさんが、急にサンタクロースから痴漢に変身したように見えてエリーゼは息を呑んだ。丸っこい小さな目が、怪しい光を放っている。
「エイブリー、妹の働きはお前の評価にも繋がる。心しておくように」
エイブリーはひざまずいて壇上の王に頭を下げた。
だが、エリーゼはただ突っ立っていることしかできなかった。
「では、エイブリー。兄であるお前自ら、エリーゼを後宮へ送るがいい。ステファン、お前には話がある。ここに残るのだ」
その王の言葉で、さすがにエリーゼも状況を理解した。ここで逃げればハイワーズ家に泥を塗ることになり、場合によってはアールジス王国を敵に回すことになる。エリーゼは頭が真っ白になった。
前世で通っていた高校は、志望校ではなかった。他に行きたい公立高校があった。中学の友達のほとんどが、そこへ行くと聞いていたからだ。ただ、成績が足りていなかったので、親や学校の先生は反対した。成績は悪いわけではなかったが、志望校のレベルはさらに高かった。
必死に勉強をすると言って、大人たちを説得した。事実、頑張って勉強した。願書もそこへ出したつもりだった。けれど家に届いた受験票は、親や先生たちが薦めていた高校のものだった。願書の封筒の中身を、母が勝手にすり替えていたのだ。
「不満か? エリーゼ」
後宮へ向かいながらエリーゼが前世のことを思い出していると、エイブリーがそう問いかけてきた。
「どうして……」
何の断りもなく、と言いかけてエリーゼは口をつぐんだ。
そういえば、貴族の女性というのはこうして親兄弟の策略の道具にされるのが、前世の世界では歴史の常だった。特権階級の野心というのは、世界が違っても変わらないようだ。
エリーゼは一応貴族だが、庶民の子たちに交じってお小遣い稼ぎをしたり、時には食うに困って物乞いをしたことさえあった。貴族としての誇りなんてカケラもないし、そのように教育された覚えもない。だから、素直に不満を言えばいい。そう思うのに、エリーゼは唇を結んで俯いた。冷たい目でエリーゼを見ていたエイブリーは、やがて口を開いた。
「自分では何もできないお前が、父上の役に立てるよう用意してやった舞台だ。できるだけ王位継承権の高い男の子供を産むように」
「……どういうこと、ですか」
「ああ、お前は後宮の仕組みを知らないのか」
蔑むような目で見下ろされる。騎士として取り立てられたエイブリー。そしてステファンも謁見の間を去る際、王に引きとめられていた。手先が器用な彼は、王家から細工物を頼まれることもある。彼らに並び立つことのできる能力を、自分は持っているだろうか。
エリーゼはいよいよ何も言えなくなる。
「これからは後宮がお前の家になる。屋敷に戻ってきてもかまわないが、居場所などないと思え」
居場所がないのは元からだ。それより、後宮に入っても屋敷に戻れるとはどういうことなのか? エリーゼの知識にある後宮は、生涯出ることのできない王様のハーレムだ。首を傾げながら、エイブリーの話の続きを聞いた。
「第一王子が王宮に居つかない。それを憂慮した陛下が、女好きの第一王子をおびき寄せるため、数年前に後宮を設けられたのだ」
エイブリーと仲が悪くなければ、思いきりツッコミを入れたい話だった。
「後宮には国中の美女や、卓越した能力を持つ女性が揃っている。王宮に寄りつかなくなった第一王子も、最近はお戻りになることが増えたそうだ」
この国の後宮は、王様ではなく王子様のために存在しているらしい。
「そこにお前も入れるのだ。光栄に思え」
「あの、お兄様」
「なんだ?」
「……いくつか質問があります」
兄の冷たい視線に怯みそうになりながら、エリーゼは続けた。
「王位継承権が高い男の……って言ってましたけど、相手は第一王子だけじゃないんですか?」
「王のためだけの後宮というものも遠い国にはあるらしいが、アールジス王国においては違う。一夫一妻が基本だが、地位の高い貴族には子を生む義務が発生する」
「……結婚しても交際は自由、と?」
「貴族は娘が年頃になると、アールジス王国を守護する精霊と契約させる。その時定めた契約内容に合致しない男との交わりは、精霊によって阻まれる」
エイブリーの話はよく理解できなかったが、一つだけわかったのは、大事な娘に手を出そうとする狼藉者がいても、精霊が追い払ってくれるということだ。
けれど、どちらかというと貴族にとって策略の道具である娘が、身分違いの恋や駆け落ちをするのを防ぐための契約のような気がする。
「お前は処女だろうな?」
「……は!? い、いきなりなんですか!」
いくら実の兄でも、言っていいことと悪いことがあるだろう。エリーゼは、思わず兄を凝視してしまった。
「お前も、その契約を結ぶことになる。準男爵の娘という身分から考えて、王位継承権百位程度までの貴族がお前の相手になるだろう。このあと、お前は守護精霊の御代に触れることになる。もしも処女でなかったとして、それを俺たちに隠しているとしても、精霊の目をごまかすのは不可能だ」
「ごまかしてなんかいませんよ! 正真正銘の乙女です!」
「そうか。……悪かったな」
前世も含めてな! 悪いか畜生! と内心で憤慨しながら言うと、なぜか謝られた。あのエイブリーに。
「……おに、お兄様……? お、お、おかか加減がよろしくなかったり、なくなかったりするのではないでするか?」
「おかしな敬語を使うぐらいなら、いつものように黙っていろ」
そう突き放すように言ってから、エイブリーは無言になる。そんな彼に続き、エリーゼは渡り廊下を進んでいった。
長い廊下を進むとやがて目の前に庭園が現れる。その向こうに白い建物が見えた。
「あれが後宮ですか?」
「ああ。今は後宮として使われているが、元は水晶宮という名の離宮だ。王子殿下以外の男の立ち入りも可能であり、後宮の女たちも自由に外に出られる」
やはり、エリーゼが知る後宮とはだいぶ違うようだ。いまいちピンとこないが、出入りが認められているというのなら、できるだけ後宮には留まっていたくない。一人の男の寵愛をめぐって争うわけではないのだし、女たちのバトルもそれほどではないだろう。お気に入りの男性が被ったら大変なのかもしれないが。
万が一にもないこととはいえ、偉い人に気に入られでもしたらと思うと、恐ろしい。ただでさえ兄たちとの仲が険悪なのに、これ以上敵を増やすなんてご免である。エリーゼ自身に大した魅力はなくとも、精霊バンクに入っているお金のことを知ったら、興味を持つ男性もいるだろう。何せ十年前の時点で、正貨の白銀貨四枚に相当する額が振り込まれていたのだ。今はどうなっているのか、考えるだけで足が震える。
とにかく王としては、王子でなくとも国の誰かがエリーゼに子供を作らせればそれでよし、と考えているようだった。精霊に加護されている子供が、国に生まれるということが重要らしい。王位継承権百位以内の男子がエリーゼの相手候補だというが、この後宮においてエリーゼの立場は非常に弱い。エリーゼに選ぶ権利があるとは思えない。
「お前の頑張り次第では、精霊の契約は更改され、より王位継承順位の高い候補者を相手にすることもできるだろう」
「お兄様、私が後宮でヘマをしたらどうするつもりですか?」
「後宮というものは元来、不審死の多い場所らしいな」
どうやらハイワーズ家――ひいては父の顔に泥を塗るようなヘマをしたら、不審死として処理されるようだ。他ならない血を分けた兄の手によって。
お父様のために頑張らなくてはバッドエンド。
それが嫌なら、王子またはそれに準じる偉い人と仲良くしろと? なんという無茶振り。
エリーゼは頭を抱えた。今吐いたら、溶けかけの胃が出てくるかもしれない。
「ちなみに、第一王子はランクBという凄腕の冒険者でもあらせられるそうだ。案外、お前が先頃していたようなバカげた格好をお気に召されるかもしれないぞ」
第一王子が行方不明になっても誘拐を疑われない理由を理解して、エリーゼは嘆息した。
この世界の文字をアルファベットに置き換えてわかりやすく説明すると、冒険者ランクは上から順にS、A、B、C、D、E、F、Gまである。Sより上にもSSなどの特別なランクがあるが、そこまでいくともはや勇者レベル、伝説の域である。Gは初心者で、そこからEぐらいまではまだ半人前。普通の冒険者はDで、一流と呼ばれる冒険者でもCである。
もしかしたら、王子という身分によって贔屓されているのかもしれないが、ランクBといえば、もはや雲の上の人。エリーゼは素直に尊敬してしまった。
だからこそ余計に思う。そんな第一王子の心を射止めろだなんて、ハードルが高すぎる。嘲笑う兄の口もとを見るに、期待なんてもちろんされていないだろうが。
「俺はここまでだ。出入りすることは特に禁止されていないが、王位継承権を認められていない男は歓迎されない。中に入り、女官長に案内を請うがいい。父上には、お前が父上のために努力していると伝えておいてやる」
兄にしてみれば、目障りな妹をやっと追い払えるといったところだろう。加えて父の名声を高めるための駒にもなるし、邪魔になったらどうにでもできる。去っていく兄の長靴の音が、呆然としているエリーゼの背後で響く。
目の前に立つ白亜の柱を見ながら、エリーゼは思い出した。高校の合格通知が届いた時、喜ぶ母に、怒ることも苛立ちをぶつけることもできなかった。ただひどい脱力感に襲われて、足から力が抜けていく。それからしばらく、立つことすらできなかった。
後宮を前にして、あの時の無力感に似たものを覚える。萎えそうになる足を無理やり動かして、エリーゼは中に入った。
エイブリーが夜半に屋敷へ戻ると、ステファンが部屋に閉じこもっていると使用人から報告があった。数刻の間、部屋からの破壊音がやまないらしい。ガラスの砕ける高い音が玄関ホールまで届いたのを聞いて、エイブリーは眉根を寄せた。
「ステファンはまだ、あれを部屋に入れたことに苛立っているのか?」
「はい。わたくしどもはもう、心配で……」
「食事をお召し上がりにもなりませんで……」
口々に言い、廊下の奥を心配そうに見つめる使用人たちを、エイブリーは眺めた。
彼らのお仕着せは落ちついた白茶色の生地で作ったものに揃えている。だが容姿や身分は様々だった。騎士団に入り、王宮におけるハイワーズ家の評価が芳しくないことを知った時から、この屋敷の改革を試みたのだ。
エイブリーが定めた使用人の選考基準は、忠実さ。あらゆる常識や倫理、身分や宗教を越えてハイワーズ家を――ひいては父を選ぶことのできる人間。エイブリーやステファンに心酔してハイワーズ家に仕えることを選んだ者たちは、父に対しても忠実だった。
父を知れば、人びとは自然と膝を折る。彼の顔色を窺わずにはいられず、彼の一言のために死ぬことすら厭わない。
エイブリーにとって、それはごく自然な現象であり、当然のなりゆきだった。
彼が八歳の時、エリーゼが生まれてくるまでは。
「ステファン、入るぞ」
返事が返ってくる前に扉を開いたエイブリーを、部屋の中央にいたステファンが睨んだ。金づちを持ち、へたり込むように床に腰を下ろしている。その周りにはガラスや木片が散乱していた。
父に靴を与えられるまで裸足で屋敷内を歩いていたエリーゼなら、すぐに足を傷だらけにしていたに違いない。押し黙って泣くのをこらえているエリーゼを、父が甘やかに微笑んで抱き上げる。そんなことが過去にあったわけではないのに、その光景が浮かんできて、エイブリーは口を曲げた。
「……どんな細工でも、母上は喜んでくださるだろうに。なぜこんなバカげたことをする。あれに見られたのがそんなに嫌だったか? それほどまでにあれが嫌いか?」
工作物の残骸を踏み越えて、エイブリーはステファンの近くに寄った。ステファンは急に力を失ったかのようにうなだれた。そして金づちを持つ手を小刻みに震わせて言った。
「見下されたんだ」
「お前が?」
誰に、とエイブリーが息を吐くように言うと、「あいつは」とステファンは呟いた。
「僕を、嘲笑うような目で見た」
「あの弱いのが? いつもおどおどして、人を見れば殺人鬼にでも遭ったかのような顔をして逃げるあれがか。そんなこと、できるわけがない」
「あいつは僕に言ったんだ。――どうしてそんなに父上が好きなのか? って」
「……相変わらず、あれは父上の素晴らしさも理解できない虫けらだな」
吐き捨てるように言ったエイブリーを、ステファンは緩慢な動作で見上げた。父にも母にも似ていない藍色の目には、その憔悴ぶりを表すように隈ができている。
「僕はあいつのその問いに、答えられなかったんだ」
ステファンの言葉を、エイブリーは鼻で笑った。
「答える必要などない。わかりきったことだ。愛することに理由が必要か? 父祖に敬愛の念を抱くことは、ごく自然なことだ。褒められこそすれ、謗られることではない。あれがお前に何を言った?」
「問うことしかしなかった。……僕が首を絞めて殺そうとしても」
「絞め殺す? 何をやっているんだ、お前は」
呆れたように言うエイブリーに、ステファンは溜息を吐き、言った。
「わかってる。僕にとってどんなに価値のない命でも、あいつは父上の子で、父上のものだ。父上が目をかけている以上、よほどのことがない限り死なせちゃいけない」
「わかっているのなら、なぜそんなことをした」
「言っただろう? 見下されたんだ。あいつは母上に似ているからって、調子に乗ってるんだ。でも母上に似ているだけあって、僕にもわからないことがわかるのかもしれない。あいつはきっと、父上が尊敬されるべき理由を知ってるんだ」
「――どうしてそう思う?」
「父上にも母上にも似ていない僕を見下した。答えられない僕を見下した……! あいつは笑ったんだ。そして心底不思議そうな目で見てきやがった……ッ。まるで理解できないって顔で! 父上を好きじゃないなんてぬかしたけど、きっと僕を試したんだ。あいつ自身は答えを知っているから! まるで高みから見下ろすような目で僕を――」
「ステファン、落ちつけ」
エイブリーが伸ばした腕を、ステファンは金づちを振って追い払った。
「落ちつけるもんか。……父上に似ている兄上に、僕の気持ちなんてわかるはずがない! 本当に自分が父上と母上の子供なのかって、不安になったこともないだろう?」
睨み上げてくるステファンの目には、涙が浮かんでいた。藍色の瞳の中で涙が銀色に光って、小さな星が瞬いているように見える。
父の瞳に映る光に似ている。エイブリーがそう口にする前に、ステファンは頬を赤く染めてまくしたてた。
「もしかしたら父上の子じゃなくて、将来使える駒になりそうだから拾われて、育てられたんじゃないかって! 子供として扱われているのは父上の気まぐれで、父上に飽きられたら終わってしまうような、儚い幸運なんじゃないかって! いらなくなったら捨てられてしまうかもしれないっていう不安に苛まれながら、いつも母上に献上する銀細工を作っている。こんな思い、兄上はしたこともないだろう!」
「父上は、厳しく残酷な方だ。だが、嘘を吐いたりなどしない」
「僕だってそう思おうとしたさ。だけど、あの役に立たない妹が愛でられているのを見るたびに思うんだ。本当の子供だから、あんなふうに可愛がられるんじゃないかって!」
「それは俺に対する侮辱ともとれるぞ」
剣呑な空気をまとったエイブリーを見て、ステファンは笑いながら言った。
「わかってる、わかってるさ! 兄上は父上の子。そんなの顔を見れば、火を見るよりも明らかだよ! 僕とは違ってね。あの妹が可愛がられている理由も明らかだ。母上に似ているから。父上のためになることをしなければ、お言葉すらかけてもらえない僕たちとは存在のレベルが違うんだ」
涙を流しながらも、ステファンは笑って言う。
「あいつの肌に触れたことがある? 母上と同じ触り心地の肌、母上と同じ声を出す喉! あんなふうに生まれるなんて、ずるい。兄上だってそう思うだろう?」
父に抱き上げられるエリーゼの姿が脳裏に浮かんで、エイブリーは顔をしかめた。
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